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摩利支天の記憶

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摩利支天の記憶

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 1 

 しほりを救出するべく正名村に向かった一同は、早速『摩利支天の像』を探し始めた。しかし、その捜索は難航していた。村の隅々まで割かしても何も見つからなかった。
「一体どこにあるのでしょう」
 竜胆が困惑気味につぶやく。こうしている間にもアカシックとの約束の期限が迫っているからだ。
「済まぬ」
 風太郎が頭を下げた。
「私が何も思い出せぬばかりに……気ばかり焦って何も思い出せぬのだ」
「そんな風に自分を責めちゃダメだよ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が風太郎を慰めた。
「こんな時に落ち着ける人なんかいないよ。傍に居なかった自分を責めたり、しほりさんの安否が心配で堪らなくて当たり前だもん。今は、しほりさんを助ける事だけを考えよう? その為にも記憶を辿って欲しいのよ。しほりさんを助けるために、ね。一緒に頑張ろう」
 ルカルカはそう言うと風太郎を優しく抱きしめた。
「ルカルカさんの言うとおりです。ゆっくりと思い出しましょう」
 竜胆も言う。
 その言葉で風太郎の表情が和らぐ。少し、落ちついたようだ。それを見計らってルカルカが尋ねた。
「ねえ、風太郎さんは子供の頃はどんな遊びをしていたの?」
 風太郎は答えた。
「村のガキどもと外を駆け回っていた。しほりはああ見えても男勝りでな、私などよく泣かされたものだ」
「へえ……。じゃあさ、正名村の名所とか知ってる? 何かおもしろい建物とか見所とかある?」
「名所といえば『陽炎神社』だろう。屋根の上に太陽と月を模した鏡が飾ってあって子供心におもしろいと思っていた」
「陽炎に太陽と月?」
 ルカルカが反応する。
「知ってる? 摩利支天は陽炎の神格化で、その名は太陽や月の曲線を意味するのよ」
「え?」
 竜胆が驚いた。
「では、この村は元々摩利支天を祀っていた村かもしれないということですか?」
「かもしれないわね。ねえ、風太郎さん。この村の名前の由来とか知っている?」
「いいや。そこまでは知らぬ」
 風太郎は首を振った。
「とりあえず、その神社にいってみませんか?」
 竜胆が言う。
 こうして一同は陽炎神社に向かった。

 神社の跡地は全て焼き尽くされて何も無くなっていた。数年前に魔物に襲われ全て焼き尽くされたらしい。
 しかし、見晴らしのいいその場所はちょっとした展望台になっていて、眼下の少し離れた場所に小高い丘が見える。
「子供の頃、この神社で日暮れまで遊んでいたものだ」
 風太郎が懐かしげに言う。
「夕暮れになると、あの方向に夕日が沈むのがはっきり見えてな。秋にはあの丘に咲き乱れていたセイタカアワダチソウの花が夕日に映えて黄色に色づいて……」
 そこまで言うと風太郎はハッとしたように言葉を止めた。
「どうしたの? 風太郎さん?」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)がたずねる。
 すると、風太郎が答えた
「そうだ。黄色い山。黄色い花の咲き乱れる丘……あの丘だ。あの丘が黄色い山だ」
「本当ですか?」
 カムイ・マギ(かむい・まぎ)の言葉に風太郎はうなずく。
「間違いない。像はあそこにあるはずだ」
「だったら早速行ってみましょう」
 カムイがいう。しかし風太郎は首を振った。
「無理だ」
「どうして?」
「あそこまで降りる階段が崩れている。空でも飛ばなければあそこには行けない」
「それなら、大丈夫です。私達は小型飛空挺を持っていますから」