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新興都市シズレの陰謀

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新興都市シズレの陰謀

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終章 エピローグ

 ジュリエンヌ商会のトップ・ジェラルドの死体は、発見されなかったらしい。
 一応、捜索隊により現場周辺は洗われたものの、
 あれだけの力の中心に晒されたのだから、
 間違いなく原型は留めていないだろう。
 それを地下の崩落した地盤の中で探せという方が、無理があった。
 ……とはいえ、誰もジェラルドが生き残っているとは思っていない。

 契約者達の活躍により、ジュリエンヌ商会暗部は壊滅したのである。





◆新興都市シズレ近郊・シャンバラ国軍野営地◆

「……お疲れ様でした」

 金元 ななな(かねもと・ななな)に声をかけたのは、小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)だ。
 地上で任務に当たっていた彼も、事の顛末は報告を受けている。
 ジュリエンヌ商会が壊滅し、一部の幹部は捕らえられた事。
 拉致されていた瑛菜や、剣の花嫁達の救出に成功した事。
 ……既に暴走していた剣の花嫁について解決方法は存在せず、
 やむを得ず各地で討伐が実施された事。


「自分は当事者ですから、なななさんの気持ちはわかるつもりです」
「……そうだよね、なななより辛かった隊員さんが、たくさんいるはずだよね」

 それでも、と見上げたなななの瞳には涙がいっぱい溜まっていて、

「助けて……あげたかったよぉ……!」

 溜めきれなくなった涙が、ぽろぽろと溢れ落ちた。

(しばらく1人にした方が良さそうですね……)

 というのが半分、これ以上見ていると自分も危なさそうなのが半分といった理由で、
 秀幸はこの場を後にする―――
 ただ、一つだけ言い残して。

「自分の分析によると、
 我々や協力者の皆様が動いたことで救えた命は、120%たくさん存在します。
 その事を忘れずに……」

 失敗を恐れて動けなくなった時。
 その時が、真の絶望の時なのだ。
 今はただ耐え続けよう―――今度こそと、次への糧にできるまで。





◆シズレの町中◆

 熾月 瑛菜(しづき・えいな)アテナ・リネア(あてな・りねあ)と共に、
 破壊された町の復興作業を手伝っていた。

「瑛菜おねーちゃん! そっちの木材運んできてほしいって」
「よしきた。任せとけ!」

 町の人々も一部は離れていってしまったようだが、
 大多数はまだ復興に望みをかけている。
 ジュリエンヌ商会の遺した地下エネルギープラントが、皮肉にも一役買っているのだ。

「……地下エネルギープラントの改造が完了した。
 これで機晶石をエネルギー源とし、町を動かすことができるだろう」
「ジャジラッド」

 瑛菜の元へ現れたのは、恐竜騎士団副団長ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)だ。
 今回だけではない―――
 ここ最近、彼は何度も瑛菜との接触を試みていた。
 その理由というのが、

「決断できたか?
 おまえに復興都市シズレの市長を頼みたいという件だ」

 ジュリエンヌ商会が壊滅した後、
 シズレは各地からの拉致誘拐で発展してきたという噂は、瞬く間に広まった。
 一部ゴシップ誌が犯罪都市シズレなどと騒ぎ立てたせいである。
 知らずに過ごしてきた罪無き町人にとっては、屈辱だっただろう……
 それが理由で離れていった人も多かったのかもしれない。

前にも言ったが、この町は放っておけば潰れる。
 今は我々と教導団が管理しているが、どちらかが一方的に占拠すれば角が立つ。
 いずれどちらの組織も、手を引くことになるだろう


 お世辞にも立地条件が良いとは言えないシズレだ。
 組織的な見地からすると、対立を深めてまで管理下に置くメリットは薄いのである。

「頭では理解してたんだ。
 ただ、あたしで務まるのかって……ずっと考えてた。
 けど復興作業を手伝ってて、ようやく決心がついたよ」
「! では頼めるか?
 既に教導団とは、情報源となる商会の幹部連中を引き渡す代わりに、
 市長を組織外の人間から選出する権利を貰うことで合意している。
 後はおまえが決めてくれれば、この町は救われるんだ」

