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リアクション
枕投げ大会【3】
マークの功績で、戦況は元に戻る。
数で攻める男子に、必死に迎撃する女子。しかし、差は歴然で、女子は押い込まれていく。
その先頭に立ち、鬼神の如き活躍で突き進むのはギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)だ。
「燃える。燃えるぞ。今、俺様の枕投げの魂が赤く燃えているぅぅ!!」
ギャドルが歩むのは勝利への道。いかなる困難を物ともせず、枕と共にひた走る。
一方、後ろをついて行くルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)はポカーンと驚いて口を開け、ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)はテンションの高いギャドルに思わずツッコミを入れた。
「おまえってそんなキャラだったけ!?」
「無駄口叩くな! じゃなきゃ死ぬぞ!?」
「枕で人は死なねぇよ!」
軽快な会話をかわす二人に向けて、轟と風を切りながら枕が飛んでくる。
それはハーモ二クスの<オーダリーアウェイク>によるもの。
ギャドルはその枕を片腕で受け止める。痺れるような痛みが、腕を伝って全身を駆け巡った。
「くっ。なんて枕投げだ。あの女、誘ってやがる……」
「誘ってねぇよ! どんな解釈してんだよ!」
ギャドルは枕を手で握る。五指を伝って感じるのは、高級羽毛の極上の感触。
いい枕だ、と枕投げに精通したギャドルは思う。それと共に、これなら本気を出しても大丈夫だな、とも。
「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」
「んだよそのカッコ過ぎる台詞は!? 場違いにもほどがあんだろ!!」
「行くぜぇぇ! 必殺――猛竜内剄、破山砲!!」
「壮大すぎんだろ!? って、ただ枕投げてるだけじゃねぇかーァァ!」
テンポの良いツッコミを入れたウォーレンは、暴走するギャドルから視線を外し、ルファンを見た。
「ってルファン。おまえは話に絡んでこいやぁぁー!」
「え? わしも?」
ウォーレンは無茶振りに近いツッコミを入れてから、先を行くギャドルについて行く。
ルファンは足を止めて、いつもと違う様子の二人の背中を見ながら、小さく呟いた。
「うむ……やはり未知とは面白いものじゃな」
―――――
「……なにやってんのさぁ。あの人たちは?」
最前線で戦っている二人を見ながら、半袖ストライプシャツとハーフパンツにサンダルといったラフな格好のキルラス・ケイ(きるらす・けい)は呟く。
普段は狙撃手であるキルラスは、後方で度々飛んでくる枕を<銃舞>で猫のように縦横無尽に動き避けつつ、近くにある枕を片っ端から女子に向けて投げていた。
しかし、そうしているうちに残弾は尽きていく。今は残る枕が手元のあと一つになっていた。
そういう意味では、
「ま、これはいいチャンスだなぁ」
騒がしいあの二人はこの場で一番目立っている。それは女子たちの気を逸らし、雅羅を含め注意散漫にしていた。
キルラスは目をこらし、<スナイプ>を発動。それと共に、キルラスの心臓がしゃっくりのように強く鼓動する。
その感覚は、狙撃銃の引き金を引く瞬間に似ていた。
「くはっ、普段は軍人の俺をナメんなよぉッ」
キルラスは興奮のあまり、<超感覚>を発動し、生えてきた猫耳をピコピコと動かす。
そして、よくライフルを片手撃ちををしているお陰で強靭なものとなった腕で枕を掴み、身体を捻って大きく振りかぶった。
(せっかくのリゾートだってのに男が大部屋で雑魚寝だなんて、更に暑苦しいだけじゃないか!
