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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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    ★    ★    ★
 
「こんにちはー」
「あう。呼ばれたから来てやったぜ。二人ともおめっとさん」
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が経営する雑貨屋いさり火にやってきたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が挨拶をした。
「いらっしゃい。よく来てくれたね」
 ハイコド・ジーバルスがさっそく迎えに出てくる。
「ポチも、ちゃんと御挨拶するのですよ」
「はい、こんにちはです」
 フレンディス・ティラに言われて、豆柴形態の忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が足許から顔を見あげて挨拶をした。
「さあ、入って入って」
 玄関先でいつまでもはなんだからと、ハイコド・ジーバルスが一同を中へと招き入れる。
 広いリビングでは、テーブルの上にソラン・ジーバルスがお手製のクッキーやプチパンケーキをならべて、お茶の用意をしていた。
「いらっしゃーい」
「遅ればせながら、この度は御結婚おめでとうございます。またお茶会にお誘いいただき、まことにありがとうございます。大した手土産も持参できませんでしたが、お茶請けの一つにしていただければと思います」
 持ってきた和菓子のつつみを、フレンディス・ティラがかしこまってソラン・ジーバルスに手渡した。
「ハイコドさん、ソランおねーさま。お二人とも御結婚おめでとうございます!」
「フレンディスもポチの助も、ありがとー」
 そう言うと、ソラン・ジーバルスがテキパキとお茶の支度を続けていった。
「なんだか、もうすっかり主婦らしいです」
 ちょっと感心したような、羨ましいような声でフレンディス・ティラが言った。
「はい、お茶が入りましたー。さあ、座って座って」
 ソラン・ジーバルスに言われて、一同が大きめのテーブルに着く。
「私も、マスターニンジャ始めたんだよね」
「本当ですか、おめでとう。今度一緒にニンニンしましょうね」
「うん」
 ソラン・ジーバルスとフレンディス・ティラが、ガールズトークと言うには何やら違うような話題でもりあがる。
「はぐはぐはぐ……」
 フレンディス・ティラにだっこされた忍野ポチの助は、パンケーキに夢中だ。
「だいたい、ニンジャって、走り方が難しいよね」
「そうですか? こつをつかめば、案外と簡単ですよ」
「わあ、じゃ、今度それを教えてください」
「はぐはぐはぐ……」
 二人がしゃべっている間に、忍野ポチの助がすっかりパンケーキを食べ尽くしてしまった。見れば、男共ものんびりとしているようできっちり食べる物は食べている。
「あら、じゃあ、頂き物も出しちゃおうね。お茶も淹れようかな」
「ああ、私も手伝います」
 そう言うと、ソラン・ジーバルスとフレンディス・ティラが連れだってキッチンにむかった。
 残された忍野ポチの助が、ジーッとベルク・ウェルナートの膝を見て、ぷいと横をむく。
「それにしても、やられたな」
 先を越されてゴールインされたことを、ちょっと悔しく思いながらベルク・ウェルナートが言った。
「そんなこと……。自分も、さっさと告白してしまえばいいんだよ」
「いや、あの天然鈍感な娘はなあ……。俺のことは主人だと思って一歩引いてやがるし」
 ハイコド・ジーバルスに言われて、ベルク・ウェルナートが腐った。実際一度告白しているのだが、なぜかフレンディス・ティラは主従関係の申し込みと勘違いして今に至っている。
「だいたい、俺には犬耳はねえし……」
 なんだか自分以外は全て犬耳もちなことに、ベルク・ウェルナートがぼやいた。軽く、忍野ポチの助を睨みつける。
「いや、それは関係ないような……」
「そうかあ?」
 苦笑するハイコド・ジーバルスに、そんなことはないのかもしれないとベルク・ウェルナートが軽く頭に手をやって言った。
 キッチンの方では、和菓子を皿に載せていきながらも、ソラン・ジーバルスとフレンディス・ティラの会話が続いていた。
「それで、ベルクとは少しは進展したの?」
「マスターとですか? そうですね、少しは家臣として……」
「そうじゃなくて。たとえば、ごにょごにょごにょ……」
 天然ボケをかますフレンディス・ティラに、新婚のソラン・ジーバルスが耳許で何やらささやいた。
「えっ、えっ、えー!!」
 なんだか、急にフレンディス・ティラが耳たぶまで真っ赤に染める。
「ま、マスターとは、そういうのではなくて……。でも、できたら、そういうふうに……。きゃー! 違います、違います。そうじゃなくて、マスターはベルクで、ベルクはマスターで……あれ、あれ、あれっ!?」
 両手を振り回してパニックになるフレンディス・ティラに、これはまだまだ時間がかかりそうねとソラン・ジーバルスが小さく溜め息をついた。
「みんなー、お茶菓子の追加だよー」
 まだ赤いフレンディス・ティラと一緒に、ソラン・ジーバルスが和菓子とお茶を運んできた。
 テーブルの上にお茶菓子をならべながら、なぜかベルク・ウェルナートの肩を、苦労しているねえと言う感じでポンポンと叩く。
「わーい」
 新しいおやつに喜んだ忍野ポチの助が、今度はよいしょっとソラン・ジーバルスの膝の上によじ登った。もはや、遠慮なしである。
「あーん、ポチの助、可愛いよー」
 思わず、ソラン・ジーバルスが忍野ポチの助をだきしめてもふもふした。
「うっ、ポチの助さんは……かわいいね……」
 ソラン・ジーバルスのたっゆんにスリスリしながら、彼女の膝の上でぽよぽよしている忍野ポチの助をチラリと見て、ハイコド・ジーバルスが言った。自分だって、そんなスリスリは……。
 なぜか、ベルク・ウェルナートとハイコド・ジーバルスの思いが、忍野ポチの助に関しては一致した瞬間であった。
 はたして、この二組の立場が逆のお茶会は、いつ開かれるのであろうか……。
 
