First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
Next Last
リアクション
第5章 コレ、自分ノッ…わがままグレムリン Story1
「ルカたちの担当は、日曜大工とか園芸のコーナーね」
「あえて危険地帯を選ぶのか」
「だって、誰かが行かなきゃいけないじゃないのっ」
嘆息するダリルにルカルカは頬を膨らませる。
「私も使い魔を召喚しておきますわ」
「ねぇ、私たちのアイデア術を使ってみない?」
せっかく授業で成功させたのだから、実戦で使ってみたいとルカルカが言う。
「分かりましたわ。召喚するために時間がかかってしまいますから、ホームセンターの外で行いましょう」
中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)はチョークで地面に魔方陣を描き、聖杯を掲げて祈りの言葉を紡ぐ準備をする。
小さく頷きルカルカたちに裁きの章の詠唱を始めるように合図を送った。
章に新たな文字が記され、ルカルカたちはそれを指でなぞりながら唱え、祈りの言葉に合わせて酸の雨の力をポレヴィークに吸収させていく。
4人はページを捲り、裁きの章の力を唱え終えたのを互いに確認しつつ、哀切の章の光の魔力を与え…。
さらにルカルカたちと綾瀬は、“マグヌスエクソシズム!”と声を重ねる。
「―…血の証明と共に契約に従い、我々をお守りください!」
最後に綾瀬がポレヴィークを召喚する祈りの言葉を紡ぎ…。
淡い緑のローブを身に纏った少女のような姿をしている。
章の力を得た使い魔は、普段通りのままだ。
ブルーベリーのような丸い飾りに手を触れ、主である綾瀬にさっそく話かけようとするが…。
「リトルフロイライン、今日はグレムリンを祓う手伝いをお願いしますわね」
使い魔である自分に命令する綾瀬の声に止められる。
「綾瀬様。リトルフロイラインとは、わたしの名前でしょうか…?」
“主が名前を考えてくれた”と、血の情報で知っていたが、どんなものか分からなかった。
「今日から、それがあなたの呼び名ですのよ」
驚いた様子で声を上げる少女に、綾瀬は微笑みを向ける。
「あ、ありがとうございます!嬉しいですっ」
「マグヌスエクソシズムという術名は、『マグヌス=Magnus』は『大きな偉大な』…と考えていたのは分かっていましたわね?」
「はい!」
「エクソシズムは悪魔祓いという意味もありますが、ギリシャ語では『誓い』の意味がありますの」
使い魔であるリトルフロイラインとの誓いを、間接的にあらわす意味合いを含めたことを少女に教える。
「そうなのですか!今日はなんだか、ハッピーをたくさんもらった気がしますっ」
「綾瀬、私たちも店内に入りましょう。他の方たちは先に行ってしまいましたよ」
「えぇ、そうですわね。リトルフロイライン、固定砲台型でしたけど今回は拳銃タイプでお願いしますわ」
漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)の言葉に軽く頷き、リトルフロイラインに移動しやすい拳銃タイプの形状に変えるように言う。
「了解しました、綾瀬様!」
少女が両手を広げると、虚空から緑色の植物の蔓を出現させ、それを拳銃の形に作成する。
「早速実践たぁいい機会だな」
「ううう、やはり術での戦闘は慣れない故に緊張しますが…。訓練せねば使えるものも使えなくなってしまいます。マスターのお力になれるよう、今回も頑張ります」
巫女にクラスチェンジしたフレンディスは、スペルブックを抱えながら拳をぎゅっと握る。
その恰好も気分に合わせているのか、いつもの服装でなく巫女装束を身に纏っている。
「まー、フレイもやる気(?)になってるし、せっかくだから俺は今回サポートに回らせて貰おうか」
ペンダントの中には魔性の気配を探知するアークソウルだけでなく、不可視となった相手を逃さないために、エアロソウルも入れている。
ただしホーリーソウルだけは、“俺のガラじゃないから”ということで使わないようだ。
「しかしマスター…私一人で祓う役割は心細いです。何方かいらっしゃると良いのですが…」
「ルカたちと行こう。殺気看破で少しだけ気配は分かるけど、宝石を使える人が一緒にいてくれると助かるの。スペルブックを使える人もいてくれるともっと嬉しいかな♪」
「は…、はいっ」
「私はリトルフロイラインへの命令に集中しないといけませんから、グレムリンが逃走しないようにしてくださいな」
