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海辺のトコナッツランド【6】


「あの人達キスしてる!!」
 わたわたと視線を下のゴンドラから前に戻して、向き合ったジゼル達。
 見てはいけないものを見てしまったような。そうでもないような。
 乙女達の脳裏に、一つの疑問が過る。
「そういえば美羽、そなた何故恋人と一緒に乗らないのだ?」
「そうですね、折角恋人同士になったのに……勿体無いですよ」 
 こちらも沈黙。
 の直後に女子達は一斉に美羽に詰め寄る。
「今からでもいいから行ってくれば?
 コハク、待ってるかもよ!?」
「ははは降りろ降りろ。降りて恋人と一緒に接吻をしてこい!」
「まあ! 大胆ですね!」
「もーやめてよー!!」
 きゃっきゃと騒ぐ声と一緒にゴンドラは揺れる。
 ゆらゆらゆらゆら。

 ガタン!

 突如前のめりになったかと思うと、観覧車はそのゆったりとした動きを止めていた。
「え、私達の所為……?」





 止まったままうんともすんともアナウンスすら無いゴンドラの中。
 山葉 聡は怨めしそうに落ちて行く太陽を見つめていた。
「はあ……一つしか違わない従兄はもう結婚までしたっつーのに、何で俺はサンセットロマンチックタイムに、
 男同士でゴンドラに閉じ込められなきゃなんないの」
「ごめんね」
「ごめんねって……コハクもさー、折角の彼女と一緒に過ごせるチャンスよ?
 それを潰しちゃって俺と一緒になんか乗りたく無かったっしょ?」
「はは。
 本当は美羽と一緒に遊園地を回りたかった……っていうのもあるけど、まあ、美羽が友達と楽しそうにしているのはいいことだし……」
「はぁ……この位の包容力が無いと彼女は出来ないって事かよぉ……」





 そしてここにも苦悩する男が一人。
 あの電車停止事件の後、再び友人達と合流したものの、再び上手い事言いくるめてフレンディスと二人きりになれるチャンスを作ったというのに。
「見ず知らずの侍がナチュラルに同行している不思議」
 上杉 三郎景虎。
 本来フレンディスを見つめ合うはずのベルクの視線の先に、一人の侍が椅子に腰かけている。
 しかもフレンディスの隣で。
 楽しそうに二人で談笑しちゃったりして。
「この時代の忍びに会えるとは嬉しいものだ。
 北条の風魔、上杉の軒猿を思い出す。軒猿は忍びではないが」
「いえ、そのような方々と並べらる訳には……私は未熟な若輩者ですから」
「ふむ。随分と謙虚なのだな。
 今の世には珍しい大和撫子らしい心も持っているとは……」
「って楽しそうですねお二人とも! 
 そもそもお前誰よ!? なんでナチュラルに一緒に乗って邪魔してんだよ!!」
 痺れを切らして立ち上がったベルクを、二人で不思議そうに眺めてから景虎は切り出した。
「連れの者……東雲が体調を崩していた所へ好きそうな忍犬が、東雲のお守を買って出てくれた。
 だが忍犬には元々監視という使命があったらしい。
 『景虎さん代わりに行くのですよ!』と言われここへきた。
 その監視対象は、べるく、という男。貴公の事だな。
 夜な夜な女人の生き血を吸う妖で、忍犬の主であるくのいちを言い包めて手籠にしたと……」
「待て、
 俺は確かに吸血鬼だが妖怪でも無いし、夜な夜な生き血とか手篭めとかそんな事してねえ!」
 言い放ってどっかり座りながら、ベルクはブツブツと愚痴った。
「クッソ、あのワン公……今度は上空から捨てるか!?」
 とか何とか。
 それでも東雲を助ける為に残ったという話を聞いていたから、少し容赦してやろうとも思う。
 少しだけ。