    ★    ★    ★
 
 パシャパシャっとシャッター音とフラッシュが連続して蒼空学園の訓練場に響き渡った。
「くっ……」
 目つぶしを食らう形になったアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)があわてて後退して、ちょっとよろけた。
「その姿、いただきます」
 手動でピントを合わせなおしながら、別アングルに回り込んで六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)がカメラを連写した。
 六本木式格闘撮影術の訓練である。六本木通信社としては、どんな状況にあっても撮影を続けられる術を身につけなければならない。そのため、新たな戦闘スタイルを開発したいというアレクセイ・ヴァングライドと模擬戦を行っているのだ。
「今度は、動画よ」
 一眼レフをビデオカメラに持ち替え、六本木優希が距離をとった。今度は、カメラのホールドの仕方が完全に別物となる。多少のぶれは自動補正装置で吸収できるが、それでは訓練にならないので補正はオフにしてあった。
「いくぜ、ユーキ!」
 手に持ったマジシャンズケーンを正面に突きつけて、アレクセイ・ヴァングライドが攻撃に転じた。
 棒術の動きに則って、アレクセイ・ヴァングライドが連続的に杖を突き出した。身体を動かしてそれを避けつつも、カメラの高さと一定距離を保ちつつ六本木優希が撮影を続ける。
「これで完成だ!」
 アレクセイ・ヴァングライドが叫んだ。その瞬間、真っ赤な雷光が杖の先から迸って六本木優希を襲った。
 魔法発動にサインを描くため隙が大きくなってしまうのがアレクセイ・ヴァングライドの弱点だが、杖で攻撃しているように見せかけて牽制しつつ、空中にサインを描いていったのだ。
「危ない。やりますね」
 オートバリアでなんとか機材を守りつつ、六本木優希が盾を構えた。そのままパーストダッシュで、シールドバッシュをアレクセイ・ヴァングライドに浴びせる。
 間合いをとりなおして、両者が仕切りなおした。だが、その間にも、六本木優希の撮影は続いている。
「さすがに、今の反撃はカメラがぶれただろう。俺様の勝ちだな」
 アレクセイ・ヴァングライドが、言葉で六本木優希を攻撃した。
「でも、今度はそうはいきませんよ」
 守っていてはだめだと、六本木優希が深緑の槍を手に取った。右手でカメラをホールドしつつ、左手で槍を構える。
「同じだぜ」
 再び杖を繰り出して、アレクセイ・ヴァングライドが魔法発動を狙った。
「同じ手は通用しませんよ」
 六本木優希が槍を使って微妙にアレクセイ・ヴァングライドの杖の先端を弾いた。それによって、空中に描かれるサインが崩れた。
「アレクの動きは、私がしっかりと撮影しました。何をしたいのかは、もうお見通しです」
「使えるのは一度だけと言うことか。まだ、工夫が必要だな」
 敵に攻撃を読まれないのが一度だけというなら、別の方法を考えるか、その一度に全てをかけるかだ。
「さあ、続けようぜ」
「もちろんです」
 アレクセイ・ヴァングライドの言葉に、六本木優希が元気に答えた。