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第5章 ジャウ家の住人 ―ムシミス

「……は?」
 ムシミスは、理解できないといった様子で結和の顔を見る。
「あああの、出過ぎた事を言って申し訳ありません。ですが……このままじゃ駄目だって、ムンミスさんも本当は分かってらっしゃいますよね?」
 結和は、ムティルの部屋を出たその足でムシミスの所に話に行っていた。
 ジャウ家の今の状況。
 このままにしていたら、家がなくなって旅に出ているお爺様の帰る所も無くなってしまう。
 没落した家を建て直すために、兄弟二人で力を合わせてもらえれば…… そう、思って。
 しかし。
「何を言っているのか理解しかねます」
 ムシミスから返ってきたのは、不快そうな口ぶりの言葉。
「大体、いけないってどういう事ですか? ジャウ家は何も問題なく、使用人も働いているじゃないですか」
「あの、ですから経済状況が……育児だって、お金がかかるし」
「人が数人増えるくらい、何の問題があるんでしょう」
 話し合いは平行線だった。
 ムシミスは、結和が思っている以上に、いや比べるまでもなく状況を理解していなかったのだ。
「万が一、このまま家がなくなっても兄さんと一緒にいられなくなるわけじゃありません。なら、何の問題もないじゃないですか」
「えぇい、じれってえ!」
 あまりにも噛み合わない会話に、たまらず占ト大全が乗り出す。
「結和ちゃんは優しく言ってるけどな、俺は違うぜ。現実見ろぃ!」
「……煩いですね」
 怒鳴られ、ムシミスは嫌悪を露わにする。
「働けって言ってんだ」
「はたらく?」
 首を傾げるムシミスに、占ト大全はあちゃーと舌打ちする。
 つい先程、ムティルに対しても同様の事を言った時、『その発想はなかった』という同様の反応をされたから。
(全く、これだからボンボンは……)
 心の中でぼやく占ト大全を無視して、ムシミスは結和に冷たく突きつける。
「それから、僕の名前はムンミスではありません。ムシミスです」
「あっ……」
「まあまあムシミス様、落ち着いてください」
 芳香。
 ムシミスの目の前に、ハーブティーの入ったカップが差し出された。
「まずは温かいハーブティーでも」
「……ありがとうございます」
 シエロ・アスル(しえろ・あする)は、ハーブティーを口にしたムシミスが落ち着いた所を見計らって声をかける。
「結和様は、ムティル様ときちんとお話をしてはとおっしゃりたいのでしょう」
 ムシミスはシエロの方を見る。
 しかし何も言わなかった。
「私も、同じ意見です。お二人がこのように気持ちを静めている様を見るのは、悲しいのです。結和様も、きっと」
「……そうですね」
 シエロの言葉に素直に同意の意志を見せるムシミス。
「兄さんと話をするのは、別に構いません。むしろ、兄さんからのお話なら聞かない訳ないじゃないですか」
 ムシミスの前向きな返事に、シエロはほっと胸を撫で下ろした。