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リアクション
六章 ROGUEDIE
兵士の一人がサー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)によって拘束される。
「な、なんだてめは……!」
喉を絞められている為に声が擦れ、両腕は背中に回されてしまったせいで抵抗できない兵士は目の前に立っている白鳥 麗(しらとり・れい)を睨みつける。
「わたくし達はあなた方のリーダーを捜しています。どちらにいるか、教えてください」
麗がニッコリ微笑みかけると、
「くたばれ、クソアマ」
兵士は麗の足下にツバを吐きかけた。
「……アグラヴェイン」
「は」
アグラヴェインは短く返事を返すと、後ろに回されて兵士の手を肩甲骨に近づけていく。
「ぐ……あああ!」
本来なら届くことの無い形で手の平が肩甲骨に触れようとして、肩が軋み兵士は顔を歪める。
「大人しく場所を吐くのなら、これ以上はやめておこう。……だが、これ以上私の前でお嬢様を愚弄するなら貴様の肩がどうなるか、よく考えることだ」
落ち着き、冷め切った口調で話しかけられ兵士の顔から血の気が引いていく。
「さあ、どうしますか? アグラヴェインはやると言ったら容赦はしませんわよ?」
「ひ……! 分かった! 喋る! リーダーはこの廊下を曲がった先だ! 見張りが常に三人いる!」
「ご苦労」
アグラヴェインはそう言うと、兵士の拘束解いて首筋に手刀を喰らわせて、兵士を気絶させた。
「ご苦労様、アグラヴェイン」
「リーダーはこの先です、行きましょう」
アグラヴェインが頭を下げると、麗は曲がり角で止まり先の様子を見る。
「……確かに三人いますわね……あそこで騒ぎを起こしたら中にいるリーダーが逃げ出す可能性もありますわ」
「それなら俺たちに任せろ」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が光学迷彩で姿を消してみせる。
「これなら発見されずに接近出来て静かに始末できるでしょう?」
「なるほど、いい考えですわね」
「それじゃあ、行ってくるぜ」
「エヴァルト、近づいたら私が手を叩いて合図を送るから、その時は右と中央の奴をお願いするわ」
「ああ、了解したぜ。足音には気をつけろよ」
エヴァルトはそう言うと、翼の靴で地面から浮いてみせる。
「それじゃあ、いくわよ?」
小さく声を出して、二人は兵士達に近づいていく。
互いに姿は見えないが、隣やすぐ近くにいると信じて二人は兵士達に近づいていく。
兵士は雑談を交わすばかりで、二人の存在に気づくことはない。
角から麗たちが心配そうに見つめていると──突然、手を叩くような大きな音が鳴る。
「……? なんだ」
「ぐ……!」
「うっ!?」
その瞬間、左右にいた兵士たちは糸が切れた人形のように崩れ落ち、動かなくなる。
「お、おい……どうしたんだよ急に……がっ!」
中央にいた兵士が呆然としていると、エヴァルトの手刀が兵士の首筋を捉える。
「……っ!」
突然のことに兵士は声もなくその場に倒れる。
エヴァルトと祥子は光学迷彩を解除し、姿を現すと麗たちを呼び寄せる。
「それじゃあ、いくぞ……?」
エヴァルトは声を潜めて、その場にいる全員に声をかける。
全員が首を縦に振ると、エヴァルトは全力でドアを開けると祥子たちはなだれ込むように部屋に入る。
部屋は個室のわりには広く、窓の傍には本棚が置かれ床には高そうな絨毯が敷かれている。
重厚な木造のオフィスデスクに肘を置き、高そうな椅子に腰を下ろしている男がこちらに視線を向けてくる。
これまた高そうな黒いスーツを身に纏い、頭はワックスかなにかでオールバックになっており、その雰囲気はこの状況だというのにひどく落ち着いていた。
「おめでとう。よくここまで辿り着いたね」
男は朗らかな笑みを見せながら、余裕の態度で拍手をして立ち上がる。
「あなたがここのリーダー?」
「その通りだ。まさかここまで辿り着くとは……と言いたいところだが、あんな雑兵では君たちには役者不足だったかな?」
「おまえ、今の立場が分かってるのか?」
余裕の態度を崩さないことが気に入らないのか、エヴァルトは表情を険しくして訊ねる。
男はエヴァルトの言葉を無視するようにスタスタと本棚の近くまで歩くと、立てかけてあった長剣を手に取った。
「もちろん分かっているとも。僕は追い詰められている……そして、これから君たちは僕に殺される。……どうだい? ちゃんと理解しているだろう?」
「てめえ!」
「待つんだエヴァルト、ここは俺に任せろ」
エヴァルトを制した紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が一歩前に出る。
「俺が相手になる」
「なんでだよ、一斉にかかってボコボコにすればいいじゃねえか」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)が訊ねるが唯斗は視線を男から外さない。
「いや……妙なんだ、あいつがこの人数を相手に出来るほどの腕前があるとは思えないんだ。だけど……あいつが落ち着いているのはハッタリでは無いように見えるんだ」
「それは確かに……変な話だな」
「だから俺がまず様子を見る。もしあいつを捕まえられたら、首謀者まであと一歩だからな」
そう言うと唯斗は居合い刀に手を掛ける。
「いいのかい一人で? 死んでも文句は言わないでくれよ? ……ま、どうせここで全員死ぬから結果は変わらないけどな!」
男は叫びながらたたらを踏んで、唯斗に長剣を振り下ろす。が、直線的な剣の流れには虚実は無く、唯斗はあっさりかわす。
「うるぁ!」
男は叫びながら刀を横に薙ぎ払うも、しゃがみ込んだ唯斗には当たらずに再び空を切る。
(……おかしい、こいつ……本気でやっているのか?)
