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海辺のトコナッツランド【2】


「それじゃあ私とチェルシー、それからジゼルが同じチームね」
 白波 理沙(しらなみ・りさ)は乗り物に乗る為のグループ決めジャンケンから早々に脱すると、
同じチームになったチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)とジゼルの手を取って乗り物のゲートへ歩いて行く。
「『ウォーターパラダイス』はホバークラフトに乗って水上を散歩します。だって。
 ホバークラフトって何?」
「ジゼルさんほら、あれですわ。あの乗り物」
 チェルシーが指差す先を見て、ジゼルは感心したような驚いたような声を上げる。
「空気で浮いてるのよ。だからあんな不思議な感じの動きなの」
「面白そう、早く行こう!」
 走り出そうとしたジゼルの後ろから、彼女を呼ぶ聞き覚えのある声が飛んでくる。
「北都! リオンも、久しぶりね!」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)と共に乗り物のゲートをくぐってくる。
 乗り物に乗るまでの暫くの間、列の中で談笑が続き、そして乗り物の手前で別れがやってくる。
 そこで北都は何かを思い出したようにジゼルに言った。
「あ、ジゼルさん、毎日暑いけど、調子を崩したりしてない?
 遊び疲れに注意、だよ」
 こうして北都に渡されたペットボトルを彼に向かって振りながら、ジゼルは理沙とチェルシーと共にホバークラフトへ乗り込んでいった。
 北都もリオンと一緒に次のホバークラフトに乗り込む。
 水上を滑るように、自動操縦のホバークラフトは時には洞窟の中を進み、時には滝の目の前で止まりトリッキーに進んで行く。
 その小さな冒険も半分くらい来た頃だろうか。チェルシーが何かに気づいて手を振っている。
「あ、あれ北都さん達の船ですわね!」
 北都とリオンもこちらに気付いたようで、手を振り返してきた。
「あれ? あの船、北都にリオンに……もう一人居たはず」
 ジゼルが言い掛けた時だった。
 理沙が喉の奥で小さく悲鳴を上げる。
 北都とリオンと共にホバークラフトに乗っていたはずのクナイ・アヤシが、水上を走――否、華麗に舞っていたのだ。
 風に青い髪をなびかせて、ご丁寧にドヤドヤしい笑顔を浮かべて。
 次に彼等と彼女等が小さな悲鳴を上げるまで。
 皆様の大方の予想通り、水の中にどぼんするまで。





「あー……参ったな〜」
 わざとらしい程に大きな声で、そう言ったのはベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)だった。
「どうしたのですマスター?」
 と、友人達と遊ぶ事に夢中になっていたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が隣にやってくるのを見計らって、ベルクは再び話し出す。
「俺な、この『スチームレールウェイ』ってのに乗ってみたかったんだがココ、ココ見てくれよ」
 何とも言えぬ微妙〜な演技力のベルクだったが、鈍感のフレンディスは気付ずにベルクに言われた通り地図の案内を見ようと目を凝らす。
「乗車時間25分。随分長いのですね」
「だろ!?
 だからさー、他の皆の乗りたい乗り物に一緒に乗ってると、これは乗れないんだよ」
「だったらそれを先に乗」
 聡が提案しようとした所だった。
 彼の口に乱暴に大量のポップコーンが突っ込まれる。
「ふぐぐ?
 らからはー、ひょっひをさきにもがっ!」
 今度は肉まんドックで蓋をされた。
 どうやらベルクには助け舟を出されたくない事情があるらしい。
「ではマスター、私と二人でこちらの乗り物に乗りに行きましょう。
 皆さんには悪いですが、後で合流する、という事で宜しいでしょうか」
 フレンディスの言葉に、ベルクは満足そうに頷いて彼女の手を引き反対側へとさっさと歩き出した。
 頭にはてなマークを浮かべたまま後ろ姿を見ている聡の口を塞いでいた肉まんドックを抜いてやりながら、
山葉 加夜(やまは・かや)は丁寧に教えてやる。
 つまりベルク・ウェルナートは――
「フレンディスさんと二人きりになりたいんですよ」と。
 拳を掌に打ちつけて、聡はウンウンと頷いた。
 しかし彼の頭に再びのはてなマークが去来する。
 
 フレンディス達を追い走る、豆柴犬。 

 もう一度答えを貰おうと「なんだありゃ?」と加夜の方を向いて見るが、彼女も困った顔で首を振った。