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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山

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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山
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第一章 大賑わいの花見


 日中、イルミンスール魔法学校、寮。

「……あの、今日妖怪の山でお花見をするそうですよ。その、お花見を盛り上げられるような食べ物屋さんをしませんか」
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)が耳にした妖怪の山での花見の事をマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)桐条 隆元(きりじょう・たかもと)に話した。

「リース、グッドアイディアよ!!」
「ふむ、悪くは無い」
 マーガレットと隆元はリースの案に大変乗り気だった。
「そうと決まれば、お花見らしいクレープを用意するよ! 生クリームに桜の花弁とか苺ソースをかけた桜クレープとか、生クリームの上にあたしの名前と同じマーガレットって名前の花と同じ形をしてる色々な色のチョコを散りばめたクレープ。名付けてマーガレットスペシャル!」
 マーガレットは新作クレープを閃く。
「……小娘、またクレープとな。花見とは桜を愛でる風流なものぞ」
 隆元が呆れたようにマーガレットにツッコミを入れた。花見と言う和風イベントに洋風のお菓子なんぞ合わないだろうと考えているようであった。
「はー、隆元さん分かってないなー。お花見って言ったらクレープでしょ! く・れ・え・ぷっ!」
 マーガレットは大げさなため息を吐き出し、呆れた声を出したかと思ったら強気のクレープ主張をした。
「……クレープクレープと阿呆も大概にするが良いわッ!」
 隆元も声の調子を強くして応戦。

 そしてとうとう
「それなら隆元さん、勝負よ。どちらがより多く売れるか」
「……良かろう。洋菓子と和菓子、どちらが花見の甘味に合うか思い知らせてくれる」
 恋活祭でのクレープ販売と同じ展開となってしまう。

「……あの、私は一足先に行って飲み物の用意をしますね」
 止める事が出来ないと悟ったリースは二人より一足先に妖怪の山に向かった。
 この後、マーガレットは材料を持って会場へ行き、料理が苦手なマーガレットは考案したクレープを野良英霊:赤川元保に作らせた。隆元は調理室で半透明の寒天に桜の花に見立てた餡を入れて半透明の寒天を丸く固めて、水面に落ちる桜の花を表現した創作和菓子を作ってから会場に向かった。

 花見会場。他の参加者も慌ただしく動いている時。

「……えと、これで完成ですね。少し味見を」
 リースはフレーバーティーの本片手に『ウィッチクラフトの秘儀書』で強化した『魔女術』を使い『空鍋』に桜と桃と薬草を入れ桜色に淡く発光するほんのり甘いフレーバーティーを完成させ味見を始めるとリースの身に異変が起きた。隣でクレープを用意していたマーガレットがそれに気付いた。
「リース、どうしたの? 酔っ払いみたいに真っ赤よ」
 マーガレットはそう言いながら水の入ったコップを渡した。リースは酔っ払いのように顔を赤くし少しぼんやりしていたのだ。
「あ、あの本に書かれていた作り方が間違っていたみたいで酔っ払いさんの気分になる飲み物が出来てしまいました。ど、どうしましょう。処分して一から作る時間は……」
 水を飲んで落ち着いたリースは困ったようにフレーバーティーを見つめた。
「リース、処分する必要無いってそのまま酔っ払いフレーバーティーとして売ろうよ。面白いしお酒が飲めない人が飲める人に付き合えるじゃん」
 陽気なマーガレットはポジティブな事を言ってリースを励まそうとする。
「……で、でもたくさん飲んだり人によったら大変な事が」
 マーガレットの励ましはありがたいが、リースはそう思えなかった。効果の威力は強力で人によっては少しで泥酔してしまうほど。
「……ふむ」
 ようやくやって来た隆元が味見とばかりに一口飲んだ。それから余っている素材を入れていく。
 そして、
「ここにある材料ではここまでか」
 隆元はもう一度味見をしてそれなりに納得していた。
「……あ、あの隆元さん?」
 リースが恐る恐る何をしているのか隆元に訊ねた。
「……酔いの効果は無効には出来ぬが、ほろ酔い程度には抑えたぞ」
 『調理』を持つ隆元は酔っ払いフレーバーティーを何とかほろ酔いフレーバーティーに変えたのだ。隆元は自分の言葉遣いで傷付けそうだと思ってリースと会話しづらいと思うだけで嫌ってはいないので困っていれば助けたりする。
「あ、あのありがとうございます」
 ほっとしたリースは手助けをしてくれた隆元に礼を言った。

 夜光桜が咲き、花見客で会場が満席となった頃。
「リース、クレープを売りに行ってくるね。あたしが行った方が売れる気がするし」
 マーガレットはトレイにたくさんのクレープを載せて客を探しに飛び出した。
「……それならば」
 マーガレットを見送った隆元は『野良英霊:国司元相』に自分が作った創作和菓子の販売を委託すると共にマーガレットが売り上げを誤魔化さないように監視するために一緒に行動するように言いつけ送り出した。
「……大丈夫でしょうか」
 リースはマーガレットと隆元の様子を心配そうに見守っていた。
 この後、買い物客の他に物を借りる客がやって来たりした。

