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リアクション
日中に代表として花見準備に来たレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)が同じく【『シャーウッドの森』空賊団】の慰安にと花見の準備に来たリネン・エルフト(りねん・えるふと)とヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)と遭遇して一緒に花見をしようという事になった。
レオーナ組の弁当担当だったシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)とパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)、リネン組の弁当担当のレン・オズワルド(れん・おずわるど)は連絡が入るなり急遽弁当の量を増やした。
レオーナ組の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)を武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)がセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)をリネン組のレンがフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)を伴って花見会場へと入った。
大人数の賑やか過ぎる花見が始まっていた。
「すごく賑やかね」
フリューネは桜ではなく賑やかな参加者達の方を楽しそうに眺めていた。
「私、シャンバラの桜……というか花見って初めてで、こういうものなの? まるで春のお祭りみたいなんだけど」
リネンも賑やかな参加者達に目を向けながら肩をすくめた。皆、花よりも騒ぐ事に一生懸命でまるで祭りのようだと。
「そうね。桜を愛でてお弁当を食べたりお酒を飲んだりして騒ぐからお祭りと言ってもいいかもしれないわね」
フリューネは夜光桜と妖怪入り交じる賑やかさを交合に見て笑いながら言った。
「とりあえず、弁当でも食べるか」
レンは作って来た弁当を出し、ふたを開けた。急遽人数が増えたため量も倍にしてある。そして持って来たのは食べ物だけではなかったり。何にしてもかなりの荷物だったが、
ぽいぽいカプセルを活用して持ち込んだ。
「それが終わればあたしが持参した酒でもどう? ちょうど故郷のいい酒が手に入ったのよね」
と言うなりヘリワードは酒の大瓶を取り出した。
「ほう、チェリーブランデー、か。俺も酒を持って来たぞ」
レンもヘリワードに答えるようにぽいぽいカプセルから超有名銘柄の日本酒を取り出した。
「なかなか美味しそうな物を持って来たわね。今夜は愉快な宴になりそう」
ヘリワードはレンが持ち込んだ酒を確かめ、今夜の宴を想像してウキウキしていた。
「二本とも美味しそうね。でもリネンは……」
フリューネは花見酒を楽しみに思うも四人の中で唯一の未成年であるリネンの事を思うと飲むのに気が引けていた。
「……フリューネ、遠慮しないでもいいわよ。私はこれで楽しむから」
リネンはいつの間にか買ったほろ酔いフレーバーティーを掲げた。
とりあえず、四人は先に酒ではなく弁当から食べ始めた。
「……美味しいし、賑やかで花見って楽しいものなのね。これって日本の風習なんだっけ?」
リネンは花見を満喫しながら訊ねた。
「えぇ、でも日本の桜は発光しないけどね」
ヘリワードが答えた。元地球側の生まれなのでそれなりに花見の事知っているのだ。
「……日本の桜も見てみたいわね?」
リネンは日本の光らない桜を想像していた。そして、それを見る時は隣にフリューネがいてくれればと思っていたり。