 というのは建前で、実のところジャジラッドはもっと深い企みがあるのだが。
 そんな事は知らずに、瑛菜は強く頷く。

「あぁ、事件の渦中にいた者として、できるだけやってみるよ。
 ずっとここに居られるわけじゃないけど、
 それで何も知らなかった住人の皆を、少しでも助けられるなら……!」

 そんな瑛菜の様子を見たアテナも、
 拳を握りしめてガッツポーズをとってみせる。

「アテナもお手伝いするよ!」
「決まりだな。オレから通達を送っておく。
 機晶石の支援は可能な限り継続できるようにする……頼んだぜ」

 ジャジラッドはその言葉を最後に去って行った。
 具体的にどうなるのかまだわからないが、瑛菜もアテナも覚悟を決めたようだ。

「とにかく、今は目の前の事に集中して―――
 ってそうだ、木材頼まれてたんじゃん! すぐ行かなきゃ!」
「そ、そうだよ。アテナも運ぶから急ごっ!」

 瑛菜とアテナも大慌てで、この場を走って去って行った。





◆シャンバラ教導団・本校舎◆

デュオ! 見て見て、この鎧。
 デュオが着けたら絶対似合うよ!」

 学校当てにかつて寄贈されたらしい和風の鎧。
 それを見て、大はしゃぎする少女がいた。

「ククッ……騒ぐなパノ
 まぁ歴戦の覇者である俺様ならば、どのような装備も着こなす事が可能だがな」

 地下エネルギープラントの捜索中。
 エネルギー抽出施設に捕らわれていた剣の花嫁の中に、
 デュオの探していたパートナー・パノの姿も見つかっていたのである。
 発見時は憔悴しきっていたが、近場に回復スキルを使える契約者が多かったため、
 今はこうして元気に動き回っている。
 が、何の後遺症も無いわけではなかった。

「あれで何回目だ? あのやり取り」
「……6回目なのだよ」

 との会話は、シュヴァルツ金 鋭峰(じん・るいふぉん)のものだ。
 離れた会議用のテーブルにいるため、デュオ達には聞こえていない。

眠ったら記憶が失われる障害、ね。
 また厄介なものにつかれちまう奴もいたもんだ」

 シュヴァルツは天を仰ぎ、デュオの心中を察する。
 彼は今回の事件に直接関わってはいないが、
 教導団に協力中の者として、現状を把握しようとやってきたのだ。

(それに、ジュリエンヌ商会が保持していたっていう技術力の高さ。
 もしかしたら……)

 以前あった、教導団管轄下の研究所で起きた事件。
 その黒幕である鏖殺寺院の一派・エレクトラが、
 今回も関わっているかもしれない。
 シュヴァルツはそう睨んだのだ。

「ジュリエンヌ商会暗部の所行は許されるものではない。
 彼女や、怪物化させられ討伐された剣の花嫁達のためにも……
 今後は方々に手を尽くし、同じことは繰り返させないのだよ」

 金鋭峰は胸の内を吐露する。
 他にも……少なくない教導団員が犠牲となった。
 重要なポストにいるルカルカ・ルー(るかるか・るー)大尉やダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も、
 更には恐竜騎士団側でも国頭 武尊(くにがみ・たける)が、最後の爆発を受けて重傷を負い、病院へ搬送された。
 ―――厳しい戦いだった。

 と、やがて情報の整理が終わった羅 英照(ろー・いんざお)が口を開いた。

「今回のシズレの一件、ほとんどの出来事が広く知られることとなったが、
 公にされていない情報もいくつかあるのだよ」

 羅英照は持ち込んだ資料をめくりつつ、

「まず1つ目、これは世間の不安を煽らないために伏せている……
 シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)らが護送した商会の幹部格・カルロスという男の証言だ。
 ジュリエンヌ商会は単独で成長したのではなく、
 何かもっと強大な組織の後ろ盾があって大きくなったらしい

 その組織に繋がる情報は、地下エネルギープラントから抹消されていたという。
 だが、シュヴァルツはこの時点で確信めいたものを抱いていた。

「そしてもう1つ、これは恐竜騎士団側から回ってきた情報だ。
 商会暗部の幹部格は3人いたが、その内の1人を団員が取り逃がしたらしい。
 女の幹部だったそうだ……名はモルガナ
 熾月 瑛菜(しづき・えいな)も捕らわれていた間、その幹部と接触があったと証言している」

