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夏合宿 どろろん

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    ★    ★    ★
 
「もう、ペアは決まったかな?」
 雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)さんに声をかけてきたのは、四谷 大助(しや・だいすけ)くんです。
「くじ引きで決まってるんだけど、まだ来てなくて……」
 雅羅・サンダース三世さんが答えました。お相手は想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)くんなのですが、そろそろスタート時間です。
「それはいけないなあ」
 四谷大助くん的には、ちゃーんすのようです。下心は隠しつつ、優しく接します。
「スタートが遅れて他の人に迷惑をかけるといけない。仕方ない、ここはオレが一緒に行ってあげよう。さあ、早く!」
 なんだか強引に雅羅・サンダース三世さんの手を取ると、四谷大助くんがスタートしていきました。
「あれ? 雅羅さんは?」
 想詠夢悠くんは何やら携帯で電話をしてきたようですが、戻ってきてみると雅羅・サンダース三世さんがいません。
「雅羅さんならもう出発したよ。あれ? 抽選だと、確かキミが当たったんじゃ?」
 アゾート・ワルプルギスさんが怪訝そうにリストを読み返します。
「大変だ、すぐに追いかけなくっちゃ」
 想詠夢悠くんは、あわてて走りだしました。
 そのころ、雅羅・サンダース三世さんと四谷大助くんは、森の中を進んでいました。雅羅・サンダース三世さんが立ち止まったので、四谷大助くんはすぐそばでちょっと待っています。
 以前、告白したりデートしたこともあり、未だお友達ではあるものの感触は悪くはありません。このへんで、もうちょっと確定的なことがほしいものです。がんば。
「確か、雅羅って、心霊現象が苦手だったよな。大丈夫、心配しないで……オレが、ついてるからさ……」
「えっ、何か言った?」
 優しい言葉をかけようとした四谷大助くんですが、雅羅・サンダース三世さんの方は、射撃用グローブを填めた手で、愛用のバントラインスペシャル雅羅式に弾込めをしています。
「いや、雅羅は心霊現象が苦手だったって言うことを……」
「そうなのよ。もう、お化けなんて大っ嫌い。身の毛もよだつわ。だから、殲滅するの」
「えっ!?」
私は、カラミティなの。だから、不幸とか、よくない物が自然と寄ってきちゃうのよね。その中でも、いっちばん許せないのがゴーストよ。だから、弱点とも言えるゴーストを殲滅するべく、ゴースト・ハンターになったのよ。弱点は乗り越えるべきものだものね。幸い、みんなも協力してくれているし。とにかく、私に近づく者は不幸の元凶だから、やっつけるまでよ。大助も、必要以上に私のそばにいると、巻き込まれるわよ」
 ええっと、それは、むやみに言い寄ってくる男どもも不幸の一部だと言うことなのでしょうか。もっとも、雅羅・サンダース三世さんとしてはそんな男の子たちを護るために、ある程度彼らを遠ざけているのかもしれませんし。あるいは、彼女の意志を尊重しないで強引に言い寄ってくるような男は殲滅の対象なのかもしれません。とりあえず、雅羅・サンダース三世さんは、自分の不幸体質と正面から向き合って戦う人のようです。
 さて、はたして、四谷大助くんや想詠夢悠くんはどちらなのでしょうか。
「さあ、私に近づく者は、容赦なく倒すわよ」
 ライバルとを無理矢理出し抜いたと思った四谷大助くんですが、これはちょっと、いや、かなり思惑が違ってきています。なんとかしなければいけません。どこか、お化けとかが出ない所へ行くべきでしょうか……。
 さて、お化け役の人たちも、とんでもない反撃をしてくるペアが多いので、さすがに警戒するようになっています。で、思い切り長砲身の拳銃を抜け目なく左右の茂みにむける雅羅・サンダース三世さんの姿を見ては、さすがに手を出せません。くっつかれては対応が遅れるからと、四谷大助くんも後ろに離れてついてくるように命令されています。すでに、心は完全にゴースト・ハンターモードです。
 そんな感じですから、特別手出しされることもなく、雅羅・サンダース三世さんたちは海岸へと辿り着きました。
「そこかあっ!!」
 海の中に人影を見つけて、雅羅・サンダース三世さんが銃口をむけました。
「わーっ」
「雅羅、それ人だから、人」
「なあんだ、紛らわしい」
 ちょっと残念そうに銃口を下げる雅羅・サンダース三世さんでした。
「ええっと、私は道案内です。あちらの道が、近道となっております」
 アキラ・セイルーンくんが、いかにも間違っているという感じの細い道を指し示しました。
「ほーう、そうですか。雅羅、ここまでで時間を食ったから、近道しよう」
「えー、でも……」
「大丈夫。何かあったら、オレが守るから」
 嘘っぽいです。人気のない暗い道だったので、四谷大助くんはわざと選んだようです。人気がなければ、誰かが間違って撃たれることもないでしょうし、何よりも、今度こそ周りの雰囲気だけで怖がってくれそうです。そうすれば、四谷大助くんを頼ってくれて、大助くん好き好きになるかもしれません。甘い考えかもしれませんが……。
 とにかくなんとかその道に進路変更することに成功しましたが、細い道は急な登りになっています。
 やがて坂を登り切ると、細い吊り橋に出くわしました。その先に、何やら祠のような、看板のような、納められた貝の山のような、捧げられた花束のような、なんだかよく分からない物が見えます。
 それにしても、もの凄く不安定で怖い吊り橋です。これは、確実に風で吊り橋がゆれて、「きゃあ怖い、大助くん助けてー。好き好きー」のフラグのはずです。これは、行くしかありません。
「さあ、むこう岸がゴールだ。行こう!」
 下心満々で四谷大助くんが雅羅・サンダース三世さんをうながしました。
「でも、なんだか嫌な予感がするんだけれど……。私と一緒に行くと、大助まで不幸な目に……」
「だから、オレが必ず守るって。さあ、行こう」
 半ば無理矢理に、四谷大助くんが雅羅・サンダース三世さんの手を引っぱって吊り橋を渡り始めました。
 おや、この吊り橋は、またたび明日風くんが落っこちた吊り橋のようです。だとすると……。
「雅羅、怖くはないか。もっとこっちに……」
 プツン。
 吊り橋のロープが切れました。
「だから、嫌な予感がしたのよー!!」
「大丈夫、オレが守って……」
「む〜り〜」
 二人は、別々に下の海へと落ちていきました。