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仇討ちの仕方、教えます。(前編)

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仇討ちの仕方、教えます。(前編)

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   第十一幕

 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)は、紫月 唯斗に言われ、奉行所へ向かった。町に出入りする人間を調べるためだ。
 が、ただ通り過ぎたり観光目的の人間は、もちろん調べようがない。住人については届け出がされているが、この量を調べるのは一日二日で出来ることではない。偽名を使っている可能性もあるから、一人一人当たるしかないのだ。
「――無理でしょう、これは」
 プラチナムは嘆息し、立花 十内の似顔絵を懐に突っ込んだ。
 健吾たちが襲われたのは、昨日のことだった。卓兵衛は傷を負い、今は寝込んでいる。千夏は行方が分からない。
 襲撃犯は十内の仲間だ、というのが健吾の意見だった。なるほど、普通に考えればそうだろう。だが、千夏を攫ってどうすると言うのだ?
 琢磨が危惧した通り、十内が千夏に恋慕の情を抱いていたとしよう。それならば、邪魔者である健吾たちを排除し、千夏を誘拐したことも頷ける。――だが、唯斗が千夏から聞いた十内の人物像とはかけ離れている。とはいえ、五年も逃亡生活を送っていれば、性格も変わるかもしれない。
 判断材料が足りない、とプラチナムは思った。決めようがない。
 わんっ、と子犬の声が聞こえた。新しい芝居を宣伝しているらしい。
 どうせ調査は無理なのだから、考えるついでに芝居見物も悪くないとプラチナムは思った。


 染之助演じるヒロインは、女であるに関わらず、剣術を好むことから変わり者と言われてきた。剣術家である父親は、そんな娘に己の持てる技量を全て教え込んだ。
 父親役は耀助だ。どうせなら染之助の恋人役がいいと駄々を捏ねたが、依頼を出した張本人である以上、責任を取れと周囲から言われ、渋々から引き受けた。
 ある日、西田耀蔵――名前は耀助から取った――と名乗る剣客が現れ、勝負を挑む。父親は断るが、闇討ちされてしまう。手傷を負いながら、戦う二人――。
 この剣客を演じるのは、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)だ。芝居など出来るタイプではないが、耀助と真剣勝負が出来るという一点において選ばれた。セリフは全て口パクだ。当てているのは、芝居は上手いが殺陣が苦手という一座の役者だった。
 父親は敗れ、娘の腕の中でこと切れる。染之助は父の手を握り、仇を取ることを決意し、男として旅に出る。
 その途中、男姿の染之助に惚れ、ついて来た娘――これが和泉 暮流だった。ちなみに役名はお流(りゅう)。童顔であるが、どう見ても男の暮流が口を開いた途端、客席はどっと笑いの渦に巻き込まれた。
「そ、染之助様、わたしもお手伝いします!!」
 恥ずかしさで頭の天辺から湯気が出そうだったが、辛うじてセリフだけは言い切った。三枚目なので笑われるのは承知だったが、女性アレルギーの暮流にとって、常に染之助の傍にいることと笑われること、どちらが苦痛なのか、自分でも分からなくなるほどだった。
 最初はお流の存在を迷惑がっていた染之助も、次第に旅の供としてなくてはならぬ相手となる。
 やがて仇を見つけ、二人は死闘を繰り広げる。
 リカイン・フェルマータ曰く、染之助の真髄はこのシーンにあった。
 耀助とフレンディスの戦いが迫力あるのは当たり前だった。共にマスターニンジャであるのだから。驚いたのは、染之助もまた、フレンディスと拮抗する実力――少なくとも、そう見える――の持ち主だったことだ。
 剣は作り物の筈だが、重さを感じさせる動きや空気を切る鋭さは、ついつい前のめりになって見入ってしまった。また、フレンディスの剣が染之助の額を掠ったときは、目を覆った客もいた。気が付けば、手の平にじっとり汗を掻いていた。
 目に血が入った染之助は、敵の姿を見失った。西田耀蔵――フレンディス――が背後から染之助を斬らんとしたその時、お流の声が飛んだ。
「染之助様!!」
 耀蔵が一瞬、動きを止めた。その隙を見逃す染之助ではなかった。振り向きざまの剣が耀蔵の腹を横薙ぎにした。
 よろよろと二〜三歩足を進め、耀蔵はばったりと倒れた。
 客席は歓声に包まれた。
 お流は駆け寄り、倒れそうになる染之助を抱え上げた。手を取ると、しっかり握り返してくる。客席からほっと安堵の息が漏れた。
「助かった、礼を言う……」
「いいえ、染之助様が無事でようございました」
「……お流、お前に謝らなくてはならないことがある。実は私は女なのだ。お前の気持ちに応えることは出来ない……」
「……存じておりました。私も染之助様に謝らなければ……」
 こうして、仇討ちの旅を終えた二人は、人生という新たな旅立ちを迎えるのだった――。