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リアクション
第4章 おそーじさせましょ、おそーじしてあげましょ Story1
「猫が追われているというわけだけど。天城くんは、ここへ来たことがあるのかな?」
プンプンと不機嫌そうな態度で、香水を作るクローリスから視線を外したクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は、長屋に訪れたことがあるのかと天城 一輝(あまぎ・いっき)に聞く。
「あぁ、何度かコレットとな」
「ボコールの狙っている猫が、どんな猫なのか。見当がついていたら教えてもらいたい」
「あまえたちは、会ったことないんだったな。猫の姿の時は、小さな三毛猫だ」
「ということは…、仔猫ような感じかな」
天城 一輝(あまぎ・いっき)に教えてもらった特徴から、救助対象となる小動物の姿を想像してみる。
「依頼の状況から考えると、相手はまだそれを知らない。ただ、それらも人型…。人に対して、警戒してしまっている可能性があるな」
「なるほど…。やたらと追いかけてしまうと、逃げられてしまいそうだ」
助けるためとはいえ、無闇に追い回すと怯えさせてしまうか、とクリストファーが言う。
「猫といっても、何匹も集めようとしているってわけじゃないんだね?」
「おそらく標的は、猫又のみだなクリスティー」
「(その猫さんを捕まえて、いったい何を…。今、想像してても分からないし。香水が足りなさそうだから、ボクも頼んだほうがよいかな)」
目的がよく見えず、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は口元に片手を当てて考える。
発見に有利なのはこちら側だが、あの者たちとの遭遇は避けられないだろう。
呪術をかけられてしまっては、祓魔師としての行動が出来なくなる。
それに、クリストファーが用意した香水だけじゃ、足りなくなりそう。
自分もクローリスに用意してもったほうがよさそうか。
ニュンフェグラールを掲げて祈りを捧げ、零れ落ちた涙とクリスティー自身の血を一滴混ぜて、魔方陣の上に落とし…。
白いワンピースを着た少女のような姿のクローリスを召喚する。
彼の頼みに小さなクローリスは、“りょーかいなのらぁ〜♪”と大きな声で答えた。
「できるまで、まっててね!」
透明な小瓶に舞い散った白薔薇の花びらを、液体化させて香水を作る。
「―…あれ、どうしたの?そんな顔して…」
クリスティーは気落ちしたような面持ちのパートナーへ目を向けた。
「いや、ちょっと…。今回の呪いについてさ」
「あー…うん。見ても、見なかったことにするよ」
「それ、すごくいらないフラグだよね」
“見てしまった”を、前提に言う彼に苦笑する。
「…アキラ、小娘に聞こえぬよう今の進捗状況を教えて欲しい。彼女の体を治す手がかりは、見つかったか?」
セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)に聞こえないように、林田 樹(はやしだ・いつき)は声のボリュームを小さくした。
「ううん、手がかりは全く。医学的にダメ、この授業で得られる知識でもダメとなると…。陰陽道とかその辺りも研究した方が良さそうだね」
“さっぱりだね。”と、緒方 章(おがた・あきら)はかぶりを振った。
「と、なると…転校してみるか、アキラ、物は試しだ」
「転校?…親父もお袋も違うところへ行くのか?…って俺も?」
“転校”の単語だけ、耳聡く聞いた緒方 太壱(おがた・たいち)が言う。
「聞こえてしまったか?まぁ、小娘には言うなよ」
「へーい?」
なぜそんな話しになっているのか分からず首を傾げた。
「お袋さ、俺になんか隠してないか」
―……が、何か隠し事していることは、2人の様子を見ていればなんとなく分かった。
「さぁ、バカ息子に気にかけられるようなことはないが」
「ふぅーん…」
怪しむ目を今度は章へ向けてみた。
「太壱くん?そんな目で見てどうしたのかなぁ」
「親父こそ、なんで俺のほうを見ないんだよ」
「うー…ばれちゃったのかな、えっとね…」
どうせ、そのうち知られること。
自分たちで決めて教えるのを後回しにしたら、なんでそんな大事なことを言わなかったのか、問い詰められそうだ。