「そうね。きっと綺麗で賑やかね」
フリューネは笑顔でうなずき、夜光桜と騒がしい会場に目を向けた。
そこに
「ここで買った和菓子でもどうだ?」
レオーナのシートは男性禁止なのでレン達のシートに座る牙竜が隆元から購入した創作和菓子を並べ始めた。大人数をまかなうためかなりの量である。
「……少し貰うわ」
牙竜の隣に座るセイニィが真っ先に創作和菓子を口に放り込み美味しそうに食した。
「……レン、このお弁当美味しいわ。こんなにたくさん、作るの大変だったでしょ。言ってくれれば手伝ったのに」
フリューネはレンに弁当の感想を言うと共に少しばかり眉を怒らせた。準備が終わった後にフリューネは桜見に誘われただけだから。
「いや、美味しく食べてくれる人がいると考えたらこれぐらい大した事ないさ。まぁ、手伝うっていうフリューネの言葉は嬉しいけどな」
レンは大した事が無いように言うもフリューネの言葉を嬉しく感じ一緒にする弁当作りは楽しいだろうと思っていた。
「フリューネ、弁当のは次は酒よ」
ヘリワードが持参した酒を片手に盃をフリューネに差し出して来た。
「あ、はい」
フリューネは急いでまだおかずが載っている小皿を下に置き、盃を受け取った。
「それじゃ、私はこれを飲んで付き合うわ」
リネンはさっそくほろ酔いフレーバーティーで酒飲み達に参加。
「……桜色で綺麗ね。光っているし」
フリューネがひょこっとその飲み物を覗き、少しばかりの興味を持っていた。
「…………良かったら一口、飲んでみる?」
しばらく考えた後、リネンはフリューネのためにそっとほろ酔いフレーバーティーを差し出した。
「……それなら」
ほろ酔いフレーバーティーを受け取り、どんな味なのかドキドキしながらそっと口を付けた。
「どう? 美味しい?」
「……幸せな気分になるわ。魔法が入っているのね……味は甘くて美味しい」
フリューネは少しだけほろ酔いになりつつ楽しそうだった。
「……リネン、ありがとう」
フリューネは礼と一緒に飲み物をリネンに差し出した。
「……えぇ」
リネンは飲み物を受け取り、じっとフリューネが触れた所を見つめていた。
「それ、フリューネ、レン、飲むよ!」
ヘリワードがフリューネとレンの盃に持参した酒を注ぎ、三人楽しく酒を楽しんでいた。
「……これがほろ酔いね」
リネンはフリューネの口が触れた部分に唇を重ねほろ酔いフレーバーティーを飲んだ。感じるほろ酔いが飲み物によるものなのか自分の気持ちによるものなのかは分からなかった。
それぞれ楽しんでいた時、
「こんばんは、豪勢なご馳走ですね。私も参加させて頂けないでしょうか」
上品な着物を着込んだ色白の黒髪美人が現れた。
「えぇ、どうぞ。レンが作った美味しいお弁当も食べていいわよ」
フリューネが親しげにレンの弁当を見せながら見知らぬ来客を招く。
「わざわざ、俺の弁当を勧めなくても」
レンがフリューネにツッコミを入れた。内心嬉しく思いつつも。
「酒も飲めるなら一緒に飲まない?」
ヘリワードが盃とチェリーブランデーを片手に誘う。
「えぇ、大好きです。食べ物も飲み物も」
シートの上に正座し、女性が微笑みながら答えたかと思いきや、後頭部ががばっと口のように開いた。明らかに妖怪。
「……妖怪ね」
「……二口女か」
リネンとレンの横をうねる黒髪が横切り、弁当の半分以上を絡み取り後頭部の口に入れてしまった。
「うまい、うまいぞ、この飯は」
後頭部から老婆のようなしゃがれた声がする。
弁当の次は酒。ヘリワードが手に持つチェリーブランデーを黒髪が取り、後頭部の口へと流し込む。
「美味、美味」
少々酔った声が後頭部から響く。
酒が終わると大量の和菓子に手ではなく髪を出す。次々と消化していく。
「……和菓子もあっという間だな。全て食べ尽くされてしまうかもしれないぞ」
