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トコナッツ島水着コンテスト【6】


「どうやら上手くいったみたいだね」
 友の晴れ舞台の成功(?)に天音は胸を撫で下ろす。
 しかし安心したのも束の間、不意にゾッとする気配が立ち込めた。
「……ん?」
 振り返るがそこにあるのは海だ。海水浴客が楽しそうに泳いでいる。
 しかしなんだろう。どこからともなく人食いサメのテーマが聞こえてきそうな、いい知れぬ不安が付きまとう。
 とその時、海面がブクブクと泡立ち、パラミタオオヤドカリが海面を突き破り姿を現した。
 パラミタオオヤドカリとは、海底に生息している巨大な甲殻類の一種。体長は6メートルから8メートル。大きいものでは10メートルの個体も確認されている。基本的に海底で暮らしているため、滅多にお目にかかる事はない。時折、底引き網漁の漁師が誤って引っ掛けては怒りを買い、船が沈められるケースが年に何回か発生する程度だ。
「海底を縄張りにしているオオヤドカリが、何故ここに……?」
「グオオオオオオオオオオオ!!!」
 オオヤドカリの目は赤い攻撃色に染まっている。海水浴客を薙ぎ倒し、コンテスト会場に怒濤の勢いで迫る。
「ふふふ、断根パフォーマンスに、オオヤドカリの襲来……。随分と仕掛けてくるじゃないか、このコンテスト」
 双眼鏡で様子を窺いながら、ブルタは不敵に笑う。
「でも、まだまだだね。ポロリがないんじゃ、水着コンテストとは言えないよ」
 隙を見て、砂浜で暴れるオオヤドカリの背に飛び乗ると、逃げ惑う観衆にトラクタービームを発射する。
「きゃああああっ!!」
「いやぁぁぁん!!」
 スポンスポンとぎゃるの水着が吸い込まれていく。
「こ、こっちに来ないで……きゃあ!!」
 月夜の水着もビームに吸い込まれた。慌てて胸と股間を手で覆う。
「何すんのよ、変態デブ! 買ったばっかりなんだから、返してよ!」
「グフフ……。これは上物だね。ボクのコレクションに加えてあげるよ。嬉しいだろ」
「う、うわぁ……」
 その時、ドン引きする月夜を守るように、ラルクがオオヤドカリの前に立ちはだかった。
「下がってな、嬢ちゃん……。何のつもりで水着泥棒してるのか知らねぇが、バカンスに水を差すのは許せねぇ」
「ふん、ボクは男になんか興味はないよ。通行の邪魔だからどき……あ、馬鹿!」
「!?」
 オオヤドカリに飛びかかったラルクは、ちょうどトラクタービームの射線上に入り、スポンと水着が吸い込まれた。
 勢いよくパンツが脱げたため、彼の自慢の渚の○ンコバットがぶるんぶるんと激しく回転した。
「おえええええっ!!」
「て、てめぇ、見境無しか!」
「な、何言ってるんだよぉ! キミが勝手に入ってきたんだろぉ! 嫌なもん見せやがってぇ、あたまきたぞぉー!!」
 ブルタは仕返しとばかりに、火炎放射器でラルクの水着を消し炭にした。
「アアーッ! 俺の自慢の水着が! この野郎、許さねぇ!!」

『なんかステージ前が大変なことになってるけど、どうせヤドカリに襲われてるのは男漁りに来た糞ビッチでしょ。なら問題ないわね。むしろ地球のためにいいわ……と言うわけで最後の参加者、ブルーズ・アッシュワースさんでーす!』
 ブルーズは薔薇の学舎水着(尻尾用Oバックバージョン)でステージに上がった。
 背は低いながらも鍛えたドラゴンボディと、鋭くデルタ地帯に食い込むビキニはなかなかに際どい。
(だが、水着の過激さでは玉藻に、肉体の完成度ではラルクに勝てん……。ならば、死中に活を得るしかない!)
