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【ぷりかる】メイド奪還戦

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【ぷりかる】メイド奪還戦

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二章 貞淑な任務


 「さて、攫われた人たちはどこにいるのやら……」
 高務 野々(たかつかさ・のの)はメイド服姿で建物を練り歩く。
 グラウンドで爆発が起きたおかげで兵士の姿は見当たらず、堂々と闊歩することが出来るのだ。
「ありがたいけど、これじゃあ自力で攫われてる人たちがいる場所を探すしかないね」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は野々の言葉に相槌を打ちながら後ろを歩いていると、
「あう!」
 突然止まった野々の背中に顔面をぶつけてしまう。
「ど、どうしたの?」
「前方から敵です」
 そう言って野々は曲がり角からコッソリと曲がった先を見ると兵士二人がこちらに歩いてくるのが見えた。
「ど、どどどどうしよう! このままじゃ見つかっちゃうよ!」
「落ち着いて下さい。誰か、彼らの注意を引きつけて下さい。その後に隠れ身が出来る人は彼らの後ろに回りこむことにしましょう」
「そ、それならボクは後ろに回りこむよ」
 レキは手を上げると、ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)フユ・スコリア(ふゆ・すこりあ)が前に出る。
「じゃあスコリアはあの人たちの注意を引くよ!」
「僕はレキさんと後ろに回りこむよ」
 口々に自分たちのやることを言葉にすると、スコリアは曲がり角から飛びだして兵士達の視界に入る。
「お? なんだあのガキ」
「か、かわいいな……あの子」
 兵士の一人はロリータファッションに身を包み、目を潤ませているスコリアを見て、急速に息を荒げていく。
 特殊な性癖があるわけではなく、魅惑のマニキュアの効果だが絵面は犯罪以外のなにものでもない。
「お、お兄ちゃんたち……顔が怖いよ……どうしてそんな目でスコリアを見るの?」
 スコリアは鈴を鳴らしたような可愛らしい声で喋りかけ、兵士たちはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべてスコリアに近づいていく。
「お、おい……このまま部屋に戻す前に身体検査をしたほうがいいんじゃないか?」
「あ、ああそうだな……検査をしないとな検査」
 男たちはうわ言のようにそんなことを言い合い、スコリアに近づいていくと、
「はい、ストップ」
「動いたらスパッといくよ?」
 レキとユーリは男たちの背後から武器を突きつける。男たちもハッと我に返るがすでに後の祭りとなっていた。
 男たちは両手を後頭部に合わせると、その場に膝をついて無抵抗の意思表示を見せた。
「一応しびれ粉もかけとくね」
 レキはそう言ってしびれ粉を兵士たちにかけて、身体の自由を奪った。
 野々は男たちの前に立つと、デッキブラシを突きつける。
「攫われた人たちはどこにいるんですか? 正直に答えて下さい。そうでないと、メイド式の尋問術を披露することになりますよ?」
「メイドと尋問って繋がりが無いと思うんだけど……」
「さあ、どうしますか?」
 ユーリのツッコミを無視して、野々は話を進める。
「攫った奴らは……この先だ……」
「もう用は無いだろ……さっさといけよ……」
 男たちはこの状態でも悪態をつくが、野々は気にせず笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。助かりました」
「で、こいつらはどうするの?」
 ユーリは男たちを見つめると、スコリアはハイハイと手を上げる。
「さざれ石の短刀で石にしちゃおう!」
「ええ!? い、いいのかな? そんなことして」
 レキは及び腰で訊ね、ユーリも首を捻る。
「でも……このままじゃマズイよねお仕置きっていう意味でも必要……かな?」
「しびれ粉だけでは、後々侵入者がいることを報告されるかもしれませんしね」
 野々は石化の案を後押しするような言葉をはく。
「て、てめえら……覚えとけよ……」
「こんなことしてタダで済むと思うなよ……」
 男たちは地面に倒れながら小さく吼える。
「人攫いなんて悪いことをしておいて、よくそんな事が言えるよね」
「やっぱり石化させた方がよさそうだね」
 レキとユーリが顔をしかめる。
 ユーリはさざれ石の短刀を握って男たちの身体に小さな切り傷をつけると、男たちの身体は徐々に石になっていく。
「や、やめろ……! やめてくれ!」
「俺達が悪かった! だから……許して!」
 男たちは口々に命乞いの言葉を吐くがやがて、それも無くなり野々たちの前には石像が二つ出来上がった。
「……でも、ここに置いていったら誰か来たのがバレちゃうんじゃないかな?」
「あ……」
 レキの一言に誰からともなく小さな声が漏れた。
「ど、どうしようか?」
「割っちゃう?」
 ユーリの質問にスコリアが答えると、野々が黙って首を横に振る。
「さすがに人攫いが相手でもそれはちょっと……」
 全員が二つの石像を見ながら首を捻っていると、その様子を黙って見ていたチムチム・リー(ちむちむ・りー)がため息をつく。
「仕方の無い人たちアル。後はチムチムに任せるアル」
 そう言いながらチムチムはロープを取り出して男たちをグルグル巻きにしていく。
「これで石化が解けても大丈夫アル」
「チムチム、なにしてるの?」
 兵士の顔に近づいて何かしているチムチムにレキが訊ねる。
「落書きアル。これだけ落書きしたら誰が誰だか分からなくなるはずアル。……額に『肉』……と」
 兵士二人の顔に肌が見えなくなるほど落書きをした後、チムチムは兵士達を小脇に抱える。
「後はロッカーにでもいれておけば見つからないアル」
「本当?」
「チムチムが前にやったゲームならこれで見つからないアル」
 そんなことを言いながら、チムチムは近くの部屋に入って兵士二人をロッカーにしまった。