“樹ちゃんは、なだめずにほっておきそうだしなぁ〜。僕が全部かぶることになりそう”
心のなかで観念した章は、彼にも話してやることにした。
こちらの様子を気にしだしたのか、セシリアがずっと見ている。
さすがに彼女に知られるのはまずいと感じ、要点だけをまとめてメールを送る。
太壱は送信されたメールへ目を落とし、なにやら考え込むようすで見たかと思うと、すぐに返答を返した。
「(試しに行くのはいいけど、見つかる可能性はない…か。理由としては祓魔術と陰陽道は、力の根源が異なるからみたいだね」
2つの能力の方向へ性や術式、手法も異なるもの。
陰陽道では彼女の体を治す手がかりを得るに至らない。
「治療となると…、単純に考えれば薬学的なものな気がするけど。樹ちゃんはどう思う?」
「その、原因となる対象によるな。それを、明確に把握する必要がある。万が一、私たちにもふりかかる可能性も、考えておかなければな」
「やっぱそうなるのかな。ん〜…、まだ知らなきゃいけないことがたくさんありそうかな。…無理だったなら、無理で仕方ないとして。……どう?」
“とりあえずで、転校してみる?”というふうに、章は樹に決断を委ねた。
「ふむ…」
彼らが長屋に入る気配がないため、待ちくたびれて近づくセシリアを横目で見て、“了解。”としての言葉を返した。
「3人だけで何話してるですか?他の人はほとんど、先に行っちゃいましたよ!」
「すまない、私たちも行こう」
「あーっ!!パパーイからメールが…」
いきなり携帯の音が鳴り、セシリアの声が樹たちの足を止めさせた。
-さっきのネコマンマについてです。-
「ネコマンマ」ですか?…さあ、ボクもその様な食べものは知りません。
シシィ、芦原での任務ですが、好奇心を先行させないように行動してください。
くれぐれも貴女は「天御柱学院の教諭」なのですから。
軽はずみな行動はしないように。
Alt
「セシル、アンタ…。ゾディに何を聞いてんのよ」
アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)の文面の下にある、セシリアの問いに目を落とす。
「パパーイなら知ってるかなって。猫が好んで食べるみたいだし!」
呆れ顔で嘆息するヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)に、大発見よね!と得意げな笑顔を見せた。
「それが、ただの猫ならね」
「違うの…?」
「んーもぅ、アンタって!っと、何よゾディ…」
狙われている猫とそこら辺の猫の味覚センスを、同じように扱おうとする彼女を叱ろうとした時、今度はヴェルディーのほうにメールが届いた。
-シシィが、暴走しそうになったら…。-
ヴェル、シシィがとんでもないことをしたときには、身体で止めてください。
Alt
「ちょ…ちょっとアンタァアア!身体で止めろって何よぉーっ!?そんなの、体育会系のやつの役割じゃないの!!」
アタシを何だと思ってるのと、メールを送りつけてきたアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)に、キィーキィー声を上げて怒鳴る。
もちろん、本人は目の前におらず、怒鳴り声が画面の向こう側へ伝わることはなかった。
「まさかの葦原長屋か。ここで特殊な能力を持ったネコっつーと猫又しかいねーよなぁ。(やべぇ、超睨んでるし)」
レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)のほうを見ると、一向に行動へ移さない彼らを睨んでいる。
“猫又がピンチ、だと…?”と知った彼女は、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の携帯を奪い取り、エリザベートから届いたメールをしっかりと読破したのだった。
「この近所で魔性事件が起きてることに気づけぬとは。私、一生の不覚です!しかも猫又さんが狙われてるということですが…。此方はレティシアさんにも来て頂けましたので心強いです」
「其奴は我が斬って捨てたい所だが。ふむ、魔性相手とは厄介だな。致し方が無い」
器を斬ったところで、中のシルキーまでダメージがいくとは限らない。
それでは強制憑依された魔性の説得は、さらに厳しいものとなるだろうと判断した。