 花見会場。

「主宰者があの二人だからどうなるかと思ったけど。人が多くて賑やかね。まぁ、これもいいかもだけど」
「うん。綺麗だね、ターラお姉ちゃん」
 ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)リィナ・ヴァレン(りぃな・う゛ぁれん)は楽しそうに夜光桜を見て歩く。双子とは同じ学校なので彼らの事は噂は知っていたりする。
「……で、何で俺様が誘われたんだ」
 リィナと一緒にターラに誘われたアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)もいた。
「何でって同じ学校なのにあまり交流無いのは寂しいなと思って」
 ターラはあっさりとアッシュの言葉を流してしまった。
「ターラお姉ちゃん、リースちゃんだよ」
 リィナが前方で食べ物屋をしているリース達を発見し、駆け出した。
「リースちゃん、こんばんは。何してるの?」
 リィナは楽しそうにリースに挨拶をし、販売品に目を走らせた。
「……えと、こんばんは。飲み物とお菓子を売っています」
 リースはどもりながらもしっかりと接客をする。
「へぇ〜、おいしそう。この飲み物どんな味がするの? リースちゃんが作ったの? 光ってるよ」
 リィナは桜色に淡く発光している飲み物に興味を抱き、立て続けに質問する。
「……は、はい。味は甘いんですが、ほろ酔い気分になってしまいます」
 リィナの食いつきに慌てながらもリースはしっかりと説明する。
「アッシュは未成年でリィナは見た目からだめっぽいし私もお酒はそれほど好きというわけじゃないからノンアルコールドリンクを持って来たけど、こっちの方が盛り上がって面白くなりそうね。三人分お願い」
 ターラがほろ酔いフレーバーティーを人数分注文した。三人の中で飲めるのはターラだけなのでノンアルコールドリンクを持ち込んでいたのだ。
「って、俺様も数に入っているのかよ」
 アッシュがターラにツッコミを入れた。自分の合意を得ずにターラはアッシュ込みで注文したからだ。
「せっかくの交流の機会なんだから、美味しいお弁当を食べて陽気にお喋りをして楽しいハプニングで素敵な思い出を作って絆を深めるのもいいんじゃない? 無礼講と言えば思いがけないハプニング。ね?」
 ターラはアッシュの言葉を引っかかるような表現を含めつつさらりと流してリースに同意を求めた。
「……そ、そうですね。でもハプニングで絆を深めるのは……」
 ターラに同意を求められたリースはおどおどとツッコミを入れたりした。
「何で無礼講とハプニングがセットなんだよ。絶対、被害者俺様だろ?」
 アッシュがターラをねめ付ける。
「……被害者じゃなくて盛り上げ役よ」
 ターラの調子はアッシュの言葉に乱される事はなかった。そもそもターラは楽しければ何でもアリのマイペースな人なので。
「言葉を換えただけだろ」
 アッシュは呆れ気味に反論した。
「……賑やかな事だな」
 隆元はターラ達のやり取りを見てぽつりと言葉を洩らしていた。
「……あ、あの」
 リースが恐る恐る人数分のほろ酔いフレーバーティーを差し出して賑やかな会話を終わらせた。
「貰うわ」
 ターラはアッシュ込みでの人数分を受け取った。
 その横ではリィナはお菓子に目を走らせていた。
「このお菓子も欲しいなぁ。二つちょうだい」
 リィナが飲み物の次に興味を持ったのは隆元の創作和菓子だった。甘い物が大好きなリィナはすぐに購買を決定。
「……味わうがよい」
 隆元はすぐに和菓子をリィナに渡した。

 その様子に気付いたマーガレットが大慌てで戻って来て
「あたしのクレープも美味しいよ!! しかも桜クレープとマーガレットスペシャル!!」
 二種類のクレープをリィナに勧める。
「うわぁ、二つともおいしそう。リィナ、甘い物大好き!」
 リィナは幸せそうに声を上げて二種類とも買った。
「……おいおい」
 その様子にアッシュはただ呆れていた。
 買い物を終えた三人は適当な場所で花見を始めた。

 三人は買った飲み物やお菓子を食べて楽しく過ごした。
 そして、場が最高に盛り上がった所で
「さぁ、アッシュ。どうぞ」
 ターラは重箱に入った豪華な手作り弁当をアッシュの前に置いた。
「……弁当か。一瞬、ヤバイ物が出てくるかと思ったが」
 アッシュは少しの間じっと見つめていたが意を決したようにふたを開け、中身を確認。そして食す。
「どう?」
「……まぁ、美味しいかな」
 味を訊ねるターラにアッシュはもごもごしながら答えた。
 実はターラの弁当の中身は自分が作った物が半分で残り半分は途中で飽きて冷凍食品をただ足しただけだったりする。ターラは料理が苦手ではないのでどれもこれも普通に食べられるのだが。
 ターラの弁当を完食したアッシュの前に
「どうぞ、アッシュくん」
 リィナが可愛らしいお弁当箱を置いた。
「おう」
 ターラの弁当が美味しかった事もありアッシュはためらいなく弁当箱を開けた。
 そこに待つのは異様な物体。
「……何だよ、これ。見るからにヤバそうだぞ」
 見た目からは美味しそうな雰囲気など微塵も感じられない食べ物らしき物。よく見た目はだめでも味は良いという事はあるが、今アッシュの目の前にあるのはその限界を突破した物である。
「リィナ、アッシュくんの魔力が上がって身長が伸びる料理を作ってきたのー。これでもうちょっと魔法もスゴイ格闘家なポジションを狙えるよ!」
 リィナはにこにことアッシュに笑いかける。
「……余計なお世話だって」
 アッシュは何気に気にしている事を言われて少し不機嫌になってしまう。
「見た目は悪いけど。味は大丈夫だよ。リィナ、味見したんだから」
 リィナはにこにことアッシュに弁当を尚も勧める。アッシュは深呼吸をしてからいざリィナが持ち込んだ自分専用の弁当を一口、口に放り込んだ。

