|
|
リアクション
花見会場。
「……賑やかだねぇ」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は人と妖怪が入り交じる花見の様子を眺めていた。
「色んな奴が居るよな。こんなの見てると妖怪だとか人間だとか、線引きしようとするのが馬鹿馬鹿しくなるよな」
白銀 アキラ(しろがね・あきら)は人と妖怪がいがみ合う事なく同じ景色にいる様子にこの山で起きた先の騒ぎが馬鹿らしく思えてならなかった。
「……悲しみも楽しみも種族による違いは無いはずだからねぇ」
「あぁ、花の下では皆同じ。楽しくやれればそれでいいよな」
北都も白銀もしみじみしていたが、狐火童の情報を聞きすぐにそんな気持ちは払拭された。またあの双子はろくでもない事をするつもりだと。
とうとう狐火童出現。
「……泣くとは聞いたけど、こんなに悲しそうに泣くなんて」
あちこちで泣き声を上げている狐火童達を不憫に思う北都。
「おい、北都、あいつら二手に分かれやがったぞ」
白銀が二手に分かれて行動を始める双子を発見。
「……少しは考えているみたいだねぇ」
北都には双子の思惑はお見通しだ。少しでも悪戯をするために別々に行動していると。
「追いかけてみるか。もう一人の方は別の奴がいるみたいだからな」
白銀はキスミの方にセレンフリィティ達が行ったのを確認していた。
そのため北都達はヒスミの方を追った。
森の中。
「へへへ、色々試してみるかな」
ヒスミは隠していた試作品の魔法道具を掘り起こし、胸を躍らせていた。
そんなヒスミの背後から
「おー、いろいろ持って来てるな」
「こんな所に隠していたら持ち物検査でも発見出来ないはずだよ」
白銀と北都の声。ロズフェル兄弟にとって怖い人達の声。
「!!」
ヒスミはビクッと肩を震わせながらゆっくりと振り返った。
「よっ!」
白銀は片手を上げて怯え気味のヒスミに明るく挨拶をする。
「な、尾行したのかよ」
ヒスミはしっかりと試作品の魔法道具を抱えながら挨拶をする白銀をにらむ。
「いや、せっかくだから狐火童と遊ぶお前に付き合おうかと」
白銀はヒスミと仲良く行動すると主張するが、今までの事からヒスミが疑いもなく信じるはずがない。
「……」
じっと怯えと警戒入り交じる目をするヒスミ。
そこに
「……何か見覚えのある物があるんだけど」
ずっと成り行きを見守っていた北都が割って入り、ヒスミが抱えている持ち物の一つを取り上げた。
「おいっ!!」
ヒスミは取り返そうと抵抗するよりも早く北都は瓶を片手に離れた。
「……これはもしかして動物変身薬かな」
北都は瓶の正体を口にした。
「アタリっ! ただし妖怪にも効果が出る的な物に変えて時間制限で自動的に元に戻るように変えたぞ。戻る予兆は手先が熱くなる事だ。解除薬を別に使わなくていいように。試作段階でまだ猫しか出来てないけどな。俺が作ったんだぞ」
ヒスミは嬉々とした顔で薬の説明をする。
「……あぁ、お前か」
白銀は製作者がヒスミであると知って一層嫌な予感。毎度ヒスミのやり過ぎで騒ぎが酷くなるので。
「色々気になる事はあるけど、狐火童達もいるからそれを使って鬼ごっこでもしようか」
本日の北都は薬を作った事には目をつぶり、止めるような事はせずに双子に付き合うのだった。
「ナイスな案だぜ!」
薬の効果を確かめられるとなってヒスミはすぐに元気になった。
早速、動物変身薬(改?)を自分と北都達と狐火童達に振りかけた。
すると
「黒猫みたいにゃね」
北都は緑の目をした黒い子猫になり
「……」
狐火童達は狐面を付けた白い子猫に変わっていた。
「狐じゃないのが面白いにゃ」
と北都。
「妖怪でも効いたにゃ。でも言葉がおかしいし姿も子猫にゃ、やっぱり試作だからかにゃ」
ヒスミは毛並みも目も茶色の子猫になった。妖怪に効果があった事には喜んでいた。
しかし姿は子猫の上言語がにゃんこ語仕様になっていた。
「……鬼ごっこならオレが鬼をするぜ。相手は妖怪だからな、お前は頭は働くが体力無さそうで相手は無理だろうからな。それにお前にやらせたらろくな事しかしねぇからな。ついでにこれも処分な」
白銀は動物変身薬(改?)の保管役と他の魔法道具処分を引き受けた。
