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リア充爆発しろ! ~サマー・テロのお知らせ~

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リア充爆発しろ! ~サマー・テロのお知らせ~

リアクション

 その頃。森の中ではまだ肝試しが続いていた。
「へ〜、じゃあアンタも彼氏いないの? 私と同じよね……」
「私は、まだ早いと思ってますから、そういうの。慌てて探さなくても、いつかきっと理想の男性が現れてくれると信じています」
「王子様願望とは可愛いわね。私なんか、こんなに肌焼いて必死にナンパしても男寄ってこないのにさ」
 ため息をつくように言ったのは、今夜リア充を狩るためにやってきていた黒い三連星の一人、褐色少女の“(自称)おるでが”であった。一見肝試しを楽しんでいるようなフリをして、カップルを物色している。
 フリーテロリストは徒党を組まないといっても、一人きりではすぐにやられてしまう。他の連中が動き出すのを見計って、呼応するのだ。
「もう、今日なんか散々でさ。組んでた男たちはいなくなるし、祭りでステージに上がれば死にそうになるし、ロクでもないわよ」
「……男の人と組んでいたのでしたら、その方々と付き合えばよろしかったですのに」
 褐色少女“(自称)おるでがに素朴な疑問を投げかけたのは、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)であった。そう、あの御神楽環菜の血を引く娘なのだ。見識を広めるべくパラミタ各地を1人旅で歩き回り中の舞花、なんとあろうことか今回は一人で肝試しにやってきていたのだ。それも、物騒な噂で持ちきりのこの森に。
「肝試しに1人で参加するのは可能でしょうか?」と運営に掛け合っていたところ、ちょうど同じように一人で肝試ししようとしていた少女と出合った。なんでも、お祭りのトラブルでみんなとはぐれてしまったとか。それが、今夜騒がせているフリーテロリストの一人、この褐色少女の“(自称)おるでが”であった。
 “(自称)おるでが”は、知らなかった……蒼学生じゃないし学校きてないなら。舞花が、あの最大のリア充夫婦の血を引いているということを。舞花も気付いていなかった……見たことなかったから。すぐ隣にいる少女がリア充を爆発させようとしていたことを。
 偶然遭遇した二人、普通に話してみるとそれほど悪い感触じゃない。
 なんとなく、二人で肝試しを楽しんでいる最中なのであった。一緒に驚いたり笑ったりしているうちに、奥へ奥へと入っていく。
「ぎゃにゃー! お菓子寄越すにゃ! 脅かすにゃ! いたずらしちゃうにゃ!」
「え、ハロウィンですか?」
 だんだん脅かし方まで雑になってきた猫又に扮するルシアに、舞花が微笑んで頭を撫でてお菓子をあげていると、“(自称)おるでが”が腕時計を見ながら聞いてくる。
「アンタこの後どうするの? 私この後用事あるんだけど」
「では、帰りましょう。今日はお付き合いくださってありがとうございました」
「いや、いいんだけどさ……。私、森から出ないわよ。その用事は、ここであるんだから。なんなら一緒に見物していく?」
「こんな森の中で……?」
「アンタ、一人帰れる? ちょっと、騒がしいことになるわよ……?」
「そうですか。大丈夫です、一人で帰れますから……。では……」
 舞花が軽く会釈をして身を翻した時だった。
「ひゃっはー! おい見ろよ、こんなところに御神楽舞花がいやがるぜ!」
「あら、本当だわ。大きい胸してエラそうに」
 舞花を指差したのは、今宵フリーテロリストとしてパイ拓を取ろうとやってきた、蒼空学園生の瀬乃 和深(せの・かずみ)とそのパートナーの瀬乃 月琥(せの・つきこ)だった。
「……はい?」
 舞花は目を丸くする。
 いつのまにやら、森の中から、墨と紙を手にフリーテロリストたちが三々五々集まってきていた。
「彼女も彼氏いないんだって。だから飛び入りで参加してもいいと思うんだけど」
“(自称)おるでが”の紹介に、舞花は慌てて手を横に振る。
「い、いやいや……、私まで巻き込まないで下さい。私、リア充とか意識していないですから、関係ないです」
「俺だって、リア充関係ねえよ。だって、巨乳触りにきただけだから。誰でも参加可だぜ」
 和深はドヤ顔で言ってのける。
「どうやら、場違いなところにきてしまったみたいです。私、ここで失礼しますね」
 舞花が去ろうとすると、胸ぺったんこの月琥が回り込んできてじっとりした目で見つめる。
「なによ、大きな胸してエラそうに」
「べ、別に大きくありません。普通です」
 足早に立ち去る舞花の背後で、誰かが呟いた。
「御神楽舞花……って……。よく考えりゃ超リア充じゃねえか……」
「……」
「リア充爆発しろ!」
 テロリストたちが墨と紙を持って追いかけてきた。
「か、勘違いです……!」
 舞花は全力で走る。
 これを合図に……いよいよ、この森でもテロが始まった。
 この夜、舞花はこの呪われた森から決死の脱出劇をすることになる……。


