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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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第11章 おそーじさせましょ、おそーじしてあげましょ Story8

「あわわ、エースッ。猫ちゃんが捕まってしまったにゃー」
 クマラの視線の先にいる猫は、宙にぷらぷら浮いたように見える。
「もっと祓魔銃を撃つんだ、クマラ。場所を移動してるわけだし、1回じゃ分からないぞ」
「分かった!!ぱきゅーん★」
 銃口を空に向けたまま走りパンパンッと撃ち鳴らす。
「しつけぇーなぁ。あ、こいつちげーや」
 目当ての猫又じゃなかったらしく、黒フードの者が三毛猫を投げ捨てた。
「貴様……っ」
「へ、もっと怒れー、ギャハハハッ」
 怒りの色を見せ始める玉藻を挑発し、ケラケラと笑ってやる。
「刀真、落とすな」
「はっ!?」
 片手はすでに剣を握っているから無理だとかぶりを振る。
 それを見た玉藻は嘆息し、地面に落ちようとしている三毛猫を助けようとする。
「あんたも墜落しちまいなー」
 玉藻の地獄の天使の翼を黒魔術で粉々に砕く。
「な、何だと?」
 翼を失った彼女の身体が落ち…。
「ぇっ?……ふごぉっ」
「ふぅ、クッションがあって助かった」
 ―…小さく声を上げてパートナーを見上げる刀真の真上に着地した。
 ただの三毛猫は玉藻の手の中にぺたんと落ちてきた。
「掃除でもしてればぁー」
「女の影?あれは、呪術か」
「いかん、月夜」
 玉藻は月夜の手を引き、呪いから逃れようと走った。
 取り残された刀真はランドリー・ボディーにかかってしまう。
「俺の剣が、雑巾にっ。ああ、身体が勝手に民家の壁を、拭き始めてるし!?」
「許せ刀真。術者が倒されるわけにはいかんのでな」
「これはまた、厄介なものだね」
「観察してないで助けてやってくれよ、メシエ」
「(ずいぶんと手強い呪術にかかってしまったようだよ)」
 ホーリーソウルの聖なる気で、刀真の身体に潜む呪いを祓おうと試みる。
「わわ…、勝手に掃除させられる」
「動かないでくれたまえ、解呪しにくい」
「そ、そんなこと…言われたって。俺の意思とは無関係に動くんだからさ」
「彼を押さえてくれないか?」
「今までと違って、じっとさせるのが難しそうだな。ちょ…ちょっと、うわぁあっ」
 取り押さえようとしてみるが、振り払われエースは尻餅をついてしまった。
「きゃあ、マイマスターッ」
「痛たた…。村人相手じゃないし、厳しいな…」
「こいつぁーいいや。オレが分かる宝石使いがいねーのな?」
「しまった、終夏さんを石に変える気か」
「ひゃわわわ。師匠、石化の魔法ですよう」
「うわぁああ!?―…あ、あれ。石になってない?」
 ペトリファイをくらってしまったかと思い、目を閉じてしまった終夏だったが、石化されたのは別の者らしく…。
 視界の先にエースの姿がある。
 彼が守ってくれたらしく、徐々に石になっていく。
「あはは……。女性が危険な目に遭ってしまうと、身体が勝手に動いてしまうみたいだね…うぐぅっ」
「やぁああ、マイマスターッ!!」
 そう声を上げたアーリアは、精神力の供給が途絶えてしまった影響で、帰還状態となってしまった。
「ぬ…石にされてしまったのかのぅ」
 クマラが放つ祓魔銃の光りを目印にかけつけた草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が、炎の翼で飛びエースの傍へ降りる。
「今、元に戻してあげるのじゃ」
「つまんねーことしてんじゃねーよ」
「猫さんだけじゃなくって人まで傷つけて、許さないんだよ!」
 気配の元へルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)がぷんぷんと怒る。
「怒ってはならぬ。解呪を手伝ってきてくれないか?」
「むぅ、分かったんだよ」
 草薙羽純の言う通りに気を静め、メシエの手伝いをすることにした。
「私が位置を伝えるから、そこに使って」
「承知した、では頼んだぞ」
 セレンフィリティにそう告げた玉藻は、再び地獄の天使の翼を尻尾に乗せて、ポイントのほうを見る。
「猫いじめも泥棒も犯罪よ。当然、牢屋行きだわ」
