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第三章 狂想曲

 コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)は”メロンパン”そのものを知らない。
 今回の『至高のメロンパン』争奪戦に俄然やる気だったのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)よりもコードの方だった。

 財布は服の内側にしっかり格納し、荷物をゼロにしてルカルカとコードは”争奪戦”に臨んでいる。

 レース参加直前にルカルカは自分とコードに【ゴッドスピード】をかけた。
 そしてコードは【神速】を発動させている。

  「これで速度は多重加速だ」
 コードがルカルカに言う。
  「コーナリングに気をつけてね。私はあとから走るからね」
 ルカルカがコードに言った。
  「コースは分かってる?」
とたずねるルカルカにコードはこう返答した。
  「教導本部より詳しいぜ!」
  「……それもどうよ」


 【ゴッドスピード】プラス【神速】のコードはルカルカの視界よりも先を走っている。


  「自分の邪魔する物には消えてもらうであります!!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が購買に走る生徒に足を引っかけて転倒させ、
後続が転倒した生徒を踏んでしまったりで、風紀委員を巻き込んでの騒動になっている。


 「うぬら、廊下を走ってなんとする」


 蒼空学園校長馬場正子のこの声に生徒たちは動きを止めた。
 そこをルカルカは駆け抜けた。
 長馬場正子の声マネをしたのはルカルカだったのだ。


 アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)と共に走るキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)はまたもや
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)に対して舌戦を繰り広げていた。

  「今日もまたまたたゆんたゆんだなっ」
 雅羅の背後からキロスが声を掛ける。
  「同じ手は通用しないわよ! 揺れないようにしてきたのよ!」

――「2つのメロンが胸に詰まっているじゃねぇか? たゆんたゆんだぜ?」
 先日、キロスにこう心理的に攻められてダッシュできなかった雅羅は……
今日はスポーツブラにしてきたのだ。揺れは大幅に少なくなっているはずだ。

  「ふふん。揺れないようにしてきただと?」
  「そーよ!!」
  「何言ってやがる。後ろから見てるとほんっとーにたゆんたゆんだぜ?」
  「後ろ?」
  「たゆんたゆん尻揺らしてると……垂れるぜ?」
  「!? なっ!? ちょっ!?」
  「胸はメロンで尻はスイカってなー! ダイナマイト”フルーツ”バディさんは置いといて。行くぞ、アルテミス」



  「スイカは言い過ぎたか。まぁメロンもスイカも瓜だからな。
 ダイナマイト”フルーツ”バディというより、ダイナマイト”瓜”バディか。はははは!」

 雅羅をまたもや心理戦で出し抜いたキロスはご満悦である。

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途中ではあるが現在の順位を読者のみなさんにお知らせしよう。
早い順で列挙する。

コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)
想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)
高円寺 海(こうえんじ・かい)
夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)

キロスの前には彼らが走っている。
キロスとアルテミスが今、雅羅を追い越したところである。
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  「ダイナマイト”ウリ科植物”さんも追いついてこないようだし、今日こそは『至高のメロンパン』を頂くぜ!」


 アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)はずっと内心どきどきしていた。

  『ああっ、ハデス様っ! これだと、わ、私とキロスさんの二人だけに……!』
 キロスとの共同戦線を実現させたドクター・ハデス(どくたー・はです)に命ぜられたこととはいえども、
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)をキロスが出し抜いた今――

 アルテミスはキロスと二人きりで走っている状況にますます心臓が高鳴っていた。

  「こ、この胸の高鳴りは……もしかして……」
 アルテミスは立ち止まって、自分の胸に手を当てた。

  「アルテミス。早く行かないと”ウリ科植物”さんやらにメロンパンを買い占められるぞ?」
 キロスを見上げたアルテミスの顔が真っ赤になっている。

  「疲れたのか? それとも――具合、悪いのか?」
 キロスがアルテミスの様子に心配げな表情を向ける。
 自分だけに向けられたキロスのその表情にアルテミスは必死に言葉を紡いだ。

  「あ、あの……キロスさん……私、気づいたんです。この、胸の高鳴りに……」
  「――どうかしたか」
 キロスの表情がいつになく神妙になる。キロスにじっと見つめられてアルテミスはこう言った。
  「どうやら、私、急に走ったものだから、ちょっと息が上がっちゃったみたいなんです! 
 ちょっと保健室で休んできます!」

 アルテミスはその場から保健室にダッシュした――その速さで購買に行けば
『至高のメロンパン』が手に入るのはたやすいことだったのではないかと思えるほどだった。

 今回もアルテミスはキロスへの恋心に「自分では」気が付かないままだったようだ。

 立ち止まってしまったキロスは後続の人々の姿を目にして、また購買へダッシュした。
 「オレが3つは買えないと……いやこの際1つでもいい! 『至高のメロンパン』を手に入れないと!」