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モヒカンと無法者の町のお話【1】

 遠くに見える水平線の向こうから、今日もまた太陽が姿を現そうとしていた。トコナッツ島の外れにある廃墟の町を夜明けの陽光が照らし始める。
「そうか……、天体の仕業だったのか……」
 無法者がたむろする町の中でも最も高いビル(四階建て)の屋上で、一晩中ずっと空を眺めていたドクター・ハデス(どくたー・はです)は、納得した口調で一人呟く。
 その表情には、世界制服を目論む悪の幹部としてのいつもの不敵な笑みは浮かんでいなかった。科学の深淵を覗き込んだ、真実の探求者としての素直で真面目な光を宿した瞳で、満足げに頷く。
「グランドライン……数千年に一度、天体が描く奇跡的な配置……。それがまさか今夜見れたとは……」
「……大丈夫ですか? どこか身体の具合でも悪くしてしまったのでは……」
 微動だせずに長時間星空を見つめていたハデスの身を案じるように、パートナーの少女高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が恐る恐る聞いてくる。
「兄さんが、そんな哲学者みたいな顔をするなんて……。……兄さんってもしかしたら、コントの芸人なのでは……などと、ほんのちょっと考えてしまっていた私が恥ずかしいです。……やっぱり科学者だったんですね。……その……少し素敵です、なんて……」
 惚れ直したように顔を赤らめる咲耶に、ハデスは空を見つめたまま続ける。
「科学は神なり。真に偉大なる事象の前には、この私とて真摯にも謙虚にもなろう……。この島は……、以前からここにあったのではない。星の配置によって呼び出されたのだ……海の底から……。天体がグランドラインを描く数千年に一度だけ、この島は地上に姿を現す。ほんの数日だが……とてつもない魔力が放出されるだろう。自然が作り出す、人知を超えた芸術だ……それは一体、何を生み出し消えて行くのだろう……」
「……どうして知っているんですか……そんなこと……?」
「これまでの考察と計算から導き出された、あくまで科学者としての推測に過ぎない。そして、それは断じて本題ではないのだ、ここではな」
 ハデスはようやく、いつものオリュンポス幹部としての笑みを浮かべ、咲耶に向き直った。
 辺りはかなり明るくなり始めていた。まもなく夜が明ける……。この町を根城にしている無法者のモヒカンたちが蠢きだす時間だ。
「こんな話はこのパートの冒頭の余興に過ぎぬ。忘れてもらって結構だ」
「……あの、兄さん、誰に向かって話しかけているんですか……?」
「いずれにしろ、この島は、オリュンポスの実験場として使用することに脳内会議満場一致で決定した。どこからやってきたのかは知らんがモヒカンたちがいるのは好都合だ。奴らと仲間になり契約者たちにはお引取り願おう……」
 こちらが本題だ、とばかりにハデスは身を翻した。
「くくく……では始めよう、諸君。オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデスがお相手する!」
「だから、誰に話しかけてるんですか……!?」
 咲耶が突っ込むも、ハデスは彼女の声など聞いていなかった。
 さあ、奴らが来る。危険な奴らが……。
 ひたすら、いやな予感しかしなかった。



 トコナッツ島の外れ。
 遊園地や美しい砂浜から崖を隔てた反対側に、不穏な空気を漂わせる小さな町があった。朽ち果てた廃屋が建ち並び、見るからに痩せこけた貧しい大地をどこからともなく表れた無法者たちがうぞうぞと蠢いているのがわかった。
 そんな名もない廃墟の町の片隅で、種もみ剣士の{SNM9998797#千種・みすみ}は、やってきた救援者たちにペコリと頭を下げる。どんないきさつがあって彼女がここまでやってきたのかは問うまい。ただ、そのくたびれた様子は、この町に巣食うモヒカンたち頑張って戦ってきた痕を物語っていた。
「皆さん、申し訳ありません。せっかくお休みのところをこんなところにお呼び出しして……」
「気にすんな。モヒカン狩りも潮干狩りみたいにレジャーの一環だと思えば、まあ……遊べなくもない……多分……」
 モヒカンたちにボコボコにやられて気落ちしているみすみの肩をぽんと叩いて慰めたのは、天御柱学院生の狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)だった。招待状をもらってこの島にほいほいやってきたのだが、話とは違う有様にため息をつく。
「しっかし……どうしてこんなところにモヒカンたちがいっぱいいるんだ? VIP専用のセレブなバカンス島じゃなかったのかよ!」
 乱世は、みすみから事件の概要を聞き出し、すぐさまモヒカンたちを追ってこの町にやってきていた。とりあえず物陰から町の様子を見てみるに、奴らは結構な人数で徒党を組んでいるようだ。一応、指揮系統もあるらしく見回りがうろうろしている。
「……突っ込むつもりはないんだけど、この島は元々バカンス島でもなんでもないのよ。珍しい土のあるただの無人島だったはずだけど。何が起こっているのかよくわからないわ……」
 ぽつりと呟くみすみに、乱世は少し驚く。
「みすみ……、お前何か知ってるみたいじゃねえか?」
「それ以上は特に何も……。私は、おじいちゃんが持っていた古い本を偶然読んで、種もみを植えにここに来ただけだから……」
「いわくつきか……そんなことだろうと思った。やっぱタダにつられて参加するとろくな目に遭わねえというジンクスは健在だったか」
 言うものの、乱世はすぐにまあいいか、と納得した。こんなとところでぶつくさこぼしていても始まらない。肝心なのは、女の子たちを泣かす悪党どもをこの手でぶちのめしてやることだ。
「で……、あれが、“キング”とやらのアジトか……。なんか、思っていたよりもショボいな」
 町の中心地に建つ傾きかけた四階建ての古いビルを見つけた乱世は、計画通りに手持ちの銃型HCで他のメンバーと連絡を取り合い情報を共有することにする。貧民窟のようなバラック建ての居住地に囲まれたそのビルは、大勢のモヒカンたちが詰め掛けているのがわかった。モヒカンは一人一人はたいしたことはないが、後から後からわらわらと沸いて出てくるので、戦うとなると鬱陶しい。ましてや、みすみ曰くこの町のモヒカンたちは、普通よりも強力だと言うことだった。
「他のメンバーはスキルで援護する。一気に乗り込むぞ」
 戦いの準備をする乱世に、みすみが心配げな表情で答える。
「そうこう言っている間に、すでに独りで突入して行った人がいるんだけど……」
「……追おう」
 乱世は、みすみたちと駆け出す。