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リアクション
第9章 触手退治!
「……おかしい」
「どうしました、樹ちゃん」
海を眺めていた林田 樹(はやしだ・いつき)の呟きに、緒方 章(おがた・あきら)が聞き返す。
二人は、彼らのいう所の『バカ息子』緒方 太壱(おがた・たいち)の遠泳訓練にやって来ていた。
しかし、樹はいち早く違和感に気づいた。
「この時期に、これだけ大量のクラゲ……少し、異常だ」
奇しくもルカルカと同じ感想を漏らす。
「たしかに変だね。気にせず泳いでいる人もたくさんいるけど……ちょっと待ってて」
即座に手持ちのパソコンで調査する章。
「あー、これは厄介だなぁ」
「どうした?」
パソコンを覗き込む樹に、手早くパラミタラブクラゲとラブイソギンチャクの説明をする章。
「何だそのふざけまくった名前は!」
「どうする樹ちゃん?」
「どうもこうも、皆の安全を守るのが国軍の使命!」
「じゃあ、行きますか」
「二人とも来い……って、バカ息子は?」
「あれ?」
二人は周囲を見回す。
同行している筈の、太壱の姿はどこにもなかった。
「……あのバカ息子!」
「あはは、探しに行きますか」
ひとまず、はぐれた同行者を探す二人だった。
「よーし、脱走成功! ったく海まで来て親父とお袋のスパルタ教育なんか受けたくねえっつーの!」
浜辺を走るのは、脱走者太壱。
しかし彼が走って行くその先で見たのは、すさまじい光景だった。
「はああああっ!」
「うぉりゃーあっ!」
「ていっ!」
大量のクラゲとイソギンチャク。
そしてそれらと戦っている、セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)、オルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)、エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)たちの姿だった。
「な、なんだこりゃあ……」
「タイチ、何やってるの?」
「おぅわっ!?」
美女3人VS触手!
足を止めて凝視する価値のあるその光景に、文字通り見入っていた太壱は聞き覚えのある声に、思わず飛び上がる。
「つつつツェツェ!? いやお前こそ何やってんだ!」
それは、彼と同じ『場所』から来た仲間であるセシリアだった。
「い、いや俺は親父とお袋と、遠泳訓練に来ただけで……」
「ふーん」
セシリアの、妙に冷たい声が痛い。
眼前の美女×触手にどう言い訳すればいいのか分からず口籠る太壱。
しかし、すぐそれ所ではないことに気づく。
「いや、でもそれよりこれは何なんだ? ツェツェが咬んでる事なのか?」
「ああ、これはパパーイから頼まれた害獣駆除の一環よ」
「害獣?」
セシリアの説明によると、アルテッツァからクラゲ対策を頼まれた彼女は、ビーチの管理者に切迫した事情を説明した。
困惑するビーチ管理者だったが、ちょうどそこに適任者がいた。
ビーチの警備を請け負っていたセフィーら3人だった。
そうしてセシリアから詳細な説明を受けたセフィー達は、パラミタラブクラゲとラブイソギンチャクの駆除に動くことになった。
「ん、やってるやってる! ルカ達も手伝うよー!」
「南側の岩場は、あらかた駆除が終わりました」
そこに合流してきたのは、ルカルカ達。
彼女たちもセシリアから話を聞き、クラゲとイソギンチャク駆除に動いていたのだ。
岩場をひとつひとつ回ってのクラゲ、イソギンチャク駆除。
時折、いや、かなりの頻度で出くわしてはいけない状態のカップルに遭遇することもあり別の意味で大変なお仕事だった。
「助太刀、無用!」
今までのクラゲに比べ、かなり大きなクラゲ達と戦っていたセフィーはルカルカの言葉に短く答える。
「でも……」
「ははっ、俺たちの得物に手を出すなよ」
何か言いかけたルカルカだが、恍惚とした表情のオルフィナの様子を見て口を閉じる。
彼女たちの邪魔をしてはいけない。
「んじゃ…… 周辺のザコのお片付けでもしよっか」
「僕たちもお手伝いするよ」
そこに声をかけた人物がいた。
「げ、親父、お袋……」
「あ、師匠! お久しぶりです……っと」
太壱を探してやって来た章と樹だった。
二人を見て、思わず変な声を出す太壱と、挨拶しようとするセシリア。
そして、『ここ』では初対面だったことに気づいて慌ててセシリアの口を押える太壱。
(ばっか、お前何やってんだよ)
(わ、分かってるわよ!)
