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トコナッツ島水着コンテスト【3】


『始まりました! 第一回トコナッツ島水着コンテンストォーーっ!!』
 司会が拳を上に突き上げると、会場を埋め尽くす観衆から地鳴りのような声援が返った。
『本コンテンストはエントリーしてくれた最高にイカした参加者の中から、ビーチのナンバーワンを決めちゃおうってスペシャルなイベントです。先ほどわたしもステージ裏を見てきましたが、やっぱりコンテストに名乗りを上げるだけあって、そりゃもうカワイイ子からイケメンもいましたよ! 皆さん期待してくださいねー!』
「うおおおおおおおおーーーーーっ!!!!」
『そして、審査員にはその昔シャンバラを震え上がらせたお洒落テロリストの蘆屋道満さん!』
「あたしの審美眼にかなう参加者がいることを期待してるわ、ウフッ」
『空京大学の精神科権威、スーパードクター梅先生!』
「医学の見地から本コンテストにメスを入れていこうと思っている。宜しく頼む」
『それから、え、ええーと……道満さんの監視を担当してる教導団軍人のシャウラ・エピゼシーさんでお送りします』
「お洒落はよくわからんが、デカパイは大好物だ。楽しみにしてるぜ」
『そして、優勝者には特別審査員の道満さんから「大切なもの」が贈呈されます』
「うおおおおおおおおーーーーーっ!!!!」
『さぁではさっそくーーと行きたいところですが、シャウラさんの提案により、エキシビジョンを行いたいと思います』
「エキシビジョン?」
「ほら、道満。お前のパフォーマンスを見せてやれよ。黙って他人のお洒落を見てるだけじゃつまんねーだろ?」
「シャウちゃん、あんた……」
「それとも、軍にとっ捕まってから自慢の肉体も衰えて、人前に出せるもんじゃなくなったか?」
「馬鹿おっしゃい。いいわ、見せてあげる」
 道満は陰陽師装束を脱ぎ捨てた。鍛え上げられた鋼鉄の身体は、月の港での戦いからなんら衰えていない。そして肝心の水着は、乳首と股間に張り付いた護符。乳首左右の護符には『乳』『首』の文字。股間には『禁』と書かれている。
「……こ、これは」司会はゴクリと息を飲んで「……ええと、お洒落なんでしょうか、シャウラさん?」
「勿論です。まず陰陽師らしい護符が素晴らしい。インパクトに加え、自分らしさを表現してる。薄紙一枚だから身体のラインも奇麗に出てる。それにホラ、よく見てみな。しっかり無駄毛を処理しててとても清潔だ。見ろよ、あの大根みたいにすべすべした脚を。あんだけ奇麗に処理してる奴なんて女子にだってそうはいねぇぜ」
「だ、大絶賛です……。では、ドクター梅にもご意見を伺ってみましょう」
「うん、ゲロ吐きそう」

「ふぅん、水着コンテストね……」
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)はビキニ姿で、悩ましげな身体を見せ付けていた。
「んなもん、この生ける美のミューズ、リナ様の優勝に決まってるのに。わざわざ大会を開く意味なんてないわぁ」
 ステージでは道満が腰を激しく振ってサンバダンスを踊り、観客を盛り上げている。
「……なにあれ。え、この大会老若“男”女が出場可能なの?」
 ステージの前に目を向けると、刀真や天音がいる。天音はこちらに気が付くと手を振ってきた。
「黒崎さん……」
 ポッとイケメンに頬を染め、リナも手を振り返す。
「素敵男子の黒崎さんに、童貞男子の刀真さん……。迂闊だったわ。イケメンが揃ってるじゃないの……!」
 リナは立ち上がり、砂浜を闊歩する男子たちに目を向けた。
「ちょっとあんたら、何ボーッと浜辺でブラついんのよ!」
「ほぇ?」
「呑気に泳いでる場合じゃないわ! 今日は祭りよ! コンテストなのよ! 盛り上げていくわよーっ!!」
「え? ええっ? な、なんか知らないけど……」
 ぷるるんと弾けるリナの胸に、男子たちのハートはドックンドックン高鳴った。
「なんか知らないけど……すげぇおっぱいだ! おおーッ! ウオオーーッ!!!」
 一般男子をしもべと化した彼女は、神輿の如く担がれ、わっしょいわっしょいとコンテストに突撃していった。
『おおーっと! 男子に祀られた巨乳美女がステージに! 飛び入り参加でしょうかーって、うわあ!!』
「マイクをよこしなさいよっ!」
 司会からマイクをぶんどると、沸き立つ観客をビシィと指差した。
「貴方達、私みたいな可愛い女の子の水着が、無料で見られるなんて、そんな甘い話あるわけないでしょ」
「お、おおお……?」
「契約には必ず代償がいる。ふふ、でも、貴方達に求めるのは些細な物。水着には水着……!
 さあ! ここに集う男子達よ! 貴方達も水着になりなさい! 私も脱ぐ! 貴方も脱ぐ! 脱ぐ! 脱ぐ!」
「おおおおーっ!!」
 戸惑っていた男子たちだが、既にビキニ姿なのに脱ぐ脱ぐ言い出したリナを前にしたら脱がないわけにはいかない。
 もしかしたら、もっと脱いでくれるかもしれない。見た感じ、ノリでやってくれそうなビッチだ。
「ウオオーーッ!! 水着! 水着! 水着! フォォーーッ!!」
「……フフッ。なんだか面白いことになってきたね」
 妖しい光を目にたたえながら、天音もパーカーを脱ぎ捨て、素肌を陽の下に晒す。
「さぁ男子に負けてらんないわ! 女子ー! 女子も水着になるのよー! Tシャツなんか着るんじゃなーいっ!!」
「きゃああああー!!」
 熱気に飲まれ、浜辺のビーナスたちもTシャツをぽいぽい脱ぎ捨て、小麦色の肌をあらわにした。
「よーし、ビーチを熱くしてくれた貴方たちに、私からご褒美よ、たっぷり味わいなさいっ!」
 気を良くしたリナはオリーブオイルをぶっかけた。
 引き締まった男子の肉体が、美しい曲線を描く女子の身体が、オイルを浴びてテラテラと艶かしい輝きを放つ。
「どう、私の追いオリーブは! rina’sキッチンにようこそー!!」

