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汝、己が正義に倒れるや? ~悪意の足跡~

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汝、己が正義に倒れるや? ~悪意の足跡~

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幕間:軍人から学ぶ正しい警備の方法

「悪いなねーちゃん。わざわざ送ってもらってよお」
 行商人が隣を歩く女性たちに言った。
 祭りの出店に参加するつもりなのだろう。引いているリヤカーの中には商売に使うのであろう機械と食べ物が入っている。
 赤々としたリンゴが山と積まれている様子は通りすがる人たちの視線を集めていた。
「いいって。これも一応お仕事だからね」
「一応じゃなくて普通にお仕事よ?」
 わかってますよ、とセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がパートナーであるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に肯定の意で手を振った。その仕草はとても軽く見える。
「しかしねーちゃんたちも大変だな。祭りだってのに仕事なんてなあ」
「本当よ。あたしだってお祭りを見て周りたいってのに野盗のせいで駆り出されちゃったわよ。遊ぶ暇もないわ」
 そう口にするセレンフィリティは街道を行きかう楽しげな人々を恨めしそうに眺めている。
 その様子を見ていた行商人が苦笑いを浮かべた。
「まあ、なんだな。あんたらがしっかりやってくれるからこっちとしちゃ安心して商売に精が出せるってもんさ。感謝してるよ」
「感謝が物の形してるとあたしは嬉しいんだけどなあ」
 チラッと何かを期待するように行商人を見る。
「やめなさいよ。もっと警戒しなさい」
「だってさー」
 セレアナに注意され面白くなさそうに不満の声をあげた。
「わははは。いやいやピリピリと張りつめた空気だとこっちが恐縮しちまうよ。今みたいに普通にしてくれ。お、そうだ。あんたらにこれをやろう」
 そう言うと行商人は荷物の中から何かを取り出すと二人に投げ渡した。
「いいの? ありがとう。何でも言ってみるものね」
 彼女たちの手には紅玉のように綺麗な色をしたリンゴがあった。
「売るときは飴で表面をコーティングするんだ。よければ仕事が終わった後にでもうちの店に来てくれよ。安くしとくぜ」

 祭りで賑わう街の明かりが見えたところで彼女たちは行商人と別れた。
 一仕事を終えた彼女たちに近づいてくる人影がある。街近くの街道を警備していたエースたちだ。
「お疲れ様ですレディ」
 エースは手にした花を一輪、セレンフィリティに手渡した。
「エースも相変わらずね。ひょっとして警備中もずっとそんなことしてたんじゃないわよね? まじめに仕事しなさいよ」
「してたよ。証人は僕で」
 清泉が笑顔で答え、続けた。
「軍人とは思えない気さくな警護、勉強になったよ。それとリンゴおいしそうだね。いいなぁ」
 彼はセレンフィリティの手にしているリンゴに視線を送る。
「人徳のなせる業よ」
「普通に催促してたじゃない」
「そんな軽い調子で平気なの?」
 アーミスの問いにセレンフィリティが自信満々に答えた。
「軽い方が相手も気持ちが軽くなるでしょ」