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リアクション
「……夜光桜の下で花見か。こいつはいいな」
大量の弁当を背負った夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は夜光桜を見上げて感嘆。
「確かにそうじゃな。ロズフェル兄弟も良い企画を考えるものじゃ。まぁ、良い企画で留まらぬのがあ奴らかのぅ。目的自体は評価できるしのぅ、妾も花見と交流を楽しませてもらうとしようかのぅ」
草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)も夜光桜を見上げるも感動し切れない。なぜなら主宰者の事をよく知っているからだ。
「そうですね。腕によりをかけて料理をたくさん持って来ましたよ。もちろん、羽純ちゃんに頼まれた物も……使う事がなければいいんですが」
ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)もすっかり花見をする気満々。ただし、羽純に頼まれた双子専用の特別弁当も作っていたり。
「妾もそう願ってはおるが、それよりルルゥがいないがどこに行ったのじゃ」
ホリイと会話をした後、羽純は甚五郎が持てきれない弁当をドッペルゴーストで運んでいたルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)の姿が消えている事に気付いた。
「ルルゥはここだよ」
ひょっこりとドッペルゴーストを連れたルルゥが現れた。
「どこに行っておったのだ?」
「あのね〜」
行方を訊ねる羽純にルルゥは持ち物検査中の双子に遭遇した事を話した。
「ははは、予想通りとなったな。相変わらず期待を裏切らない二人だ」
巻き込まれ慣れている甚五郎は双子の安定ぶりに思わず笑いさえ洩れる。
「……確かにのぅ。二人の動向には目を光らせておく必要があるのぅ。光らせておるのは妾だけではなかろうが」
羽純はため息を洩らしながら明らかに双子対策に乗り出している参加者達を見回していた。
「ねぇ、ところでお花見って何するの?」
ルルゥが小首を傾げながら訊ねた。
「桜を見たりお弁当を食べたりして楽しく過ごすんですよ〜」
ホリイはシートを敷いてドッペルゴーストが持っている弁当を並べながら答えた。
「う〜と、それはつまり楽しくしてればいーんだよね?」
ルルゥは夜光桜と並べられている弁当を見比べながら自分なりにまとめた花見と言うものを確認。
「そうですよ〜」
ホリイはにこにこと答え、甚五郎が背負う弁当や飲み物を受け取り、並べて行った。
賑やかな花見が始まった。
花見中。
「お花も光ってきれいだし、おにぎりもお団子もおいしいし、楽しーね」
ルルゥは左手におにぎり、右手にお団子を持って光りながら舞い散る花びらを楽しみ、心底花見を満喫していた。
その時、
「待たせてすまぬな」
「お誘いありがとう」
化け狐の長と化け狐の少女が現れた。例の事件の際、甚五郎達が出会った者達だ。日中、花見に誘ったのだ。この事もあってホリイは不足が無いようにと大量に弁当を作ったのだ。
「よく来てくれたのぅ」
「食べ物も酒もたっぷりとある楽しんでくれ」
羽純と甚五郎が客の来訪を喜んだ。
「あのそちらの方は?」
ホリイは化け狐の少女の隣にいる酒壺を持った赤い顔をした人間のような容姿をした猿のような獣妖怪がいた。
「しょうじょうの酒助(さけすけ)おじさんだよ。お酒がたくさんあると言ったら付いて来たの」
化け狐の少女が見知らぬの妖怪を紹介した。
「……花見と言ったら酒だろ」
酒助は持参した酒を掲げた後、無遠慮にどかりと座った。
「すまぬな」
化け狐の長が酒助に代わって非礼を詫びた。
「いや、気にするな。酒飲み相手が出来て嬉しいぐらいだ」
すっかり自分達が用意した酒を飲みまくっている酒助の様子に甚五郎は苦笑気味に言った。そして賑やかな花見が始まった。
「このお団子、美味しい!」
化け狐の少女はお団子を口いっぱいに頬張り桜よりも食べ物に夢中だった。
「そうですか。お稲荷さんもありますよ」
ホリイは大量に入ったお稲荷さんを化け狐の少女に勧めた。