そこはほら女子がさ、皆仲良く枕並べて恋話とかして女子力高いことしてればいいんだ。だから必然的に――)
キルラスは不満を込めて、身体を回転させながら、思い切り腕を振り切った。
「男が豪華な部屋に泊まることになるんさぁっ!」
言葉と共に放たれた枕は、野球のボールのように回転しながら、雅羅目掛けて一直線。
銃弾のような速度で飛翔するそれは、雅羅に気づく間も与えず飛んでいき――。
何故か、反転してキルラスのほうへと戻ってきた。
「にゃあ!?」
キルラスは首を無理やり動かし、戻ってきた枕を避ける。
その枕は背後の壁に衝突し、ぎゅるるるる、と渦潮のような回転をしながら煙をあげた。
「にゃ、にゃにが起こってんのさぁ……?」
キルラスはその威力に戦慄しつつも、今の不可解な現象を探るために辺りを見回した。
そして気づく。空中を飛ぶ枕のうちのいくつかが、物理法則を無視した変則的な軌道を描いていることを。
続いて、もう一つ気づいた。この廊下で盆踊りを行う二匹の猫のようなものに。そして、そいつらのせいで不思議なことが起こっているのだとも。
「にゃ? にゃ、にゃに? にゃにあれ?」
驚きすぎたキルラスはもはや舌が回っておらず、二匹の猫のようなものに注視する。
その視線に気づいたのか、猫の一匹が踊りを止めてキルラスのほうを振り向き、招き猫のような満面の笑みを浮かべて彼を手招いた。
「にゃ?」
キルラスは不可解なその行動に、首をかしげ尻尾をへにゃりと床につけた。
手招きをしていた猫は、空中に文字をなぞる。そのメッセージの内容は、
『うほっ、いいどうるい。いっしょにやらないか?』
「――だ、だ、誰がにゃんこさぁ! 一緒にするんじゃねぇさぁ!! ふざけんなぁぁー!!!」
キルラスの怒りを買うには十分すぎた。尻尾をピンと張りたて、猫のようなものを懲らしめようと走り出す。
しかし、不幸にも、その途中で流れ弾が頭にスコーンと当たり、志半ばで意識を失ってしまったのだった。
――――――――――
キルラスが倒れるのとほぼ同時に、枕投げは混戦となっていた。
それは飛び交う枕の変則的な軌道がより激しいものとなったからだ。
「女子なら女子チームで戦いなさいよぉぉ!!」
雅羅は変則的な枕を避けつつ、枕を勢い良く放り投げた。
その狙いは男子チームとして参加しているグランギニョル・ルアフ・ソニア(ぐらんぎにょる・るあふそにあ)に向けてだ。
「仕方ないでありんす。エージェント・Tの為でござんす」
グランギニョルの言うエージェント・Tとは、パートナーのテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)のこと。
彼女は【ナノマシン拡散】で飛来する枕を緊急回避。別の場所でもう一度集合し、身体を再構築する。
「なによその回避! 卑怯じゃない! 当たらないじゃない!」
「なんでありんすか〜? 聞こえんでありんす〜」
「は、腹立つー!」
雅羅はじたばたと足踏みすると、もう一度投擲しようと散乱する枕の一つを拾い上げようとした。
が、その行為はサー パーシヴァル(さー・ぱーしう゛ぁる)のまるでカタパルトのような枕投げにより中断させられた。
「あ、あなたも男子チームなの!? 裏切り者ぉぉ!」
「え? 裏切り者? 違うよ、私たちは最初から『テラーチーム』なんだよ!」
「そんなチームないわよ! って、負けたらあなたたちは大部屋で私たちと雑魚寝なのよ!?」
雅羅の叫びに、パーシヴァルは微塵も迷うことなく答えた。
「テラーがいい部屋に泊ってくれる可能性があるなら、自分たちはそれで問題ない!」
「どんだけ過保護なのよ!」
雅羅の叫びも最もである。
件のテラーはというと、男子と女子が咆哮をあげる廊下で、一際異質な獣じみた咆哮をあげていた。
「ぐぎぁらぎぁらぎぁ!」
テラーは空中で変な動きをする枕を見上げて、ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる。
そして手足を巧みに使い、パーシヴァルに駆け寄ると鋭利な牙が並ぶ口を開いた。
「ぐれぅぎりぉろぅ!」
「え? なになに……」
「がるるぐぁぐるるぅ!」
「ふんふん……分かったよ。僕に任せて!」
傍から見れば何を言っているのかさっぱりだが、パーシヴァルには伝わったのだろう。
テラーは枕投げの意味は分からない。が、飛び交う枕に興味を抱き、その枕に対抗しようとしているのだった。
つまり、テラーがパーシヴァルに頼んだことは、
「行くよ。準備はいい?」
「がぁ!」
自分を枕として使ってくれ、だった。
パーシヴァルはテラーの尻尾を掴んで、ぶんぶんと振り回し始めた。
「な、なによ、それ!? 反則じゃない!」
「なに〜? 聞こえないな〜」
パーシヴァルはニヤリと笑みを浮かべて、雅羅を見た。
雅羅はというと、テラーの被ったぬいぐるみの隙間からチラリと見えた黒い鱗を目にして、一目散に逃げ出した。
「な、なんでなのー! また私の災厄体質のせいなのー!?」
「がるるぅ!」
「い、いやああああ! 誰か助けてぇぇええ!」
絶叫しながら逃げる雅羅は、どうにか飛来するテラーを避けて、生き残ったのだった。
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