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リアクション
「これが夜光桜で花見なのね。すごく賑やかね。やっぱり場所のせいもあるのかしら。二人は桜は見た事あるの?」
アルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)は初めて見る桜に興味津々で周囲をきょろきょろと見ながら菊花 みのり(きくばな・みのり)とグレン・フォルカニアス(ぐれん・ふぉるかにあす)に訊ねた。
「……桜……ですか……久しく……見て、ない……ですね……こんなに……人が多く……来るんです、ね……初めて……知りました……」
みのりはちらちらとだんだん光り弱めながら舞い散る花びらを目で追いつつ静かに答えた。
「俺はこれで三度目だな」
グレンはアルマーと違ってそれほど興味津々といった感じではなかった。
「二度は見た事あるのね」
「……まぁな」
アルマーの何気ない言葉にグレンは詳しく言いたくないのか素っ気なく言って誤魔化した。みのりもアルマーも追求はしなかった。
「……とりあえず、みのりさんのために静かで座って楽しめる所を探さないとね」
人混みに慣れていないみのりのためにアルマーは絶好の場所探しを始めた。
ぶらぶらと夜光桜を眺めながら場所探しをしていた時、
「おまえらも来てたのか」
たまたま来ていたキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)と遭遇した。
「……珍しい……ですね……桜を……見に、来たんですか……?」
みのりは思いがけない人物に足を止めた。
「……ちょっとここの桜の事を耳にしたもんでな」
キロスはたまたま耳に入れた夜光桜を見ようとやって来たという訳だ。
「そうか」
グレン適当にうなずき、夜光桜の方を見た。
「……そう……ですか……お元気……そうで……何よりです……」
無口なみのりの口からキロスに対して親しげな言葉が洩れた。これまでにも何度か一緒に行動した事があったりしてそれなりに親しい間柄だ。
「まぁな。おまえも相変わらず元気そうだな。で、お前達はこのままぶらぶら花見か?」
キロスは親しげに軽く返事をしてからみのり達の近況を訊ねた。
「はい。静かに花見を楽しめる所を探そうかと思って。良かったら一緒にお花見でもどう?」
キロスに答えたのはアルマーだった。
「そうだな。これと言って目的もねぇし、付き合うぜ」
キロスは即答した。来たもののこれと言ってやる事がなくぶらぶらと歩き回っていた所だったのだ。
「……そう……ですか……」
みのりはこくりとうなずくなり歩き始めた。そのみのりの隣にはキロスがいた。
四人は適当に歩き回りながら花見場所を探した。
途中、秘密結社オリュンポスの花見スペースに遭遇。
「……賑やか……ですね」
「だな。他と違って妙な雰囲気があるよな」
みのりの言葉に同感だとうなずくキロス。
その時、
「おい、そこにいるのはキロスではないか! よし、お前達、こっちに来て飲むがいい!」
この花見スペースを仕切るハデスがキロスとみのり達に気付き、引き込みを始める。
「……ハデスかよ」
キロスは厄介な人物に遭遇したなとため息をついた。
「離れた場所にでも座るか」
「賑やかそうだけど、大丈夫?」
「…………大丈夫……です」
グレンとアルマーはみのりを気遣うも本人はマイペースに適当な場所を見つけて座った。キロスはハデスの指示を受けた戦闘員によって強引にハデスとアルテミスの真ん中に連れて行かれた。
「隣、座るぞ」
仕方無く参加するキロスはお隣さんのアルテミスに一言挨拶をしてから座った。
「あ、はい。って、キ、キロスさんが、なんでこんなところに……」
反射的に返事をするもすぐにキロスから顔を背けるアルテミス。そんなアルテミスの顔はキロスへの恋心で真っ赤だ。
「アルテミスよ、キロスに酌をしてやれ」
「わ、私がキロスさんにお酌をするんですかっ?!」
ハデスの指示にアルテミスは思わず声が裏返ってしまう。
「悪いな」
アルテミスの恋心を知らないキロスは盃を手に持った。
「……(な、何でこんなに心臓の鼓動が……!? ま、まさかこれは……)」
アルテミスは自分に向けられた盃とキロスの顔を見比べる。心臓が恋心によって鼓動が早くなり顔がさらに赤くなる。
「どうした?」
ぴくりとも動かないアルテミスを怪訝そうに様子を伺うキロス。
「!!(キロスさんへのライバル心!!)」
アルテミスは切れていた回路が繋がったかのように胸の苦しみに対しての答えが分かった。その答えは確実に的外れなのだが、無自覚の本人には正解そのもの。