「あーー、食べる食べる」
そう言うなり化け狐の少女はお団子を急いで飲み込み、お稲荷さんを両手に持った。
「あの騒ぎの後も大変だったようじゃな」
羽純はお茶を飲みながら化け狐の長と話し込んでいた。
「あのような騒ぎが起き、何も無い訳が無いからな。しかし、このように花見をしている光景を見ればまた元に戻るのではと少しの希望は抱ける」
化け狐は賑やかな花見の風景に昔の人と妖怪が仲良しだった風景を重ね、懐かしさに目を細めた。
「良かったらわしの酒でも飲むか?」
酔っ払い楽しい気分になっている酒助は持参した酒を甚五郎に勧め始める。
「妖怪の酒か、それは少し興味あるな」
甚五郎はちらりと酒助の酒壺に少しばかりの興味を持つ。
そこに
「あー、おじさん、だめだよ! ほら、ずっと前のお花見の時、人間におじさんが作ったお酒を飲ませた事忘れたの?」
化け狐の少女が怒り顔で甚五郎達の会話に割って入った。
「……何かあったのか?」
と甚五郎が化け狐の少女を促す。
「体内で爆発を起こして数ヶ月入院したの。ネネコ河童の女々姐さんと違っておじさん適当なんだから。あの騒ぎの時だって飲んだくれて騒ぎが起きた事も知らなかったじゃない」
化け狐の少女が呆れ気味に不穏な事を口走る。ちなみに女々はシリウスとミルザムと鈴と飲んでいた。
「おー、いつの間にか騒ぎが起きて終わっていたなー」
酒を飲みながら呑気に答える酒助。彼にとって大事なのは大好物の酒以外無い。
「……随分、平和な奴じゃな」
羽純のあまりの呑気さに呆れるも憎めない。
「すまぬな。少々思慮が足りんで」
化け狐の長は酒助の振る舞いに少しだけため息をついた。
「まー、今夜は大丈夫だ。ちゃーんと確認したからな」
酒助はケタケタと笑いながら甚五郎に持参した酒を盃に注ぎもう一度勧めた。
「……甚五郎、飲むんですか?」
ホリイが恐る恐る甚五郎に訊ねた。
「気合があれば大丈夫だ。せっかくの花見だ飲まないのはもったいないだろう」
甚五郎は酒助から盃を受け取り、気合で飲み干した。せっかくの花見なので盛り下げる訳にはいかない。
「どうです?」
ホリイが心配そうに訊ねた。手には水が入ったコップがあった。
「……凄いな。口の中でなく体内が焼け付く。しかし、癖にはなる」
甚五郎は酒臭い息を吐き、空になった盃を見つめ大いに笑った。
「だろう? 飲め飲め」
酒助は嬉しくなって持参した酒を甚五郎の盃に次々と注いでいった。
甚五郎は妖怪の酒を楽しんでいた。皆それぞれ花見を満喫した。化け狐の長は飲食はせず静かに花見を楽しんでいたが、葦原明倫館の総奉行を見つけるなり少しだけ席を外すもすぐに戻り甚五郎達を楽しんだ。途中、天狗や鬼もやって来るわ狐火童も参加するわで甚五郎達の花見スペースは大賑わいだった。恒例の双子の悪さにも巻き込まれていた。
「なかなか盛況だな」
「……酒も美味しく飲めそうだ」
瀬乃 和深(せの・かずみ)とセドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)は賑やかな花見会場を見渡していた。
「あの桜の下はどうだ?」
アルフェリカ・エテールネ(あるふぇりか・えてーるね)は花見の絶好ポイントを発見していた。
「早くしないと他の人に取られるよ」
瀬乃 月琥(せの・つきこ)はみんなを急かした。
一通り、会場を見渡した後、アルフェリカが発見した場所へと移動し、レジャーシートを敷いた。
その時、
「こんばんは」
「今夜は花見日和ですね」
木枯と稲穂がやって来た。
「二人も来ていたのか」
「元気そうね。その美味しそうなのはどこで買ったの?」
和深と月琥も木枯達に答えた。月琥は木枯達が持っている二種類のクレープに興味津々。
「あそこで売っていたよ」
木枯はリース達の店を指し示しながら教えた。これでまたリース達の店に客が来るだろう。
「今日は普通の花見ではなくて妖怪もいますからとても賑やかになりますね」
すでに妖怪と騒いでいる花見客に目を向けながら稲穂が言った。
「そうだな。狐火童という妖怪も出て来ると言うしな」
和深はここに来てすぐに伝えられた狐火童の事を話題にした。
「兄さん、せっかくの花見だから」
