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桜封比翼・ツバサとジュナ 第二話~これが私の交流~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第二話~これが私の交流~

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■対決、空賊団『黒鴉組』
 空賊団『黒鴉組』。この空域を縄張りとし、主に上流階級に当たる飛空艇を狙って行動する中堅クラスの空賊団である。しかし、その規模は中堅らしからぬほどであり、その要因は団長であるバリィのカリスマ性が成しているものと思われる。
「あれが今回のターゲットだ……お前ら、一気に片付けちまうぞ!」
「おおーーっ!!!」
 空域に響く、部下たちの一致団結した掛け声。そして、それを口火としてたくさんの空賊たちが小型飛空艇で降下を開始し始めた!
「きたか……! 主の湯治を邪魔しようとする輩め!」
 アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)もまた、ロアと同様にグラキエスの記憶から自身に関することを失われてしまった一人だったが、アウレウスは沈痛することなく――逆に記憶喪失の主を守ろうと、より厚い忠義を向けるようになっていた。そして、主の湯治の邪魔となるだろう空賊たちに対し怒りの感情をぶつけようとするが……グラキエスがそれを一度止める。
「待てアウレウス、実は……湯治が目的というのは嘘だ」
「俺の槍で薙ぎ払って――え、な、なんですと!?」
 グラキエスからの思わぬ言葉に攻撃の手を止めるアウレウス。グラキエスはすぐに言葉を続けていく。
「その、だな……温泉での交流はより近しくなりやすいと聞いて……。アウレウスは“今の俺”も“昔の俺”も変わらないと言ってくれた。だから、きっかけさえあれば“俺”もキースとも仲良くなれると思って……」
 そう思い、湯治にいくという嘘をついた――そう話すグラキエス。全ては失っても続く“絆”をより紡ぐため……それを知り、アウレウスは《スピアドラゴン》を強く握り、眼前に迫る空賊たちに睨みをきかせる。
「――なんと健気な! キースとの仲のために動いてもいたとは……そんな気持ちを踏みにじろうとする賊どもめ、やはり許せぬ! 行くぞガディ! 主のお心を踏みにじった報い、受けさせてやる!!」
 完全に空賊を怨敵として定めたアウレウス。《ガディ》に騎乗し空中戦に出ると、『シーリングランス』で牽制を行いながら『龍飛翔突』や『ヴォルテックファイア』で《ガディ》ともども怒涛の攻撃を見せていく。
「あ、攻撃が酷くなった……あまり暴れると後々疲れるだろうに」
「エンド、大丈夫ですか?」
 と、そこへグラキエスが心配になっていたロアが駆け寄ってくる。どうやら大丈夫そうな様子に安堵の息をついた。
「キース、ちょうどよかった。俺はこれからアウレウスの加勢にいく、あなたは修理のほうの加勢を。あなたなら修理もできるし、万一の時は非戦闘員の人たちも守れる。――だから、飛空艇のほうはキースに任せる」
 グラキエスはロアへ飛空艇の護衛のほうを任せると、《スティリア》に騎乗してアウレウスの加勢に向かうべく浮上。風上へ向かい、そこから『しびれ粉』を撒いて接敵を試みる。接敵後は『奈落の鉄鎖』や『ブリザード』で空賊たちの動きを阻害・抑制し、アウレウスの援護をおこなっていった。《スティリア》もまた、主を守るべく攻撃を仕掛けてくる敵に対し氷結を伴った攻撃や尻尾で迎撃している。
(エンド……。――記憶がなくても、私を信頼してくれている。私を必要としてくれている……!)
 グラキエスからの無償の信頼。それを感じ取ったロアの表情は、少しずつ明るいものとなっていく。――記憶なんて関係ない、ただただエンドのために。それが自分自身の存在意義。ロア・キープセイクである存在意義。
「エンド、こちらは任せてください。それと、片付いたら一緒に温泉に入りましょう」
 加勢に向かうグラキエスへそう告げると、ロアは指示通り輸送飛空艇の修理、そして乗組員たちの安全を守るため飛空艇へと向かう。そこでは先にダリルが修理の手伝いをしており、『ハイドシーカー』で接敵の警戒をしつつ、テクノクラートとしての技術を駆使して共に修理に臨んでいくのであった。

