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―アリスインゲート1―後編

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―アリスインゲート1―後編

リアクション

 第二搬送用テレポートゲートをくぐった先の事だ。
「やっと通れたー」
 ゲートを潜った先で、誰かの右腕を捨てる緋柱 透乃(ひばしら・とうの)。引きちぎられた前腕には白衣の袖が血で張り付いている。
「ほんと頑固な研究者さんでしたね。なかなか話してくれないから時間がかかってかかって」
 ここへ通るのに指静脈認証が必要と知ってか、適当に捕まえた研究者に緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が丁寧にお願いして通してもらった。どうお願いしたのかは残ったのが腕だけだと言えばわかってもらえるだろう。
 しかしながら、そんな認証行為に何の意味もなく。誰かがハッキングしてゲートの全セキュリティーを解除したから通れたとは透乃は全く思っていない。どちらにせよここを通れたのだからどちらでもいい。
「さて、この先何があるのかなー」
 ゲートの先は一本道。窓もない。幾つかの扉があるがそれらは無視して先に進む。
 一番奥の扉を開くと、彼が居た。
「やあ、久しぶり。一ヶ月ぶりかな。」
 句読点を打つ特徴的な口調の彼が居た。
「2日ぶりだよ。おまえなに言ってるの? 電車男(トレインジャック)」
「君たちにとってはだね。でも僕にとっては一ヶ月前のことだよ。あの列車のことは。」
 異次元空間で次元の狭間が開いた時、彼も列車と一緒にそこへと引きずり込まれたのだが、運が悪いのか良いのか、電車男は契約者たちよりも一ヶ月早くアンダーグラウンドの『キンヌガガプ』より這い出る事になった。
「あれ? 電車男さんその足は?」
 切断されたはずの両足が元に戻っているのを陽子が尋ねる。
「新しく。付け直してもらった。義足だけど前よりも快適だよ。なにせ靴下を履かなくていい。」
「そ、それでおまえなんでここにいるの? 殺人鬼なら殺人鬼らしくここの人たち皆殺しにすればよかったのにー」
 透乃は理解できないと言ったふうだ。
「助けてもらったお礼。ってのは嘘。そんなことするつもりはなかったし、連れて来られるまでに、仲介役を何人か殺してやったんだけどさ――洗脳されちゃった。今日はここで警備担当だっていうから一人で見張ってる。」
「見張り?」
 電車男がエリアルディスプレイで室内の機能を操作する。
 壁という壁が割れて収納されていたものが出てくる。
 壁に収められていたのはパッケージングされた人間の脳。全て連れさらわれた難民の脳髄だ。
「素敵な趣味は会社のですか?」
「そう。国籍定かじゃない難民を連れてきては脳を刳り抜いて。でもって、サイボーグの材料にしてるんだ。勿論脳には薬物と電子手術で洗脳してから。僕もその口だけど。」
「それは説明どーも。どうでもいいんだけどさ。それより今回は逃げないよね?」
 透乃の問に電車男が頷く。
「いいよ。たまに相手になるのが欲しかったし。でもここじゃ駄目だからこの先で待ってるよ。」
 そう言って、電車男は奥にあるテレポートゲートへと向かった。


 テレポートゲートの先。屋上の給水塔にて三人が彼を待っていた。
「クスクス……遅い遅い。大分待ったよ電車男♪」
 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が待ちわびた御仁の登場に口角を上げる。
「あれ? 追加がいるね。まあいいけど」
「上の方にいれば、テメーが現れるんじゃないかって思ってな」
「安心してください……僕はギャラリーだからそこのお姉さんも怖い顔しないで」
 天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)が透乃の邪魔をされないかと陽子が睨んでいるのに笑顔を向ける。
「クク……そういうわけだ。」
 大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)がどうぞどうぞと死合を薦める。
「そう。それじゃ――」
 拳を握りしめ、透乃がレックスレイジで潜在能力を開放する。
「殺し合おう!」
「きなよ。フィストガール。」
 詰め寄りがてらの跳躍で透乃はジョルトブローから始動する。まずは挨拶代わりだ。
 跳びかかる彼女に対して、電車男は蹴りで応戦する。透乃が拳しか使わないのに対しての意趣返しか、彼は足しか使わない。
 上段で拳を蹴り払い、素早く身体を捻り回し、後ろ膝蹴りに移行する。
 上等と、透乃は避けるつもりもなく、迫り来る左足に左アッパーを合わせる。
 電車男の左足が透乃に届く直後、アッパーのタイミングよりも早く軌道が下方へ変わる。横回転していた体が縦回転に代わり、空気を噴射する左足が頭上から襲い来る。
 肩口に迫る左足を半歩後退して避けるが、機械の足から出る空気と蹴りの速度から生じる鎌鼬に服と肌が裂ける。
 だが相手は後ろを向いている。半歩引いた右足に力を込め、重心を左半身へと移す。そのベクトルを左腕へと流し、肺への掌底を狙う。
 空気が破裂する。
 破裂した空の右側。透乃の左側面に回り込む電車男。
 予測済み。掌底から裏拳へと繋ぐ。正面に捉えて背後には回り込まさせない。
 電車男はバックステップ。衝撃強い連撃の拳を一合二合と蹴り凌ぐ。
 三合目、透乃の右が大きく伸びる。踏み込んできた。
 垂直跳躍、伸びてきた右腕に乗り、更に跳躍と同時に蹴り上げで顎を狙う。赤い前髪が舞う。
 重力制御により、空中に重力場の足場を作り上げ。三角蹴り。透乃の左上腕を蹴りつける。だが躱され、皮膚と胸のチューブトップを削っただけで終わった。服が大きくはだける。
 服の破けは気にすることなく、拳を振るう透乃。上体の沈んだ相手に両手のハンマーパンチで床ごとぶち抜く。
 ぶち抜いたのは床だけだった。バク転退避していた彼は逆立ちの体制から回転蹴りを繰り出す。半立の彼女に飛び退く暇を与えない。
 連続する回し蹴りを両腕でガードしつつ、上体を起こしていく。
 横回転が加速し、斜め、縦へ、頭上から打ち下ろす蹴りへと変わる。空刃が腕の皮膚を容赦なく断裂させる。
 フィニッシュは腕跳躍で全体重と回転力を乗せた踵落とし。空気噴射で更に速度と威力を増す。ガードを飛び越え、脳天目掛けて叩き落とす。
 しかし、何を思ってか透乃は落ち来るそれに右腕を伸ばす。
 爪が割れ、皮膚が裂け、骨が砕けるのもお構いなしに、足首を掴む。
 「もらったぁ!!」
 力点は作用点に変わり、威力はそのまま透乃《自動車殴り》に加算される。足首を掴んだまま、無理矢理なオーバースローで電車男の体を床へと叩きつける。
 床は衝撃で爆散し、下階へと突き抜けた。