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リアクション
「本当に薄暗いわ。何か出そう」
辺りを見回すリリア。出そうというより出て欲しい。少しでもメシエに近付きたい。
衣装部屋から出てすぐ二人の距離はここに来た時と同じに戻ってしまった。
「まぁ、ホラーハウスだからね」
どんなに薄暗かろうが不気味な音楽が聞こえて来ようが動じないメシエ。
「……もうそろそろだ」
こっそり戻って来たエースは辺りを確認し、上手く行く事を願った。
突然、『冥府の瘴気』が辺りに立ちこめ、怪しい雰囲気を醸し、
「う〜ら〜め〜し〜や〜です……」
リリア側の壁から『壁抜け』で現れるフレンディス。
雰囲気は恐怖な感じだが、驚かし役の迫力がどうにも無い。可愛らしい幽霊さん。
しかし、
「きゃぁ」
可憐な悲鳴が上がった。
リリアにとって迫力があろうが無かろうが関係無い。必要なのはきっかけだけ。リリアは待ってましたとばかりにメシエの胸に抱き付いた。
「……悲鳴をあげるほどの迫力は感じられないが」
メシエはフレンディスを見ながら言った。
「……成功だ」
エースは満足していた。リリアがうまくメシエに抱き付いたのを見て成功を確認。
役目を終えたフレンディスはベルクの元に戻った。
「……ほら、写真を探さないといけないんだろう」
「……メシエ」
フレンディスが行った後もリリアは抱き付いたままでいようとするもメシエはさっさと歩き出し、自然とリリアを振り払ってしまう。
「……また他の者に頼むか」
なかなか難しい二人に少しため息をつくエース。今日は本当に頑張っている。
「マスター、見ていましたか? 立派に果たしましたよ」
フレンディスはベルクの元に戻るなり、やり切ったという満足顔で言った。
「見てはいたが。本当に果たしたかどうかは……」
ベルクは少しため息をついた。エースのリクエストは見事に果たしたが、驚かし役としては全く果たしていないように見えた。
「悲鳴を上げてましたよ」
「フレイ、少し見ていろ。今度は俺がする」
リリアの悲鳴に満足げなフレンディスに正しい驚かし役というものを教えるため襲撃する相手を捜しに彷徨い始めた。
「はい!」
力強く頷き、フレンディスはベルクについて行った。
次女の練習部屋から漏れ出す音楽が演出している一階廊下。
「……優、ゴメンね。二人の為とはいえ、こんな所に誘って。大丈夫?」
神崎 零(かんざき・れい)は神崎 優(かんざき・ゆう)の腕に抱き付きながら謝った。
「気にするな。二人の事を想って誘ったんだろう? 俺よりも零は大丈夫か? こういった所は苦手だろ」
自分を心配する零に優は気遣った。ここに来たのは、付き合い始めた神代 聖夜(かみしろ・せいや)と陰陽の書 セツ那(いんようのしょ・せつな)のためにと零が提案したからだ。優自身は霊を引き寄せやすい体質のためこのような場所には近付かないのだが。
「……私は平気よ。優と一緒だから。それに私は優の守護天使だから、私が守ってあげる!! でも本当は少しだけ怖いから……優に一杯甘えちゃっても良い?」
零は優の優しさに嬉しくなり少しだけ顔を赤らめ、抱き付く力も少し強くなる。
「あぁ、構わない。俺も零の事を頼りにさせて貰うよ」
優は顔を赤らめながら優しく微笑んだ。
「はい。優、部屋に行く前に行きたい所があるんだけどいい?」
零は嬉しさ溢れる調子で頷いてから訊ねた。
「……あぁ」
優は頷き、零の行きたい場所である土産屋に行った。ちょっとしたお守りを買うために。
「いらっしゃいませ。お守りから美味しいお土産までいろいろあるよ。見てたっぷりと選んでね。お買い物をするとこの子達と遊べるよ」
リアトリスが元気に零を迎えた。
零は商品を選び、ソプラニスタを抱っこしている間、優は周囲を見回しながら待っていた。
「お待たせ、優。大丈夫だった?」
土産屋から出て来た零は霊を引き寄せていないかと周囲を警戒する優に声をかけた。
「……あぁ、大丈夫だ。早速行こうか」
零に頷き歩こうとした時、零が先ほど土産屋で購入した物を差し出した。
「優、これ」
優の瞳と同じ青色の石が先端についたストラップを差し出した。
「ん? ストラップ、か」
受け取った優は改めて確認した。
その横で零が一緒に購入した自分の分を見せた。
「……その、優とここに来た記念に」
零は頬を染め嬉しそうに言い、自分の携帯電話に付けていた。零のストラップの石は薄いピンク色をしていた。
「……そうだな。ありがとう」
当然、嬉しくなった優はすぐに自分の携帯電話に付けた。記念うんぬんより零が自分の事を想ってストラップをくれた事が嬉しかった。
「……優、どこから行く?」
お守りを取り付けた後、零が隣の優に訊ねた。
「あの部屋に行こうか。礼拝堂とあるからそれほど怖いものはいないだろう」
優は食堂隣の部屋に顔を向けた。
「そうね」
頷き、零は優の腕に抱き付き、そのまま礼拝堂に行った。