和菓子を調達した牙竜が止まらぬ食べっぷりに感想を洩らした。誰も止める事が出来ない。
「これもどうぞ!!」
なぜか胸に缶ビールを挟んだレオーナがたっぷりとおかずを盛った小皿を差し出した。おもてなしをする気いっぱいである。
黒髪はおかずとレオーナの胸にある缶ビールを絡め取り、後頭部の口へと放り込んだ。
散々、飲食した後、後頭部の口は満足したように閉じた。
「とてもご馳走になりました。ありがとうございます。では、お花見お楽しみ下さい」
二口女は丁寧に頭を下げた。その時、離れた所から食べ過ぎで苦しむ猫又の声が響いてきた。
「……あら、この声、あの意地汚い雌猫」
顔を上げた途端、二口女は不愉快そうに眉を寄せ、毒を吐いた。
「……腹痛を起こしたみたいね。知り合い?」
リネンが涼介達が駆けつけている様子を確認してから二口女に訊ねた。
「えぇ、顔を合わせば、食べ物の話しばかりするんですよ。あの時、餅を横取りしたとか饅頭を食べたとか随分昔の話をするんです。心が狭い猫又なんですよ。あんな意地汚い雌猫に子分がいる事がいつも不思議で」
二口女は忌々しそうに言い捨てた。思い出して胸がムカムカしている事が端からはっきりと分かる。
「……どっちもどっちじゃない」
「……確かに」
密かにツッコミを入れるセイニィにうなずく牙竜。
「では、失礼します」
二口女はもう一度頭を下げてから会場を後にした。
二口女が訪れる少し前。
「……これが夜光桜ですのね」
ティセラは輝きながら舞い散る花びらを手の平に受け取り、光が消えるのを眺めては木を見て楽しんでいた。
「えぇ。娯楽の種類が多くなって流行り廃りの激しいこの時代でもお花見は変わらない楽しみの一つなのね。今夜はただの桜ではないけれど。はい、ティセラ、お花見と言ったら花見酒。舞い散る桜を愛でつつゆっくりと」
祥子は同じように夜光桜を楽しんでいたと思ったらポンと持参した酒樽を叩きながらニカッと笑った。
「素敵ですわね」
花ではなく団子の祥子にクスリとしながらティセラも賛成した。
「夜通し飲めるようにお酒は十分……」
そう言いつつティセラに盃を渡し、酒を注ごうとした。
その時、
「ティセラお姉さま、私のお酒を飲んで下さい」
レオーナが意気揚々と登場。
「……貴女、それは」
ティセラはレオーナの様子に表情が固まった。
「お酒は人肌が良いと言いますので、私の谷間を利用して温めときました。どうぞ!」
胸の谷間に缶ビールが挟まっていたのだ。当の本人は役立っていると思ってか大真面目に胸をティセラに向かって差し出す。とんでもなく取りにくい事この上ない。
「……あの申し訳ありませんが」
花見開始早々ぶっ飛んでいるレオーナにティセラは戸惑う。当然、胸に挟まっている缶ビールを取れるわけもない。
困るティセラに助け船が到着。
「お酒を飲む前に何か食べたらどう? お酒ばかりがお花見ではないんだから」
「パッフェルと作ったお弁当です。どうぞ、食べてみて下さい」
パッフェルと猫耳パーカーを着たシャーロットが手作りの花見弁当を出してみんなに勧め始めた。
「美味しそうね」
ティセラは助かったとばかりに興味を弁当に向けるのだった。しかし、これでレオーナが引くわけがない。
「ティセラお姉さま!」
缶ビールを胸に挟んだまま元気良く声を上げる。
「……今度は何ですの?」
ティセラは戦々恐々しながら訊ねた。
するとレオーナは小皿に適当なおかずをよそった。
そして、
「ティセラお姉さま、どうぞ!」
満面の笑みと共に小皿をティセラに手渡した。
「あ、はい。ありがとうございます」
ティセラはちらりと缶ビールに視線を向けた後、小皿を受け取った。
「……いえ、当然の事をしたまでです。お姉さまがお花見を楽しむためなら私何だってしますから」
レオーナはティセラのお礼に嬉しさで軽く身悶え。当然、ティセラは視線を逸らしていた。この後、レオーナは胸に缶ビールを挟んだまま二口女にもきっちりおもてなしをしていた。