まるで棒振りのような剣撃をかわしながら、唯斗の中で違和感が膨れ上がっていく。
(ここはトラップを覚悟してでも攻撃を加えてみるか……)
唯斗は決断を下し、男が振り下ろした長剣をかわすと直接男の顔面に向けて右ストレートを放つと、
「ぐおお!?」
男は呆気なく長剣を手放して倒れてしまう。
この光景に全員が呆然とする。唯斗の放ったストレートはここにいる人間なら余裕でかわせるほどのもので、実際唯斗もかわされるのを期待して放ったのだ。
「ぐ、き、貴様……そうか、このグループのボスだったのか……」
男は鼻血を出しながら必死の形相で唯斗を睨む。
「なあ、唯斗……こいつ、ひょっとして死ぬほど弱いんじゃないか?」
垂が訊ねると、男は視線を垂の方に向ける。
「ば、馬鹿なことを言うな! 俺は夜の帝王と言われた裏社会最強の男だぞ! その力、貴様に味わわせてやる!」
男は鼻血を出しながら両手を上げて垂に襲いかかる。が、
「ふん!」
垂の腰の入ったボディーブローが男の腹に突き刺さる。
「ぐぇ……」
男は口から胃液を出しながらくの字に曲がり、
「おらっ!」
そのまま頭を突き出したところに右フックをあわせて、男を地面に叩きつけた。
「く……馬鹿な……この夜の王が……」
「くだらねえこと言ってねえで答えろ。おまえがリーダーならこの誘拐を手引きしてる首謀者の名前くらい知ってるだろ? 大人しく教えろ。……ちなみに関係ないこと喋ったら……分かるよな?」
「ひぃぃぃぃ! ご、ごめんなさい! 僕はなんにも知らないんです! ただ、女の子を攫ってきたら金をやるって言われて、他の奴らもそうなんです! 僕はこの中で一番実力があるからリーダーを任せるって言われて……」
「じゃあ、お前は攫われた子たちがどうなったか知らないっていうのか?」
「は、はい……受け渡しに来る奴も毎回違う人間で、きっとそいつらも同じように雇われたんだと……」
「そいつの言ってることは本当みたいだな」
唯斗は机を入念に調べるが、中には何も入っておらず、資料のように入っていた本棚の中身もマンガがハードカバーを着ているだけのものだった」
「どうも、ここに金持ちと繋がる情報は無さそうだな」
唯斗はやれやれとため息をつく。
「でも、こいつらを雇うためには誰かが直接会ってるはずだろ? どうなんだ?」
「は、はい……確かに雇われる時は金持ちの部下という男に誘われました……その後は金をもらう時にさえ姿を現すことはないんです……顔もフードで隠れててよくは見えませんでした……」
「なんでそれだけでコンロンの金持ちだって分かるんだよ」
「だって……これだけの人数を雇うのには相当金が必要でしょ? 女の子達の食事代だって向こう持ちなんだから……それにそいつがコンロンのある方のために働かないかと持ちかけたんです……もういいでしょう? これ以上僕はなにも知りませんよぅ!」
男はそう言ってガタガタと震え始める。
その姿を見て、全員が浮かない顔をする。ここでの事件は無事解決したが、根本的な所が全て分からず仕舞いになっているのだから無理は無い。
「……まあ、いつまでもここにいても仕方ありませんわ。悔しいですが、一先ずここにいる誘拐犯達を然るべき場所に連れて行くことを優先いたしましょう?」
「そうだな……一先ず戻ってこれからの事を考えるか……おら、立て!」
垂は無理やり男を立たせると、それに続いて麗たちも部屋を出た。
外には暗雲が広がり、太陽が隠れ暗くなる。
攫われた人たちを助ける。
目標を達成した冒険者たちであったが──事件はまだ終わってはいなかった。
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