和深の隣にいる月琥が意味深な口調で和深を見上げていた。
「おい、まさかクレープを買えと言うんじゃ……」
和深にはすぐに月琥の求めている事に見当が付いた。
「そういう事!」
大正解と言わんばかりに声を弾ませ、店に向かって歩き出した。
「ったく、それじゃな」
和深は木枯達に挨拶をして月琥を追いかけた。和深はマーガレットスペシャルを月琥にご馳走するはめになった。
「それじゃね」
「今夜は楽しみましょうね」
木枯と稲穂も和深達と別れてクレープを食べながらぶらぶらと歩き始めた。
和深達が花見場所に戻って来た時にはすでに始まっていた。
「おっ、和深よ。どこに行っておったのだ」
「もう始めたぞ」
セドナとアルフェリカはがばがばとセドナが持参した銘酒「熊殺し」、アルフェリカが持参した超有名銘柄の日本酒を飲みまくっていた。
「買い物だ。というかもう飲んでるのか?」
和深は突っ立ったまま呆気にとられていた。いつの間にやら花見ではなく酒盛りが開催されている事に。
「ふふん♪」
月琥は桜クレープにぱくつきながら酒飲み達の被害に遭わないように離れた場所に座った。
「こうして美しい桜と……見ろ、月も綺麗だ」
セドナは盃片手に夜光桜から美しき満月に視線を向けながら静かに語る。
「あぁ」
和深は座ってつられるように夜空を見上げた。まさに夜の花見日和である。
このまましっとりとした話が続くと思いきや
「こう美しい風景の中で飲む酒はうまいな」
とくとくと酒を盃に注ぎ、グイグイと飲み始めるセドナ。花より団子、いや酒だ。
「量も増える」
セドナの隣ではアルフェリカも凄まじい勢いで酒を飲み続けていた。
「二人共、飲むの早くないか。もう少し桜でも愛でろよ」
和深は水の如く酒を飲むセドナとアルフェリカに呆れていた。これでは花見ではなくただの酒盛り。
「桜の盃に浮かぶ花びらはどうだ。風流だと思わないか?」
セドナは和深に手に持つ桜の花びらが描かれた桜の盃の水面に浮かぶ光る花びらの様を見せた。
「……確かに花びらも光っているというのは面白いよな」
和深は光が弱まりただの桜と化す花びらにセドナの言う風流を感じていた。
「だろう。我はそれも楽しみつつ飲んでいるのだ。ほら、和深も飲め」
セドナは盃を和深に差し出した。結局は酒が目的である。
「いや、いいって」
酒が苦手な和深は即断るが、
「何? 我の酒も飲めんのかーー」
笑いながら絡む。すっかり絡み酒。
「いや、だから俺は酒が苦手だって」
和深はもう一度断る。
「ほらほら、飲め飲め」
セドナは和深の断りなど右耳から左耳に抜けて全く聞いておらず、自分が持参した酒を盃に満たし、無理矢理飲ませてしまう。
そして、酒が苦手な和深は
「……う〜」
セドナが持参した強い酒を飲まされた事もあってすっかり酔い潰れてしまった。大切な仲間達と花見を過ごせたのでそれはそれで満足そうではあったが。
「……兄さん、ご愁傷様。私はここで静かに見守っているから」
すっかりクレープを食べ終わった月琥はセドナとアルフェリカに絡まれないように離れた場所で両手を合わせて酔い潰れてしまった兄の無事を祈っていた。
セドナとアルフェリカの酒盛りが続く中、とうとう狐火童が現れた。
「……ん、この泣き声は……ほら、泣かないで私と一緒に遊びましょう」
当然月琥が選ぶ道は一つだけである。酒飲み達に絡まれないとも限らないので。
「私はこの子と遊んで来るから。兄さん達は楽しんでいて」
月琥は適当に和深達に言ってから狐火童と鬼ごっこという名の逃走を始めた。
相手は消えたり飛んだりするが、それなりに対応して夜明けまで頑張った。
月琥が行った後、
「……しかし」
アルフェリカは酔い潰れた和深を横目で見ながらこのように仲間達と楽しく過ごす時間がいつまでも続けばいいと思っていた。
「アルフィよ、もう飲まぬのか?」
セドナが盃を片手にぼやっとしているアルフェリカに声をかけた。
「いや、夜はまだまだ」
アルフェリカは唇の端を上げて軽く答え、花見の場に相応しく酒を飲み干した。
この後、セドナとアルフェリカは楽しい酒盛りを続け、その横で和深は酔い潰れたままだった。
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