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古城変死伝説に終止符を

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古城変死伝説に終止符を

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 地下道、入り口を入ってすぐ。

「こんなに暗くて寂しい所にずっといるんだよね」
「そうですね」
 ノーンと舞花は薄暗い地下道の先を見据えながら奥にいるだろうリリトの孤独さを感じていた。
「あなた達も貯蔵庫の少女の説得ですか?」
 舞花達の後ろから姫星の声が降りかかる。
「そうです。何とかして古城にいる全ての人を救いたいと思いまして。今がその好機ですから」
 舞花が振り返り、姫星達に答えた。エース達の連絡で幽霊達の異変を知って今を逃せば説得の機会は今後無いかもしれないと考えていた。
「そうね。でも怨念を持った死者はとても強いから説得はそう簡単にはいかないわ。彼女に必要なのは力では無く縛り付ける怨念を解き放つ優しい想いと言葉」
 墓守姫も舞花と同じ情報を得ていた。だからこそ説得は難しいかもしれないと感じているのだ。
「私もそう思います。事件について知っていても本人しか感じる事が出来ない悲しみは知りませんのでまずはそれを知ってから説得しようと思います」
 舞花は墓守姫の言葉にうなずいた。事件を知っているからと言ってリリトの悲しみを知っている事にはならない。ただし、今の舞花には知る方法があった。まずはそれを使ってから説得をするつもりだ。
「その時はお手伝いするよ!」
「私もお手伝いしますよ!」
 ノーンと姫星が協力の声を上げた。
 とりあえず、舞花達と姫星達は墓守姫のトーチングスタッフの先端の炎を頼りに薄暗い一本道の地下道を真っ直ぐと進み、貯蔵庫に向かった。

 貯蔵庫。

 黒猫を抱えたリリトがぼんやりと悲しみと怒りに満ちた瞳をあらぬ方向に向けていた。
「……始めます」
 舞花は貯蔵庫の入り口の床に手を置いて『サイコメトリ』を使う。
「お願いね」
 墓守姫は読み取り中の舞花の警護に回る。
 ノーンと姫星は舞花の作業が中断されないように時間稼ぎに奮闘する事に。

「こんにちは、わたしはノーン。氷の精霊だよ。良かったら、あなたのお名前を教えて?」
 ノーンはぴよっことリリトの前に立ち、朗らかに話しかける。もう名前は確認済みなのに訊ねたのは知っていると言って警戒させたくないからだ。
「……」
 リリトは愛猫シャンヌを抱きかかえたままじっとノーンをにらみつけるばかり。
「怖くないよ。わたしのお友達になってくれないかな?」
 ノーンはにこにこしながら手を差し出す。
「……いらない」
 リリトは差し出された手には見向きしない。
「……歌は好きですか?」
 次は姫星がリリトに優しく話しかけた。
「いらない」
 リリトは頑なに返答するばかり。一歩も動こうともしない。
 そこに
「可愛い猫だね。猫が好きなのかな? 可愛いお嬢さん」
 猫達を連れたエースも時間稼ぎに登場。
「……」
 じっと猫とキャットシーを見つめるリリト。多少なりとも興味はある様子。
「良かったらウチの猫と一緒に遊ばない?」
 興味の視線を見逃さないエース。
「撫でてみませんか?」
 エオリアも加勢して何とかリリトを癒そうとする。
「……いらない」
 リリトは先ほどの興味を引っ込め、そっぽを向いてしまった。