「《飛装兵》たちは甲板に展開! 《特戦隊》は遊撃的に動けるよう背後にも気を配って!」
 輸送飛空艇を守るべく、ルカルカは自身が連れてきたのとダリルから一時的に借りた《飛装兵》10人、そして《特戦隊》の指揮を執って、空を飛んでいる空賊たちへ弾幕攻撃を撃ちこんで飛空艇に近づけさせないようにしていた。
 《飛装兵》には遮蔽物に身を隠してもらいながら、2人で組を作って交互に弾幕を張らせている。ルカルカもまた、指揮を執るだけではなく『天のいかづち』を間断なく空賊たちへ連続で撃ちこみ、落下させようとする。しかし、敵も慣れているのだろう。うまく弾幕攻撃などを回避し、飛空艇に近づこうとする!
「銃撃……間に合わない!」
「させるかっ!」
 そこへ横切る一陣の突風。それは《小型飛空艇》に乗って『行動予測』で空賊の動きを読んでいた樹月 刀真(きづき・とうま)だった。『神降ろし』による自己強化、『殺気看破』による攻撃気配察知を行いながら、《白の剣》《平家の籠手》《ワイヤークロー【剛神力】》を装備した死神は、空賊の動きに合わせて『奈落の鉄鎖』や《ワイヤークロー【剛神力】》を絡みつかせて一気に地上へと引きずり落としていく。
「助かったわ! 翼、樹菜! 地上のほうは任せたわよ!」
 空賊が落ちた先には翼と樹菜がいる。ルカルカは二人へそう声をかけると、翼たちは頷いて地上側の空賊たちの対応へと走っていく。自分たちの使命はあれど、その身は契約者。やるべきことを先にやる、ということをきちんと理解はしているようだ。
「刀真、あっちの飛空艇からまだ出てくる!」
 刀真の援護をするべく同行している漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、《ホークアイ》で遠距離までの視界を確保しており、その視力で敵飛空艇からさらに空賊たちが姿を見せるのを確認するとすぐに刀真へ伝えていく。
「事情徴収しないといけないから、指揮官クラスは殺さないようにお願い!」
「わかった……なるべく気を付ける!」
 ルカルカは教導団としての仕事もあるようで、敵の指揮官は殺さないよう刀真に伝える。何度も共に戦っているからか、その戦い方を考えての言葉なのだろう。刀真もルカルカの言葉に善処する旨を伝えてから、《小型飛空艇》を次の増援に向けて飛ばしていく。
「この加速力なら――月夜、フォロー頼む!」
「任せて!」
 《小型飛空艇》に乗ったままでは剣を振るえない刀真。だがそこは発想の――ならぬ、八艘の応用力を使う。一気に飛空艇で加速させると、大昔にあったかつての合戦で武将が見せた八艘飛びの要領で空賊の乗る小型飛空艇に飛び乗った!
「て、てめぇ! ――ぐはっ!?」
 そしてワイヤークローを絡みつかせて身体を支えながら、手早く《白の剣》で空賊の首を刎ねる。流れる動作でそこまで終えると、ワイヤークローを使って別の小型飛空艇へ飛び乗り、次々と空賊たちを片付けていく。
 刀真を止めるべく加勢に入ろうとする空賊たちもいたが、それらは刀真が落下しても大丈夫なよう高度を下げて死角に回り込んでいた月夜が、敵以外を透過するよう設定した光条兵器・《ラスターハンドガン》による『スナイプ』で頭部狙撃をして対処。そして、刀真は目標地点に自身の《小型飛空艇》が飛んできたのを確認すると、素早くそれに飛び乗っていった。
 息の合った連携。その様子を、翼たちやラグナ ゼクス(らぐな・ぜくす)はそれぞれの想いを持ちながら見ていたのだった。


 契約者たちの対空攻撃により、小型飛空艇などにダメージを負った空賊の一部は地上へ着地し、一気に輸送飛空艇まで攻め入ろうとする。しかし、こちらにもきちんと対応する地上迎撃班の姿が多数あった。
「翼たちの負担を少しでも軽くしてやらないとな……ウイシア、イプシロンを頼む!!」
 数が多くなるであろう空賊たちに対し、少しでも数を減らして後続に繋げるべく、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)ウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)の持つ《光条兵器「イプシロン」》を使う決断を下した。だが、ウイシアはイプシロンを出すことにためらいを感じている。
(私はイプシロンを使ってほしくない……私のせいで大切な人をまた失いたくない……)
 ――かつて、光条兵器の暴走が原因で大切な人を失った過去を持つウイシア。自らが封印する力が振るわれれば、大切な人がまた失われてしまう……その考えが過ぎるも、ウイシアは勇平の確かな意思を持った眼差しを見て――悪しき考えを振り払う。
(このまま逃げていては何も変わりません。それに、私は剣の花嫁。イプシロンは私自身――今こそ、私は私を越えてみせますわ!)
 勇平は逃げることなどせず、一つの欠陥を抱える《光条兵器「イプシロン」》を使おうという意思を固めている。ウイシアはそれに感化されると、その身より《光条兵器「イプシロン」》を取り出し、勇平に手渡す。
「イプシロン使用許可を出しますわ……勇平君、無理だけはしないでくださいね」
「ああ、わかってる! ……僅かでいい、もってくれ……起動しろ、イプシロン!」
 あくまでも、この一撃で圧倒的戦力差を思い知らせ、少しでも相手の戦意を削げればそれでいい。勇平の確かな思いと意思でイプシロンの暴走を制御しながら、その刃を振り上げていく。
「く、つぅぅ……!! で……りゃぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 少しでも気を抜けば、暴走に巻き込まれる。勇平は意思を挫かせないまま――その一撃を振り下ろす!


ドゴォォォォォォォォォッ!!!


 光の怒号が地を穿つ。真っ直ぐに飛んだ一閃の太刀筋は空気すらも震わせる。この一閃に巻き込まれた空賊の一部は、その身の灰すら残さず消散したようだが――それでも、被害と呼べるものは極力抑えていた。勇平はそうなるよう向きを調整して振るっていたのだ。
「勇平君! イプシロンを!」
「あ、ああっ!」
 暴走を起こさせないためにも、ウイシアはすぐにイプシロンを勇平から回収して再度封印する。一振りだけでもかなりの集中を要していたのか、勇平は膝をついて疲労を見せていた。
「ぬぅ、どうやら空賊どもの心を折りきったようではないようだな。――勇平よ、ここからはわらわたちに任せるがよい。ふふふ、覚悟するがよいぞ、空賊ども。泣いて許しを請うたほうがよかったこと、今に見せてやろう」
「すまない……二人に任せた」
 魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)の言うように、よほど肝が据わっているのか今の一撃を見て戦意喪失させた者はあまりいないようだった。いまだ戦意を失ってない猛者たちの対処をするべく、複韻魔書とウイシアが疲労困憊の勇平の前に立ち、それぞれ攻撃を開始する。
 ウイシアは『我は射す光の閃刃』『剣の結界』を、複韻魔書は『天のいかづち』『サンダーストーム』を使い、襲いくる空賊たちを迎撃していく。勇平はその雄姿を見ながら、イプシロンの制御のむずかしさを改めて実感するのであった……。