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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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ツァンダの夏休み

 
 
「うーん、いい天気。こういうときはそう、お布団を干すのだ!」
 快晴の空を見て、絶対布団を干すと決めたザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)が、ズンズンと新風燕馬の寝室に突撃していった。
 そこには、タオルケット一枚でローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)がすやすやと眠っている。
「ローザくん、これから布団を干す。だからさっさと朝ごはん食べにいき、しかる後に僕に後片づけさせてくれたまえ」
 きっぱりと言い渡すと、やっとローザ・シェーントイフェルが目を覚ました。直後にはっとなって、裸の胸にずり落ちたタオルケットをたくし上げる。キョロキョロと周囲を見回すが、とっくに新風燕馬の姿はいなくなっていた。
「昨夜はお楽しみ……ではまったくなかったようだな」
 やれやれと言うふうに、ザーフィア・ノイヴィントが言った。
「こーんな美人のお姉さんが、裸で同じ布団に潜り込んできたというのに、完全にスルーするどころかタオルケットで簀巻きにして転がしたのよ。これって、どーいうことなのぉ……」
 昨日新風燕馬に夜這いをかけて完膚なきまでに玉砕したローザ・シェーントイフェルが悔しそうに言った。
「うーん、燕馬くんは据え膳見たらラップして冷蔵庫に保存しておくタイプだと思うのだよ」
 なんだかよく分からないたとえで、ザーフィア・ノイヴィントがローザ・シェーントイフェルに説明した。
「お料理はホカホカが美味しいのにぃ……後でチンされるより、今食べてほしいのよ私は」
「すでに保存されていては遅いと思うのだが……。それにしても、あの睡眠欲は賞賛に値するかもしれない。それより、早く起きたまえ。僕は忙しいんだ」
「ハイハイ今起きます、着替えます身支度します御飯食べます掃除洗濯手伝います……」
 いつまでふて寝していても仕方ないと、ローザ・シェーントイフェルは床に脱ぎ散らかした服を着ると、食堂の方へとむかった。
 
    ★    ★    ★
 
「ああ、お鍋が吹きこぼれてる……あちち!!」
 キッチンに立つ割烹着姿の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)があわてて火を止めようとして、鍋に触れた指先を急いで引っ込めた。
「大丈夫かい、すぐに水で冷やして!」
 変わりに火を止めながら、御神楽陽太が言った。
 一緒に料理をしようといろいろ作りだしたのはよかったのだが、なんだか具材を刻んだりいろいろ味つけを確かめあっているうちに、必要以上に料理を作り始めて軽いパニックになっている。
 オーブンでは、ピザがじりじりと焼かれているし、寸胴鍋ではスパゲッティーが踊り、圧力鍋ではミストローネが煮え、フライパンではアクアパッツアがいい香りを放ち始めていた。
 料理は効率的に無駄なくと言う御神楽環菜によっていっぺんに作っているわけだが、はっきり言って少し無謀だった。
「うお、ピザが焦げ始めてる!」
「そろそろ、ワインワイン……赤じゃない、白はどこ!?」
「火、止めて、いいかげん爆発する!」
「ア、アルデンテがあ!!」
 なんとも大騒動だが、それもまた楽し……なのであろうか。
 それでもなんとか、料理ができあがったのだが、はっきり言って二人分としては多すぎる。無意識に、エリシア・ボックとノーン・クリスタリアの分まで作ってしまった……ということにしておこう。
 余った分を、エリシア・ボックとノーン・クリスタリアが帰ってきてから食べられるようにと小分けして冷凍に回すと、御神楽陽太と御神楽環菜は、できあがった料理をダイニングに運んでいった。
 イタリア料理のフルコース……ということにしておく。
「そういえば、夏合宿で、エリシアとノーンがまたいろいろやらかしたみたいで……」
 とっておきのワインの一本を開けて乾杯してから、御神楽陽太が最近の話題を話し始めた。
 相変わらず、エリシア・ボックとノーン・クリスタリアのコンビがいろいろとあちこちに行ってくれるので、話題には事欠かない。今日も、御神楽舞花と一緒にキマクの競竜にでかけているとメールが来ているので、いろいろと面白い話を後で聞かせてもらえるだろう。
「この間、ついに山葉君も身を固めたけど、むこうはどんな御飯を食べていることやら」
 先日、御神楽環菜の幼なじみでいる山葉 涼司(やまは・りょうじ)もついに結婚したらしい。
「もちろん、家の方が上よ」
 最近料理に目覚めたせいか、きっぱりと御神楽環菜が言った。先ほどのバタバタは、一応なかったことにする。
「そういえば、舞花が、この間ゆる族の墓場を見つけたっていう話……」
 多少のお焦げは気にせずに、美味しく食べられる料理を二人でつつきながら、御神楽陽太はたわいもないおしゃべりを続けていった。
 