 皆が時間稼ぎをしている間に事件の記憶を読み取る舞花。
「……」
 愛猫を抱え、必死に逃げて来たリリトを襲う、強盗犯の刃。主を守ろうと威嚇するも無残に斬りつけられ血飛沫を上げながら壁に叩き付けられる愛猫、叫ぶリリトも命を奪われ、血を流し、恐怖に見開いた両目から次第に光が消える姿、恐怖、悲しみ、憎しみに溢れていた。
「……大丈夫?」
 墓守姫が心痛な表情をしている舞花を気遣った。
「……酷いです」
 舞花は読み取ったあまりに凄惨で生々しい記憶を墓守姫に話した。
「……本当に」
 事情を知った墓守姫も心を痛めた。あまりにも酷いと。
「……なおさら放っておく訳にはいかないな」
「私達も手伝うよ」
 舞花達の話を聞いていた優と零も早速、聖夜と陰陽の書と共に説得に参加する。
「お願いね。ミス次百、これを預かっておいて」
 優達を見送った後、墓守姫も動き始める。その前に姫星を呼び寄せ、手に持つトーチングスタッフを渡した。
「……杖ですか?」
 姫星は受けを取りながら、墓守姫に意図を訊ねた。
「えぇ、説得に武器はいらない」
 墓守姫は怯えた目をするリリトの様子を見ながら答えた。するのは戦闘ではなく説得である。武器など必要無い。
「……分かりました。墓守姫さんにお任せします。私は少しでも彼女の心が癒されるようにこのままサポートを続けます」
 すっかり手が塞がってしまった姫星はサポート担当を続行。
「…………」
 じっと自分の前に立つ優達をにらむリリト。抱きかかえられているシャンヌも威嚇の声を発している。
「……俺は神崎優。君を助けるためにここに来た者だ」
 優は説得の前に自己紹介をした。
「……嘘だよ、ここにいる人はみんな悪い人、パパとママに酷い事をした。シャンヌにも」
 ぎゅっとシャンヌを抱き締め、憎しみが揺らぐ瞳で優をにらんだ。憎しみと悲しみに囚われたリリトには自分と愛猫以外敵にしか見えない。
「いいえ、貴女に酷い事をした悪い人達はもう居ないんだよ。ここにいるみんなは貴女の味方」
 零は優の隣に立って柔和な笑みを浮かべる。少しでもリリトが心を開いてくれればと。
「そうです。誰もあなたを傷付けたりしません。今あなたはこの城に住む無関係の人を傷付けてしまっています。お願いですから落ち着いてゆっくり周りを見て下さい」
 リリトの悲しみを見た舞花が優と零に続く。ほんの少し厳しい現実を含みながら。
 その舞花の姿は『アストラルプロジェクション』で精神体となっていた。少しでもリリトの警戒を解くために。そして説得には『覚醒』も使用しており必死さが滲んでいた。
「……魔法使いさんが言ってた。上にいるのは悪い人だって」
 少しだけ零と舞花の言葉が通じたらしくリリトは首を振りながら答えるも完全には信じていない。今リリトが信じているのは魔法使いさんの言葉だけ。
「その魔法使いさんが悪い人なんですよ」
 舞花がさらに言葉を重ねる。
「そんなの信じない。だって……」
 リリトは声を荒げ、説得者を信じる様子は無い。
「舞花ちゃんやみんなはウソは言わないよ。信じてあげて」
 ノーンは必死に訴える。
「その魔法使いさんがいい人ならどうしてそんなに苦しそうな顔をするの?」
 墓守姫はリリトの瞳にちらつく悲しさや寂しさを見逃さなかった。
「……だって覚えてたらパパとママに酷い事をした人に同じ苦しみを与えられるって」
 リリトは唯一の友人を抱き締め、必死に信じてる言葉を吐き出す。
「本当に優しい人ならそんな事は言わないわ。あなたが苦しみから解放されて両親に会えるように祈るはず。ここにいるみんなのように」
 墓守姫は軽く頭を振り、リリトの言葉を否定した。死者の心を乱す者がいい人のはずがない。
「……そなたがそれだけ両親の事を想っている事はよく解ります。でも憎しみや復讐では何も生まれないし誰も幸せにはなれません。本当に両親の事を想っているのならどうか憎しみを捨てて下さい」
 陰陽の書はリリトに言葉が届く事を願いつつ優しく話しかける。
「お父さんとお母さんの顔を思い出してごらん。こんな事を望んでいるかな?」
 優は陰陽の書の言葉に説得をかぶせる。
「……パパ……ママ……」
 リリトは優の言葉で両親の顔を思い出し、今にも泣きそうな顔になる。
 愛猫は見上げ、飼い主を励すように鳴いた。