『おおっと。ブルーズさん、突然駆け出し……ああ! オオヤドカリに飛び乗った!』
「わっ、なんだキミは……」
「どけぃ!」
 ブルーズは尻尾のひと振りで、ブルタを叩き落とす。
「ぬううううん! 見るがいい、これが我のアピールだ!」
 オリーブオイルを頭上で叩き割ると、自らとオオヤドカリをオイルまみれに。それから、アサリ、ハマグリ、サザエ、アッキガイ……海の幸を身体に乗せていった。女体盛りならぬ、竜体盛り……とでも言うのだろうか。
「buru’sキッチン! ブルーズの貝とヤドカリ添え、オリーブ仕立てだ! たんと召し上がれ!」
「おおおっ!!」
 なんだかよくわからないけど、凄いインパクトのパフォーマンスに、審査員は声を上げた。
「ドラゴニュートの身体も悪くないわね、ウフフッ、美味しそう」
「素材そのままの味をオリーブの風味で閉じ込める。締まったドラゴニュートと潮の利いたシーフードが絶妙だな」
「ドクター、それグルメ批評になってるけど」
「フッ、グルメとしては、ブルーズさんより、シャウラ君、君の身体に盛ったシーフードを食べたいな」
「さっきからあんた気持ち悪いよっ!」
 あーだこーだ審査(?)している彼らだったが、不意にオオヤドカリの鋏が振り下ろされた。
「きゃあああああああああ!!」
「うおおおおおおっ!!」
 バラバラに吹き飛ぶ審査員席。ドクター梅はすぐにシャウラを抱き起こした。
「しっかりしたまえ、シャウラ君! 怪我は? すぐにホテルの私の部屋で触診しよう! うん、それがいい!」
「あんた精神科だろーが! いい加減にしろ!」
 シャウラの貞操を狙うドクターはさておき、道満はむくりと起き上がり、オオヤドカリを睨み付けた。
「……ちょっとアンタ! なんてことすんのよ!」
「グオオオオオオオオオオオ……!!」
「なによ、やる気ィ!?」
 再び振り下ろされる鋏をノーガードで道満は受けた。けたたましい音を立てて、オオヤドカリの鋏に亀裂が走る。
「ガ二っ!?」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」
 これぞ蘆屋道満の編み出した秘術『おしゃれカースト』
 自分よりもお洒落じゃない相手からの攻撃、スキル効果を一切無効化してしまう反則級の奥義だ。この効果によりお洒落と言う概念の存在しない動物・モンスター(孔雀とかには負けそうだが)にはほぼ無敵と言える。
「そして必殺のォ……ナックルバズーカ・エレガンス!!」
 ナックルバズーカ・エレガンス、またの名をただのゲンコツ。
 しかーし、道満のパーフェクトボディから放たれる鉄拳の威力は凄まじく、オオヤドカリの身体は宙に浮いた。
「グオオオオオオオオオオオ……!!」
「ぬおおおおおおっ!!」
 あまりの衝撃にブルーズは滑り落ちた。
「ぐ、グオオオオ……」
 今の一発で少し冷静さを取り戻したのか、オオヤドカリは暴れるのをやめ、周囲をきょろきょろと見回している。
「……何かを捜してる? まさか……」
 天音ははっとして、先ほどから血を流したまま立ち尽くしている刀真に駆け寄った。
 それから足元でもぞもぞしている法螺貝……もとい、ヤドカリを拾い上げる。
「きゅきゅ?」
「やっぱりそうだ。パラミタオオヤドカリの子供だ。この子を捜しに海底から出て来たんだね……」
 天音はそっとヤドカリを掲げて、オオヤドカリに我が子を見せた。
 オオヤドカリの目から攻撃色が消え、ゆっくりとこちらに近付き、静かに鋏を差し出した。 
「きゅ?」
「ほら、もうこんなところにまで来たりしてはいけないよ。海にお帰り」
 ヤドカリの身体がふわりと浮き上がった。
「……ん?」
 そのままヤドカリは空中を移動し、浜辺で尚も暴れているブルタのトラクタービームに吸い込まれた。
「む、なんだい、これは? ヤドカリ? ボクは女子の水着が欲しいんだ、こんなもの……」
「グオオオオオオオオオオオ……!!」
「え?」
 投げ捨てようとしたブルタに怒濤の勢いでオオヤドカリが迫る。
「うわああああああああああ!!」
「グオオオオオオオオオオオ……!!」
 激怒するオオヤドカリは我が子(&ブルタ)を追いかけ、浜辺の彼方に消えていった。