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第八章 ネタバレ:犯人はヤツ

――掴めそうでいて掴めない真相。まるで霧の様に手に収まったかと思うと消えてしまう。
 もう一度真相を探る為、ななな達は現場へと戻ってきたのだった……

「ところで散々モノローグやってるけど、これなななが呟いているって体だって気付いた人何人いるかな?」
「誰もいないと思うよ」

「――と、いうわけでもう一度現場を見た方がいいと思うの。ほら、現場百回って言うじゃない?」
「そんなことしなくても、ボニーさんの証言で間違っていないと思うけど」
 目を爛々と輝かせて語る布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が呆れた様に溜息を吐く。

――佳奈子は『何故小暮がスライダーに上ったのか』という点について着目した。
 それに関してはボニー、というか小暮自身が遊ぶためと証言しているのだが、佳奈子曰く、
「もし犯人が居たとしたらきっと口止めしているに違いない!」
とのことである。
 佳奈子の案をエレノアは「それは証言が正しいんじゃ……」と止めたのだが、それに対して「その証言、鵜呑みにしていいのかな?」となななが乗ってしまったのが運の尽き。
 そんなわけで、佳奈子とエレノアはななな一行を伴いスライダーへ向かっていたのであった……

「もしかしたら犯人が小暮さんを騙してスライダーを利用するように唆したとか、指示を出したとか色々考えられることはいっぱいあるよ?」
「なんで小暮君の証言通りって発想は無いのかしら……」
 頭を押さえるエレノアに、『気持ちはわかる』とアゾートとボニーが肩を叩いた。
「……あら?」
「どうしたの、ボニー?」
 突然辺りを見回したボニーに、なななが声をかける。
「いえ、スライダーの方から声が……」
 ボニーの言葉に皆が耳を澄ませる。
「……佳奈子、聞こえた?」
「うん、なんか女の子っぽい声が聞こえるよ」
 エレノアに佳奈子が頷く。
「けど何言っているかはちょっと聞こえないね」
 少し渋い顔をするアゾートに、やはりなななも顔を顰める。
「うーん……なんか『たたりじゃー』って言っているように聞こえるけど」
「そんなわけが……いえ、何かそんな風に聞こえますね……」
 ボニーの言う通り、良く聞くと『大明神のたたりじゃー』と叫んでいる声が聞こえた。その声はスライダーの方から聞こえていた。
「一体誰がそんなことを……あ」
 一同が首を傾げながらスライダーへ向かうと、
「た、たたりじゃー……あ!」
プールサイドで声を上げているクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)が居た。恥ずかしいらしく顔を真っ赤にしている。当然だろう。
「あ、あの皆様……えっとその……」
 何と言っていいかわからない様子で口ごもるクレア。
「何してるの……ってちょっと!?」
 一同の目に、クレアの横にあるとんでもない物が映る。