「任せて♪守りもルカたちがやるね。攻撃と守備、両方頼んじゃうと綾瀬の負担が大きいからね」
そう言うとルカルカはスペルブックのページを裁きの章のページに戻し、綾瀬たちと共に店内へ入っていった。
その頃、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)はエルデネストと、店にいる人々に最近変わったことなどがないか、聞き込みをしている。
「お忙しいところすみません。最近、店内で何か変ったことはありませんでしたか?」
「変ったこと…ですか?」
「例えば、品物の位置が突然変っていたり、突然物が動き出したりとかですね」
「お客様がお探しの商品があるということで、ご案内していたのですが。その後に、持ち場の家電製品のエリアに戻ったら、おかしなことがあったんです」
「おかしなこととは…?」
「蓋を常に閉めてある洗濯機の蓋が、開いていたんです。どなたか中を見るために、開けたのかもしれないと思い、閉めました。で…閉めたとたんに、蓋が勝手に開いてしまったんです」
「それはあなたの目の前で…ということでしょうか?」
もしや魔性の仕業ではと考え、今度はエルデネストが店員に問う。
「はい。閉める度に勝手に開いてしまったので、閉め損なって開いてしまったわけではないかと…。製品チェック時に問題もありませんでした。電源が入っているわけでもありませんし、これは手動で開けるものですから…」
「なるほど…。物品が通常の製品の形と違う…ということはありませんでしたか?」
「いえ、そのようなことはありませんでした」
「そうですか…。(店内にいる人々に怪しまれないように、上手く姿を隠しているのでしょうか…?)」
子供がちょっとしたいたずらを仕掛けているような感じにも思えるが、家電製品のエリアでの話しだ。
これから向かう修理屋の受付では、もっと違う現象があるのかもしれない。
とはいえ、ここも見逃していいものではなく、いたずらがエスカレートしてしまえば、怪我人も出てしまうだろう。
エルデネストは店員から離れると、グラキエスに魔性の存在を確認したと伝える。
「グラキエス様。やつらは正体を隠していたずらを繰り返しているようです」
「たいした被害はまだ出てない…といっても、放っていいものでもないな」
「これから向かうエリアのことも気になりますが。どういたします?」
「先に修理屋の方を見てみよう。今、陣たちと別れて行動するのは危険だからな」
「了解いたしました、グラキエス様」
再びそのエリアを目指し歩き始めるが、彼らよりも先にヴァイスたちがその場所へたどり着こうとしている。
「あ、このフライパン肉厚でいいな〜。加工もしっかりしてるし」
「俺たちはショッピングしに来たんじゃない。グレムリンが憑くような物品を見るべきだろ?フライパンを探すよりも魔性を探せ」
ヴァイスの手からフライパンを奪い取ったセリカは、それを商品棚へ戻す。
「真面目に探せって?ちゃんと探してるって。でも、いかにも探してます!なんて様子だったら他のお客さんに怪しまれるし、魔性だってヤバそうだと思ってボロ出さないんじゃないか?」
何か事件でも起きたのかと大騒ぎになったり、自分たちの存在に気づいた魔性が器を変えながら逃げ回るんじゃないか、とセリカに言う。
「ほらセリカもリラックスリラックス」
「リラックスしている暇なんてないと思うがな」
「えー、リラックスすることも大事じゃないか。むー…、ディテクトエビルじゃひっかからないみたいだな。近くにいるっぽい気配を感じたりしていないか?」
気配や正体を隠している相手を、どうやって見つければいいのか分からず、宝石を扱えるフレデリカとルイーザに聞く。
「いいえ、今のところ何も感じないわ。不可視化している魔性も、近くにいないみたいよ」
「そっかー…」
「あれが修理屋みたいね」
ヴァイスから白い看板へ視線を移し、文字を確認する。
「ちょうど歌菜さんたちも来たみたいですから、ここで別れましょう」
「そうね、ルイ姉。魔性祓いを行う時に、客がグレムリンたちの標的にされる可能性もあるからね」
「フリッカ、魔性の気配が…!」
ペンダントの中のアークソウルが突然光り、ルイーザが声を上げる。
「家電エリアの近くにいるみたいね。さっきまで気配を感じなかったのに…」
「子供が扇風機に近づこうとしてるわ!」
涼もうと危険エリアに駆け寄る幼い子供の姿を月夜が発見する。
「あの子をターゲットにしようとしてるんじゃないの?」
「それでこっちの方まで来たってことね」
「玉ちゃん、助けてあげなきゃ」
