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リアクション
★第六話「人生とは、難しいものである」★
撮影が一時中断ということで、及川 翠(おいかわ・みどり)と徳永 瑠璃(とくなが・るり)は楽しげに機械や備品などを見て回っていた。
「わぁっすっごく大きいカメラなのー!」
「ここが実際のスタジオなんですね……何だか珍しい物がいっぱいです!
あっ、翠さん。壊したりしちゃダメですよっ!」
「分かってるの〜」
翠はきょろきょろと見回し、関係者とみられる男に駆け寄って話しかけた。瑠璃も後をついて行く。
瑠璃は「もふもふ枠」として連れてこられたのだが、好奇心が勝って人型のままだ。
「ねぇねぇ、このカメラとか触ってみても良いの?」
「む?」
話しかけた関係者――上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)は、少し動きを止めた。景虎は臨時バイトなので、「待っていろ」とまた別の関係者に指示を仰ぐ。
「え? ああ、社長の招待客さんか。構わないよ。なんならレンズ覗いてみるかい?」
「わっありがとうなの」
「ありがとうございます」
嬉々としてスタッフの注意を受けつつレンズを覗き、喜ぶ翠と瑠璃。
というより、なぜ景虎はここでバイトをしているのか。
このスタジオには景虎だけでなくリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)とンガイ・ウッド(んがい・うっど)もいるのだが、五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)はいない。彼は体調が悪化したため、留守番をしている。
「東雲は体調不良のあまり起き上がるのも難しい。何もしてやれない我が身のなんとふがいない事か。
早くこの時代に慣れ、東雲の手助けとならねば」
そう考えた景虎が『かめらまん』のバイトをするためジヴォートに直に交渉。
番組作成のかなめとも言えるカメラマンに臨時バイトを雇用するのは、という反発もスタッフ内からあったが、今回は動物たちをかなり自由にさせながらの撮影ということで、動物撮影用の小さなカメラを任せ、ひたすら動物撮影に集中してもらうことにしたのだ。
「あの『じぼーど』とか言う男、話せば分かる奴で助かった」
カメラを手にして、動物たちをひたすらに映していく。これも東雲にもふもふ映像を届けるため。
「はいはーい、次の方はこちらで手を消毒してから入ってねー。ご飯やおやつはお腹壊しちゃうからあげないでー」
リキュカリアは、動物たちの柵の出入口で入場制限をしていた。あまり大勢が入ると、動物たちのストレスになるというのが1つ。もう1つは、中に入る人数を管理することで万一(動物たちの連れ去りや恋に怪我をさせる)を起こしにくくするためだ。
(アルバイトか……アルバイト……実は初めてだったり。
地球に居た頃は自分で食料調達(山で狩り)してたし、寝る所とかお風呂とか利用できる施設いっぱいあったから、困らなかったしなぁ)
初アルバイトにどきどきしつつ、雑用をこなしていた。うなみにンガイはというと
「もふもふ特集の番組なら、我が出られないのはおかしいのである!
我がエージェント(=東雲)がおれば、このような待遇にはならなかったものを……!」
ブツブツ文句を言いながら、照明の手伝いをしていた。本当は番組に出ようとしたのだが、何をしでかすか分からないから却下されたのだ。
誰にか。
「魔女もネガティブ侍も、我に対して厳しすぎるのである!」
こうなったら……とニヤっと笑うンガイ。うむ。悪い予感がする。
「犬さんに猫さんに……うぅっ、みんなまとめてもふもふ〜♪」
ようやく中へと入ることができたミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)は、それはもう存分にもふもふを堪能していた。
「たくさんのもふもふの気配があるとは思ってたけど、こんなにいるなんて。幸せ〜」
もふもふの気配ってなんですか?
という疑問はさておき、犬猫、はたまた珍しい動物たちを存分にもふもふしていたミリアだったが、離れていくもふもふの気配を感じ取って顔を上げた。
いや、だからもふもふの気配って何?