 すると
「……ぐほっ」
 アッシュは苦しそうに声を上げ、その場に倒れてしまった。
「あれ? どうしたの?」
 何が起きたのか理解出来ないリィナは可愛らしく首を傾げるばかり。
「……気絶したみたいね」
 ターラがアッシュの様子を確認した後、リィナの弁当にちらりと視線を向けていた。
 実はリィナの弁当は、魔法薬に使用する素材を何も考えずに色々混ぜて炒めた物である。魔法薬の素材なので食べられるが、味までは保証されていなかったり。
「んー、そんなに味悪く無いのにどうしてなんだろう」
 リィナは自分の弁当を一口食べるもアッシュが倒れた理由が分からずに疑問符を浮かべるばかり。魔女であるリィナは一般人より魔法薬に慣れてる為破滅的な味になっている事が本当に分かっていないのだった。
 アッシュが目覚めるまでターラとリィナはほろ酔いフレーバーティーで二人だけの花見をしていた。絆が深まる云々は別としてターラの言う思いがけないハプニングは起こり、アッシュは見事な盛り上げ役を全うした。

「来て良かったね、翔くん。こんな素敵な桜を見る事が出来たから」
「そうだな。想像してたよりずっと綺麗だよな」
 桐生 理知(きりゅう・りち)辻永 翔(つじなが・しょう)は夜光桜の下、腕を組んで夜の冷えを追い払いながら歩いていた。
「この桜って散っても光っているのかな。それともやっぱり咲いている時だけかな」
「……地面に落ちている花びらは光っていないから咲いている時だけじゃないか?」
 頭上を見上げる理知と地面を見つめる翔。
「……それじゃ」
 何を思ったのか理知は翔から腕を離し、枝に咲いたまま桜を確保しようと背伸びをして手を伸ばすが、届かない。諦めない理知はもっと手を伸ばそうと爪先立ちになる。
「お、おい理知」
 嫌な予感を感じた翔は急いで理知の傍に駆け寄る。
 それと同時に
「あっ」
 背伸びをした理知の体はバランスを崩し地面へと倒れ始める。だが、駆けつけた翔が受け止め、理知は無事だった。
「ったく、何してるんだよ」
 翔は目を三角にして語気を強めた。自分がいなければ足を捻ったり頭を打っていたかもしれないと言葉には深い心配が込められていた。
「あ、ありがとう、翔くん。あのね、家に持ち帰って見せてあげたかったんだ。こんな素敵な桜を私達だけで楽しむのはもったいないから」
 怒られた理知はしゅんとしながら答えた。家にいる自分のパートナーに夜光桜を見せるため枝ごと持ち帰ろうとしたのだ。
「そういう理知の優しいところは好きだけど、無茶はするなって。怪我をしたら元も子もないだろう?」
 理知の気持ちを知った翔は表情をゆるめて語気も優しくなるが、怒るのはやめない。
「……翔くん、ごめ……くっしゅん」
 理知は心配させた事に謝ろうとした時、小さなくしゃみを一つした。春とはいえ夜はまだまだ冷え込むと見越してそれなりに着込んでいたのだが、寒さの方が上だったらしい。
「理知、大丈夫か?」
 翔の言葉の言外には“家に帰るか?”という意味が含まれていた。風邪で寝込んでしまってはいけないから。
「大丈夫だよ。翔くんがいれば」
 まだ桜を見ていたい理知は翔に抱きついた。
「理知」
 抱きつく理知をしっかりと抱き締める翔。
 二人は目を閉じ、どちからともなく顔を近づけ、唇を重ねる。
 その時、二人のキスを見計らったかのように風が吹き、発光する花びらが降り注ぐ。
「うわぁ」
「すごいな」
 キスを終え、抱き締め合ったままの理知と翔は周囲を見回し、感動の声を上げていた。
 舞い散る花びらの光は徐々に弱くなり地面に着く頃にはすっかり光は消えただの花びらと化しているが、二人の心にはしっかりと咲き誇る。
「こんな素敵な景色を翔くんと見られて私幸せだよ」
「あぁ、俺も理知と一緒にいられて幸せだ」
 理知と翔は幸せに包まれていた。