礼拝堂。
静かに祈りを捧げる異端審問官のエリザベータ。
足音を聞きつけ、祈りを中断して客を迎えた。
「……迷える子羊達よ、礼拝堂にようこそ」
厳かに優しくやって来た客達、優と零を迎えるエリザベータ。
「……あの、こんにちは」
零はとりあえず挨拶をした。優は周囲を警戒。
「……」
エリザベータは、不埒者かどうか零と優をじっと上から下に見た。
しかし、どう見ても腕を組んだ仲の良いカップル。宝物を探している様子は感じられない。
「……神の御加護があらんことを」
祝福し、写真の切れ端を零に渡した。誰が写っているかはランダム。
「あ、ありがとう」
礼を言って写真の切れ端を受け取った。写っていたのは長男だった。
「優、ここ怖い所じゃなくて良かったね」
ほっとしたように隣の優を見た。
「そうだな」
優は頷き、二人は静かに部屋を出て行った。
「末永く幸せが続かんことを」
エリザベータは二人にもう一度、祝福の言葉を捧げた。
この後、何人かの客が訪れる。宝物を探す客、下心丸出しに誘って来る客など。
その際、エリザベータの顔は鋭くなり、
「判決、死刑! 火あぶりを適当といたします」
と高らかに言い、異端審問官らしく神罰を下した。下された者は地獄の業火いや 『爆炎波』の餌食となった。
二階、廊下。
妖気さえ感じられる廊下を歩く大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)と鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)。幼き頃、遊園地に行っても入らなかったお化け屋敷に入っている二人。今回は宝物探しもあるためあえて挑む二人。ちなみに誘ったのは望美である。
「……目玉びょーんには驚いたけど、礼拝堂みたいにあまり怖くない部屋に行きたいね」
望美は怖さのためハウスに入ってからずっと剛太郎にくっついている。
剛太郎もそれによって一人ではないと確認し、平常心を保っている。一人だったらビクビクしてばかりだったろう。
礼拝堂では恐怖か感じられない空間に安心した事を言い、無事を祈ると言われ長男の写真を貰った。
「……そうだな。次は衣装部屋に行こうか」
剛太郎は待機しているだろう驚かし役を警戒しながら言った。
「ジンクスって本当かな。まぁ、ジンクスだから本気にはしていないけど」
望美は怖さを紛らわせるため話しかける。二人で制覇して幸せになるもよし、従兄だが剛太郎と結ばれたりしてなどとほんの少し思っていたりしたが、ジンクスなので本気にはしてない。
二人は藍子が待つ衣装部屋へと向かった。
二階、舞踏会好きの奥様の衣装部屋。
「次は私が行くわ」
今度は藍子が出撃する。
「任せて下さいっ!」
ローブ姿になった藍子を吊り下げたワイヤーを引っ張る係のアンドロマリウスは楽しそうに頷いた。
「……来た」
スウェルがドアの向こうから客の気配を察知し、合図を送った。
三人は急いでクローゼットに潜んだ。アンドロマリウスは『隠れ身』、スウェルは『隠形の術』で姿を消した。
「ここは静かだ」
「お兄ちゃん、早く写真を探して出よう」
剛太郎とぴったりとくっついている望美が入って来た。
「……今」
「よし、行きますよっ!」
アンドロマリウスはスウェルの合図でクローゼットを勢いよく開け、ワイヤーを引っ張った。
ひらりひらりと水色地に金の縁取りの高貴そうなローブが宙を漂う。
「うわぁっ」
驚いた望美は思わず剛太郎に抱き付いた。
「……大丈夫だ。写真を探して早く出よう」
自身も怖いが、望美がいる手前震える訳にはいかないので部屋を見回し、写真を探す。
「……写真は」
剛太郎は何とか写真を発見するも言葉を止めてしまった。空飛ぶローブの下から写真が降って来たのだ。つまり、ローブの所まで行って写真を拾わなければならない。
「……お兄ちゃん」
心配そうに望美が声をかける。
近付けば何かが起きるかもしれない。
「……望美は、ここで待ってろ」
望美を引き離してから一歩一歩写真に近付く剛太郎。
ローブの下まで辿り着き、写真を拾い上げた瞬間、剛太郎の頭にローブの裾が触れる。
「……うぉ」
小さく声を上げ、急いで望美の所に戻り、
「行くぞ」
「うん」
望美を連れて急いで部屋を出た。
客が去り、隠れていた驚かし役が姿を現した。
「すごくびっくりしてましたね!」
アンドロマリウスは、ワイヤーからローブ姿の藍子を取り外して、人の形になった藍子
に話しかけた。
「そうね。うまくワイヤーを引っ張ってくれたお陰で助かったわ」
藍子は協力してくれたアンドロマリウスに礼を言った。
「……アンちゃん、次は私達」
「はいはい!」
スウェルの合図でアンドロマリウスは準備を始めた。
藍子も再びローブの姿になり、奥のクローゼットに隠れた。
しばらくして、他の客がやって来た。
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