視線の先には、大きなカバンを手にスタジオを出て行こうとしている者がいた。胸からはスタッフ証をさげている。しかし気配を探るに、もっとたくさんのもふもふがスタジオから運ばれているようで……どうにも怪しい。
動物たちを他の場所へと連れて行く際には、細心の注意を払って傷つけぬよう、ストレスを極力与えぬようにしていたし、何より出演者や観客にもその旨を伝えていた。だが今回は何も言ってないし、扱いが雑だ。
となれば
「させないわ!」
ミリアはもふもふの誘拐かもしれない、とその気配を追うことにした。
「あ、ミリア! 見て見てなの! 今カメラを」
「ちょうどいいところに。行くわよ! もふもふのピンチなの」
「何かあったんですか?」
途中で翠と瑠璃を拾い、ミリアはわたげうさぎの「杏」に命令して、わたげうさぎたちに大行進させて犯人(候補)たちを追う。
しかし追いかけてくるミリアたちを見て舌打ちし、外へ外へと向かうその姿と、何よりも
「あれ? ここどこ……あ。翠さんたちだ〜」
抱えられた動物の中には翠たちのパートナー、稲荷 さくら(いなり・さくら)がいた。例のごとくもふもふ要員として連れてこられたのだが、
(ここって……何かな? とりあえず広くて変わった場所だけど。……えっ、スタジオさん?
スタジオさんって、どんなとこ?)
とよく理解しないままうろうろして、よく理解しないまま犯人(確定)に連れ去られたようだ。
もふもふされている状態なためか、非常にのんびりとしている。
「待っていろ東雲。今もふもふの映像を……ん?」
景虎はカメラでひたすらに動物たちを撮影していたが、スタジオを駆け回るわたげウサギたちに気づき、そちらにもカメラを向けた。
後々放映された際には、どこかの動物園でこの光景の再現がされて人気が出たとかいないとか。
「悪いことするのは駄目なのー!」
「もふもふをさらうなんて、覚悟はできてるのよね?」
「おしおきです!」
もちろん、誘拐犯たちにはきつ〜〜〜いおしおきが待っていた。
「ふふ。さくらさんは凄く可愛いですね。もふもふです!」
「ありがとう〜」
「柚、さくら、海。はい、こっち向いて〜」
さくらも怪我なく無事で、いろんな人にもふもふされて満足していた。
◆
撮影の方は、再びゲスト紹介へ。
もふもふした白い毛。引き締まったボディ。会場からあがる悲鳴。
「もふりたい生き物ナンバー1のウォドー・ベネディクトゥス(うぉどー・べねでぃくとぅす)様だ! 見よ! この肉体美!」
頭部が白い毛玉で肉体が人間なその生物は、カメラに向かってポーズを決めた。再び悲鳴が上がる。
「きゃー」
「きもーい」
「俺様をもふりたいだと? いいぜ、もふってみろよ!」
誰もいってなーい。
気持ち悪いと言われてもウォドーはめげない。きっと、お茶の間ならば理解してくれると心の底から信じていた。
ボディビルダーのように、数秒毎にポーズを変えて猛アピールしていく。
「え、えっと」
さしものジヴォートもこれには困ったのか。しばし放送事故のようになってしまった。
「……ハイ。ウォドーさん。ありがとうございました。以上」
「はっ。あ、ありがとうな」
エリスの声にハッとしたジヴォート。エドワードが「一端ゲスト紹介終えて、動物の紹介を」とカンペを出す。
「っとと、この番組の主役である動物たちも紹介するな。ルナー?」
ジヴォートがそう呼びかけると、ディスプレイが変わり、青い髪と目の少女のドアップが映し出される。
「はぁい、まず最初の動物さんたちをお連れしたのですよぉ」
元気な声と共に、牧神の猟犬の頭の上に乗ったルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)が現れる。犬とヒポクリフにはひもがつながっており、引っ張っているのは大きな箱だ。中に動物がいるらしい。
「ここでクイズなのですぅ。この動物さんは誰でしょう?」
「少しずつヒントをお出ししますので、分かったら挙手をしてジヴォートさんに耳打ちしてください。以上」
「じゃあ、ルナ。まず最初のヒントを頼む」
「箱の大きさがヒントなのですよぉ」
大きいとは言っても、高さは1m。横と縦は1m30cm。下に滑車がついているのだが、動きが重そうだ。
だがさすがにそれだけでは中々分かりにくい。
「次のヒントです。とてもゆっくりさんなのですよぉ」
「……なるほどね。このこじゃないかしら?」
