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【ぷりかる】死せる竜の砦

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【ぷりかる】死せる竜の砦

リアクション

「さて、道を切り開きますよ!」
 
 御凪 真人(みなぎ・まこと)のサンダーブラストが、スケルトン兵を粉砕する。
 朱鷺や甚五郎達とは別の場所。
 ここは、シェヘラザードを含む本隊である。
 やはり死せる竜の砦の内部構造に阻まれながらではあったが……少なくとも、戦力的には一番である。
 実際、ここまでも然程の危険も無く進撃できてきていた。
 もっとも、それが順調の証かと言えば別だと真人は思う。
 順調に足止めされている、という可能性も存分にあるし、何よりも……と、真人はオルヒトへと振り返る。

「何か?」
「……いえ」

 機関長と副機関長。
 一つの組織でありながら一つの状況を巡って対立する必然性。
 それでも問題ないのか、それとも機関長と副機関長の2人、目的自体は同じでそれに至る方法を変え、目的達成の確率を上げているのか?
 少々考えすぎる人間なせいか、無償の手伝いが真人には胡散臭く感じてしまう。
 だが、と真人は思う。
 オルヒトが何を考えているにせよ、今回のシェヘラザードの護衛態勢は、前回以上に堅牢だ。
 たとえ敵の懐であろうとも、そうそう遅れはとらないはずだ。

「それにしても本当に手際がいいと言うかなんと言うか。本当に厄介な連中ですね、ネバーランド」
「この砦のことかい?」

 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)の言葉に、オルヒトが楽しそうに笑う。

「ネクロマンシーの応用で骨で砦を築きましたって今回の作品は今まで以上に悪趣味極まりないですね」
「ああ、確かに趣味が悪い。趣味は悪いが……ここで、これだけのものを作れるだけの人間が死んだというのも、実に恐ろしい話だね」
「フェイターンと戦って死んだ人達の骨……ってこと?」
「その通りだとも」

 ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)の疑問に、オルヒトはそう答える。

「そもそも、何故この砦が常に姿を変え続けるのか。それは、あれに秘密があるのだろうね」

 そう言ってオルヒトが指を指す先は……正面。
 そこに組みあがっていくのは、ただのスケルトン兵の姿とは違う何か。
 そう、例えるなら……竜の頭部。

「いけない! 全員、横道へ退避を!」
「こっちだよ!」

 真人の言葉に、アリアクルスイドはシェヘラザード……の憑依したアーシアを横道へと慌てて引っ張り込む。
 次の瞬間、アリアクルスイド達がいた通路を眩いばかりの雷が埋め尽くしていく。
 雷のブレスを吐く竜骨の頭部。
 その正体に、涼介達は何となく気付いていた。

「使われている竜の骨は雷竜の物も含まれているのかな?」
「雷竜……悪竜フェイターン、ですか」

 清泉 北都(いずみ・ほくと)の呟きに、クナイ・アヤシ(くない・あやし)はそう答える。
 もし、その骨がこの砦に使われているというのならば、無尽蔵にスケルトン兵を生み出している砦の魔力にもある程度の納得がいく。

「骨となっても、未だに戦い続けているのだよ。それが、この砦の流動性を生み出す要因となっているのだろうね」
「それは……もはや悪趣味とか言うレベルじゃ済まされないわよ」

 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、その言葉に明らかな不快感を示す。
 前回の古代呪術研究所も相当であったが、今回の砦を作った者も相当の下衆だ。
 これを作ったのがガルデなのかドニアザードの部族の者なのかは不明だが……やってはならない領域である事を、さゆみは感じていた。

「……確かに、ネクロマンシーとしては恐ろしいまでの出来栄えね。シボラのネクロマンサーとしての誇りがあるなら、こんなものは作らないけどね」

 何か言いたげなアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の代わりに……というわけではないだろうが、シェヘラザードはそう口にする。
 大英雄と、英雄達の末裔であるシボラの部族であるならば、その犠牲となった亡骸達をこんなものに使おうとは思わない。
 つまり、この死せる竜の砦が存在するという現状は……ドニアザードの部族の暴走の具合を測るパロメータであるとも言えた。

「悲劇は……繰り返させません」

 アデリーヌの言葉に、さゆみも頷く。
 思い出すのは、古代呪術研究所に蠢くなれの果て達だ。
 この死せる竜の砦の光景は、あの光景をアデリーヌ達に連想させていた。

「……でも、さ」

 現れたスケルトン兵を砕いたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が、そう言って振り向く。
 彼女の近くでは、チムチム・リー(ちむちむ・りー)が骨の扉の鍵を調べている。
 どうやら扉の鍵まで魔法の鍵というわけではないらしく、チムチムのピッキングが充分に通用していた。

「英雄が突如亡くなったのは女王器の副作用だとしたら、ドニアザード部族がやろうとしてる事は危険じゃない?」
「……それでもいいと思ってるのかもしれないわね」

 レキに、シェヘラザードはそう呟いて返す。

「あたし達は、短命だから。短い命が更に短くなったくらいで、構わないと考える奴もいるかもしれないわ」

 少しだけ憂鬱そうな目で語るシェヘラザードに、レキもアデリーヌも言葉を見つけられない。
 生きている間に何かを成そうとしてこうなった可能性もある……ということなのだろうか。
 しかし、そうだとすれば……それを唆したガルデという男は、更に許されない事をしている。

「開いたアル」
「……ん、行こうか」

 チムチムの言葉に、レキはそう言って一歩前に出る。
 それぞれに、それぞれの事情がある。
 それぞれに、それぞれの理想がある。
 それでも、自分が正しいと思う事の為に進むしかない。

「今度こそ、守りきる」
「ええ、とことんいきましょう。腐れ縁も、ここで全て解消してしまいましょう」

 北都の言葉に、涼介も頷く。
 そう、やる事は何も変わらない。
 戦いを、止める。
 シェヘラザードの身体を取り戻し、アーシアをも目覚めさせる。
 望むものは、それだけなのだから。