「むっ…、同時に唱えてよいのか?」
「うん、お願い」
月夜はスペルブックを開き、哀切の章の詠唱を始める。
「やれやれ…。今夜は帰りが遅くなりそうだな」
玉藻は疲れたように嘆息しながらも、彼女に合わせて裁きの章の詠唱をする。
「ム、邪魔。イヤッ」
2人の存在に気づいたグレムリンは器である扇風機を変質させ、羽根をブンブンと激しく回転させる。
「子供を襲い損ねて正体を現したか」
刀真は白の剣を抜かずに鞘に布を巻き、鞘を付けたまま凶器化した羽根の軌道を逸らす。
「くっ…。まだか、2人共っ」
殺気看破で感じられる僅かな気配を頼りに受け流すが、衝撃の振動がじわじわと手から腕へと伝わっていく。
「ヴァイス、おまえもスペルブックを使え」
「わ、分かってるって!えーっと…、この日本語ページのやつを読めばいいんだったな」
ふぅー…と深呼吸をしたヴァイスは詠唱に集中し始める。
「相手はいたずらの邪魔をされて怒っている子供のようなヤツだ。その辺の物に八つ当たりし始める前に、祓ってもらわないとな」
「今のところあいつの標的は、術者の月夜たちというわけだが…。思い通りにならないイラ立ちで何をするか分からないしな。…来るぞ!」
「邪魔するヤツは、いたずらしちゃウッ」
器とされている物は首を振り回し、風の刃を放つ。
「一撃のダメージ自体はたいしたことはないが、術に集中出来ないだろうからな」
セリカはヴァイスの前に立ち、風除け用として女王のバックラーを構える。
軽く爪で引掻いた程度の痛みだが、ダメージが徐々に蓄積してしまうだろう。
「くっ…、羽根の回転速度がだんだん上がっているな。大丈夫か、刀真」
「あぁ、まだ平気だ。(…わがままな子供が暴れまわっているようだな。こいつをどうやって説得するんだ)」
剣を盾代わりに振り、風の刃を防いでいる。
「飛ばされちゃエ!」
グレムリンは逃げるどころかどんどん彼らに迫っていく。
刀真とセリカが風圧に押され始めた頃、ヴァイスよりも先に唱え始めていた2人が詠唱を終える。
月夜は光の嵐を扇風機の中へ侵入させ、玉藻が虚空から赤紫色の雨を降らせる。
自分が優勢だと思い、術が直撃しやすい状況を与えてしまったのだ。
だが、まだ諦める様子を見せず、彼らを吹き飛ばそうと首を振り回す。
「ちゃんと当たったのに、器から離れない!?」
「魔法防御力を下げている途中で祓う力を侵入させようとしても、グレムリンに効果が届きにくいのではないか?」
「むぅー…。もっと勉強しなきゃ…」
スペルブックを抱え、しょぼんとへこむ。
「相手がおこさまなら、優しく叱る感じとかな」
ヴァイスは痛みを与えないよう、酸の雨を調節してやる。
「おまえは情けをかけすぎだ」
「そう言うなって、セリカ。こいつは遊びたかったんだろ?ちょっとしたいたずらなら、言い聞かせればいいじゃないか」
「まずは商品を店に返してもらわないとな」
「月夜、グレムリンの動きが鈍ってきたぞ」
「うん、玉ちゃん」
風力を弱めていく扇風機から離れなさい、と言い聞かせるように聖なる光りで包み込む。
羽根がピタリと止まり、元の形状に戻った扇風機が床に倒れる。
「グレムリンの気配が離れていくわ。追わなくてもいいの?」
まだ説得していないのに、放っておいてよいのかとフレデリカが言う。
「いいや。もう分かってるだろ。いたずらの遊びはよくないんだってことをさ」
あの魔性にはヴァイスの言葉や月夜が伝わったはずだ。
人を困らせるいたずらは悪いことだと理解したのだろう。
「カメリアさん、花の香りを少しずつ出してもらえますか?多分不安や恐怖とかの感情が満ちていれば、魔性も面白がって悪戯を続けようと考えたり…。また不安定な精神は、魔性に憑かれやすくなるでしょうし」
「動物たちが怯えてしまったら、憑かれやすくなってしまうでしょうからね」
ロザリンドの願いを聞き入れると手の平に、ふぅ…と息を吹きかけ、花びらを店内に舞い散らす。
ひらひらと舞っていた花びらは金色の粉に変り、香りを店内に広げる。
異変に気づき始め、ざわつく人々の心を落ち着かせる。
「皆さん、こちらへ集まってください」
「せっかくショッピングしにきたのに、避難訓練でもするの?」
「えぇ、そのようなものですね」
魔性が現れた、などと言ってしまうとパニックになってしまうだろう。
大騒ぎしながら逃げるよりも、避難訓練だと思ってもらえばよいか、と人々を出口へ誘導する。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
Next Last