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リアクション
蓮華は鋭峰と散策に行き、ルカルカ達は狐火童に盗まれた花束奪還と双子成敗に行き、ハイナは付喪神の相手をしていたが、その付喪神もまたどこかに行ってしまい、ハイナ一人となっていた。
「……ハイナ」
唯斗があちこちの参加者に頼み込み、数種類の酒とつまみを入手して戻って来た。今はハイナ一人なので姿を消す事はしなかった。
「さすが唯斗でありんす!!」
ハイナは酒とつまみに目を輝かせながら唯斗を迎えた。
「……もしかして今日の目的は」
薄々分かってはいたが、一応ハイナの口から聞きたくて今日の目的を訊ねた。言外には花見だろうと込めながら。
「花見ではありんせん」
唯斗の言外の気持ちに気付いたハイナは即花見を否定した。
「……でなかったら何だよ」
唯斗は呆れながら問いただした。
「……あの事件後の後処理でありんす。狐火童の涙が収まる事を確認するため。妖怪と人がの関係が元通りになるだろうと希望を見るためでありんす」
ハイナは総奉行の顔になり真面目な事を口走った。
「……そうか。さっき雄の件と会っている奴の会話を聞いたんだが」
唯斗もハイナの空気に飲まれ、ハイナの指令遂行中に耳にした木枯達と件の会話を思い出した。
「……件、あぁ、予言する妖怪でありんすね。それで何と?」
「それで……」
唯斗はハイナに促されるまま耳にした事、平和は脆い事や妖怪の山の住人や来訪者が災厄を起こすかもしれないという事など全て語った。
「……平和はすぐに崩れる、当たり前でありんす。人生とはこの桜のようなもの。咲きんして散って季節が巡りまた咲きんす。平和となりそれが壊れ時間が経ちまた平和になりんす。その原因が何であろうとわっちらは平和を守らなければなりんせん」
ハイナは舞い散る花びらを手の平で受け、輝きを失っていく様を眺めながら力強くつぶやいた。
「……ハイナ、今日はえらく真面目な話をするんだな」
いつもの無茶振りする姿と違う姿を見て唯斗は思わず洩らした。
「……妖怪が化けてる訳じゃありんせんよ。さぁ、お酌を頼みんす」
ハイナはいつもの調子に戻り、突っ立っている唯斗に向かってケタケタと笑った後、お猪口を手に取った。
「はいはい」
唯斗はため息をつきながらお酌を始めた。
「……静かに酒を飲むのもいいものでありんす」
ハイナは一口酒を飲んだ後、騒がしい花見会場を愛おしそうに見つめていた。守るべき平和がそこにあるかのように。
「……そうだな」
ハイナの隣に座る唯斗も静かにうなずいた。ハイナと同じ気持ちで。
この後、クレープやら和菓子やらを所望し唯斗はパシリ忍者らしく走り回った。化け狐の長とこれからも仲良くしたいという話しをしたりとしっかりと視察をしていた。
今夜は視察らしく酒で我を忘れるような事は無かった。花見が終わるなりハイナは唯斗に連れられ、下山した。
ルカルカ達が花束奪還に向かい、ハイナが妖怪の相手いや酒盛りをするため鋭峰と散策したい蓮華を送り出していた。事前にルカルカには散策の許可は貰っていたりする。
蓮華と鋭峰は並んで夜光桜の下を散策していた。
「……団長、桜がとても綺麗ですね。発光するのは、妖怪の山だからでしょうか」
蓮華は何気ない会話をするが、大好きな鋭峰との散策に始終胸が高鳴ってばかり。
「……かもしれんな」
鋭峰は夜光桜を見上げながらうなずいていた。
会話はそれぐらいで話すよりも沈黙する時間の方が長かった。
「…………(はぁ、こんな美しい桜の中、隣には団長、あぁ、心臓が破裂して死にそう)」
沈黙が多くても蓮華は隣の鋭峰の横顔を見るだけで幸せいっぱいの状態だった。
「クレープ、クレープ♪」
蓮華と鋭峰の背後から花見客と思われる子供の弾む声。
「……本日の視察は……」
何か会話をしなければと蓮華は本日の視察の案配を訊ねる事にした。しかし、蓮華が言い終わらない内に背後で人が転ぶ音が響いた。
それと同時に
