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リアクション
幕間:必然的な偶然
森の奥、人知れず鍛錬を積む者がいた。
辺りは静かであり、動物どころか虫の鳴き声一つ聞こえない。
「ふぅ……」
瞑想を終えた東 朱鷺(あずま・とき)は呼び出した神獣達に視線を送る。
彼らの足元には森の恵みであろう、果実などが置かれていた。しかしそこには魚や動物の類の姿はない。
「またですか」
異変は昨日あたりからだった。
今までは獲れていた動物たちが獲れなくなったのだ。
急に姿を消したというか、隠れているというか、どちらにせよ現状が続くようなら菜食主義に目覚めかねない食生活である。
ため息を吐く彼女の視界に黒い影が見えた。森の奥だったためかそれがなんだったのかはわからなかったが、動物であればご馳走である。
東は影を追った。
「大きい……!」
人と同じくらいの動物だ。熊だろうか。
東は影に向かって飛び込むなり首らしき部分に蹴りを入れる。
急所だ。人間相手なら気を失っていただろう。しかし相手は人間ではなかった。振り向いた相手の姿は異形だったのだ。
「くっ!?」
危険を感じたのだろう。東は飛び下がる。
瞬間、彼女のいた位置に蛇のようなものが幾重にも連なって喰いかかった。
それは異形の胸辺りから伸びているように見える。
「さすがにこれは食べられないですよねえ」
東は異形と対峙する。
相手からは殺意や敵意は感じられない。ただ危険な相手であることだけは感じられた。
戦うか逃げるか、考える暇はなかった。
「……」
アザトースが勢いよく東へと近づいてきたのだ。
叩きつけられる腕を呪符で防ぐ。その瞬間、パリッという音が東の耳に届いた。
何の音だろうか、と異形の身体を見やると放電現象が起きていた。
「まさか――」
刹那、辺りに雷撃が奔った。
「……」
アザトースが東の様子を見る。
彼の身体の周囲に黄金色の煙のようなものが発生していた。
「これでもこの威力か……化け物めっ!」
(先ほどの一撃でダメージを与えたように見えないということは、よほど物理攻撃には強いということ……)
東は分が悪いと判断したのか、きびすを返してその場から離れた。彼女が向かった方角は街道の方である。
「…………」
アザトースが何を考えたのかはわからない。
しかし彼もまた東と同じ方角へ向かって移動を開始した。
森の中を駆けながら東はアザトースと戦いを繰り広げていた。
「これならどうですかっ!」
東は神獣たちをアザトースの周囲に配置し包囲攻撃を行った。
多段攻撃でもあるそれはアザトースの意識を東以外に向ける。その隙を狙い、東が再度、顔めがけて蹴りを入れる。しかし――
「……」
またも雷撃がその身体から放たれた。
タイミングを覚えたのか、東は正面に符を展開すると雷撃を打ち払う。
彼ら二人の実力は均衡しているように見えた。
「決定打には至らず、ですか」
「…………」
互いに距離を置かずに移動し続ける。
森の終わりは目の前であった。
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