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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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第3章 1時間目・質問タイム&実技

「(うーん。せっかくアイデア術を発動させてもやっぱり、実戦では使えなかったなぁ…)」
「難しい顔をして…どうしました?フリッカ」
 眉間に皺を寄せて、むー…っと何やら考え込んでいるフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)に、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)
が小さな声音で話しかける。
「ぇ…うん、ちょっとね」
「フリッカが言いたいことは、なんとなくわかりますけど…。先生に聞いてみたらどうですか?」
「そうね、聞いてみるわ」
 フレデリカは片手を上げ、アイデア術についてラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)に質問する。
「前回のホームセンターでのグレムリン襲撃の時だって結界術「サンクチュアリ」が使えればもっと被害が抑えられたかもしれないわ。
今より上の段階ではきっと汎用性、柔軟性が求められると思うの」
「そのために2回目の授業で、考えてもらったんだから。使えないと困ることもあるだろうね」
「現在の所、アイデア術には“特定のメンバー”が“特定の道具”を使う必要があるのよね?術の構成上、“特定の道具”を使うのは避けられないけど…。“特定のメンバー”に縛られずに、アイデア術の行使に汎用性を持たせる方法はないかしら?」
「術を使ったことのない者がいると、魔道具の力をクローリスに適用させる時間がかかったりするよ。持続させるために、効力を与えるタイミングとかもわからないと厳しいかな。術を使い慣れた者同時じゃないと、効力の差が出るし」
「力の配分などを、言葉で伝えるのは簡単でも…。実際にその場って考えると、難しいのね」
 すぐに発動させなければいけない場面もあるだろうし、現場で練習するわけにもいかない。
 焦って術を使おうとして、失敗したら術者の負担にもなる。
「ふぅー…。今日、授業に参加している人たちに、声をかけるしかなさそうね」
 とはいっても、自習時間の予定が決まってる人もいるだろうし、どうすればいいのか…。
「なるべく授業を休んでいない人に、声をかけてみたらどうですか、フリッカ」
「ぅ〜ん。それもあるけど。やっぱりすぐに使えないと、意味がないものね」
 組みやすそうな相手の顔を、何人か思い浮かべてみるが、組んでくれるか交渉するしかなさそうだ。
「ルイ姉は何か質問しないの?」
「えぇ、護符について聞いてみたいことがありますから。(護符にペンダントの力を、蓄積して使えるか…ということは、他の人が聞いてましたし。私は別の質問をしましょう…)」
 自分も質問しておこうと、ルイーザが手を上げる。
「―…あの、私も質問したいのですが…」
「何かな?」
「はい。ペンダントと宝石の力と護符の関連性や、他の魔道具と護符の関連性はありますか?」
「ペンダントと宝石には関連性があるけど。今持っているもののままだと、その関連する力は使えないね。それと、護符は他の魔道具との関連性はないよ」
「わかりました、ありがとうございます」
「ホーリーソウルが強化されたんだし、そのうちってことじゃないの?」
 隣に座るルイーザにフレデリカが言う。
「えぇ。今日教えてもらうことが、沢山ありそうですから。それを先に、しっかり覚えなければいけませんね」
「それ見せて」
「いいですよ」
 ペンダントからホーリーソウルを出し、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)に見せる。
「へぇ……これが新しい宝石かぁ……」
「強化前のとでは、輝きが違うみたいなんです」
「淡い色の方が強化前かしら?」
 ルイーザが手の平に乗せた、宝石をじっくりと観察する。
「そうですね。こちらの透き通った感じの方が、強化された宝石です」
「どっちもキレイね…。どんな効果があるのかしら?」
 ホーリーソウルと、もう1つの宝石の能力について学ぼうと今日も授業に参加している。
 元々、機工士や技術官僚などを歴任してきた彼女にとって、魔法の類はどうも勝手が違う。
 というより、科学技術とはまた違った原理で動く魔法について、純粋に興味がわいたようだ。
 興味といっても訓練を受けるからには、中途半端なままで終わらせるつもりはなく、一人前の祓魔師を目指している。
 だが、エネルギーが異なるのだから、学ぶことも山のようにある…。
「新しく効果を得たほうは、さっき先生が話していたじゃないの。強化されたホーリーソウルには、呪いを解除することが出来るのよ」
