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トコナッツ島水着コンテスト【1】


「奇麗な海だ。足を伸ばして内海まで来た甲斐があったね」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)は黒ビキニの上に深緋のパーカーを羽織り、サクサクと音の鳴る浜辺を散策していた。
 マリンブルーの海と白い砂浜、サンサン降り注ぐ太陽の欠片とどこまでも広がる地平線。トコナッツ島のビーチは誰もが夢に見た憧れの南の国を思わせる。
「天音、こんな物を見つけたぞ」
 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)はきらきらと光るものを砂浜に見つけた。
 ぐるぐるとソフトクリームのように渦を巻いた貝だ。乳白色の殻は陽の光を七色に跳ね返しとても美しい。
「へえ、結構大きいね。こんな大きな巻貝は初めて見たよ」
「ふむふむ、これは『法螺貝』というらしいな」
 HCに表示された情報を天音に見せる。
「……あ、そうだ、ブルーズ。じき、この浜辺でトコナッツ島水着コンテストが開催されるらしいよ」
「……ほう。まさか、おまえも参加する気か?」
「いや、こういうのは見てるほうが好きなんだ。だから、ブルーズをエントリーしておいたよ」
「……は?」
「日頃鍛えた肉体を披露する絶好のチャンスだよね。ブルーズの活躍を楽しみにしてるから」
「……水着コンテストがあると聞いた時点で嫌な予感はしていたが。毎度の事だ、我も少しは慣れた」
 ブルーズはため息を吐き、自分の運命を受け入れた。
「しかし妙だな。コンテンストがあると言うが、浜辺にはあまり人がいないように見えるぞ」
「ふむ。言われてみれば……。確かに同じ船に乗って来た顔見知りばかりだね……?」

「どーすんのよ! 全然客入ってないじゃないのよっ!」
 水着コンテンストの審査員、六十代目蘆屋道満(あしや・どうまん)は怒っていた。
 身の丈2メートルの鋼鉄の肉体は、一目で北海道のヒグマも縄張りを明け渡すほど。有名ブランドのアクセサリーをきらきらと見せ付け、オーダーメイドの小洒落たデザインの陰陽師装束を素肌の上に羽織っている。
 陰陽師協会(そんなもんがあるのかは知らないが)から矢の如くクレームが飛んできそうな出で立ちだが、かつては鏖殺寺院の組織『ブラッディ・ディバイン』のリーサルウェポンと恐れられた最凶最悪の陰陽師なのだ。
「見事に誰もいないな。プライベートビーチと考えれば最高のビーチなのだが」
 同じく特別審査員として招待された空京大学精神科権威スーパードクター梅は言った。
 日々、医学の進歩のため貢献している立派な彼も、夏真っ盛りともなれば羽根を休めてしまうのは仕方のない事。
 ここでしっかり羽根を休めるからこそ、彼は……いや、医学は遥か遠くまで飛ぶことが出来るのだ。
 決して渚のビーナスたちに目が眩んで、内海くんだりにまで出て来たわけではない。
「ちょっとスタッフゥ! あたしを呼びつけておいて何よっ、このしょっぱいイベント! 塩イベントじゃないの!」
「はァ、そう言われましても、僕たちも外部から来たスタッフなので、詳しくは何も……」
「ハァ? なにそれ、ハァ?」
 イベントスタッフもまた、彼らと同様、サックリした話だけで仕事を依頼された外の人間のようだ。
「まぁまぁ、そうカリカリしなさんなって。ただでさえ暑いんだから、ここはクールに行こうぜ」
 シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)は言った。
 アメカジ系のラフなシャツを海パンの上に着ている彼だが、こう見えてもシャンバラ教導団に所属する軍人だ。
 現在、教導団の監視下に置かれ、奉仕活動に従事させられている道満のお目付役として派遣されている。
「もう、シャウちゃんたら! このあたしが出るイベントなのよっ? 盛り上がらないなんて許せないわ!」