――それは人間の下半身であった。プールの水面から足腰がぷかりと浮いている。どうやら女性であるようだ。

「ど、どうしたの!?」
「い、いえ、それがその……」
 やはり何を言えばいいかわからない様子でクレアは口ごもっていた。
「と、とにかく助けないと!」
 そう言ってアゾートがプールサイドに近づいた、その瞬間であった。
「――え?」
 浮いていた下半身がくるりと回転すると、上半身が現れた。上半身は現れるなりアゾートの両足を掴む。
「なぁッ!?」
 抵抗する間もなくプールへと引きずり込まれてしまうアゾート。
「あ、アゾートさん!?」
「何!? これ何事!?」
 突然の事に混乱する佳奈子とエレノア。
「遂に尺稼ぎにホラーになったか……」
 何故か考え込む様子を見せるななな。
「あーあ……もう知りませんよ……」
 その横で、一人事情を知っているような感じでクレアが溜息を吐いた。
「な、何!? 何!?」
「アゾートちゃん! お願い本当の事を吐いて!」
 混乱するアゾートの両肩を掴み、そう言ったのはレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)
「き、キミいきなり何するの!? 本当の事って!?」
「私知ってるの! 私とアゾートちゃんの百合な禁断の関係を、あの軍隊オタクの小暮に気づかれたってことを!」
 レオーナが叫び、その場が凍りついた。
「……え、アゾートさんそうだったの?」
「そっちの人だったのね、あなた……」
 意外そうな目でアゾートを見る佳奈子とエレノア。
「違うよ! ボクはヘテロでノーマルだよ!」
 アゾートが必死に叫ぶ。
「……そんな……小暮君って軍隊ヲタだったの!?
「え、そっち!?」
 なななは相変わらずマイペースだった。
「お願い自首して! 私達のめくるめく愛の関係をバラされそうになって、やむなく殺害したってのはもうわかってるの!」
「それが事実じゃないってことをまずわかってよ!」
「大丈夫! 私も一緒だから! 一緒に手錠と鎖で縛られよう!」
「一人で縛られて! ボク巻き込まないで!」
「……そう、わかったよ」
「ああ、やっとわかってくれたの……」
「アゾートちゃん、服を脱ごうか」
「何にもわかってないよ!?」
「証拠がそこに隠されているのは知ってるの! 裸体とか裸とかヌードとか一糸まとわぬ姿とかあられもない姿とか!」
「言葉変えてるけど全部裸って意味だよ! そりゃ隠すよ!」
「えぇいまどろっこしい! とりあえず脱がす!」
「ちょ……ほ、ほんとに脱がすなぁー! ぬ、脱げる! 脱げちゃうから!」
 脱がしにかかるレオーナに必死に抵抗するアゾート。その光景をプールサイドでただ茫然と眺めている一同。
「ウブなネンネじゃあるまいし抵抗しない! どんなに隠したって寝室はいつも一つぶぅあッ!?」
 ゴン、と大きな音が響くと、騒がしいのが止まった。
 そのままアゾートがプールサイドにまで戻ってきて這い上がると乱れた衣類を直す。
「あの、大丈夫ですか?」
「……危うくパンツまで脱がされるところだった」
 ボニーの問いに、ぽつりとアゾートが呟く。
 当のレオーナはどうしたかというと、巨大なタンコブを頭に作りぷかりと水面を浮いていた。
「……自業自得ですね」
 大きくクレアは溜息を吐くと、レオーナを引き上げそのまま連れて行った。最後までレオーナは動かなかった。
「随分と騒がしいな」
「何かあったのかい?」
 騒ぎを聞きつけたのか、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が駆け寄ってくる。
「む、びしょ濡れじゃないか」
「……何かあったのかい?」
 びしょ濡れになったアゾートを見て、ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)熊谷 直実(くまがや・なおざね)が尋ねる。だが、
「お願い……聞かないでくれる?」
疲れたような顔でそういうアゾートにララと直実もそれ以上聞けなくなった。
「ところでみんなどうしたの?」
「ああ、ワタシ達は現場検証を行いに来たんだよねぇ」
 なななの問いに弥十郎が答える。
「現場検証?」
 うむ、と今度はリリが答える。
「依頼人は嘘を吐く物さ。それが嘘とは知らない内に、な。証言ばかりに頼っても真実は見つからないのだよ」
 続いてララが口を開く。
「その為物証を重ねる必要があるのさ」
 その隣で直実が頷いた。ハードボイルドっぽく。
「……というわけで、スライダーを使いたいんだけど」
「構わんな?」
 弥十郎とリリがボニーに問う。
「は、はぁ……あの……その方は?」
 ボニーがおずおずと『あるもの』を指さす。
「ん? ああ、検証は確実にやらないとねぇ」
「確かな検証を行うには必要なのだよ」
 そう言って弥十郎とリリが『あるもの』をちらりと見る。

――それは先程なんやかんやあって、半分以上ナラカに足突っ込んだ瀕死状態の小暮であった。

――デッドリスト入り、現在16名+1.8名