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【第一話】動き出す“蛍”

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【第一話】動き出す“蛍”

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エピローグ6
「この前交戦した時に手に入ったデータ、解析進んでる?」
 パラミタのとある都市。
 晴れた日の青空の下、カフェの屋外テラス席に座る彩羽は同じテーブルに座る仲間――スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)夜愚 素十素(よぐ・そとうす)に問いかけた。
「やはり拙者たちが予想した通り、敵は前のあの強いグリューヴルムヒェンの同系機体でござった。戦闘時のエネルギーを解析した所、パワードスーツ製造工場上空での交戦時に確認された力場――低視認性を実現したシールドは確認されなかった一方、機動性やエネルギー兵器の威力に関してはあの黒いグリューヴルムヒェンを凌駕するやもしれぬ。そのことから考えても、今までは汎用機としての機能を追求してきたシュバルツ・フリーゲやシュメッターリンクとは違った系譜を辿ろうとしているようでござるよ」
 古風な口調でそう答えるスベシアに頷くと、彩羽はふと思い出したように言う。
「そういえば、この前の交戦時……ツインレーザーライフルの冷却効率が向上していたわね。あれもスベシアがやってくれたのかしら?」
 するとスベシアは満面の笑みで自信たっぷりに頷いた。
「左様でござるよ! 前々回みたいなオーバーヒートみたいな事は拙者がチェックして起こさないでござる――予めそう決めていたでござるよ!」
 自信たっぷりに胸を張るスベシアの頭を撫でながら、彩羽は素十素にも目を向けた。すると素十素はもう眠くなったのか、既に舟を漕いでいる。
 彩羽の視線を感じて口を開くものの、もはや眠気のせいでろれつが回っていない。
「素十素ちゃんは眠いんだもん……。あ〜、も〜、あのイコン強いんだね〜。彩羽、ま〜、何かわかったら教えるよ〜? ぐぅ〜」
 それだけ言って完全に寝入った素十素に彩羽が苦笑した時だった。
「失礼、天貴彩羽様とお見受けします。少々――よろしいでしょうか?」
 突然に声をかけられて彩羽がはっとなって振り返ると、そこに立っていたのは、ベストにスラックス、メガネという美形の青年。その姿はインテリ貴族のようだ。
「あら、ナンパかしら? 見た所それなりにインテリそうだけど、私と付き合うんだったら、生半可な賢さじゃダメよ? それと、ナンパするんだったらせめて名前くらい名乗ったらどう?」
 するとインテリ貴族のような青年は丁寧な所作で一礼する。
「大変失礼致しました。このご無礼、平にご容赦くださいませ。さて――私のことは“スミス”と呼んでください」
 一見すると蠱惑的な笑みに偽装して放たれる彩羽からの凄まじい威圧感にも平然としながらスミスはベストの内ポケットに手を差し入れる。
「で、そのスミスが私に何の用? まさか本当にナンパじゃないわよね?」
 警戒は微塵も緩めないまま、やはり蠱惑的な笑みで問いかける彩羽に、スミスは内ポケットから取り出した封筒を見せる。
「本日の私はただのメッセンジャー。まあ、貴方の仰る通り、ナンパといえばナンパと言えなくもないですが」
 冗談めかして笑うと、スミスは見せていた封筒を裏返しにしてみせ、蓋部分がある裏面を彩羽の方に向ける。
 白地のシンプルな洋形封筒は、古風なことに蝋で封がされていた。そして、蓋部分を固めている蝋に押し付けられた印章のマークに気付いた彩羽は全てを察する。
「鏖殺寺院の紋章――なるほど。ナンパはナンパでも、私をナンパしたがってたのはあんた個人じゃなくて、そのバックにいる組織だったのね。それも、男にたとえるなら、最高にイイ男の一人――」
 不敵に笑う彩羽に向け、上品な笑みを返すと、スミスは恭しい態度で封筒を差し出す。
「我が主は貴方にも我々の同志になってもらいたいとお考えです。貴方にとっても悪い話ではないはず。是非、ご一考を」
 恭しい態度で封筒を差し出すスミスに対し、あえて挑発的に封筒を片手でひったくるように受け取ると、やはり挑発的な物腰で彩羽は問いかける。
「どういう風の吹き回し? 前回、前々回と散々コケにしたくせに? 仮にあんたとあんたの主がオッケーしても、来里人のやつが納得しないでしょうね」
 するとスミスは再び上品な笑みを浮かべて応える。
「その点に関してはご安心ください。何を隠しましょう、貴方を推薦したのは他でもない来里人くんなのですよ」
 今まで超然とした態度を崩さなかった彩羽も、さすがにこの事実を聞かされては驚きをあらわにせざるを得ない。今一つ要領を得ない様子の彩羽にスミスがすかさず語り始める。
「あの女も俺たちと同じく、九校連の上層部に正義などないことに気付いている。だから、あの女を俺たちの同志に迎え入れる意味はある――だ、そうですよ。むしろ、我々の中でも来里人くんが一番、貴方を推していたのではないでしょうか」
 そこまで聞くと、彩羽は先程と同じく蠱惑的で超然とした物腰に戻り、スミスへと言い放つ。
「良いわ。そこまで買ってくれるなら受けるだけ。報酬としては、そうね――あんたたちが保有している次世代イコンの技術、それでどうかしら?」
 彩羽の問いかけに対し、スミスは恭しく一礼する。
「問題ございません。我々にお力をお貸し頂く代価として、我々の有するイコンの技術――どうぞ存分にお使いください」
 その言葉を待っていたかのように不敵に笑うと、彩羽はやはり不敵に言い放つ。
「交渉成立ね。私――天貴彩羽は今この瞬間から、あんたたちの同志よ」
 もう一度恭しく一礼すると、スミスは口を開いた。
「感謝の極みにございます。早速ですが、次の作戦よりご協力して頂きたく。次回作戦も次世代機による九校連の所有する施設への襲撃。位置はポイントPR90702102921――」
 スミスが告げるが早いか、彩羽は事情を察したようだった。
「ツァンダ周辺……なるほど。今度は蒼空学園のイコン製造工場を襲おうっていうのね」
 彩羽の切れ者具合にスミスは感嘆した様子だ。
「流石はかの名家――天貴家の才女。感服いたしました」
 スミスからの褒め言葉も特に意識することなく彩羽は言う。
「イーグリットアサルトなんて所詮は天学が誇ったオリジナルのデッドコピー。十機や二十機――いえ、たとえ百機出てこようと、私のスクリーチャー・オウルの敵ではないわ」
 泰然自若と言い放つ彩羽。
「これは頼もしい。我が主もさぞお喜びになることでしょう」
 言い放った後、彩羽はカフェの屋外テラス席から立ち上がると、スミスに向き直って再び言い放つ。
「そうとわかれば話は早いわ――行くわよスミス。『我が主』とやらの所に案内しなさい」
 最後まで超然としていた彩羽の言葉にスミスは三度恭しく一礼した後、ゆっくりと顔を上げ、彩羽の瞳を正面から見据え、そして告げた。
「かしこまりました。天貴彩羽様、我等……鏖殺寺院・エッシェンバッハ派はあなたを――歓迎します」

 【第一話】動き出す“蛍” 完
  To be continued.