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オープニング

 暗闇。波の音。
 夜の帳が下り不安定な足場の中を、物ともせずに真っすぐ進む男が居る。
 不可思議な男だ。熱風が吹きつける夏の夜だというのに、黒い外套に身を包んでいた。
「当然だ。我は影――闇そのものなのだからな」
 その場には男以外存在して居ないのだが、男は怪しげに言って喉を鳴らし、歩いて行く。
 崖の先、いよいよ足場が無い所までくると、男は手にしていた鼈甲のステッキを高く掲げた。まるで空へ訴えかける様に。
 そしてそれに答える様に、雲間の中から星の光が見えてくる。

 ひとつ、ふたつ――

 やがてそれは一つの列になり、目も眩む程に強く輝き瞬いた。
「星よ! 古より天上に輝きし数多の光よ!
 恐れるが良い、今こそ終焉の刻!
 永劫に続く輪廻の輝きを我等影が覆い尽くし、全てを常闇に還す刻ぞ!」
 男は手を伸ばす。
 何時の間にか恐ろしい程に黒く蠢き深さも分からぬ海へと。

「現れよ、煉獄より出でし禁忌の魔精よ!!」

 宣言する様な高らかな声と共に、数十メートルもある崖を越えて波が打ち上がった。
 そしてその波はうねるような闇となり崖を、いや島全体を包みこんで行く。
 男は歓喜の声を上げた。
 その場の全てが黒に塗りつぶされ、波の花が散った瞬間。
 男の目の前には13匹の猫が居た。
 一見何の変哲も無い姿だが、柔らかな月の光が差し込むと、猫はこの世の物とは思えぬような美しい蒼い毛で覆われている事が分かる。
 これこそが男の求めていたものだったのだ!
「……蒼き魔精よ、我に従え。
 その残牙と炎爪でこの世を果てなき闇の煉獄へと誘うのだ!!」
 男はそう良い、現れた猫達へ手を差し出した。
「三日後……。
 三日後には我の名は闇の世の第一の聖痕として歴史に永劫に刻まれる……!」
 勝利の美酒に酔いしれるように呟いた言葉。
 そう。全ては男の計画通り。


 ただ一つ予想外だったのは、蒼き魔精――、と彼が名付けた猫達が、この直後島の中を散り散りに逃げてしまった事だった。


【目次】
1ページ 【東安曇】オープニング
2ページ 【梅村象山】トコナッツ島水着コンテスト【1】
3ページ 【梅村象山】トコナッツ島水着コンテスト【2】
4ページ 【梅村象山】トコナッツ島水着コンテスト【3】
5ページ 【梅村象山】トコナッツ島水着コンテスト【4】
6ページ 【梅村象山】トコナッツ島水着コンテスト【5】
7ページ 【梅村象山】トコナッツ島水着コンテスト【6】
8ページ 【梅村象山】トコナッツ島水着コンテスト【7】
9ページ 【小川大流】枕投げ大会【1】
10ページ 【小川大流】枕投げ大会【2】
11ページ 【小川大流】枕投げ大会【3】
12ページ 【小川大流】枕投げ大会【4】
13ページ 【小川大流】枕投げ大会【5】
14ページ 【車修理】モヒカンと無法者の町のお話【1】
15ページ 【車修理】モヒカンと無法者の町のお話【2】
16ページ 【車修理】モヒカンと無法者の町のお話【3】
17ページ 【東安曇】海辺のトコナッツランド【1】
18ページ 【東安曇】海辺のトコナッツランド【2】
19ページ 【東安曇】海辺のトコナッツランド【3】
20ページ 【東安曇】海辺のトコナッツランド【4】
21ページ 【東安曇】海辺のトコナッツランド【5】
22ページ 【東安曇】海辺のトコナッツランド【6】
23ページ 【東安曇】海辺のトコナッツランド【7】
24ページ 【Airy】洞窟の冒険【1】
25ページ 【Airy】洞窟の冒険【2】
26ページ 【Airy】エンディング