 “メモをとっていないのね…”とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は嘆息し、小さな声で恋人に耳打ちする。
「え…そうだっけ?」
「はぁー…。それくらい、ちゃんと覚えなさいよ。で、解除は術者の力量によるから、100%じゃないわよ」
「何度か唱えて、解除するってこと?」
「しつこいやつはそうじゃないの?どれだけ上手く能力を扱えるかによりそうね。その力を使うには、宝石のスキルの習得もしなきゃいけないけど」
 恋人に説明してやりながら、私もいつスキルを習得出来るのやら…と深いため息をつく。
 セレンフィリティが前回のように先に行ってしまい、魔性に呪いやらなんやらかけられてしまった後では、彼女に追いついても助けようがなく、仲間のところへ連れて解除してもらうしかないのだ。
「―…セレアナさんのクラスは何ですか?」
「メイガスよ」
「清浄化のスキルを使えれば、ホーリーソウルを使えるはずですよ」
「それならもう使えるわ。…いつの間にか、扱えるスキルを習得していたのね。後は、該当する宝石を得るだけね」
「私も何か聞いてみようかしら。質問していい?」
 セレンフィリティは片手を上げエリザベートに聞く。
「はい、いいですよぉ〜♪」
「宝石は何度でも使える?宝石の魔力はどのようにして引き出せるの?」
「精神力が尽きない限り、何でも使えますぅ。魔力は術者の祈りによって、引き出すのですよぉ〜。怒りなどの感情で精神を乱すと、上手く引き出せなくなりますぅ〜」
「はーい、ボクも質問っ」
「何でしょうかぁ〜、リーズさん」
「仕掛ける対象はボク自身とかでも良いのかな?例えば、服の中に護符を忍ばせて、乗っ取とろうと襲ってきたらカウンターになる、みたいな」
「護符を扱える者が、リーズさんに直接仕掛けるなら出来ますよぉ〜。ただし、隙間がいっぱいあると、そこから侵入されるので気をつけてください〜。魔性などが護符に触れて、使用された箇所は消えちゃいますからぁ、気をつけてください〜」
「経文を全身に書くようなレベルだね」
「隙間っていことは、リーズみたいな慎重やないと、貼るのが大変そうやな」
「護符を貼っているのが、バレちゃうとまずいよね?」
「てるてる坊主みたいな格好とかやないか?服の上からやないと、厳しいしイロイロと」
「うん…確かにね」
 対象に触れられた護符が消えるなら、服の中じゃ憑かれる危険てしまいそうだ。
「護符つかなきゃいけないし。劣りはやっても、当たり屋アタックしないほうがいいかも」
「当たり屋って、かなり勇気がいりそうだね」
 2人の会話を聞いていた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が、小さな声で学人に言う。
「相手にもよるからね。いざという時に、サポートがいればよいけど」
「学人も何か質問してみたら?」
「うん、そうだね」
「何について聞きたいですかぁ〜?」
「道具を用いるために、精神の鍛練は有効?」
「はい〜。道具の効力を維持したりする時も、精神力が影響しますからねぇ〜」
「…有効っと。探知する時なんか、ずっと集中していないといけなさそう…」
 学人はエリザベートの言葉をノートに書き込む。



「イルミンスールの料理人。自習時間、暇か?」
 よくどこかで料理を作っているイメージが強い、魔法学校の者である涼介に、樹が話しかける。
「…料理人?あぁ、私のことか。突然呼ばれたから、誰のことかと…」
「私の目の前にいる者に対してだな。で…、宝石の使い方について聞きたいのだが…」
「教室の中にいるつもりだが、暇じゃないかな。…私に、何か聞きたいことがあるのか?」
「そうなのか?では今聞いておくか」
「ペンダントについている銀色の蓋のようなものを外すんだ」
「これか?」
 涼介が頷くのを見て外してみる。
「樹さんが持っている宝石を、その中に入れるんだ」
「―…ふむ」
「ペンダントに触れるか、対象にかざして祈りの詠唱をする。憎しみなどの不の感情は、宝石の効力に影響してしまうから、気をつけたほうがいい」
「なるほどな…」
「僕がメモしててあげるよ」
 熱心に聞いている樹の代わりに、章が彼女のノートに書き込む。
「樹さんがもっているそれは、アークソウルかな?探知している時も、常に精神力を使うようだ」
「も…とは?」
「探知以外の能力を使う時も消耗するんだ」
「ほう…。扱い方を間違えなければよいのか?」
「まぁ、基本的にそんな感じだ。…護符や新しい宝石の使い方についての説明が始まりそうだな」
 説明を聞き逃さないよう、涼介たちは黙り、静かに聞く。
「新しい宝石について、説明しますねぇ〜。まずは〜、フレアソウルを使いますぅ〜」
 エリザベートはエレメンタルケイジに、赤ワイン色の宝石を入れ、指先でペンダントに触れる。
 小さな声音で詠唱の言葉を紡ぐと…。
 赤い色の光がペンダントの外へ漏れ、その光は炎となって校長の身を包む。
 校長のイメージにより、背中に炎の翼が生え、少女はふわふわと教室内を飛んでみせる。