 後の調べで、オアシスへの抜け道があったことも判明していた。
 きっとそこを通って逃げ出したのだろうが、

「その恐竜騎士団員は何をしていたのだ?
 みすみす見逃したわけではあるまい」

 金鋭峰の言い分はもっともで、
 報告があったという事は返り討ちにあった訳ではなさそうだ。
 ならばどうして逃がしてしまったのかという話なのだが―――

「……何でも、一瞬の隙に忽然と消えてしまったらしい。
 その団員は暗闇対策に【顕微眼(ナノサイト)】を使用していたというから、
 隠れ身を使われたということもないであろう」
「ふむ……それはまた妙なのだよ」

 金鋭峰は神妙な面持ちで考え込むが、
 続く羅英照の言葉が、これまた奇妙だった。

「しかも、その女幹部に瑛菜は一度飛びかかった事があるようなのだが、
 掴みかかる事は適わずすり抜けてしまったらしいのだよ。
 そう、まるで幻影だったかのように―――

 ここでシュヴァルツの抱いていたモノは、本当の確信に変わった。

「……シャウトだ……」

 ボソ、とつい口をついて出たという風に呟く。
 訝しむように視線を向ける金鋭峰と羅英照。

「その女幹部はシャウト。エレクトラの幹部だ!
 モルガナってのは偽名だろう……ジュリエンヌ商会の背後をもっと調べれば、
 研究所の大量殺人事件の黒幕にも辿り着けるかもしれない!」
「なんだと……ジン」
「わかっている。すぐに調査隊を編成してシズレへ送る。
 逮捕したカルロスという男からも、もっと情報を引き出すのだよ」

 こうして、ジュリエンヌ商会暗部はエレクトラ
 裏で繋がっていた事が判明したところで、今回は幕引きとなる。
 シズレの町はこれから復興に向かっていくが、
 その中で新たな情報が出てくる事はあるのだろうか。

 研究所の事件以降、教導団は秘密裏にエレクトラを追っているが、
 依然としてその姿は捉えられていない。
 彼らは今どこに居て、どのように活動を続けているのか?

 物語は加速し、教導団はこれより、その正体に急接近していく事となる―――。


担当マスターより

▼担当マスター

水無月へる

▼マスターコメント

▼ マスターより

 水無月へるです。
 ここまでお読み頂いた方、およびご参加頂いたプレイヤーの皆様、ありがとうございました。

 『新興都市シズレの陰謀』は、『動乱』に続く影の物語の完結編となります!
 今回から参加という方も多かったようで、感涙にむせいでおります。
 多彩なアクションに少しでもお返しできていたらと思いますが、いかがでしたか?

 今回、非常に人数配分が良いバランスでしたので、
 PC側が窮地という場面はあまり無かった気がします(暴走済みの花嫁については残念でしたが)。
 強いてあげるならジェラルドの秘密兵器『6月の花嫁』攻略に関してでしょうか。
 最終的に自爆されてしまったため、ジェラルドの目的を聞く事が出来ませんでした。
 相手側のリーダーを倒しにいくというアクションは、
 そのシンプルさゆえに少なくなりがち……なのかもしれません。

 ともあれ、結果的には概ね上手くいったと考えて良いはず!
 皆様、お疲れさまでした。
 よろしければ、また次回お会いしましょう!



終章 エピローグについて※

 『紅き閃光の断末魔』シリーズをお読みになっていない方は、
 頻発されたエレクトラについてご存じないと思われるので、重ねて注釈を。

 エレクトラは現在、教導団が追跡している鏖殺寺院の組織です。
 経緯としては教導団管轄にある研究所が彼らによって壊滅させられたため、
 国軍としての報復を実施すべく、行方を追っています。
 また、シュヴァルツはその目的において思惑が一致していて、
 教導団が行っている追跡に協力しているNPCとなります。

 マスターページに簡単な紹介もあるので、そちらも合わせてご覧くださいね。
 もっと詳しく知りたいという奇特な方がもしいましたら、是非こちらの物語もどうぞ!
 →『紅き閃光の断末魔 ―前編―』   →『紅き閃光の断末魔 ―後編―』