「本当に、大きな胸のどこがいいのよ。あんなの脂肪の塊でしょ!」
 みなを前に、月琥は力説する。
「ありとあらゆる手段を用いて、巨乳を滅するのよ! 全ての胸からパイ拓を!」
「気をつけてね。巨乳は、強いわ」
 パック牛乳を飲みながら、用宗たいらは言った。
 彼女はあの後、すぐさま取って返し、新しい制服を着てこの森にやってきたのだ。もう動揺はないようで、暗闇の中で目が爛々と輝いて見える。一人のハンターだった。
「でも、負けっぱなしじゃ、浮かばれないわ。今度こそ勝たないとね」
「それはお互い様よ。グッドラック」
 月琥は言うと、和深と共に準備を整え森の奥へと入っていく。巨乳を求めて。
 彼らは、フリーテロリストたちとは違い、独立部隊のようだった。
 その活躍に期待しよう。
「さて、私たちも行くとしよう」
 和深たちを見送るたいらに声をかけたのは、途中から合流してきた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)だった。
 リア充とかどうでもよく、おっぱいすら関係なく、ただパンツが欲しいだけの彼女はテロリストに混ざってパンツ取りをするらしい。大変素晴らしい人材であった。
「舞花ぱんつ欲しかったな〜。でもまあ無理しない方がいいか」
 追うか追うまいか……。
 名残惜しそうに一度だけ振り向くと、大勢の仲間たちと一緒に大佐は森の奥へと消えていく……。
 