「時速20kmまで、速度を調節出来ますが〜。ゆっくり飛んでもスピードを上げても、疲労感は歩行程度ですぅ。修練を積めば、ほとんど疲労の感覚はなくなりますぅ〜。炎熱の魔法ダメージの対象を変えられるので、何かにぶつかって燃やしてしまうとかの心配はありません〜。効果は、任意で解除できますよぉ〜」
「効力を維持させるために、精神力の消耗はないけど。戦闘不能などの状態になったら、効果が自動的に解除されるから気をつけてね」
「歩くより疲れなくなってくるなら、長時間の探索にも便利そうだね」
 2人の教師の説明を聞きながら、北都がノートに書く。
「それとぉ〜移動するだけなら、火花の音とかはしませんよぉ〜」
「へぇ〜。攻撃したりする時以外は、無音で動けるのね」
「セレアナが見るところってそこなの?」
「まずは効果の使い方を、覚えなきゃいけないじゃないの。ていうか、ただの乗り物系は怖いわね」
「なんでよ?」
「容赦なく叩き落とされるとこも、あるかもしれないってこと。セレンも甘い考えは捨てたほうがいいわよ」
「(ぅ…。ホームセンターのことがあるから、何も言えないわ…っ)」
 相変わらず厳しいセレアナの言葉に、セレンフィリティは黙り込んでしまう。
「皆さん、ちゃんとメモしましたねぇ?」
 ゆっくりと床へ降りたエリザベートは、効力を解除する。
「強化したホーリーソウルについては、実技を行ってもらいながら説明しますぅ」
「次は、祓魔の護符について説明するよ。これは護身用だから、祓う強い力はないって考えてね」
「すごーく使い慣れると、下級相手なら祓えるかもしれませんが〜。決め手になるダメージを与えるのは難しいんですぅ〜」
「護符を床や壁とかに貼ってトラップに使ったり、対象に投げるだけでも効果があるよ」
「じゃぁ〜、試しに使ってもらいましょうかぁ〜。清泉 北都さんと、リオン・ヴォルカンさん。教壇のところへ来てください〜」
「僕たちが1番目だね。リオン、ペンダントの中に、宝石が入ってないよ?」
「―…はっ。忘れるところでした…っ」
 事業中にペンダントから出して、宝石を眺めたりしていたため、アークソウルを机の上に忘れてしまった。
「リオン、大丈夫…?」
「はい。ちゃんと入れましたよ、行きましょう。(一番最初って、私たちだけなんでしょうか…っ)」
 緊張しているせいか、ぎゅっとペンダントを握り締め、彼の後についてく。
「実は、北都さんたちの近くにはずでに、未成仏の低級霊がいますぅ〜。霊の位置は、リオンさんの魔道具で探知してください〜」
 校長は用意しておいた玩具のピアノを床へ置き、彼らから離れる。
「探知役お願いね、リオン」
「アークソウルでは見えませんから、合図だけ送りますね」
 パートナーの方に振り向かず言い、リオンはペンダントに触れて詠唱を始める。
 北都は小さく頷くと目を閉じ、精神を集中させる。
「(もっと集中して…気を落ち着かせなきゃ。水面に水滴の環が広がるように、光を自分に満たすような感じに…)」
「(私たちの周りを歩き回っているようですね。ぁ…、ピアノの中に侵入しましたね)」
 魔性の位置を知らせようと、リオンは片足でタンタンッと靴音を立てる。
 その合図に北都は静かに目を開き、彼の視線の先へ護符を投げつけた。
 ピアノに憑いた霊はダメージを受けてないらしく、元気に跳ね回る。
「あれ…?全然、効き目がないみたいだね…」
「北都さん。憑いている状態だと、効果がないですぅ〜」
「憑いていない状態の相手が、対象なんだね?」
「はい、そうなんですぅ〜。器から離れた相手が、また侵入しようとしてきたら、それを阻むものとして使ったり…。何かに憑こうとしている者の、接近を阻むものとして使ったりするのもいいかもしれませ〜」
「んー…、失敗しちゃったね」
「でも、1つ勉強になったじゃないですか。次は頑張りましょうね」
「うん、そうだね、リオン」
 実技を終えた北都たちは席に戻った。
「佐々木 弥十郎さんと、賈思キョウ著 『斉民要術』さん。実技を行ってください〜」
「ねぇ、斉民。ちょっとした実験に付き合ってくれない?」
「別にいいけど…」
「ありがとう♪」
 授業中に思いついた“種族別で探知”出来ないか、玩具のピアノに憑いたままの霊と、斉民の違いを試してみる。
「魔性は『赤』とするとして、斉民は口うるさいから『黄』かなぁ」
 その言葉をうっかり口に出してしまい、斉民にギロリと睨まれる。
 甲高い声でしかもうるさく言うから、その色がピッタリかもしれない…。
「黄色い声って言いたいわけ?」
「あ、聞こえちゃった?別に、そんなつもりはないんだけどね。さてと、集中しなきゃ…」
 プンスカ怒っている彼女をほったらかし、アークソウルの反応を試す。
「ぅーん…。斉民の方は光の色が少しだけ強いかな。もしかして、怒ってるからかもね」
 自分に怒りを向けているから、反応が違うのだろうかと言う。
「種族別の探知はまだ難しいけど。邪気とか隠していなきゃ、わかることもあるかな?」
「弥十郎…。てぶくろって、逆に読んでみてよ」
 その言葉に斉民はますます機嫌が悪くなり、眉をキッと吊り上げる。
「え?…無理♪」
 逆さに読んだ瞬間、彼女がソレをやるのだろうと、笑顔でかぶりを振って席に戻った。