「見かけによらず心配性なんだな。大丈夫だって、開始時間になったら、ビーチは客でいっぱいになるってば」
「そ、そうかしら……」
「勿論です。さ、お食事を用意しましたので、イベントが始まる前に召し上がってください」
 ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)はカレーパンをテーブルに置いた。
 日差しに弱いユーシスは浜辺でも式服を着用している。とは言え、涼しげな物腰なのであまり暑苦しさは感じない。
「そうね。腹が減っては戦は出来ないものね。頂くわ、ユーちゃん」
「ほう、手製のカレーパンか」
 ドクター梅はカレーパンを割って、中から溢れるスパイシーな薫りを楽しむ。
「ええ、キノコのカレーをパンに包んでみました。少し辛いかもしれませんので、冷たいお茶もご一緒にどうぞ」
「流石、ユーちゃん、器用ね……それじゃいっただきまーすっ」
 パクパクとほうばる一同から、はふんと感嘆の息が漏れた。
「美味っ! わー、これめっちゃ美味い!」
「医学的に言って、実にキノコの風味がよく溶けている。様々なスパイスの間に見え隠れする森の伊吹が素晴らしい」
「凄く美味しいわー。しかもキノコが丸ごと一本入ってるなんて、気が利いてるわね。あらヤダ、太いキノコ」
「ありがとうございます。皆さんの喜ぶ顔が見れて光栄ですよ」
「……あ、そうだ」
 ふと思い出し、シャウラは写真集『お洒落タウン2022』を道満に手渡した。
「表参道と代官山で撮りまくった今の定番と流行ファッションの写真集だってさ。折角、会うんだから土産にでも、と思って買ってきた。お前には、他の奴等のお洒落を踏まえた上で、自分のお洒落道を貫いて欲しいからな」
「シャウちゃん……」
「店、出すんだろ? 頑張れよ」
 トンと道満の肩を叩くと、彼はポロポロと涙と鼻水を流し、シャウラをギューッと抱きしめた。
「もう、もうもうもう! シャウちゃん、大好きっ!」
「うわっ、寄せよ! てか、鼻水汚ねぇ!」
「………………」
 ドクター梅はそんな楽しそうな二人を(こいつらゲイかな?)と思いながら見つめていた。
 彼らから視線を外し、ふと横を見ると一匹の猫がいることに気付いた。
「猫?」
 パラミタの固有種だろうか、毛が蒼く瞳は金色だ。しかも二本足で立って歩いている。
「ふむ、珍しい種類の猫だな」
「あらヤダ、かわいいじゃな〜い。おいでおいで、ペロペロしてあげるわ、ペロペロ」
「やめたまえ、蘆屋くん。最高に気色悪くてゲロ吐きそうだ」
 浜辺にこちらにやってくる人影が見えた。黒いマントを羽織った砂浜に似合わない出で立ちだ。
「あ、エリックさん
「エリックさん?」
 スタッフの言葉に、道満もシャウラもドクター梅も、遠くの人影に目を細める。
「……なんかよく見えないな」
「そう言えば、あたし、このエリックさんって人と一度も顔を合わせたことがないのよねぇ」
「顔どころか、声すら知らない。何せ、招待状で名前を知った程度だ」
「……あ、もしかしてこの猫を捜してんのかな。珍しい猫だし、ペットかも。ちょっと渡して来るか」
 抱こうとしたその時、猫は腕をすり抜け、何やら不思議なダンスを踊り始めた。
「な、なんだぁ?」
 次の瞬間、ワーッと言う凄まじい歓声がビーチを包み込んだ。
 先ほどまでほとんど人のいなかった浜辺が、たくさんの人で溢れ返っている。見渡す限り人、人、人、ステージの前にはたくさんの観客でお祭り騒ぎに。穏やかに波を運んでいたマリンブルーの海は、海水浴客でもう芋洗い状態だ。
「え……ええっ!?」
「い、いつの間にこんなに人が……??」
「で、でもこれだけ人がいればやれるわ! 盛り上げていくわよ、コンテスト!」
「お、おおーっ!!」
 拳を上に突き上げながら、シャウラはMr.エリック(らしき人物)のほうに目を向けた。
 溢れ返る人に阻まれ、なかなかこちらに来れずにいるようだ。
「……あの人ごみにわざわざ飛び込んでくのもなんだし、まぁ待ってりゃこっちに来るかな……」
「ふにゃあ〜〜」
 一声鳴いて、猫はもぞもぞと審査員席の下で包まった。