1つ頷いたセレアナが手を挙げ、メガホン越しにジヴォートへ答えを言い、
「正解! すごいな」
「えっ? 正解だったの?」
驚くジヴォートとともにセレンフィリティも目を見張っていた。他にもグラキエスやサ・ルルー、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)らが正解した。
「正解は……じゃじゃん! パラミタ・リビンノ! すっごく力持ちなカメなんだけど、すっごく鈍いんだ。でも愛嬌があって、結構可愛いんだぜ」
「目の間辺りを撫でてあげると喜ぶんですよぉ」
箱が取り払われて姿を現した亀は、のろ〜、のろ〜と動きだし、しばらく経ってから「まぶしっ」と言わんばかりに目を手? で覆った。覆う動作自体は早いのが面白い。
もちろん毛がないのでもふもふではないが、顔には確かに愛嬌がある。
「次の動物さんはヒポグリフさんと、パラミタ猪さんですぅ。無理矢理に触ったりしなければ大丈夫ですよぉ〜♪」
どんどんと動物たちの紹介が続く。
さて、動物の紹介となれば三郎景虎の出番だ。カメラが動いて行き、とある黒豹を映した。
「どうです? この後お茶でも行きませんか?」
カメラは声を拾い上げる。誰がしゃべったのかと言うと、黒豹だ。
黒豹はまだ幼い猫に向かって話しかけていた。実はこの黒豹(本人は黒猫と主張している)、シアン・日ヶ澄(しあん・ひがずみ)なのだ。
シアンが一体何をしているかと言うと、まあ、誰がどう見ても……ナンパだろう。
そしてジヴォートや動物にくわしい者たちは気づく。シアンがくどいているのは、まだ幼いものたちであると!
スタジオに衝撃が走る。
だが当の本人とカメラマンはまったくそんなことを気にせず、どころかカメラ目線でこう言った。
「下は幼稚園から。上は小学五年生までの幼女大歓迎です!」
ロリコンだー!
ふふ。この番組を見た幼女が私を求めてきたらどうしよう、触られるだけで大興奮、妄想だけで涎が出てしまいますね。
という妄想が全て口に出たシアンだったが
「ふふ。この番組を見たピーがピーを求めてきたらどうしよう、ピーられるだけで大ピー、ピーだけでピーがピーしてしまいますね」
と、ピーまみれの発言となった。
「こうなったら出演者のやつらに悪戯してやるのである……!」
番組に出られないことをねたんだンガイによる悪戯だ。元の発言もアレだが、ピー音があると余計にアレだ。
その事態に怒ったのは景虎だった。せっかく東雲のために撮影したと言うのに、音のせいで台無しだ。
「そこになおれ、物の怪め!」
カメラを守りつつ、ンガイをこらしめようとした景虎だが、それを見ていたリキュカリアが2人の暴走を食い止めようと、
「ちょっと2人とも! そこまでにしなさいよ!」
雷霆ケラウノスを振るった。手加減? ナニソレ美味しいの?
「こら、バイト! 何遊んでんだ!」
そして3人揃ってスタッフに怒られた。
「……社会勉強は難しいな」
◆
「マスター。飼い主としての責任は果たしてください」
「さて。なんのことだか分からないな」
呆れた口調で言うエリー・モリオン(えりー・もりおん)に、瀬乃 和深(せの・かずみ)は心の底からエリーが何を言っているか分からない、という顔をした。
和深はウォドーとシアンの飼い主、というとあれだが。まあ、ここに2人を連れてきたのは和深だった。
しかし
「俺様ってかっこいいだろ?」
「さあ、怖がらずに私と」
自由気まますぎるパートナーたちを見て、他人のふりをすることを決めたらしい。スタジオの隅で、缶コーヒーを飲みながら静かに見学している。
最初こそ、そんな態度をとがめたエリーだったが、見ているうちに段々と和深の気持ちが分かってきたらしい。
「ん? どうかしましたか?」
近寄って来た動物たちと触れ合って、癒される(=現実逃避する)ことにした。
「あの、すみません。あなたたち、さっきあの2人と一緒にいましたよね? どうか止めていただけませんか?」
「悪いけど、知りあいじゃないからできないなぁ」
「ええ。他人ですので」
「そうですか……はぁ、どうしたものかな」
とりあえず、ウォドーとシアンは眠った状態(強制)で外へと運ばれることになった。
「いやほんと、誰が連れてきたんだろうな」
「ほんとですね」
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