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走る小暮!

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走る小暮!

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 小暮に協力している大岡 永谷(おおおか・とと)はルカルカたちのお手本を見ながらなるほど、と頷いていた。
 どういった感じで小暮とぶつかってみるのがいいんだろうかと、永谷は実行にうつせないでいた。
「なるほど……。あんな感じでぶつかってみればいいんだな」
 いつも話すきっかけは、業務的なもので淡々と終わってしまう。けれど、”偶然”ぶつかってみれば、少しは 私語でも会話できるのではないだろうか、と永谷は頭の中でシュミレーションをする。
 目では追っていたはずの小暮は、いつの間にか別の曲がり角の近くにいた。しかも、小暮一人で傍には誰もいない……。チャンス。
「……っ!」
ドンッ
「うわっびっくりするじゃないか」
「ぼ、ぼーっと突っ立ってるのが悪い……」
 ああ、そんな言葉言うつもりないのに。相手に言いがかりをつけるなんて。
「だいたい、どっちかあるいはどっちも気付かないからぶつかれるんだよな……。ほら、掴まれ」
 小暮はズレた眼鏡を上げると、永谷に手を差し伸べた。それが嬉しくて、永谷は少し顔を赤らめてしまう。
「あ、ありがとう。……もしかしたら、体の静電気が磁力に作用して引き寄せられるんじゃないかって思う。ほら、ここは工場だから貴金属とか、磁器があってもおかしくない」
 緊張のあまり早口で口走ってしまう。
「磁力か。極は性別によって変わったりするんだろうか」
「たっ、多分そういうのも……ありえるんじゃないか? ほら、例えば……小暮、そんなに恋人が欲しいなら、俺でどうだ? 俺、お前のことが気になって夜も眠れないほど好きだって、最近分かったんだ。俺と付き合ってくれ」
「えっ……」
 小暮は驚いたような顔をした。なんて返事を返せばいいのかわからないようだ。永谷は悪戯っぽく笑ってみせる。
「って、言われる可能性も無くはないだろ?」
「ああ。そうだな、突然自分にも春がくるやしれない可能性も否定できない。大岡殿の分析力は意外にも高いんだな。これからも調査よろしく頼む」

「あれで本当に相手が欲しいのか……?」
鈍感なのか、それとも違うのか。彼のデータの一部になっただけでも良しとすればいいのか。胸がくすぶるばかりだった。





「姫乃の恋人がみつかりますよーにっ!」
 白波 理沙(しらなみ・りさ)はぎゅっと優しく早乙女 姫乃(さおとめ・ひめの)の手を握った。今日の成功を願っているのだ。
「あ、あの恋人とかよくわからないのですが……」
「いきなりそれはハードル高いよ理沙。大丈夫。姫乃さん、友達探しってだけだから」
 白波 舞(しらなみ・まい)は不安になっている姫乃を安心させてやろうとする。
「えー、でも恋人がいた方が楽しいよー。友達も大事だけど!」
 友情も気楽で楽しいけれど、恋人がいてどきどきしたらもっと良いのに、と理沙は思う。大人しくて礼儀正しい姫乃は友達はできるかもしれないけれど、そこがネックで一歩踏み出せないだろうから。
「ほら、手始めにあの人なんかどうかなっ」
 近くの坂の下を歩いている柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)を理沙は指さした。
「なかなか男の人と話す機会とかないからね。姫乃さん、挑戦してみたら?」
 舞も行ってきなよと背中を押す。けれど、お手本を見せるねと理沙が意気込んでしまい、いつの間にか坂を駆け下りて恭也に衝突していた。

「痛っで……。本当にぶつかるとはな」
「足がもつれたみたいで、ごめんなさいっ」
 理沙はぶつかるなりすぐに謝る。
「いや、調査対象がいきなり飛び込んで来たもんで、びっくりした」
 恭也は曲がり角でぶつかる原因を長曽禰に協力して調査していた。単なる偶然だろうと思っていたが、実際この場所に来てそう時間が経たずぶつかられてしまっては、偶然とも言えない気がしてくる。
「あ、あの怪我はありませんか?」
 姫乃は駈け寄って二人にヒールをかける。特に負傷はしていないけれど、心配しているようだ。
「平気だ。痛みはなくなったからな、礼を言う。……てめぇ、名は?」
 見ない顔だな、と恭也は姫乃の顔を覗き込む。
「えっ、えっ……と」
 ふと横を見るとそばにいたはずの理沙の姿が見えず、姫乃はわたわたと慌ててしまう。
「早乙女 姫乃……と申します」
「そっか、俺は柊 恭也。ここに来た理由とかあったら教えてくんねぇか?」
「あの……お、お友達作りに。ここがきっかけで仲良くなる方が多いとかで……」
 友達作りねぇ、と恭也はつぶやきながらもメモをする。
「へぇ、そうなのか? まぁ、なんか変な現象が起こったら知らせてくれ」