「無論だ、逃すつもりはない。月夜たちは、私の術の後に使うがよい」
「―…支援しますね」
 ベアトリーチェは贖罪の章を唱え、玉藻の酸の雨の射程距離を伸ばす。
「上へ逃げれる気か、許さん」
 あまり上昇されては月夜の術が届かなくなってしまう。
 強化した章ほどではないが、それでもわざわざ被るマネはしないだろうと考え、酸の雨で下降させてやる。
 支援してもらった術力で月夜は、哀切の章の光りの嵐を届かせ、彼女はすかさず詠唱を始める。
「まだ気配の動きは活発だわ、セレアナ」
「えぇ、猫が受けた苦しみを思い知るといいわ」
 ホーリーソウルの聖なる気を指先に集中させ、恋人の視線に合わせて発射する。
「むぅ…外しちゃったかな?」
 嘲笑う声にムッとし、2撃目は命中しなかったかと悔しそうに眉を寄せる。
「猫又は、あんたたちには渡さない。悪用なんかさせないんだからっ」
 パートナーの支援を受けた祓魔術で、今度こそ落としてやろうと光りの嵐で襲う。
 通りの地面から土煙が立ちこめ、落ちたのだと確信した。
「出ておいで…っ」
 シルキーの意思を表に出そうと、終夏は花の香りを吸収させたフラワーハンドベルを鳴らす。
 器と離れる瞬間を見届けるべく、セレンフィリティの表情の覗いた。
 求める言葉を口にする時を、祓魔師の仲間とじっと見守る。



「気配が分離したわ。あいつの中にはもう、魔性はないはずよ」
「んん?にゃーにゃー、ってなんか聞こえたよ?」
 メシエと解呪を終えたルルゥが、きょろきょろと見回す。
「猫の声って、猫又さんかな?にゃーは、ここだにゃ。もう、出てきてもいいにゃー」
「おりがーぁ」
 まだ安心できないのか、姿を消したまま終夏の名を呼ぶ。
「むっ、やつめ。魔性が離れたというのに、まだ抵抗する気じゃ。終夏、猫又をかかえるのじゃ!」
「ぇ、わわ!?」
 もふっとしたものが腕の中に飛び込み、炎の翼を生やした草薙羽純に両脇を抱えられて空を舞う。
「石化の魔法をかけようとしたようじゃな」
 自分たちがいたところを、ペトリファイの術が通過して消えていった瞬間を見る。
「甚五郎、やつはもう不可視化できぬはずじゃ。捕らえよ!」
「中にもういないということは。多少、手荒な手段でもよいということだな」
 抵抗しようとする相手に祓魔の護符を投げ、スキルを中断させる。
「どこへも逃げられないわよ」
「―……っ」
 セレアナと甚五郎に道を塞がれ、美羽の術でスキルを使う力も残されていない。
 魔性を失った黒フードの者は、2人に捕らえられてしまった。
「後は連行するだけか?」
 縄だけでは温いだろうと刀真は、ワイヤークローでボコールを捕縛する。
「被害に遭った人たちの解呪は終わったよ」
「だいぶ疲れてしまっているみたいで、ぐっすり寝てしまってるけどね」
 涼介と歌菜たちも手分けして、長屋の人々を救助し終えた。
「盗られたものは、ルルゥたちが渡してきたんだよ!」
「うむ。細かい貴金属類が多くて、大変じゃったがな。全て返し終えたということは、今回は取り逃がした者はおらぬようじゃな」
 1人でも逃してしまえばすぐに現れ、今度こそ捕獲できると再び進入してくるに違いないのだ。
「狙われる理由に心当たりはあるか?」
「わからないのにゃ、そんなのないのにゃ!」
 羽純の問いに猫又はぶんぶんとかぶりを振った。
「ビフロンスやシルキーの件を考えると、強制憑依させようと狙ったんじゃないかな?」
「なんだと!?やはり、斬って捨てる必要が…」
 弥十郎のセリフにレティシアは殺気に満ちた目をギラつかせる。
「一応、尋問しなきゃいけないから。それは簡便してほしいな」
「む……。くっ、仕方ない」
 可愛い猫又の前でスプラッターなマネをするのもあれか、と考え直し猫剣ニャスコルドを抜こうとする手を止めた。
「猫又ちゃん♪女神さんのところへおいでー」
「にゃーん」
「きゃぁあん、かわいいー♪あらら?」
 しかし、猫又はカティヤの手を通り過ぎ、歌菜の手の中へ飛び込んだ。
「うわぁあん、ずるーいっ。私も、猫又ちゃんをもふもふしたいのーっ」
「んー、行きたいっていうのを待つしかないと思いますよ」
「しょぼぼーんだわ」
 膝を抱えてがっくりと女神カティヤは項垂れた。
「猫さんならいっぱいいますよ?…ねぇねぇ、北都も抱っこしません?」
 腕の中いっぱいに野良猫を抱えたリオンが満面な笑顔で言う。
「リオン、服に毛…すごいよ」
 毛はらう前に家へ入られたら、あっとゆうまに毛だらけになりそうだな…とリオンを見つめる。
