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障害物リレー種目◇モンスター・ランナー

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最終走者
イルミンチーム。

 リンネからバトン(りんご)をもらったエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は、余裕とばかりにゆっくり歩いていた。
 とはいえ、最後の平野から森林に囲まれたゴール目前のルートへと差し掛かっていた。
「蒼空チームはかなり遅れてるみたいなので、余裕なのですう!」
 この余裕の裏腹に、ある生物に狙われていることをエリザベートは気がついていなかった。
 そのころにようやく蒼空チームは、次の走者へとバトンが渡った。

蒼空チーム。
「遅いっ!」
 海からりんごを受け取ると夏來 香菜(なつき・かな)は啖呵を切った。
「しかたないだろ、ゴーレムがやっかいだったんだ」
「やっとむさい男達から離れて女の子に背負われるんだな」
 モップスが声を上げて喜ぶ。
 無言で香菜はモップスの頭にチョップを食らわせると、モップスは気絶した。
「なんとか、遅れを取り戻さないと……って重っ!!」
 香菜は勝つ気を持って、走り始めた。
 が、その足取りはふらふらだった。
 …………。
 ……。

 走り出して数分後。周りは森林地帯へと差し掛かった。
「不気味ね……」
 あたりは、嫌に静かだった。物音一つしない。
 そして、木が向こうまで生い茂っているために当たってくる光が少ない。
 日中でありながら、まるで肝試しをしているような気分になる。
「何?」
 突然、木々の間から何かが草の上を這うような音が響く。
 刹那、緑色の物が香菜に向かって時速100kmの速さで伸びてくるのが見えた。
「きゃっ!?」
 紙を切るような鋭い音とともに、重い物が地面に落ちる音がする。
 香菜の前に立っていたのは夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)だった。
「面妖だな……これが噂に聞いた触手というやつか」
 腕を組みながら地面に切り落とされた触手をのぞき込んだ。
「気持ち悪いです……」
「さすがに食えそうにないな」
「ちょ、ちょっと、そのうねうねを近づけないでください!!」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が離れた所から嫌そうに眺める。
 対照的にオリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)は残念そうに触手を持ち上げる。
「や、止めておきましょうよ、それで襲われたらシャレになら――!?」
 阿部 勇(あべ・いさむ)は疲れた表情で二人を見ていた。
 その後に大変な事に気がつく。
「香菜さん横!!」
「む、まずい!」
 慌てて勇は声を上げる。
 すでに香菜の真後ろにはツタが襲いかかってきていた。
 勇はすぐにライトニングウェポンで触手に電撃を浴びせて麻痺させる。
「こんどはワタシが助けますよ〜」
 ホリイのソードプレイが麻痺したツタを切り裂く。
「さすがに数が多いわ」
 進もうとする香菜だったが、次々と触手が現れてくるその多さに進めずに居た。
 一応甚五郎達が対応するが、手に負えない数だ。

「たしか、本体を叩けばおさまるんだろ?」
「さすがにこの数のうにょうにょを相手しながら、本体を探すのは大変だぜ」
 甚五郎の言葉にオリバーはあっさりと答えた。
 甚五郎達にはすでに、どこから触手が伸びてきているのか分からない。
 つまり、本体をどうにかして探す方法が無ければ、そもそもここを通過するのはほぼ無理だった。
「ほら、二人ともサボってないでちゃんと護衛してください!」
 ホリイと勇が触手を次々と叩き落としながら叫んだ。
「ごめんなさい、私が手伝えないばかりに」
 香菜が謝るが、甚五郎は首を横に振った。
「ここは応援組に任せろ。ひとまず触手の本体をどうにかしないとだな」

「私の出番ですね!」
 そう言って、後ろから追いかけてきたのは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だった。
「む? なにか策でもあるのか?」
「まかせてくださいっ!」
「ならば、わしもついていこう。オリバー達にはしばらくここを死守を頼む」
 詩穂と甚五郎は森林へと入っていく。
 神の目によって志穂はすぐに本体のいる位置を特定した。
 が、そこにはすでに三人の人影が見えた。
 触手の本体と対峙するルカルカ・ルー(るかるか・るー)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)
 そして、触手にとらわれたエリザベートだった。

「どうしたんです?」
「げっ、蒼空チーム。もうこんなところに」
「見てのとおり、うちの走者が触手に綺麗に捕まった」
 詩穂の問いに答えてくれたのはカルキノスだった。
 襲いかかってくる触手に対して、次々と剣で切っていく。
「まさか、エリーから触手に向かって歩いていくなんて思わなかったもん」
 ルカルカがすこし口をとがらせて言う。
 つまりは、エリザベートは余裕を持ちすぎたが故に自分から危ない道へと突っ込んでいったという。

「とかいってないで、はやくたすけるですぅ!」
 触手の中でじたばた暴れるエリザベート。
 甚五郎、詩穂、ルカルカが見合った。
「どちらにせよ、こいつを何とかしなければならぬな」
 ルカルカと詩穂は小さく頷いた。
「絶対にエリーには怪我をさせないようにね!!」
「わかってます!」
 詩穂は答えると、ソードブレイドで触手を切り裂いていく。
 甚五郎もそれに続く。

「核だ! 触手の核を一気に剣で貫けば倒せる!」
 神の目でようやく触手の本体が見えた詩穂が叫んだ。
「しかし、触手が邪魔してこれでは進めぬぞ!」
 甚五郎は触手に翻弄されていた。

「それなら任せて! 志穗さんを飛ばすね」
「「え?」」

 ルカルカは突然ショックウェーブを放ち、周りの触手を全部無効化する。
 無効化しそこなった触手は甚五郎が処理する。
こんどは、空飛ぶ魔法↑↑を詩穂にかける。
「今だよ!」
「あ、そういうことですね。いきますっ!!!」
 詩穂は一息いれると、空飛ぶ魔法の勢いも合わせ、触手の核へ向かって一気に剣を貫いた。
「ギュルルルククククーッ!!!」
 不気味な悲鳴が響き渡る。
 触手は次々に地面へと落ちていった……。