「セイニィ、味はどうですか?」
シャーロットは黙々と食べているセイニィに訊ねた。
「いいんじゃない? もう一つ貰うわね」
セイニィは親しみのあるいつもの素っ気なさで答えつつシャーロットが作ったおかずをお代わりした。
「……ありがとうございます」
シャーロットは想いを寄せる人の言葉に嬉しそうにしていた。
「……シャーロット、あれってこの山の子かしら。こっちを見てない?」
ふとセイニィが物陰から覗く着物を着た少女を発見し、指さした。
「座敷童みたいだね」
セイニィの隣にいた牙竜が姿形から正体を判別した。
「……仲間に入りたいけど入れないでいるという感じね」
パッフェルが少女座敷童の様子から予想。
「……それならこちらから声をかけた方がいいですね。私が……」
シャーロットがゆっくりと少女座敷童に近付いた。
物陰の前。
「……良かったら一緒にお花見しませんか?」
シャーロットは屈み、少女座敷童と目を合わせながら優しく声をかけた。
「いいの? あたし、妖怪だよ。前に事件を起こした犯人と同じく妖怪だよ」
少女座敷童は誘いに喜ぶもすぐに顔を曇らせた。
「そんなの関係ありません。どう見てもあなたは悪い妖怪に見えませんし。それとも私達とお花見は嫌ですか?」
「……ううん、一緒にお花見したい」
シャーロットの言葉に少女座敷童はぷるりと頭を左右に振って答えた。
「それなら、行きましょう」
シャーロットはにっこりと笑いかけ、そっと手を差しのべた。
「うん。あたし華!」
差し出された手を握り、少女座敷童はシャーロットに連れられて賑やかな花見に参加した。
華が参加するとみんなお弁当や飲み物を勧めて甲斐甲斐しく相手をして可愛らしいお客様を喜んだ。
そこにもてなしていた二口女が行ってしまったために戻って来たレオーナが登場。二口女は華と入れ違いに去ったのだ。
「ティセラお姉さま! お困りの事はありませんか? あれっ、お客さん?」
戻って早々見知らぬ少女に気付いた。
「座敷童の華ちゃんです」
連れて来たシャーロットが紹介した。
「へぇ〜、可愛い子」
レオーナは華の頭を撫で撫で。
「えと、よろしく」
レオーナの事を知らない華は無邪気な笑顔をレオーナに向けた。
「うんうん、よろしく」
無邪気な華の笑顔に嬉しそうにするレオーナ。
「これ食べる?」
「このジュース、飲む?」
パッフェルとレオーナがジュースや甘酒などを勧める。
「ありがとう、お姉ちゃん」
華は優しいお姉ちゃん達から食べ物や飲み物を貰って嬉しそうに楽しんでいた。
その時、
「ねぇ、あれはなぁに?」
口をもごもごさせながら華は近くに転がる紙袋からマイクを発見した。
「これですか? これは飛び入り参加する人に宴会芸か一曲歌って貰うための物です」
シャーロットが自分が持って来た宴会芸をするための道具が詰まった袋を説明。
「へぇ〜、じゃ、あたし歌う!」
興味を持った華は転がるマイクを拾い上げ、立ち上がった。
「華ちゃん、歌えるのですか?」
「うん。えとね……」
マイクを持った華が口にした題名は誰もが知っている童謡だった。
「それじゃ、お姉ちゃん達も一緒に歌いますよ」
シャーロットはちらりとパッフェルに視線を送りながら名乗り出た。
「私も?」
予想外の展開に聞き返すパッフェル。
「そうです。せっかくのお花見ですから」
にっこりと理由にならない理由を口にするシャーロット。
「まぁ、いいけど」
パッフェルはため息をつきながらカラオケに参加する。花見という環境が断る力を奪ったようだ。
「お姉ちゃんも歌うよ!!」
女の子大好きのレオーナは元気良く参戦。
最初四人で歌い始めた童謡は、場を和やかにして聴いている人達も手拍子をしたり一緒に口ずさませた。
それからすぐに狐火童がやって来る事に。