「ほら、猫又。友達を連れてきたぞ、2人も心配していたようだからな」
「さくらにゃんともみじにゃんー」
 乗りやすいように地面に屈むレティシアの膝へ飛び乗る。
「ふわふわだ」
 グラキエスも仔猫の姿の猫又を撫でる。
「可愛がりすぎではありませんか、グラキエス様」
 表情は爽やかな笑顔だったが、少しだけ妖怪の少女にヤキモチを焼いていると…アウレウスにはすぐ分かった。
「向こうも、可愛がっている。同じことじゃないのか?」
「といいますと…」
 彼の視線の先へ目を向けると、玉藻の肩や腰…足を揉んでいる刀真の姿があった。
「いえ、あれは違うような?」
「そう…、俺は全然そんなんじゃないんだ」
 皆の前で涙目になりながら懸命に玉藻をマッサージしている。
 今やっておかないと、報告へ行く時間がなくなってしまうからだ。
「た、玉藻それはセクハラだから、やめろ…ごはぁあ!」
 人前で何やってんだとパートナーを止めようとするが、尻尾で叩き飛ばされる。
「にゃーくすぐったいよ、玉ちゃん」
「いつものことだろ?」
「や、でも…きゃははっ」
「わーわーわっ!!見ないでやってくれー」
 何をやっているか皆から見えないようにしようと、2人の前に立ってぶんぶんと両腕を振って視覚をガードする。
「それはそうと、ぬこ娘」
「なんにゃ、おじさん」
「ほらほら、オレのプロフにある実年齢外見年齢、外見1に注目〜っ」
「にゃぁ?」
 何のことやらと猫又は首を傾げる。
「言動だって別にオヤジ臭いこと言ってるはずねぇですよね?だから、ちゃんとお兄さんって呼び直してください。お 兄 さ ん っ て」
「おに…」
「うんうん!」
「じーさん」
「ちっがぁああう、よけー悪いっつーの!!」
 まさかの降格イメージのワードを聞き、そんな年やない!と大声で騒ぐ。
「陣のどこがおじさんっぽいのじゃ?」
「うんぅ、しぶーいおまっちゃがすきそーなところとか、おまんじゅーがすきそーなところ?」
「ふむふむ?嫌いではないと思うがのぅ」
「それだけでおじさんになるなら。他のそーやない!?じゃー、刀真さんはっ」
「は、なぜ俺を?」
 仲間を求められているのか、名指しされた刀真が困惑する。
「おにーちゃん」
「うぐ…。じゃ、じゃあ…一輝さんは」
「んにゃぁ、おにーちゃん」
「じゃあ磁楠や、磁楠。こいつはどうなんやっ。外見も実年齢も、オレより上やぞ。あれか、オレがおじさんなら。おじーさんとか言うんか」
「―…おい小僧」
「むしろ、じじいで十分やね、じじいで!」
「私に滅されたいのか、小僧」
 巻き込んでやろうという悪意を感じた磁楠が、今すぐ殴ってやろうかと陣を睨む。
「うーんにゃぁ。おにーちゃんにゃぁ」
「かわいいやつめ」
「お、オレは……?なぁ…」
「おじさん」
「うそやぁああああーーーーーっ。そんなん、ウソやぁああああ!!?渋い抹茶と饅頭が好きそうだって理由だけで、おじさんとかいややーーー!!!」
 自分だけ“おじさん”と呼ばれた陣が絶叫する。
「オレがおじさんなら磁楠は、おじーさんやろ。なのにあいつだけ、おにーちゃんとかないわぁあ」
「フッ、これが現実だ。変えのない…な」
「絶対いやや、ありえん!オレはこんな現実、変えてみせるっ」
 カノジョのリーズに“どーんまい♪”と肩を叩かれた。
「(陣さん、可哀想に…)もう1人の子は、どうしてますか?」
 哀れむようにちらりと陣を見たベアトリーチェは、猫又にプリンを渡しつつ聞く。
「おそなえもの、いっぱいたべたから。ねむってるにゃー」
「そうですか、残念ですね…。では、3人で食べましょうか」
「これなんにゃ?」
「プリンというスイーツですよ」
 食べ方がよくわからないだろうと、猫又の口へ運んでやる。
「あまいのにゃぁあ」
「ベアトリーチェのお手製よ」
「はむはむ…」
「なぁなぁ、ぬこ娘。おにーさんって言ってごらん。一文字ずつ…な?」
「お……」
「(にって言うんや、に…って!)」
 陣は念じるようにじっと見る。
 カレシの傍らでカノジョのリーズは、“まだやってるよ…。”と呆れ顔をした。
「じ、ん」
「おじん!?おじさんを縮めただけやないか。もーいっかいや、もーいっかい」
「はいはい、悲しくなるから今日は諦めなよ」
 じたじた暴れる陣を引っ張り、ずるずると引きずっていった。
「猫又さん、困ったことがあったら僕たちを呼んでね?」
「ありがとーにゃぁ、ほくとー」
 ふわふわの毛を撫でられ、猫又は葦原の長屋を出て行く彼らを見送った。