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冬のSSシナリオ

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リアクション

 
 
『Feliz Natal!!』
 
 
 
 飛行機のタラップから、じりじりと太陽の光を反射するアスファルトへと足を踏み出す。
 空を見上げれば、どこまでも広がる空に眩い太陽。

「……ただいま」

 自分にしか聞こえないような声で、故郷へと挨拶をする。

 飛行機を乗り継いで富永 佐那(とみなが・さな)は故郷であるブラジルへと帰ってきていた。久々の長旅で体のあちこちが悲鳴を上げていたが、一歩故郷へと足を下ろせばそんな疲れも吹き飛んでしまった。
 懐かしい、少し乾いた大地の匂と眩しすぎる太陽の輝き。
 高揚する気持ちとともに足取りも軽くなりながら、キャリーケースを引っ張り空港内を足早に通り過ぎる。
 タクシーをつかまえて実家の近くへと向かう。窓から眺める街は、すっかりクリスマスモードになっていた。
 カーニバルで有名なリオ・デ・ジャネイロや美術館が多数あるサンパウロなどがあるブラジルのクリスマスは夏に訪れる。季節が日本と反対なこともあって、向こうを出発する際に着込んでいたコートも今はすっかりキャリーの取っ手の日除けに様変わりしていた。
 ここ、首都ブラジリアでも同じようにクリスマスの飾り付けがあちこちで行われている真っ最中だった。
 空港から車で十数分ほどでブラジリアの中心部へと到着する。
 連邦直轄地区であるブラジリアは、人造湖であるパラノア湖のほとりに、まるで飛行機が羽根を広げて空中へと飛び立っているような形に作られた都市だ。飛行機の機首に見える部分に行政庁舎や国会議事堂、最高裁判所などがあり、翼の部分には各国の大使館や高層住宅が立ち並んでいる。また居住区や商業区も厳然と分けられていて移動が不便なこともあり車がとても多く、自動車道と歩道が完全に区別されている。近未来的な建物も多く、世界遺産にも登録されている。
 佐那の家はパラノア湖の北側に位置しているのだが、そちらには戻らず、市街地にあるマンションへと戻ることに決めた。
 家は嫌いではない。家族も大好きだ。
 だが、生まれた瞬間からロシアンマフィアの血筋という肩書きを持ってしまっていることもあって、祖父らとともに過ごす家という場所は何となく近寄りがたくもあった。祖父がマフィアという職業柄、そこが本当の『家』と呼べるのか分からないが。

 契約者になる前、親子で暮らしていたマンションへと荷物を放り、薄着に着替えて佐那は早速街へと繰り出した。
 佐那の住む居住地区からさほど離れていない場所に広場がある。
 何だか賑やかな声が聞こえてきて佐那は広場へと足を向けた。

「あ、佐那ねーちゃん!」
「ホントだ! 佐那ちゃんだ!」

 広場に集まっていた子どもたちが佐那に気付き集まってくる。懐かしい顔はマンションの近所の子どもたちで、よく面倒を見たり遊んであげたりしたものだ。

「おや! 佐那ちゃんじゃないか!」

 小さい子もいればお年寄りまで。久々に会わせる懐かしい面々に佐那は帰ってきたんだなぁと実感していた。

「実はまだこっちの広場の飾りつけが終わってなくてね。せっかく帰ってきたところ悪いけど佐那ちゃんも手伝ってくれるかい?」

「もちろんお手伝いしますよ!」

 にっこりと笑顔を返して、子どもたちと一緒にツリーの飾りを手に取った。
 広場に設置された大きなツリー。
 ツリーといえば、サンパウロ市ではクリスマスツリーの大きさを競うように年々派手になっていっているそうだ。巨大なツリーがイビラプエラ公園に設置されたり、また各銀行がこぞって店舗そのものをクリスマス風にデコレーションするのでクリスマスの時期は観光名所になるんだとか。
 そんなことを思い出しながら子どもたちと飾り付けをする佐那の目に、ツリーの反対側で一人で黙々と飾りつけをしている女の子が目に入った。
 目が隠れてしまうほどに長い髪はぼさぼさになってあちこち跳ねており、少し大きめのシャツから覗く手は静脈の青が透けるほど白い。

「ねぇ、そんな端っこにいないで、こっちに来てみんなで飾りつけしましょう?」

 佐那が声をかけると少女はふるふると首を振る。
 不思議に思っていると男の子が声をかけてきた。

「佐那ねーちゃん、ほっときなよ。あいつずっとあんな感じなんだ」
「先月転校してきたんだけど、遊ぼうって声かけても全然だし、暗いし。何考えてるか分かんないんだよな」

 子どもたちの言葉を聞いて、佐那はすっくと立ち上がり、女の子の元へ向かった。

「ねえ、私もこっちで飾りつけしてもいいかな?」

 佐那が笑顔で声をかけるが、少女は一瞬ビクリと肩を震わせた後、おどおどと飾りを持ったままうつむいてしまった。

「ごめんねお姉ちゃんがこっちにいたら、迷惑かな?」

 しゃがんで少女の目線の高さに合わせると、少し戸惑いながら消え入りそうな声が耳に入る。

「お姉ちゃんの言ってることが、分からないの」