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リアクション
第四章 双子が盛り上げる花見
花見会場。
狐火童があちこちに出現してしばらく。
「よし、来たぞ、キスミ!」
「それじゃ、例の物を取りに行くか」
双子は待ちわびた狐火童の登場に心を躍らせ、悪戯をしたくてうずうずし始めていた。
「……何か見られてるよな」
「二人でいるのはヤバイぞ。ここは別れて行動だ」
周囲から感じる自分達を監視する視線に双子は別行動を取る事に決めた。何せ逆さ吊りにもされたので。双子にしては慎重に行動するようだ。
「おう、あとで合流な」
「了解!」
双子は散り散りになって森の中に隠した悪戯道具を取りに向かった。
「来てはみたものの今日もロクな事しか起きないわね」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は恋人のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)を連れ、花見に参加しに来たものの主宰者が双子という時点で何か企んでいると予想でも偏見でもなく確実に思っていた。
「主宰者があの二人だものね。どうするつもり?」
セレアナは分かってはいるが一応これからの事を訊ねてみる。主宰者の名前を聞き気乗りしないままセレンフィリティに連れて来られたのだ。
「悪さすればシメればいいわ。まだ何にも起こっていないし、気にしてたら楽しめないでしょ」
大雑把なセレンフィリティはそれほど深く考える事はせず、早速酒盛りを始めた。
「……飲み過ぎないのよ」
セレアナは問題有りな発言をするセレンフィリティにため息をつきつつセレアナは付き合う事に。セレンフィリティは酒を飲み続け、ほろ酔い加減に自作の適当な歌を歌い始める始末。セレアナは恋人が服を脱いで裸踊りでもしやいしなかと花見どころではなかった。
何せ服の下がトライアングルビキニなので大変な事になるのは間違い無しだ。
しばらくして、狐火童の情報が伝えられ、セレンフィリティ達の予想は見事に的中した。
狐火童出現。
「……ん、この泣き声は」
セレンフィリティは泣き声を聞くなり、酒を飲むのを中断し、あちこちに現れた狐火童の姿を確認。
そして、
「セレアナ、行くわよ」
立ち上がり狐火童の元へと急ぐ。
「あの子達の相手をするのね」
「お花見と言えば無礼講、狐火童ちゃんも泣くより愉快に笑った方がいいでしょ!」
話しかけるセレアナにセレンフィリティは笑いながら答えた。
「確かにね」
セレアナは気になる事は色々あるが、間違ってはいないのでそのまま付き合う事に。
「ほらほら、泣かないで、お姉ちゃん達と遊びましょう」
セレンフィリティは狐火童の前に屈み、頭を撫でながら優しく話しかけ、大人しくさせた。
「……セレン、双子の一人がいるわ。どこかに向かってるみたいよ」
セレンフィリティの隣に立つセレアナが悪戯道具を取りに行く途中の双子の一人、キスミを発見した。
「ん? あの二人だいたい二人で行動でしょ。何か悪い事をしている最中ね。となれば……」
セレンフィリティも狐火童からキスミの方に視線を向けた。
「私達が誘いに行っても警戒するだけよ。特にセレンは……だから」
セレアナは冷静にこれまでの事を振り返り、捕縛ミスをの割合を計算し、とある提案をする。
「……確かに……それなら」
セレンフィリティは即セレアナの提案に乗った。
「……貴重な妖怪も見られたし、後は持って来た試作品をいろいろと」
何も知らないキスミはいそいそと急いでいた。悪戯道具を手に入れてから狐火童と遊ぶために。
そんなキスミの前に
「……」
ひょいと狐火童が現れ、通り道を塞いだ。
「狐火童?」
キスミは予想外に思わず足を止めた。
キスミが足止めされている隙にセレンフィリティ達が悠々と登場。
「その子達、遊びたいみたいよ」
セレンフィリティがにこやかに登場。キスミの背後にはセレアナが控えて逃げ道を何とか塞ぐ。
「何でいんだよ」
セレンフィリティに明らかに嫌な顔をするキスミ。
「さぁ、みんなで宝ふみをするわよ」
セレンフィリティは無理矢理キスミを取り込み、宝ふみをする事に決定した。宝ふみとはスタート地点から宝と書かれた円に向かって道を歩いたり円形のスペース(島)や道の内側にいる鬼を突っ切って行ったりする遊びで宝に辿り着いた人数で勝敗を決めるのだ。
セレンフィリティ達はキスミをこき使いながら桜並木に沿って道や島を描き入れたりして遊ぶ環境を整備した。その時、美味しいクレープを食べ終わった少女座敷童のすずが遊びに加わった。
宝ふみのルールを手早く説明した後、役割決めに入る。狐火童達は適当に分けた。
「あたしは鬼をやるわ。みんなはどうする?」
セレンフィリティは鬼を担当。
「すず、チャレンジャー!」
すずは元気に手を挙げてチャレンジャーを名乗り出た。
「……私はセレンと同じく鬼でいいわ」