「ふぇぇぇぇぇぇん」
大音量の子供の声。
「!!」
蓮華は何事かと振り返った。そこには地面の石に転んで泣いている少女座敷童がいた。
「大丈夫?」
蓮華は鋭峰との散策を忘れ、少女座敷童の元に駆けつけ、手を貸しながらゆっくりと立たせた。
「あぁ、転んでしまったのね。怪我は無いみたいね、ほら、もう泣かないで」
蓮華は着物についた土を払いながら優しく話しかける。
「……うん……でもクレープ……すずのクレープ」
少女座敷童はこくりとうなずくも涙は止まらない。その視線の先には転んだために無残な姿に成り果てた桜クレープが転がっていた。クレープに夢中になるばかり地面にある石に気付かなかったのだ。
「えっ、えっぐ、クレープ、くっすん、すずのクレープ」
すずは声を上げて泣き始める。
「大丈夫! このお姉ちゃんが何とかしてあげるから!」
蓮華はすずの頭を撫でて励ました。蓮華には何とかする方法が思いついていたから。
「団長、申し訳ありませんが、この子をお願いします!」
蓮華はすずを団長に頼み、何とかするために行ってしまった。
「あぁ」
すずを頼まれた鋭峰は蓮華を止めず、見送った。
すぐに蓮華は桜クレープ片手に戻って来た。
「団長、ありがとうございました」
団長に頭を下げた後、すずに自分が買って来たクレープを差し出した。
「ほら、クレープ」
「あ、すずのクレープ」
蓮華の手にあるクレープに顔を明るくさせ、受け取った。
そして、
「ありがとう、お姉ちゃん。でも……」
元気に礼を言ってから蓮華と鋭峰の顔に目を走らせた後、うつむいてしまった。
「……どうかした?」
蓮華は急に元気がなくなったすずを心配して顔を覗き込んだ。
「ごめんね、お姉ちゃん、デートしてたんでしょ」
すずは自分を心配する蓮華にぽつりと謝り、子供故のとんでも発言をした。
「えっ、デ、デート!? そ、そんな、だ、団長と私が恋人だなんて……団長の事、誰よりも好きだからそう見られたら嬉しくない事もないけど……でもお傍に居れるだけで良いの。団長は私の気持ちを御存知だから」
蓮華の恋心を指摘するどころか蓮華と鋭峰を恋人と勘違いするすずに蓮華は動揺し、否定だけでいいのに自分の気持ちまでも口走ってしまう。
そして、発言した後、
「!!」
蓮華は背後に鋭峰がいる事を思い出しはっとした。
しまった感を漂わせながら蓮華は恐る恐る鋭峰の方に振り向く。
「……」
鋭峰の表情は平時と何も変わっていなかった。確実に聞いていたはずなのにまるで聞いてなかったかのよう。それは蓮華を気遣ってなのかそれ以外のためかは分からないが。
「……あのね、お姉ちゃんはデートじゃなくて散歩をしていたの」
蓮華は手遅れと感じつつも懸命に取り直そうとする。
「そうなんだ。すずにはデートに見えたけど。まぁ、いっか。それじゃお姉ちゃん、ばいばい」
すずは蓮華の言葉には半信半疑だが、興味はクレープに移動し挨拶するなりどこかに行ってしまった。
「ばいばい」
蓮華は手を振ってすずを見送った。疲れと勘違いされた嬉しさをほんの少し感じながら。
すずを見送った後。
「……あの、団長。先ほどはお見苦しところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」
蓮華は深々と頭を下げた。鋭峰に嫌われたらどうしようと緊張しながら。
「私は、これからも団長を部下として人として支えて行きたいと思っております。よろしくお願いします」
蓮華はなおも頭を下げたまま自分の気持ちを言葉にする。本当はすずが勘違いした関係になりたいのだが。
「……頭を上げろ、君はあの子供を助けただけで謝るような事はしていない。これからもよろしく頼む」
鋭峰はいつもの調子で蓮華の頭を上げさせた。蓮華が洩らした自分に対する発言については一切触れずに。表情からはその胸の内を読み取る事は出来なかった。
「……団長」
顔を上げた蓮華はとりあえず嫌われていない事を知りほっとした。
蓮華と鋭峰はまた散策を始めた。