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リアクション
始章
桜井 静香(さくらい・しずか)は涙目になりながら校長室を右往左往していた。
「静香さん……ちょっとは落ち着きなさい」
ため息を吐きながら、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は落ち着きのない静香をたしなめた。
「だ、だって……もうこの学校の……へ、変態さんがいるかもしれないのに、どうしてラズィーヤさんはそんなに落ち着いてるんですか?」
「あら、だって楽しみじゃない?」
ラズィーヤはニヤリと口を三日月型に歪めて、
「この学院で粗相をしたらどうなるか……たっぷりと教えられるんですから」
喉を鳴らすように笑い声を上げる。
そんなラズィーヤの表情を見て、静香は少し、ほんの少しだけ変態紳士に同情した。
一章 変態紳士、現る
百合園女学院、入口付近。
「なんでボクまでこんな格好を……」
女性の聖域に足を踏み入れてドール・ゴールド(どーる・ごーるど)は早速ため息をついた。
「いいじゃない、性別を疑いたくなるくらいお似合いよ? 」
アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)はクスクスと楽しそうに笑顔を見せる。
百合園学院は男の立ち入りを決して許さない。
男が無理やりこの学院に足を踏み入れるには女装する以外に手はない。
そんなわけで、今この入口付近に固まっている男たちはもれなく全員フリルをたっぷりとあしらったゴスロリ衣装に身を包んでいるのだ。
似合うなら問題は無いが、似合ってない男たちの格好は凄惨を極めているといえた。
「はいはい! みんな気を引き締めて、ボクたちは遊びに来たんじゃないんだよ?」
パンパンと手を叩いて鳴神 裁(なるかみ・さい)は士気の下がった男たちに声をかける。
「そうそう、似合ってるんだし何をそんなに落ち込んでるの? ……っていうか似合いすぎ、ドールって本当に男の子?」
「な、なに言ってるんですか! ボクはおと……ひゃ!?」
ドールが顔を真っ赤にして反論しようとすると、アリスはドールの背中に回りこんで裾を少しまくって胸をまさぐった。
「ちょ、ちょっと!? な……あ……なにしてるんですか!?」
「なにって本当は女の子じゃないのか確認してるんだよ? ……ん、胸はぺったんこだ」
「あたりまえです!!」
ドールは泣きそうになりながらアリスの手から逃げようと抵抗するが、まったく逃げ出せる気配は無い。
「それじゃあ次は……下の確認だね♪ これで白黒ハッキリつくよ」
「し、しし下!? じょ、冗談ですよね?」
「本気だよ?」
ニッコリと楽しそうに返答するアリスの表情と徐々にスカートの下に伸びていく手を見て、ドールの顔からは血の気が引いていく。
「や……! なに考えてるんですか! 冗談はやめてください!」
「だから本気でやってるってば」
「余計ダメですよ! ちょ……ほ、ほんとうにやめ……」
「んっふっふっふ……よいでわない、ぐぁ!?」
羽交い締め状態でセクハラしていたアリスは突然変な声をだしてその場にうずくまる。
「いい加減にしろ、やりすぎだ」
そう言って握り拳を作っていたのは後藤 山田(ごとう・さんだ)だった。
「な、なにするのよ山田!」
頭を抑えながらアリスは涙目で訴える。
「やりすぎだと言っている。この学院の生徒に男がいることがバレたら俺たちだって追われるんだ……それにドールはもう少し堂々としていろ……俺よりは似合ってるんだから」
「え〜? そんなこと無いよ、山ちゃんも全然似合ってるし可愛いよ」
山田の言葉に反論したのは裁だった。
「やまちゃん言うな! 俺の名前はサンダーだ!」
「どっちでもいいよ」
「よくねえよ! なんで俺までゴスロリ服なんだ」
「だって山ちゃん、放っておくと女の子なのに男の子みたいな格好するんだもん」
裁の指摘に山田はグッと言葉を呑む。
「そりゃ、こんな格好したって俺は似合わないし……」
「そんなこと無いって! そう思ってるのは山ちゃんだけだよ」
「そーそー、まだマシだって……俺に比べたら」
キルラス・ケイ(きるらす・けい)は死にそうなため息をつく。
ケイの格好もゴスロリなのだが、ドールと違って似合っていない側の男なのだ。
「まったく……なんで俺までこんなフリフリ着なきゃいけないのかねぇ、ほらあそこの生徒なんか俺を見て目を逸らしたよ」
「はいはい文句言わないの、それより連絡はついたの?」
「今やってるって……マルティナ、そっちは準備できたかな?」
携帯を片手にケイが連絡を取ったのはマルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)だった。
『狙撃準備は出来ましたわ、後は囮の皆さんの仕事次第です』
ケイは学院の屋上を見上げると、太陽の光をこちらに反射させて自分の居場所を知らせるマルティナの姿があった。
「はいはい、頑張りますよ。それじゃあよろしくねぇ」
携帯の通話を切り、ケイはゴソゴソとゴスロリスカートのポケットをまさぐった。
「さ、とっと変態紳士をおびき寄せて帰りますか」