    ★    ★    ★
 
「ううっ……」
「主! なんで廊下で倒れているのですか!?」
 玄関前の廊下でばったり倒れているグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)を見つけて、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が悲鳴をあげた。
「いや、ちょっと買い物に……」
「無理です! 今外が何度だか分かっておられますか。主の生存可能温度を遥かに超えております!」
「いや、それは大げさな……」
 いったい、自分はどういう目で見られているのかと、グラキエス・エンドロアが痛む頭で考え……かけて、痛いのでやめた。考えても無駄な気がする。
「とにかく、奧で休んでいてください。買い出しは私が行ってきます」
 グラキエス・エンドロアに水を飲ませてをベッドに寝かすと、アウレウス・アルゲンテウスが氷嚢をおでこの上に載せた。
 スパルトイを伴うと、アウレウス・アルゲンテウスがダークブレードドラゴンのガディに乗って買い出しにでかける。
「おやおや。またこんな無茶をしようとしたのですか。この間も大変な目に遭ったというのに……。まあ、私としては……おっと」
 グラキエス・エンドロアの枕元に座ったエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が妖しい瞳を投げかけながら言った。
「やはり、支払いのときまでに、なるべく体力は回復させてもらいたいものですが……」
「ええい、貴様、何をしている! 主から離れよ!」
 猛スピードで買い物を済ませて帰ってきたアウレウス・アルゲンテウスが、グラキエス・エンドロアにちょっかいを出しているエルデネスト・ヴァッサゴーの姿を見つけて怒鳴り飛ばした。
「ううっ、頭に響く……」
「こ、これは、申し訳ありませんでした、主」
 アウレウス・アルゲンテウスの大声に、グラキエス・エンドロアがちょっと頭をかかえる。
「ええい、ちょっとこっちに来い」
 そう言うと、アウレウス・アルゲンテウスがエルデネスト・ヴァッサゴーを引っぱっていった。
「とにかく、じきにロアがやってくる。はなはだ不本意ではあるが、俺と貴様で出迎えるための料理を作るぞ。ロアは、とてつもない大食漢だ。ロアにたらふく食わせてやりたいという主の心、絶対に叶えるのだ!」
「まあ、仕方ないですねえ」
 じきにやってくるであろうロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)を歓待するために、アウレウス・アルゲンテウスとエルデネスト・ヴァッサゴーはキッチンに籠もって大量の料理を作り始めた。
「おーい、来たぜー!」
 ぴんぽーんと玄関のチャイムが鳴り、ついにロア・ドゥーエがやってきた。何やら、大荷物を背中に背負っている。
「土産だ。狩りたてのパラミタ猪の夏野菜詰め丸焼きと、血も滴るようなミートパイだぜ」
「それは美味しそうですねえ」
 血も滴ると聞いて、吸血鬼のエルデネスト・ヴァッサゴーが微笑んだ。
「いや、血が滴っていたら生焼けであろうが」
 突っ込みつつも、アウレウス・アルゲンテウスがロア・ドゥーエをダイニングに案内した。
「よう。待っていたぜ」
 少ししてグラキエス・エンドロアが姿を現して、ロア・ドゥーエに挨拶した。
「よ、よう」
 ちょっと戸惑いながら、ロア・ドゥーエが返事をした。なにしろ、氷雪比翼をつけたエルデネスト・ヴァッサゴーが二人羽織よろしく後ろからグラキエス・エンドロアをささえているのだ。
「またバテているのか。精のつく物を持ってきてやったから、食べて元気になれ。元気になったら、今度は一緒にもっとスゴイの奴を狩りに行こう。さあ、食おうぜ!」
 そう言うと、ロア・ドゥーエは、バクバクと料理を食べ始めた。