「申し訳ありませんが、ライバルにお酌をするなど、騎士としてできません! キロスさん! この私にお酌をして欲しかったら、まずは剣で私を倒してからにして下さい!」
アルテミスはバンととっくりを置き、立ち上がったかと思いきや魔剣ディルヴィングを抜刀。
「おいおい、酒のお酌ぐらいで何でそうなるんだ!!」
キロスはぎょっとし、声を荒げる。手には空の盃。
キロスとアルテミスの様子を眺め、
「……確かお花見は無礼講が通用すると、でもみのりさんの安全は守るから安心して」
「……無礼講……ですか……」
アルマーとみのりはのんびりと楽しんでいた。
「みのり、これでも食べたらどうだ?」
グレンは美味しそうな料理を発見し、みのりの小皿に載せていた。
騒ぎの中心にいる二人はというと
「さぁ、キロスさん。構えて下さい。お酌をかけた決闘ですよ!」
そう言ってキロスに向けて剣を振り下ろす。
「……バレンタインの時といい何で剣を抜くんだ。大人しくジュースでも飲んでろよ」
折角の花見で決闘など面倒臭いと思っているキロスはさっくりアルテミスの剣を吹っ飛ばし、コップを差し出した。キロスはバレンタインの時の果たしチョコと同じだと既視感をしっかりと感じていた。
「……キ、キロスさん」
アルテミスは差し出されたコップをそろりと受け取り、力が抜けたようにへたりと座り込んだ。
「……決闘になるぐらいなら俺が酌をしてやるよ。折角の花見だ」
笑みを浮かべながらキロスはアルテミスのコップにジュースを注ぐ。
「……は、はぁ、分かりました。今日は私の負けですから(さっきより心臓が破裂するこの感覚は……)」
ジュースが注がれる間、アルテミスはキロスの顔を見る事が出来ず、コップを注視するばかり。自分を気遣い、自分にお酌をしてくれて笑みを向けてくれてる。胸の高まりが最高潮に達し、呼吸が出来なくなりそうなほど。湧き上がる感覚に答えを見つけようにも見つからずフリーズしてしまった。
「……秘密結社も花見をするんだな」
アルテミスのお酌を終えたキロスが左隣に座るハデスにツッコミを入れた。
「フフフ、お前は分かっていないな。これは我が部下達の士気を上げ、世界征服により一層邁進するためだ」
ハデスはキロスを小馬鹿にしたように言った後、立ち上がり宴の真ん中に躍り出た。
そして、
「宴もたけなわ、この俺がとっておきの芸をみせてやろう! よく見るがいい」
『演劇』を持つハデスは白衣のポケットから謎の宴会芸用発明品を取り出して場を最高に盛り上げ始める。『士気高揚』で戦闘員達も妙に熱狂し、賑やかとなる。
その騒がしさのせいか一匹の珍客がやって来た。
「……何だこいつは?」
一番に気付いたのはキロスだった。アルテミスはまだジュースの入ったコップを持ったまま硬直していた。
「ん? 何だ貴様」
キロスによりハデスも気付き、背後を振り返ると。
顔と体の区別がない1頭身の肉塊が立っていた。しかも目鼻口が無く、ぬったりと白粉を塗ったように真っ白だ。明らかに妖怪である。
しかし、ハデスの認識は
「……ふむ、貴様は……そうか、怪人白肉男だな。我らと同じく花見にでも来たのか。まぁ、酒でも飲むか?」
妖怪ではなくどこかの秘密結社の怪人だった。しかも盃を差し出す始末。
「…………」
妖怪は黙ったまま突っ立って反応が無い。
「……とりあえず、楽しめ」
ハデスは飲むための口が無い事に気付き、酒を渡すのをやめて腰を下ろした。
「……」
妖怪はそのまま突っ立ったままどこかに行く様子が無い。
「……ハデス様、腐ったような匂いがするのですが」
フリーズが解けたアルテミスが妖怪が通ったと思われる道から漂う腐敗臭に鼻をつまんだ。
「ふむ、貴様の仕業か。なかなかやるな。どうだ? 我らの所に来ないか?」
匂いの原因を知ったハデスは親しげに妖怪を勧誘していた。ただし妖怪には答える口が無いため返答は無かったが、宴が気に入ったのか宴が終わるまでずっとそこにいた。
妖怪を見たみのり達は、
「……あの妖怪、ぬっぺぼうだよな。悪さをしない歩いているだけの奴」
「確か1頭身の人のように見える肉の塊。死肉が化けて出たとか言われているから通った後に腐臭がすると言われてる」
グレンとアルマーは妖怪に対しての知識があるためかすぐに正体が分かった。
「…………悲しい……みたいです……誰にも……看取られずに……亡くなって」
普通の人には認識でない物を見たり聞いたり出来るみのりはぬっぺぼうから感じる霊か念のようなものを見て聞いていた。
「……そう。だから、賑やかな場所に来たのかもしれないわね」
「……しかし、随分馴染んでるな」
アルマーとグレンはハデス達に馴染んでいるぬっぺぼうに目を向けるも追い出す事はせず、静かに花見をしていた。
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