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―アリスインゲート1―後編

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―アリスインゲート1―後編

リアクション

 コンソールに【448N】を入力する。
 通過許可が出るのを確認する。
「いくぞ」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が先行してゲートを潜る。リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)を魔鎧化させて身にまとい、防御に備える。
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)フレリア・アルカトル(ふれりあ・あるかとる)もその後ろに続いてゲートに入る。
 意外なことに待ち伏せ攻撃はなかった。しかし、四方を見る限り窓はなく、ここが何階なのかわからない。
「真司あれ」
 廊下の前には大きな影。人の形ではないそれがずんぐりと立っている。それをフレリアが指差す。
 そいつは――
「『くまさん』」
 ヴェルリアがいうようにそいつは熊のきぐるみをしていた。
「アリサを拐っていったやつね〜。てことはこの先にアリサがいるってこと?」
「だろうな。ただ、なんだのふざけた格好は……」
 リーラの言うとおり、そいつはアリサを拐ったやつだ。真司もそれはヴェルリアとフレリアに事を聞いていたから知って入るが。まさか本当にクマの着ぐるみで登場するとは思わなかった。
 あれが超速で走るというのだからおかしなものだ。
 だが、本当にそうだから困る。腕を大きく振り、ものすごい速度で接敵してくる。
「くるわよ」
 リーラが警告する。言うがいなや『くまさん』はもう目の前に来ていた。
 無言で『くまさん』がダッシュからの飛び蹴りを繰り出す。短く円柱形の足が飛来する。
 《ポイントシフト》と《神速》で避けた三人の空間を裂いて、後方へと回りこむ。着地地点を踏み抜いてそのまま反対へ。熊手で真司にラッシュをかける。
「ふざけた攻撃のくせに……腕に響く――」
 可愛くも凶器なベアクローの衝撃に耐えるべく《超人的肉体》強化を施す。
「真司!」
「近づくな! 距離を取れ!」
 二人に警告し、熊手を弾く。切り返しで腕を浅く裂く。
 弾いた熊手が壁に埋まる。引きぬかれたそれは、ぷにぷにした掌にちょっと飛び出した爪が緑色に光っている。
 ぬるっと愛くるしい顔がこちらを向く。思わず抱きつきたくなるようなつぶらな瞳がライトの光を反射して輝く。
「こわ! 『くまさん』こわ! あの爪絶対コジマ的な粒子帯びてるでしょ! あんなので引掻かれるなんていやよ!」
 嫌がる魔鎧。あんな爪に削らるのは簡便だと。
 薄く切られた熊の腕の傷から筋繊維が見える。だがそれは、着ぐるみの内布でもなく、動物の肉でもない。黒い鉄繊維。CNT(カーボンナノチューブ)筋繊維がみっしりと体毛の下を巡っていた。
 つまりこいつは――
「サイボーグか、それともアンドロイドですね」
 ヴェルリアの言う通り、こいつはクマ型のアンドロイドだ。
 ミナミ博士が作ったおもちゃを骨格模型としてそれを拡大し、自立歩行が可能な筋力及び関節モーターを組み込んだ愛玩系殺人マシーンだ 生体筋肉に比べ、単位面積当たり約30倍の力を発揮するCTN筋繊維を実際の熊と同じ筋肉配置で組み込んでいるとすると、人型のアンドロイドよりも遥かに恐ろしい破壊力を有している。
 おまけに筋繊維の軽さとモノポールモーターの超駆動でものすごい速度で動ける。アリサを拐さらった時に居た二人では到底追いつけない速度でだ。
 唯一の物理的弱点は実戦データの少なさによる戦闘AIの弱さだろうが、彼らがそれらに気づけるかが鍵となる。だがそれも自動学習するので早々に倒さないと更に厄介なことになる。
 それでもまだ契約者達のほうが強いといえる。
 近接の大きな熊手の振りかぶりに合わせて、真司が《ポイントシフト》で死角に回りこむ。
 データ修正し、消えた敵影の居場所を視覚データ0.3秒前から算出。攻撃ベクトルを利用して死角方向への回し蹴りへと変更する。
 変更後に上体に異常を感知する。空間認識位置に垂直下方への大幅なズレを感知する。
 ヴェルリアの《グラビティコントロール》で『くまさん』の巨体が体制を崩して床へと沈み込む。
 位置修正をAIは素早くこなし、のしかかる重力の枷に抗う。
 真司は動きの鈍ったそいつの脇腹めがけて【サイコブレード】で突きを繰り出す。筋繊維の隙間を縫って刃先が金属に食い込む。突き立てた剣から《サンダークラップ》を体内に流し、電子系統をショートさせる。
 【サイコブレード】を抜き取ると、『くまさん』がラブリーな見た目に反した金属的な音を立てて床に伏せた。
「見た目がおちゃらけているくせにヤバイ相手だった……!」
 剣を仕舞い、真司が右腕を抑える。初撃を弾いた時に前腕尺骨が亀裂骨折を起こしていた。油断で肉体強化が間に合わなかったせいだ。三人には隠しておく。
「先に急ぎましょう。こんなの何匹も相手にしてたらアリサに辿りつけないわ」
 フレリアの言う通りだと、4人は先を急いだ。