セレアナは鬼に回る。酒の酔いが入っているセレンフィリティが激しく動いて悪酔いしたりしたら目も当てられない事になるので。
「それじゃ、キスミもチャレンジャーね」
キスミの役目はセレンフィリティによって自動決定。キスミには一切の決定権は無い。決定権を与えるととんでもない事になると知っているので。
「ちょっと待てよ。何で勝手に決めるんだよ。というか何でオレ参加されられてるんだよ」
当然文句を口にするキスミ。
「……主宰者はあんた達でしょ、狐火童ちゃんの相手をするのは当然の事よ。それじゃ、始めるよ!」
キスミの文句はばっさりと切り捨てセレンフィリティはゲーム開始の合図を出した。
ゲームはなかなか賑やかだった。狐火童達は飛びはしなかったが、消えたり現れたりとなかなか道から追い出したりなどが出来なかった。
「うわぁ、狐火童ちゃん、すごいなぁ」
すずが手を叩きながら仲間の狐火童を称えた。
「……さすが妖怪ね。道から押し出そうとしても消えてしまうし」
セレアナは鬼が負けてばかりの状態に肩をすくめる。
「……妖怪だろうが子供には負けられないわよ!」
負け好き嫌いのセレンフィリティは一層闘志を燃やしていた。
「……セレン、酒を飲んでいるんだからほどほどにね」
セレアナがため息と共に届かない警告を口にしていた。
スタート地点。
「よーし、すずは……ん? お兄ちゃん、何してるの?」
すずは鬼を突っ切って宝に行こうと考えるも背後でごそごそしているキスミに気が付いた。
「しーーっ、ちょっと用事があるんだ。内緒な」
キスミは人差し指を立てて小さな声ですずを口止めしてから数人の狐火童とどこかに行った。
「うん。すぐに戻って来てね」
何も知らないすずは手を振って見送り、ゲームに戻った。
すずが狐火童に捕まって宝に辿り着けなかった時
「……キスミがいないわね」
セレアナがキスミがいない事に気付いた。
「すずちゃん、何か知らない?」
セレンフィリティがもしかしたらと思いすずに訊ねた。
「お兄ちゃん、用事があるって。すぐに戻って来るから内緒にしてって狐火童ちゃんも付いて行ったよ」
内緒だと言われたのにぺろりと話すすず。子供なので仕方は無いのだが。
「……用事ねぇ、それは一つしかないわね」
セレンフィリティは制裁のため右手に拳を作った。
その時、会場から轟音乱れる大騒ぎの気配が入り込んできた。
「……セレンの予想は大当たりね」
セレアナは呆れたように言い、会場を覗いた。会場では妙なスプレー缶を持った狐火童達が夜光桜に向かって噴射していた。出て来るのは液体などではなく音だった。微風から強風など持っている缶によって違うようだが、どれもこれも音に合わせた効果を発揮していた。魔法の匂いがしまくりの一品である。
もう調べなくても犯人はキスミであろうと分かっている。
セレンフィリティ達は狐火童の遊び相手をすずにしばらく任せ、キスミ捜しに乗り出した。巻き込まれるのはこれが初めてではないためかすぐに発見する事が出来た。
会場付近の草むら。
「風の音缶はいい感じだな。帰って他の音缶も作らなきゃな。すげぇ、驚いてるなぁ」
キスミは隠していた魔法道具を回収し、試作品で密かに悪戯をしていた。ばれないように狐火童を使って。
キスミの楽しみもここまで
「……狐火童ちゃんを使って何をしてるのよ?」
背後から怒気たっぷりのセレンフィリティの声が降り注いで来た。
「!!」
驚きつつゆっくりと振り向くキスミは顔を青くした。
どうなるか分かっているだけに硬直して動けない。
「……没収」
セレンフィリティはキスミが持っている道具を全て奪い、隣にいるセレアナに渡した。
「ちょ、せっかく作ったのに!!!」
取り返そうとばたばたと手を泳がせるキスミ。
「問答無用!」
セレンフィリティは雀の涙ほど手加減した鉄槌をキスミの頭にお見舞いした。
「っいてぇなぁ」
キスミは痛さの余り涙を流しながら殴られた箇所に手を当てた。
「持っている物はこれだけね? ほら、さっさと狐火童ちゃんを集めて道具を回収するのよ」
セレンフィリティが拳を見せて脅しながら問いただす。
「……おう、せっかく試作品のデータ集めしてたのによぉ」
セレンフィリティの問いかけに答えるなり渋々と狐火童達を呼び戻し、魔法道具を回収した。当然それもセレンフィリティ達が没収した。
魔法道具の没収が一段落した時、
「お姉ちゃん達も早く来てよ!!」
すずがやって来た。狐火童達が無口なためつまらなくなって呼びに来たのだった。
振り向くセレンフィリティ達。
「……よし今の内に」
視線が一瞬逸れた隙にキスミは必死に逃亡してしまった。
「……消えた。逃げ足だけは相変わらず見事ね」
セレンフィリティは懲りていないキスミに肩をすくめた。
「警戒しているのは私達だけでも無いし、心配無いでしょ」
セレアナは他にも警戒している人がいると知っているので心配はしなかった。
とりあえずセレンフィリティ達はすずと共に狐火童達の遊びに戻り何とか夜明けを迎える事が出来た。キスミの騒ぎでセレンフィリティの酔いも冷めたのかセレアナが心配した展開は何とか回避する事が出来た。