「……これは良い画が撮れそうだ!」
 柳川 英輝(やながわ・ひでき)は客席からステージによじ登った。
「やっぱりコンテストはこうでなくちゃな、俺が客席のリポートしてくるよ! 雷霆さん、撮影許可貰えるかい?」
「浜辺にルールなんて無粋なもんはないわ。撮影フリーよ、どんどん盛り上げて」
「おうよ、任せとけ」
 自前のデジタルビデオカメラを取り出すと、審査員席にカメラと中継を繋いだHCを設置する。
 それから、熱狂する客席に飛び込んだ。カメラが狙うは勿論、全男子お待ちかねの女子、水着の半裸の女子ッ!!
 汗の滴るぎゃるの素肌を下から上に舐めるように、汗の一粒一粒まではっきり映しながら、胸の描く小高い山に。
「いい、いいよ。いいねぇ!!」
「きゃあー! やだぁー!」
「まったくとんだ女豹がビーチにいたもんだ。ほらほらほら、そんなポーズじゃ一匹も獲物は獲れないぞ」
「えー? こ、こんな感じ?」
「そうだ、いいぞ。それが女豹のポーズだ。もっとお尻を突き出して……」
『ちょっとすまないが、君。胸ばかりではなく、尻も重点的に押さえてくれまいか』
「おっとドクター。ドクターは尻派かい。よーし、任せてくれ。今、巨大な丘陵地帯にカメラを向かわせるからよっ」
『おおっ!!』
「さぁ前人未到の秘境に到着だ。右の山か、左の山か、どっちから攻める? 隊長殿?」
『馬鹿野郎! 左と右の山が織りなす谷を中心に左と右を同時に楽しむんだろうが、柳川隊員!』
 HCにこれでもかと映されるぎゃるのお尻に、ドクター梅は鼻息荒く引き込まれている。
『ふん……。もう女子ばかり映して……、つまんなーい、道満つまんなーい』
「審査員様は注文が多いな。仕方がない、あんたのために最高のナイスガイを用意してやる。待ってな」
 英輝はオイルを被ったイケメン男子に突撃する。
「おいおい、誰だこんなところにギリシャ彫刻を置き忘れた奴は? え? 何、人間? こいつはいい身体してる」
『腹筋! 腹筋が見たい! 寄って寄って!』
「うちのお姫様のリクエストだ。六つに割れた田園地帯にカメラは突入する。ははっ、こいつは男も見惚れるな」
 腹筋ナメーの、胸板ナメーの、からのハンサムフェイスで、カメラに冒険をさせる。
「どうだプリンセス。王子様の感想は?」
『きゃーっ! イケメーーン!!』

「……な、なんだか会場の空気が変な感じに。もう英輝ったら……」
 もはやコンテストと言うより、サバトの様相、熱が上がり過ぎてなんかもう収集がつかなくなってきている。
 マナ・アルテラ(まな・あるてら)はホースを手に取り、客席に向かって勢いよく放水した。
「皆さーん、目を覚ましてくださーい! て言うか、まだコンテストまともに始まってませんよー!!」
 霧雨のように降り注ぐ水に、観客は徐々にクールダウンしていく。
「それからリナさんも、審査員の皆さんも。ちゃんとコンテストやりましょうよ」
 降り注ぐ日差しと会場の熱気で熱くなったステージも、放水で涼しく洗い流す。
 するとステージに、英輝が戻って来た。
「何してるんだよ、折角盛り上がってたのに」
「盛り上がり過ぎです。こんなんじゃ全然イベントが進まないじゃないですか。……ほんともう迷惑かけてすみません」
 マナは裏方のスタッフにペコペコ頭を下げた。
「大体、バカンスだからって羽目を外し過ぎなんですよ!」
「うわっ!!」
 噴射方式をジェットに変更して、英輝に水を喰らわせた。
 直撃を受けたビデオカメラは吹き飛ばされ、がしゃんと言う完全なる破壊音と共に地面とキスした。
「わーっ! 俺のカメ……ぶぼぼぼぼっ!! や、やめろ!!」
「やめません! 待ちなさーい!」