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リアクション
〜 phase 00 〜
ひと口に電脳空間と言われるものが、視覚的にどういったものかを明確に語れるものは少ない
例えば我々が視界はあらゆるものから【可視光線】だけを選択しで認識、成立している
だが、そこから【赤外線】や【紫外線】果ては【放射線】などが目視範囲になってしまったら
たちまち今までの世界が覆され、モノの見方も変わってくるかもしれない
あくまでVRと呼ばれるものは、ダイブする者が認識できるように用意されたステージなわけで
プレイヤーがそこにアクセスしたからといって、電脳の世界が見えるわけではないし、認識できているわけではない
故に『電脳世界が、人間的な視界認識でどう見えるのか?』という問題は、多次元宇宙論に相当するのかもしれない
そんなわけで、彼の見ている目の前の世界も彼だけが認識できる【電脳世界】なのかもしれない
もはや【0と1】を超え、量子演算が普通となったコンピューターの粒子が、引っ切り無しに目の前を交錯する空間で
彼は手にしたリンゴをかじり、その感想を誰ともなく述べていた
「うーん……リンゴって感じはするけど、なんか違うんだよね
リンゴには違いないんだけど、アップルジュースみたいなね、どれも一緒みたいな感じ?
品種の違いとかだせたらいいんだけどね……まぁ、所詮ひとつのゲーム内での味覚エンジンとしてはこんなもんか」
不意に彼の耳元で、一際明るい光が語りかけるように点滅する
その光の調べに耳を傾けていた彼は、齧りかけのリンゴを弄びながら、誰にともなく返答した
「わかってるよ、ちゃんと様子は見てるってね
や、流石は有名人ってとこだよ、事態を理解しながらいろんな人が参加をやめずにアクセスを続けてる
一応わかってる範囲でも3桁はいるからね、流石に皆この程度のトラブルには動じないってわけだ
……ま、おかげでいろんなデーターが取り放題だけどね☆もっとも……」
彼が向けた視線の先に不意にウィンドウが浮かび上がる
その行為に抗議があったのか、傍らの光源がフラッシュのように瞬くのを煩しそうに見ながら、少年は反論した
「そんなに怒らないでよ
だってさぁ、視覚補正無しで映像化するとノイズが強いから見るの疲れるんだもん
大丈夫、ちゃんとゲームエンジンに沿って造ってるからバグ反応は感知されないって、それよりほら」
彼がそういって促したウィンドウに写っているのは、コントロールルームの様な部屋で
そこでモニターを見ながらキーパネル上で指を動かしているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と
それを傍らで眺めているルカルカ・ルー(るかるか・るー)とシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)の姿があった
「予想通り、リアルの方からシステムそのものにアタックをかける無粋な連中も出てきたみたいだ
困るよねぇ、独楽とかカードとか子供が遊んでる玩具で世界を征服しようって連中に軍隊持ってくるようなもんだよ?
ゲームなんだから正々堂々とゲームで立ち向かってほしいっていう、こっちの空気を読んでほしいよね
……大丈夫だって、こっちの動向は感知されないはずだから、すぐには向かってこないよ
っていうか、逆にゲーム盤ひっくり返すような真似だけはやめてもらわないと……それ位の介入はいいでしょ?」
指で鉄砲の形を作り、バーンと挑戦的にウィンドウを打つ真似をすると、それに答えるように霧散する
それとは別に浮かんだウィンドウには、上空の大量のエネミーから逃げるように走る少女と少年の姿が写っている
パフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)とナビゲートAI【アダム】である
それとは別に、傍らに浮かんだ【SOUND ONLY】と描かれた小ウィンドウには
卜部 泪(うらべ・るい)という名前と共に彼女の声が聞こえてきた
『お待たせしました!現状はどうなっていますか?』
彼女の声に二人程の声が返答している、音声と共にウィンドウには
仁科 姫月(にしな・ひめき)・成田 樹彦(なりた・たつひこ)・リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の名前が浮かび上がる
『ログインした参加者から、それぞれ行動を開始してるみたい
一応、泪さんの連絡があるまで単独での大きな行動は避けろとのメッセージは届いてるみたいだから
局地的な戦闘しかやってないって』
『目標の塔から離れている限りでは、エネミーも個別行動しか取ってないから相手も大きくは動いていないみたいだ』
『そこらへんは元のゲームと同じなのですね……とにかく街の中心まで向かいましょう!
【メカフリューネ】と応戦しつつ新しい情報があったら報告してください!リカインさんは引き続き中継お願いします!』
『解りました!みなさんご無事を!』
泪の言葉と共に、ウィンドウが消える
一通りの会話をパフューム達の写る映像を見ながら聞いていた彼は、満足げに食べ終わったリンゴの芯を放り投げる
彼の手から離れ、空間に存在を維持することができなくなったそれが光と共に霧散すると同時に
消えた場所からカードのようなものが現れ、彼の手に落ちた
そのカードを楽しげな眼差しで眺めながら、彼は開幕の言葉を述べる
「それでは始めようかな、楽しいゲームのはじまりだ」
言葉と共に宙を舞い、電脳の虚空に消えたカードには、眠ったように横たわるドレスに身を包んだ戦姫
フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)の姿が描かれていた
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