「僕が彼女たちの戦闘から洩れたクラゲの分布を、海流と合わせて割り出してみるよ。章ちゃんがそれを凍らせるから」
「おっし、それを回収すりゃいいんだな」
「こっちに送ってくれれば、虚無霊に喰わせてやるぜ」
カルキノスが胸を叩く。
「っつーか、イソギンチャクは焼いたり揚げたりして喰ったら上手いんだが……」
「調理、してみるか?」
カルキノスの言葉に料理上手のダリルがルカルカの顔を見る。
「え、うーん、駄目だよう。ルカは兎も角皆にあんなの食べさせられないよ」
(自分はいいのか!?)
ルカルカの言葉に周囲の数人が心の中でツッコんだ。
クラゲとの対決は、佳境を迎えていた。
「きゃあっ!?」
セフィーの悲鳴が響く。
彼女が纏っていた露出度の高い純白のビキニ。
その、胸の部分をクラゲに奪われたのだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません」
エリザベータの声に、努めて冷静に答える。
実は問題大アリだ。
ひとまず当面の問題であるこの大きな胸を隠さなければならない為、必然的に片手で戦うようになるセフィー。
「はっは、このエロクラゲ野郎が!」
うにょうにょとピンク色の触手がオルフィナに絡みつく。
触手は、彼女が身につけた黒いビキニの中にも入ってきた。
布面積が大変少ないその中に割り込むと、ゆるりと蠢かす。
「あんたらじゃ、俺を満足させることなんか出来ねぇんだよ!」
ざくりざくりざくり。
絡みつく触手を全て切り落としていく。
「あ……いやぁあああっ!」
エリザベータの絹を裂くような悲鳴が響く。
彼女は、全身をクラゲの触手に絡め取られていた。
オルフィナのように反撃したくても、得物を持つ手まで拘束され動けない。
そのまま、クラゲは仲間たちの仕返しでもするかのように、エリザベータを侵略していく。
「あうっ、やっ、そ、そんな……」
「エリザベータ!」
「ああ、今、助けに……いや」
彼女を救おうとエリザベータの方に向き直ったオルフィナは、しかしその手を止める。
彼女の体全体に絡みつく触手。
ぬめぬめと動く触手に翻弄されるエリザベータ。
「……せっかくだから、もう少し」
「た、助けてくださいぃい……ふあんっ!」
助けを求める声も、触手によって押さえつけられるエリザベータだった。
ちなみにその後噛まれた彼女は、オルフィナの手厚い『治療』によって回復するのだがそれはまた後のお楽しみ。
あらかたのクラゲを殲滅し、彼女たちの前に残っているのは、一際大きな1匹のクラゲだけとなった。
「デカいわね、さすがに……」
「へっ、デカけりゃいいってもんじゃねえよ」
息を飲むセフィーを鼻で笑うオルフィナ。
「おっかしいわね。パパーイの報告では、あんなに大きなクラゲはいなかった筈だけど……変種?」
パソコンを叩きながら、セシリアが不思議そうに呟く。
その、大きなクラゲから大きなハート形の触手が、セフィーに伸びる。
「くうっ!」
片手では、受けきれない!
そう判断したセフィーは、薙刀を両手に持ち直す。
すると、今まで片手で隠していた胸が露わになって……
「おぉおおおっ!?」
「こ、こら見るんじゃないわよ!」
思わず釘づけになる太壱の視線を、セシリアが塞ぐ。
「アキラ……」
「はいはい見てませんよ」
樹に言われるより先に目を瞑る章。
他の男性陣も、紳士的に目を逸らす。
「くっ、くうう……消えなさい!」
セフィーの、まさに捨て身の渾身の一撃!
大型クラゲは身をくねらせると、ぐたりと力なく海に落ちた。
「いいモノ見られたんだから、悔いはないわよね!」
戦闘で飛び散ったクラゲたちの死骸は、樹たちが中心になって回収することになった。
「でも、ちょっと残念だね」
「ん、何がだ?」
樹にハート形の触手を渡しながら呟いた章の言葉を、樹は聞き逃さなかった。
「いやこの触手……ちょっと、章ちゃんも噛まれてみたらとか…… ぶはっ!」
すぱーん!
皆まで言わせず樹の鉄拳制裁。
「バカだろう! アキラお前絶対バカだろう!」
「……親父ぃ」
そんな夫婦漫才を太壱が複雑な表情で眺めていた。
「あんな風に見えても、師匠はちゃんと仕事してるわよ、ほら」
フォローのつもりだろうか、セシリアが太壱の後ろに立っていた。
「それにしても……」
ビーチを見渡すセシリア。
クラゲとイソギンチャクの駆除は出来たものの、思った以上に時間がかかってしまったため、ビーチにはかなりの被害の跡が見て取れた。
しかし、先程ピーチの管理者に問い合わせた所、現時点での苦情はゼロ。
むしろ何故か人気が高まっているくらいだとか。
「世の中、不思議な事もあるものね……」
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