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仇討ちの仕方、教えます。(後編)

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仇討ちの仕方、教えます。(後編)

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終章


「美人後家仇討旅」が三日目を終えた頃、久利生藩にはこの冬何度目かの雪が降り出していた。一日も経てば、山越えは難しくなるだろうと人々が噂し合ったその夜、安藤 蔵人は一人で屋敷へと急いでいた。
 サクサクと雪が忙しない音を立てる。
 安藤は苛立っていた。まったく計算違いもいいところだった。
 おそらく、十内は討たれるだろう。健吾は琢磨と違い、腕っぷしはかなり強い。契約者とやらが協力しているなら尚更だ。――まったく、余計なことをする連中だ。
 ぶるり、と安藤は震えた。
 健吾は勘定方には向いていない。それは確かだ。兄である琢磨がそう言っていたのだから。あの男は、人を見る目はあった。ありすぎて困るぐらいだった。
 ――俺がほんの少し藩の金を懐に入れたからって、それを見咎めやがって。
 雪はどんどん酷くなっている。
 それを上役に報告するわけでもなく、琢磨は自身の出世を、安藤に要求した。つまり早く隠居し、その役職を譲れ、というわけである。安藤にも息子がおり、いずれは跡を継がせるつもりだったから、それは困った。
 だが表面上はにこにこと――あまり笑っていても不自然だから、困ったなあ、でも仕方がないなあというように――付き合い、あの晩、囁いたのだ。
『立花十内は、奥方の幼馴染だろう? 奥方は、あの男と何もなかったのか?』
 人を見る目がある故に、琢磨は疑心暗鬼に陥った。ひょっとしたら、最初から疑っていたのかもしれないが、安藤の言葉に後押しされたのは確かだ。
 安藤のちょっとした思いつきはうまくいった。十内に預けておいた金も、あの男が逃げ出すのに役立った。
 全ては計算通りだった。安藤は特に何もしていない。琢磨と十内、それぞれの後押しをちょっとしただけだ。
 失敗だったのは、十内を知る人物が葦原島に行ったことだった。同じ勘定方ならどうにか止めもしたが、勤め先が違うのでそうもいかなかった。久利生藩しか知らぬ十内が、葦原島に渡ったことなど、予想して然るべきだったのに。
 どうなるものかと案じていたら、契約者がやってきた。
 もう駄目だ。健吾は跡を継ぐだろう。しかし、十内は真実を知るはずもない。従って、健吾が自分の関わりを知ることもない。
 出来るなら、野木坂家は勘定方から締め出したいが、ここは友好関係を結ぶべきだろう。
 愛人宅からの帰り道、安藤はそんなことを考えていた。
 だがその思考は、一瞬で断たれた。
 誰かとすれ違ったその時、胸部に熱を感じ、どうと倒れた。体の下に、血の海が広がっていく。安藤は両目を大きく開いたまま、ぴくりとも動かない。背中や足にどんどん雪が積もって、彼を覆い隠していった。


 安藤 蔵人の死体が発見されたのは、翌朝のことだった。
 そして二人の契約者が、関所を通らず、久利生藩から姿を消した。

(終)

担当マスターより

▼担当マスター

泉 楽

▼マスターコメント

お待たせしました。「仇討ちの仕方、教えます。(後編)」リアクションをお届けします。
以下、ネタバレに触れますのでリアクションを先に読まれることをお勧めします。



今回の話、用意していたオチは三つでした。
1.仇討ちが成功。立花十内が殺される。→健吾が家を継ぎ、千夏を妻にする。
2.仇討ち失敗。立花十内が逃げる。→野木坂家はお取り潰し。健吾の母は自害。健吾は浪人として道を外し、卓兵衛だけが十内を探し続ける。千夏については未定。
3.仇討成功。ただし十内は死んだフリ。→健吾が家を継ぐ。千夏については未定。

仇討ち反対の人が割と多かったので、これは2のバッドエンドになるかなーと思っていたのですが、オリュンポス一座の皆さんがうまいこと動いてくれたので、今回のような内容になりました。それでも、流れ次第では、失敗する可能性もありました。
千夏については、健吾の妻になる他出家するパターンも考えていましたが、それは劇中劇の方で出しています。
ついでなので、今回の劇中劇二本について。前回の「男装剣士仇討旅」は設定が以前(今ほど葦原島が賑やかでない頃)の作品のため、登場人物の名前が全員和風っぽくなっておりますが、今回は現在の葦原島が舞台なので、カタカナ名も使っています(ということにしておいてください。決して、考えるのが面倒になったとかではありません!)。
また、「美人未亡人仇討旅」のタイトルは、「美人後家仇討旅」に変更。登場人物も実名では問題があると染之助が判断し、以下のように変えています。

千夏→千秋
立花 十内→館林 六郎
野木坂 健吾→野田 次郎三郎
野木坂 琢磨→野田 一太郎

少々混乱するかもしれませんが、何となーく雰囲気で読んでやってください。

黒幕(?)については出す予定はなかったのですが、そういうアクションがあったため急遽登場。彼の死を知っているPCは他にいません。健吾たちも「安藤殿が亡くなったのですか」ぐらいの認識しかないでしょう。
久利生藩は、葦原島に比べてより江戸時代に近いイメージの地域です。田舎すぎて、契約者もほとんどいません。葦原藩と深い付き合いもありませんが、ひょっとしたらこれを機に色々取引をすることもあるかもしれませんね。


さて次回は毎年恒例、御前試合を予定しております。ただちょっと、去年、一昨年より時期がずれます。花見の時期になると思いますが――現実の花見と重ならないよう、やりくりしないと!!
それではまた、お会いしましょう。