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■突入準備は量産体制
 ――ここは、『イコプラのフロンティア』。アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が経営するイコプラショップなのだが、現在その場所に姿はない。代わりに、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)柊 真司(ひいらぎ・しんじ)の二人が店番をしている最中だった。
「アレーティアたちがうまくやってるといいんだけど」
「そうねぇ。……にしても、あんたも大変よね。店番押しつけられてさ」
「それはお互い様な気がする……」
 ……お互いにイコプラ好きのパートナーを持った因果かどうかはわからないが、現在進行形で起こっている『イコプラ工場占拠事件』を解決するべくアレーティアと、ローザマリアのパートナーであるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が現場に赴いているため、『イコプラのフロンティア』の店番を任されている……という状況だった。
 と、その時。お店にお客さんが来たようだ。すぐに二人は雑談モードからお仕事モードへと切り替えていく。
「いらっしゃいませー」
「……すみませんが、ここに残っているイコプラを全て買いたいのでございますが。こちらの店長からも許可はもらっております」
「――アレーティアが?」
 ……話を聞くと、このお客さん――八木山 バフォメット(やぎやま・ばふぉめっと)である……は工場を奪還するための作戦の関係上、イコプラが大量に必要になったらしい。バフォメットの契約者であるケヴィン・フォークナー(けびん・ふぉーくなー)が持ち込んだ分と『シズモ』に残っていた分だけでは足りなくなってきたため、『イコプラのフロンティア』まで足を伸ばしてきたようだ。
「そんなわけで、おいくらになりますでしょうか?」


「――これより量産体制を築く! セシルは作業員を指揮! イコプラ補充に向かってるバフォメットは戻ってきたら俺の助手を担当! 時間が惜しい、急げ! それと強化やパーツ交換、修理が必要な奴はすぐ俺の所に来い!」
 イコプラ工場近くに設営された作戦本部では、まさに戦争の準備でもするかのような忙しさに追われていた。というのも、ケヴィンが“こんなこともあろうかと”打ち立てていた『強化イコプラの量産体制によって数の優位を得る』という作戦が行われていたからだ。
「誰でも出来る簡単なお仕事です! 皆さんの手で事件を解決してみませんか! ――あ、改造イコプラが欲しい方はこちらへ! 現在大量生産中ですわ!」
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)の《ダブルホーンアミュレット》による『指揮』のもと、『シズモ』の店長や常連イコプラバトラーに工場の作業員、さらには近くにいた野次馬たちにも協力してもらい、イコプラを組み立て・塗装・改造などを急ピッチで進めていく。しかし、経験量に合わせて作業内容を振り分けてはあるものの、すぐには投入できる状況ではなさそうだ。
「このペースだとまだかかりそうだな……仕方あるまい、シェルター開放担当は先だって動いてくれ! シェルターが開く頃にはある程度の準備は完了するだろう!」
 ケヴィンの言葉に頷くシェルター開放チーム。すぐにその準備を始めていく中、セシルはケヴィンのしっかりとした雰囲気を見て、少し安堵していた。
(お兄様もこういう時は頼りになりますわね……普段からこうだとなおさらいいんですけど)
 そして漏れるため息。妹として、兄の心配の種はまだまだ尽きそうにはなさそうだ……。

 そんな量産体制が敷かれている一方、それに介さずに暇を持て余している契約者の姿があった。その名はアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)。とても暇そうにしながらも、その視線はドール・ゴールド(どーる・ごーるど)から猿渡 剛利(さわたり・たけとし)へと向けられている。
「暇ねぇ」
 ……視線を向けられているとも知らず、剛利は店長と話をしながらプラヴァー型を借りようとしているところだった。
「とーっても暇ねぇ」
 ――その視線に混ざっている考えは、“ドールと剛利は本当に男の子なのか”という、そこはかとない疑問。……疑問はすぐ解決するに限る。アリスは小悪魔な笑みを浮かべ、話し終ったタイミングを見計らってドールと剛利に手招きして呼び寄せる。
「アリスさん、どうしたのですか〜?」
「どうしたアリスさん?」
 なぜ呼ばれたのか全く分からない二人。そんなことを全く気にせず、アリスは早速用件を切り出していった。
「ねぇねぇ、ドールちゃんと剛利ちゃんって本当に男の子なの? どう見てもおにゃのこにしか見えないんだけど」
「もちろん男の子なのですよ〜?」
「……いや、俺男だから! 正真正銘の男だから!」
 アリスの問いかけに当然のごとく否定するドールと剛利。しかし、アリスの瞳はいまだ小悪魔のままだ。
「ふーん……どうあっても男の子と言い張るわけね? この世の神秘を解き明かすのも仲間としての務め、これは確かめるしかないわね☆」
 ――これは、危ない。すぐに二人はそう察知するも、アリスのほうが一手早かった。すぐさまアリスに捕まってしまったドールと剛利はそのまま草むらの茂みへと連行されてしまう。そして、出撃までの間アリスは二人“で”たっぷりと遊び尽くし、暇を潰していったのであった。

 ……剛利の悲しい叫びが聞こえてくる最中、それにも介さず一人黙々と作業に集中していたのはアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)。目の前には、先ほど『シズモ』より購入してきたブルースロート型のイコプラキットがある。
(やっぱ女の子っぽいイコプラがいいよなぁ。でも痛プラになるのは嫌だし……有名どころを攻めてみる、ってのも手だけどそれだとオリジナリティがなぁ……)
 アキラは今、自分の求める究極のイコプラ改造をしようと悩んでいた。作業中である『シズモ』の店長や常連イコプラバトラーにも意見を聞き、案をまとめていく。その結果、方向性としては“女の子の騎士”……すなわち、“戦乙女”なイコプラにしていこうと決めたようだ。
「よし、じゃあさっそく改造開始だ!」
 気合を入れ、作業に集中しだすアキラ。その近くでは、シェルター開放チームが工場作業員の人から工場内の見取り地図を受け取っているところであった。
 ――いよいよ、工場奪還作戦が開始される……!