 攫われた人たちが集まる大部屋にはメイド喫茶バーボンハウスのメイド達も何人かいた。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)も攫われた一人だが、彼は他の攫われた人間とは違い自ら攫われるように仕向けたのだ。
「皆さん、そのまま僕の話を聞いてください」
 北都が声を出すと、暗い顔をしている女性達は北都の方を力なく見つめた。
「僕は皆さんを助けるためにわざとここに攫われました。もうすぐ外から助けがくるはずです。その時は慌てずに誘導に従ってください」
 北都が喋り終わると、女性達は戸惑うような複雑な表情で隣にいる人に小さい声で会話を始める。
「その話、本当?」
 北都がその様を静観していると、一人の女の子、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が近寄ってきた。
「うん、本当だよ。さっき大きな爆発音がしたよね? あれは事故とかじゃなくて仲間の人たちのせいだと思うし」
 説明を始めるとミルディアのパアッと表情を明るくする。
「よかった〜! あたし一人じゃこの人数を無事に連れて行くのは無理だと思ってたから助かったよ」
「助ける……ってことは君もわざと攫われてきたの?」
 北都が訊ねるとミルディアは苦笑いを浮かべる。
「い、いや〜それが……あたしは本当に攫われてここに来ちゃったんだよね……」
「……」
「だ、だって仕方ないじゃん! 普通に生活してて不意打ちされたら誰だって捕まっちゃうよ!」
 だからあたしのせいじゃないもん! と言いながらミルディアは必死に弁解する。
「ま、まあまあ、結果としてこうやって出会えたんだから脱出に協力すれば、わざと捕まったのと変わらないよ」
「そ、そうだよね! 変わらないよね? じゃあ、まず何をしようか?」
 訊ねられて北都は超感覚を使い、外の様子に注意を向ける。
「見張りは……二人立ってるみたいだね、強引に脱出したら怪我人が出そうだから僕たちは助けに来る人たちとスムーズに脱出出来るようにしておこう」
「分かった。じゃああたしは今のうちに泣いてる子とかを落ち着かせるね? 脱出出来たら囮役もやるよ」
「僕は外の様子を見ておくよ。そっちはよろしく」
「うん、任せて!」
 ミルディアは北都と別れて女の子達の中に紛れていく。
 そんな様子を見ながら騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は女の子達に声をかけていく。
「大丈夫。さっきも言ってたけど、助けは必ず来るから、みんなは慌てないように列を作って外に出るだけでいいの」
 言われて詩穂の話を聞いていた女の子達は黙って頷いて見せる。
「うん。それじゃあ、助けがいつくるか分からないから列を作っておこうか? 背の低い順に三列くらいになって……」
 指示をしていると女の子達は静かに三列に並んでみせ、ミルディアが慰めていた女の子たちも徐々に列に加わり始めた。
「うんうん、これでいつでも脱出出来るね。後は助けがいつ来るかだけど……」
「来たよ!」
 詩穂が独りごちていると、北都が声を上げる。
「でも、交戦しながらこっちに来てるみたいだな殺気を感じるぜ」
 北都のパートナーの白銀 昶(しろがね・あきら)が続けて外の様子を知らせる。
 その声を聞いて女の子達が心配そうに声を上げ始める。
「大丈夫だよみんな! 心配しなくてもいいから! ……昶ちゃん、このドアって開けられないかな」
 詩穂がドアを指差すと昶はニヤリと笑って見せる。
「このくらいのドアならピッキングすれば余裕で開くぜ」
 そう言って昶はドアに近づくと、あっという間にカギを外してみせると、昶は突然狼に変身してみせる。
「俺が右の見張りをやるから、詩穂は左の奴を頼む」
 詩穂は黙って頷くと、勢いよくドアを開け放つ。
「グルウウゥゥゥゥ!」
 昶はわざと唸って見せて見張りに混乱を与えると、手はず通り右の見張りに飛びかかった。
「ひぃぃぃ!?」
 見張りはなぜ部屋から狼が飛びだしたのか理解できずに恐怖でその場に縮こまる。
「な、なんだてめえは!」
 一瞬呆気にとられていた左の見張りも事態を把握して詩穂に殴り掛かる。が、
「はあっ!」
 詩穂は実力行使を用いて、見張りの拳をいなすとみぞおちに肘鉄を喰らわせた!
「ぐっ……!」
 男は低く呻きながらその場に倒れてしまう。
「片付いたみたいだね」
「あっちから人が来るよ」
 ミルディアが指を指した方向からは野々たちがやって来た。
「お〜い! 助けにきたよ〜」
 そんな声が攫われた女の子達の最後列まで聞こえ、女の子達は嬉しさから笑みを浮かべ、涙をこぼした。