「た……助けてくれぇぇぇぇぇ……」
「きゃあああああっっ!?」
 正面から歩いてくる不気味な男の姿を見て悲鳴を上げたのは、恋人と共に夏祭りを楽しみに来ていたセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)だった。
 最近デートもあまりできていないし……。せっかくだから肝試しで優勝して商品で恋人と一緒にどこか行ければいいな、なんて思っていた矢先だった。
 視界の先からやってきたのは……。
 服は着ていず、パンツ一枚。どす黒い肌の色は全力で殴られたように血だらけで、顔は判別がつかないほどボコボコに膨れ上がっている。何があったのか助けを求めてさ迷い歩く姿は、そこいらのゾンビよりも迫真でハンパなく不気味だった。
 それは、今さっきリファニーにボコボコにされた神条 和麻(しんじょう・かずま)の姿であった。
 いくらなんでもここまで怖くするなんて、やりすぎではないだろうか彼女? ルシアを押したのしたのだから、これでも生ぬるいなんて言うかも知れないが。
「助けてくれぇぇぇぇぇ、水、水をくれぇぇぇぇぇ。身体が熱いぃぃぃぃ」
 怨霊のように響く声は、本当に火がついたものにしかできないリアルさがあった。作り物の幽霊なんかとは比べ物にならない。
「な、なによこいつ、びっくりさせてくれて……!」
 思わず恋人の御凪 真人(みなぎ・まこと)の腕にしがみついていたセルファは、すぐに我に返ると、脅かしてくれたお返しとばかりに軽くぼこぼこにしてやる。
「ぎゃあああああっっ!」
 哀れ和麻。こうやって脅かされた人たちから少しずつぼこぼこにされて、ますます酷い姿へと変貌を遂げていくのだ。しかも、演出と思われているので、誰も救護に来てくれない。今晩の地獄絵図、最大の恐怖と言ってよかった。
「ほ、ほらやっぱり幽霊なんかいなかったじゃない。大体さ、いたとしてもそんなアホな幽霊がいるはずないじゃない」
 セルファは和麻ゾンビのことなどすぐに忘れて、真人に笑顔を向ける。
「さあ、急ぎましょう。優勝しないと旅行にいけないじゃない」
「やれやれ、セルファも強引ですね。確か幽霊って苦手ですよね? 大丈夫なんですか? この後、もっと怖いのが出てくるかもしれませんよ」
 セルファを庇うようにして、真人は森を進んでいく。
「旅行くらいその気になればいつだっていけるのですから。無理しない方がいいと思いますけど」
「べ、別にそこまで必死とかって訳じゃないのよ! もらえる物はもらうだけよ!」
 セルファは息巻いて、ずんずんと先へと進んでいた。
「今のは冗談ですよ。パラミタなんで幽霊なんて居ないと言えませんけど、まあ、大丈夫でしょう」
 真人は安心させるように言った。
 実のところ、セルファが大げさなだけで、この肝試しはほとんど怖くなかった。メイクも演出も悪くはないが、アミューズメント的だ。
 きっと……肝試しは単なる名目で、本当は一風変わったカップルデートなんだろうと思うことにした。
 問題は、本当に幽霊が出てきたときだが……。
「危険なら肝試しのついでに退治すれば良いだけですからね。まあ、念のためにディテクトエビルを使用しておきましょうか。セルファも殺気看破を使っておけば大丈夫でしょう」
「い、言われなくてもわかってるわよ!」
 セルファは、怒った口調で言う。暗闇の中、二人きりで照れているのかもしれない。
「しゃー! 猫又だにゃ! お菓子くれないと脅かしちゃうにゃ!」
「きゃっ? って何? ハロウィンなの? まあいいか……」
 新しい白浴衣に着替えてきたルシアにお菓子をあげたり、背後から追いかけてくる提灯持った女の子をやり過ごしたりしていると、騒ぎの音が大きくなってきているのがわかった。
「なにやら、変な状況になっているようですね。こちらに来なければいいのですが」
 フリーテロリストたちが蠢く気配を察知して真人は、警戒を強めた。
「なんでも、聞いたところによると、カップルを狙って胸の形を墨で取っていくとか……」
「……へー、こんな馬鹿なこと考える馬鹿共が居るの。覚悟は出来てるんでしょうね!」
 セルファはくわっと形相を変える。
「私にとっては苦手な肝試しだけど、デートはデート。こっちは必死に誘ってやっとの機会なのに、邪魔をするって事はそれ相応の罰を受ける覚悟はあるのよね。そう、乙女の恋路を邪魔するヤツは私に貫かれて地獄へ落ちろ! パイ拓なんて取ろうものなら命、要らないのよね」
「って、セルファ。そんなに怒らなくても良いじゃないですか」
 一気にまくし立てたセルファに、真人は苦笑を浮かべた。
「い、いえ、もちろん何かあったら止めるなんて事はしませんよ。と言うか出来ませんよ」
「焼き払ってやるわ。全員消し炭よ」
「ちょっと、焼き払えってそんな事できるわけ無いじゃないですか。はあ、暴れるのも程ほどにしておいて下さいね」
 真人がそういった時だった。
「……!?」 
 森の奥で蠢く人影に目を疑った。
「パイ拓、面白そうじゃない。胸にしか自信の無い女なんて死ねば良いのよ!」
 少し離れた所でテロリストたちを煽っていたのは、真人のパートナーのアイシス・ウォーベック(あいしす・うぉーべっく)だった。
「さあ、この夏は今しかないわ! だったら思いっきり自由に楽しまなくっちゃ損よ! あなたたちの力を結集し、パイ拓を取りつくすのよ!」
「おおおおっっ!」
「……」
 真人は、見てみないフリをした。
「どうしたの?」
 気付いていなかったセルファが聞いてくる。
「……いや、何も」
 まあ、黒い羽なんてアイシス以外にもいっぱいいるし。彼女の性格からしたら考えられないことはないのだろうけど。夜で見間違いかもしれないし、証拠がなければ追及できない。
「……実際に死人を出してここに新しい怪談を増やさないで下さいね」
 そう言って、真人は人影を見送っていた。