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リアクション
第5章 ウェザーの面々の受難
「クラリンだぁー、やほ〜♪」
「おぉ、ちーす……ってクラリンは止めろよ」
師王 アスカ(しおう・あすか)の言葉に、挨拶を返しかけて慌てて否定するクラウド。
しかしそんな事には頓着せず、アスカは話を続ける。
「どうしたのぉ、顔赤いけど」
「あー、ちょっと姉さんたちの砂探しを手伝わされてな」
「ふーん、雑貨屋さんも大変だねえ」
話ながら、アスカは目の前に続く行列に並び、クラウドもそれに続く。
この行列は、吹雪たちの屋台のもの。
午後になってますます暑さが増したビーチでは、とにかく冷たいモノを求めてどんどん人が屋台に並ぶようになった。
「良かったじゃない、盛況で」
「しかし……忙しすぎて遊ぶ暇はないのは誤算でありました」
客をさばく手を止めず囁き合うコルセアと吹雪だった。
「アイスくっださいなぁー」
「はい、毎度ありがとうございますー」
「ジュース3本」
「はい……って、あら、クラウドくん」
「あ。先日はどうも」
クラウドは屋台の主が姉の恩人だったことに気づいて慌てて頭を下げる。
話し込むクラウドたちの横で、なんとなく手持無沙汰のままアイスを食べるアスカ。
話し終えたクラウドは、所在無げにしているアスカに気づいて不思議そうに声をかける。
「ん、どうした?」
「クラリンに聞きたいことがあるんだけどさぁ……」
アイスを舐めながらぽつりとアスカが口を開く。
「何だ?」
「男の人って、やっぱり胸が大きい人がいいのかなぁ?」
「はぁ? な、なんだってまたそんな事を……」
唐突な質問にクラウドの声が裏返る。
スレンダーな身体にセパレートタイプの水着を着たアスカは、健康的な魅力で溢れている。
そんなアスカの口から出た意外な言葉に焦るクラウド。
「え、何かクラリンって質問しやすいから」
「何気に失礼だな」
けろりとしたアスカの言葉に苦笑する。
冗談めかして言うアスカだが、その表情は晴れない。
(鴉……それに、ベル)
同行していた恋人とパートナーの悪魔。
その二人のあまりの美形、セクシーっぷりになんだか居たたまれなくなって逃げてきたアスカには、今、胸という部位が大きな問題としてのしかかっていた。
「ねぇ」
「おお」
「私って。やっぱり色気ない……?」
「え、いや……」
「やっぱり……って、わわわっ」
「うわっ」
べとり。
話に夢中になっていたアスカの持っていたアイスが溶けて、アスカの胸に落ちた。
丁度、水着ではない部分……アスカの生肌の谷間に。
乳白色の、どろりとした液体が。
「冷たっ……ん、でも、勿体ない……」
指についたアイスをぺろりと舐める。
「いやいやいや」
慌ててクラウドは拭くものを探すが、自分も水着なので見つからない。
そこに。
「あ、アスカ、いたのか……って、おいっ……!」
蒼灯 鴉(そうひ・からす)が、はぐれた恋人を探しに来た。
そして恋人のとんでもない姿と、それを前におろおろしている男性を見つけてしまった。
「おい、アスカっ!」
「あ、鴉……」
「お前はっ! また天然で他の男の前でそんな姿を……っ!」
「へぅ?」
憤る鴉に、その理由が分からず首を傾げるアスカ。
鴉はその腹立ちをそのままクラウドにぶつけることにする。
「おい」
「お?」
「クラウドっつったか。 ……今見たことは、忘れろ?」
「は?」
「わ・す・れ・ろ?」
「あ、あぁ……」
笑顔で口にされた、それだけに裏にどんな感情が込められているのか得体の知れない鴉の言葉に、気圧されただ頷くしかないクラウド。
「鴉?」
「大丈夫、怒ってない、怒ってないから……とりあえず人気のない所に行って話をしよう、二人っきりで」
アスカの肩を抱えるとそのまま連れ去ろうとする鴉。
果たして話だけで済むのだろうか。
「あとな、絶対に他の男の前でアイス食べるんじゃないぞ」
「えぇー」
「どうしてもってんならミルクじゃなくてオレンジにだな……」
ぶつぶつ言いながらアスカを連れ去る鴉。
「もぅ、アスカったら…… 鴉も鴉だし」
「わっ!?」
その隣で急に声がした。
驚いてクラウドが横を見ると、アスカのパートナーのオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)が不機嫌そうな様子で立っていた。
オルベールも今気づいた様子でクラウドを見る。
「あら、クラウドじゃない」
そして、ふいに笑顔を作る。
その笑顔に、何故か根源的な恐怖を感じながらもクラウドは目を離すことができない。
「アスカのあんな姿を記憶に残されるのは困るし……前に、『サービスしてあげるから』って言ったもんね」
「は?」
「ベルの姿に塗り変えてあげる……♪ ね、目を閉じて?」
「え、あ、あぁ……うぅわっ!?」
言いなりのまま目を閉じたクラウドを、オルベールは引き寄せた。
そのまま、クラウドの顔を自分の胸に……
「!!??」
「ほら、これでアスカの姿に上書きされたでしょ?」
悶えるクラウドに、くすりと告げた。
クラウドが大変な事になっている頃、レインにも危険が迫ろうとしていた。
発端は、滝宮 沙織(たきのみや・さおり)の妄想だった。
「はふー、楽しかったあ!」
一通り海泳ぎを楽しんだ沙織は、ビーチの砂の上に腰を下ろして休憩をとっていた。
目の前には、海。
その中にゆらゆらと見えるのは……クラゲ?
「やだ、刺されないようにしなくちゃ」
ビーチに来る前に確認しておいたネットの内容が頭をよぎる。
(あたし一人なのに、刺されたらこまっちゃう……はっ!)
赤くなった沙織だが、次の瞬間彼女の妄想が爆発する。
(もしも、もしもよ。男の子が捕まったら色々あられな肢体がここにさらされることになるわけで、そうだ、男の子を上手くここに誘導すれば……)
悶々とあらぬことを妄想するその情熱に引き寄せられたのか、海からゆっくりとハート形の触手が沙織に近づいてきた。
「きゃっ!」
ちくり。
沙織の足に、赤いハート形の斑点が出来ていた。
「あ、か、痒い、かゆいよぅう……」
じたばたとビーチの上を転がる沙織。
「おい、大丈夫か?」
タイミング良く、もしくは悪く、そんな沙織に声をかける人物がいた。
レインだった。
「刺されたのか? 薬はないか……っうわっ!?」
レインの近づくのを待っていたかのように、触手がレインの足を絡め取る。
「ちょ、何だよっ、これは……っ」
ぐにぐにとレインに絡まる触手を、沙織は痒みも忘れて思わず凝視する。
「……レインさんから、腐敗臭を感じる♪」
「はぁ?」
「レインさんとクラウドさんの絡みって、ないの?」
「はあぁ?」
巻き付いてくる触手に抵抗しながら、唐突な沙織の言葉にどう対応していいのか分からず混乱するレイン。
「兄弟同士の禁断愛って、萌えるよね!!」
そういうのは第8章近辺にありますよ。
「萌えないよ! っていうか助けてくれ……あっ」
レインの身体がびくりと震える。
噛まれたらしい。
「っ、か、痒い痒い痒い……っ」
「わぁ……♪」
悶えるレインを眼福とばかりに両手を顎に当てて眺める沙織。
痒みは、いつの間にか消えていた。
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