そう言いながらケイはポケットから女性用のパンツを取り出して、
「さあ、変態紳士! 女性用の下着はここにあるぞ〜出てこ〜い」
大声出しながらそれを振り回し始めた。
「そんなので変態が釣れたら苦労しないっての」
三船 甲斐(みふね・かい)は呆れながらケイの行動を鼻で笑った。
「それなら、甲斐はどうするつもりなんだよ」
猿渡 剛利(さわたり・たけとし)は質問すると、甲斐はふふんと鼻を鳴らした。
「あんな下着を振り回したくらいで変態が引っ掛かるなら苦労しないって、こんなこともあろうかとR&Dで特製下着を作っておいたのだ!」
「結局お前も振り回すのかよ!」
「俺様の計算だと剛利がそのゴスロリ衣装でエロいポーズを取ったほうが出現確率が上がるんだけど」
「アホか! 俺は男だそんな下着と女装で変態紳士が釣れたら苦労は」
しない、と言おうとした剛利の言葉は学院に響き渡る笑い声で掻き消された。
入口で固まっていたメンバーは声のした屋上を見上げる。
「はぁ〜っはっはっは! 淑女と男の娘と下着の香りに釣られて、変態紳士! 見☆参!」
そこには、屋上の欄干に両足を乗せた変態紳士の姿があった。
「うわ! 本当に湧いて出た!」
「っていうか、あんなところにいたら」
「さあ、そこの君たちに一生の思い出となる金環日食をお見せし……」
パァン! と銃声が響き、変態紳士の言葉はマルティナの銃弾が遮り、
「おうふ!」
弾丸が直撃した変態紳士はそのまま虫のように地面の茂みに落下した。
「まあ、狙撃されるよな」
「今ので死んだんじゃないか?」
しばらくメンバーが様子を見ていると、
「這って見せる!」
変態紳士がブリッジをしながら、股間の黒丸を見せるように近寄ってきた!
「ぎゃああああああ!」
思わず剛利は悲鳴を上げた。
「ふっふっふ、怯えなくてもいいのだよ……さあ、じっくりと私の金環日食を堪能するがいい、後パンツを頂きたい」
「なに言ってるんだこいつ!?」
剛利が目を剥いて怒鳴ると、騎士心公 エリゴール(きししんこう・えりごーる)が前に出て変態紳士の股間を凝視する。
「ふふ、そんなに私の股間に興味があるのかい? いけない子だ。さあ、存分に見ておきたまえ」
変態紳士はブリッジから二足歩行に戻り、腰に手を当てて見せつけ始める。
エリゴールはそんな変態紳士を鼻で笑い、
「ふむ、わざわざ見せるくらいだからどれほどのものかと思ったが……」
「ぐふ……」
ナイフのような鋭い言葉に変態紳士は膝をついた。
「いや、失敬。しかし、そのような粗末なものをよく見せる気になったものよな?」
「く……! なんて非人道的な言葉を吐くんだ、思わず興奮するところだった……」
変態紳士は隠れていない唇を愉悦で歪めていると、我を取り戻すように首を左右に振る。
ミシェル・スプリング(みしぇる・すぷりんぐ)はそんな変態紳士の姿を見て、唇を振るわせる。
「こ、こんな変態のために……ボクはこんな格好をさせられてるのか……しかもよくそのような『ピー』で『ピー』な粗末なものをさらせたもんだな?」
「くぅうう! こんな可愛い男の娘に蔑みの眼差しを向けられた上に罵倒されるなんて、悔しい……でも、昇天してしまう」
「男の娘って言うな!」
「それに私は股間に紙を貼っていて見えないはずなのに、なんで私のモノが粗末だと思ったのかな? 想像してしまったのかな? ……ふふ、君も立派な変態だな」
この変態紳士の言葉に、ミシェルの中で何かが切れた。
「よろしい、ならば戦争だ」
ミシェルは戦闘用ビーチパラソルを握ってハウスキーパーを使った。
「あぁぁん!!」
変態紳士は気色悪い悲鳴を上げて、地面に倒れた。
「ふふ、そうやってすぐに暴力ですか? やりたい放題ですね」
「うるさいよ変態! ああ! ホンッットむかつくなこいつ!」
「さて、君たちには充分金環日食を楽しんでいただいたし、場所を変えるとしよう」
「そうは、させるかよ!」
変態紳士が現れるずっと前から身を潜めていたメルキアデス・ベルティ(めるきあです・べるてぃ)は変態紳士を背後から羽交い締めにした。
「ぬ……! まさかこの私がバックを掘……取られるとは」
「おい! 今何と言い間違えようとした!」
「貴様、そんな似合わないゴスロリ衣装を着ているところを見ると私と同種では無いのか、なんでこんな真似を」
「好き好んでやってるんじゃねえよ! マルティナちゃん! 早くこいつにトドメを刺してくれ!」
「了解しましたわ!」
マルティナは大声で了承すると、引き金を引いた!
再び乾いた音が辺りに響き、弾丸は見事に命中した──メルキアデスに。
「げふぁ……! 俺じゃねえよ! どこ狙ってんだ!」
「ごめんなさい! 両方気持ち悪かったから見間違えましたわ」
「どういう意味だコラァ!?」
「ふはは! これは思いがけぬ幸運! さらばだ変態の諸君!」
「てめえが言うな!」
メルキアデスが目を剥いてツッコミを入れるのも気にせず、変態紳士は颯爽とマントを翻して校舎の中に入っていく。
「大変! 早く追いかけないと! 行くよみんな!」
裁は慌てて駈け出し、他のメンバーもそれに続く。
こうして変態紳士の追走劇が始まった。
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