「食パンはいかが〜〜?」
 崎島 奈月(さきしま・なつき)は食パンを売り歩いていた。香ばしい匂いがどんどんと近づいてくる。
「ジャムやバターお好みでお付けしますよ〜。あっ、そこの人たち! 美味しいからよければどうぞ!」
 恭也と姫乃は試食のパンを奈月から受け取った。ヒールを使って少し消耗した姫乃は、一口パンを食べて美味しい、と呟く。
 異様にビクついていた姫乃にお礼として、追加で恭也が何きれかパンをおごってくれた。お礼を言うまえに去ってしまったけれど、たぶん良い人だと姫乃は思う。

「やったじゃない、姫乃っ」
 姫乃の背中を軽くばしっと理沙は叩く。姫乃のために一時舞と陰に隠れていた。
「じゃあこれで、あそこに見える小暮さんに向かって走ってきたら?」
 パンも手に入れたことだし、と舞は小暮を指さした。小暮は人と話していたが、会話が終わったようでゆっくりと歩いている。
「そうですね……、あまり話したことないですし。え、えーいっ! 小暮さんお覚悟!」





「す、すみませんっ」
「ぐはっ! ここ……曲がり角じゃ……な……」
 すみませんの声と共に、休憩中の小暮が振り向くと、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が体当たりしてきた。ここは曲がり角じゃないと言ったが、聞いてもらえてないようで、
「小暮少尉…冤罪で逮捕します!」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)にすかさず手錠をかけられてしまった。足は拘束されてはいないものの、手錠から鎖がじゃらりとティーの手まで繋がっており逃げる事はできない。
「なっ、何をする……っ!」
「小暮さん、申し訳ありません……。悪気はないんですわ。ただ、」
 イコナは申し訳なさそうな顔をするが、ティーはにこにこと笑っている。
「遊んでくれるかなぁって」
「冤罪だったらそもそも罪はないだろう。手錠を外してくれ」
「まぁまぁ、落ち着いて。これでも飲んで」
 優しそうな青年が声をかけて小暮に飲み物を差し出す。飲食店の出店に来たそうだ。青年は普段ゴン・ゴルゴンゾーラ(ごん・ごるごんぞーら)として生活しているが、
ティーやイコナは同一人物と知らないようだし、元の姿になっても小暮が怯えるかもしれないので優男で通しておく。
「あと、ポテトのサービスだ。料金はこいつらと遊んでくれればいいから」
「ま、まぁパンだけじゃ腹が減っていたところだ……。仕方ない」
「よかったですわね、ティー」
「ねー、イコナちゃん!」
 何がよかったんだ。飲み物とポテトを受け取って咀嚼する。なかなか美味い。
「ちょっと浮かない顔をしてたから、心配しているみたいだな」
 青年は気にかけるように小暮に話しかける。小暮は苦笑した。
「たいしたことじゃない。だが……さっきからわざとぶつかられてばかりな気がして……、本当の出会いとはなんだろうと、少し悲観してしまった」
「あ、えっとさっきはごめんなさいっ。そうとは知らず……。お詫びですけどこれも追加ですわっ」
 イコナはクリームとフルーツたっぷりのパフェも差し出す。

「甘い匂い〜……っ……うわっ!」
 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が匂いにつられてやってくる。ちょうどパフェを食べている小暮につまづいてよろめいてしまった。
「ティーさんにイコナちゃんか! どうりで甘い良い匂い。……小暮さん、何やってるんですか?」
「別に、何も……」
「えへへ〜餌付け! もとい、小暮少尉の励まし会!」
 ティーは、貴仁にぶつかられた衝撃でパフェに顔を突っ込んでしまった小暮の顔を拭いてあげた。
「確かに元気無さそうな気もしますね……」
 ゴンが貴仁に小暮の事を話すと、へぇと頷いて納得した。
「なるほどねぇ。あれは、小暮さんであって小暮さんじゃない人ですよ。俺も俺でそうだと思いたいですし、気にしないでいきましょうよ」
 まぁ楽に行った方が良いよという、楽観的な貴仁。
「ティー、こういう時は歌を歌うのですわ」
「だよね! 落ち込んでるときは歌がいちばんだねっ」
 なんとか小暮をはげまそうと、陽気な歌を奏でるティーたち。
 少しは小暮の心も回復したようだ。
 小暮は笑ってみせると、手錠は外してもらえることになった。