「何で処分にゃ、それ、作るの徹夜とかしたり大変だったにゃのに!」
返せと道具に手を伸ばすも子猫のため白銀が取り上げた道具に届かず、鳴くばかり。
「ほら、始めるにゃ」
「……ちぇっ」
促す北都に小さく舌打ちするヒスミ。
舌打ちが聞こえた北都は
「何か言ったかにゃ」
くるりとヒスミに振り向き、声の奥に恐怖を秘めながら言った。
「……言ってないにゃ」
怖い思いをした事があるヒスミは大人しくした。
北都とヒスミ達逃げる側は花見会場や森など散り散りに逃げて行った。
「行くぞ! がおーーーーーーっ」
白銀はヒスミの魔法道具を手早く処分してから狼に獣化して鬼ごっこの鬼を始めた。
「……」
消えたり飛んだりと軽やかに逃げる狐火童達。猫に姿を変えても能力は全く変わっていない。
「さすが妖怪だぜ。素早いな」
獣の俊敏さに加えて、『神速』で凄まじい移動速度と『軽身功』で木や地を蹴って全力を追ってようやく追いつける感じである。しかしあくまでも追いつけるというだけでタッチする瞬間には宙を飛んだり消え歩いたり、なかなかに手強い相手である。
「……悪戯するにゃ」
参加中のヒスミは猫の体を生かして悪戯をし始めた。花見客に近付き、ジュースにこっそり近くにある酒を注いで酔っぱらわせたり、テントに潜り込んで荷物を荒らしたりと悪戯をして楽しんでいた。ちなみに涼介のテントに入ろうととして追い払われりもした。
北都や白銀がそれに気付かないはずはなくすぐに発見される事に
「悪戯はそこまでだ」
発見した白銀が飛びかかり圧しに掛かった。
「ふぎゃ!!」
子猫のため白銀のもふもふプレスから抜け出す事が出来ずばたばたと両手で地面を叩いている。声も出せない状態である。
「反省しろ!!」
そう言って白銀はヒスミが声を出せるようにとわずかにどいた。
「………今夜は無礼講にゃ」
し足りないヒスミはぼそりと反抗する。全く懲りていない。
その時、
「……手先が熱いにゃ、元に戻る予兆にゃ」
北都がじっと前足の肉球をじっと見つめながらやって来た異変に声を上げた。
「……戻るのか。だったら」
白銀は急いでヒスミから離れた。北都に予兆が起きたという事は同時間にクスリを使ったヒスミも戻るという事だから。
そして、皆無事に元の姿に戻る事が出来た。
「無事に戻る事が出来たみたいだねぇ。変身後の大きさも言葉がおかしくなるのもそれほど気になる事でも無いから薬は悪く無いよ」
北都が動物変身薬(改?)についての使用感想を述べた。
しかし、
「……北都、逃げたぞ。いつもの通り逃げるのは速いな」
聞くべき相手は消えていた。皆が元の姿に戻っている最中に消えゆく猫の小さな体を使ってどこかに行ってしまったようだ。
「……警戒だけはしておこうか。まだ夜は終わらないから何かするはずだよ」
北都は全く慌てていなかった。自分達以外にも双子に目を光らせている者がいるからだ。当然、自分達もいつでも動けるようにはしておく。
再び動物変身薬(改?)を使用して鬼ごっごを再開した。
遊び続けているとさすがに疲れるため途中、花見客から食べ物や飲み物を貰ったりして体力や喉を潤した。
花見会場から少し離れた場所。
「ふぅ、散々な目に遭ったぜ」
「こっちもだぜ」
再び兄弟再会を果たした二人はぐったりとしていた。
ヒスミは北都達にキスミはセレンフィリティ達に散々な目に遭わされた。
しかし、
「でもまだまだこれからだぜ」
「夜明けまでにはまだ時間があるもんな」
悪戯が何よりも大好物の双子がこれぐらいで大人しくするはずがない。
狐火童が消える夜明けまで遊ぶつもりなのだ。
「……」
いつの間にか双子の両脇に狐火童がやって来て泣き始める。
「なぁ、キスミ」
「ヒスミ、こういうのはどうだ」
狐火童を見た途端、双子は花見客に悪戯する企みを同時に思いついた。さすが双子というべきか。
こそこそと話し合った後、
「……よし、実行だ」
「こっそりとな」
静かに実行。
狐火童に何事かを指示してから見送った。
「さて、俺達はゆっくりと花見を楽しむぞ」
「綺麗な桜だな」
双子はわざとらしい声を上げ、ただの花見客を装い始めた。
そんなものすぐに見破られるとも知らずに。