猫又を速やかに救ってやりたいが、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)から祓魔師について聞いた彼女は、怒りを内に押さえ込もうとする。
手持ちの魔道具は樹たちが話し込んでいる間に、フレンディスから教えてもらった。
一言も聞き盛らず熱心に聞き覚えている姿を見て、“猫デレだって認めりゃいいのに…。”と、ベルクがため息をつく。
レティシアを優しい人と思い込んでいるフレンディスのほうは、真面目に学ぼうとする彼女の態度に感激していた。
「猫又の友の一人として我も警護に当たろう。もし猫又に何かあれば…、ベルクお主を斬って捨てるから覚悟するがよい」
「(へ、へぇ〜。やっぱ、そういう展開にもっていこうとするわけか)」
妖怪の少女に万が一何かあったら、切腹を迫るどころか問答無用の真っ二つにされそうな勢いだ。
「―…?マスター、何か落ち着きませんが如何なさいましたか?は、もしや…。マスターも猫又さんがご心配なのですね!」
フレンディスは涙目になるほど心配なのかと勘違いをしてしまう。
「あー、えーっと」
「“違う”とでも?」
「そうそう、そうだな…っ」
求める返答以外の言葉を口にしたら、“この場で斬り殺す!”とレティシアに睨まれ、必死に何度も頷く。
「あぁもう、さっさと行こうぜ!こんなところで、喋っている場合じゃねーだろ」
急かすベルクだったが本音は、“レティシアをこれ以上、待たせたら俺が危ない!”ということだ。
「おーい、グラキエス。何をボーッと考えてんだ?」
「強制憑依させられている魔性は、ひょっとして…。自習の時アウレウスに憑依した魔性と同じものだろうか?…と、思ってな」
「そういや、武器が掃除道具だったけか」
「同種の魔性かどうかは分からないが、利用されているなら解放してやりたい」
「グラキエス様のエアロソウルで確かめてみれば、同種のものかわかるかもしれませんね」
遭遇して風の宝石で姿を見れば分かるはずです、とエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は柔らかに微笑んで告げる。
「もしそうなら、早く助けてあげなくては。私も及ばずながら、助力させていただきます。さぁ、参りましょうグラキエス様」
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に付き従い、葦原の長屋へと入った。
「呪われると、これも掃除道具になるってわけだよな…」
首から下げたエレメンタルケイジを、手の平に乗せてソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が小声で言う。
「だと思うけど?」
「はぁー…。(掃除かー…)」
簡単な窓拭きでさえも面倒だと、言いたげにため息をついた。
「お掃除はキライじゃないけど。祓魔師の仕事が出来なくなっちゃうからね」
「清泉くん、香水を分けてあげるよ。俺たちも傍にいるつもりだけど。彼女たちの香りの効果が、きれちゃった時のことを考えてさ」
「ソーマとリオンのも、もらえると嬉しいな」
「フフッ、用意してあるよ」
いざという時のため、クローリスに作ってもらった香水を、クリストファーが清泉 北都(いずみ・ほくと)たちに分ける。
「ありがとうね。僕たちは、妖怪の猫を追ってるやつらを追い出す予定だけど。キミたちはどうする?」
「保護するほうにまわる人もいそうだから、俺たちもそっちを手伝うよ」
「コレットもそれでいいか?」
猫又をずっと気にかけている様子だったが、集中してしまっては連中を速やかに追い出せない。
傍に行ってやりたい気持ちを抑え、考える間もなくコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は、“うん”と答えた。
「こちらは正面からじゃなく、相手を長屋で待ち伏せしようかと考えたんだが」
「水面のほうを担当するから一緒にはいけないかな」
「僕たちは、2人と行こうかなって思ってるけど。…そうだ、町の人を呪いから開放しに行ってる人がいるから。そういうところが、いいんじゃないかな?」
「なるほどな…。襲撃するとすれば、そっちを先に叩くだろうし」
北都の提案に頷き、一輝はさっそく銃型HCでメールを送る。
向こうも忙しいだろうし少し待つかと思ったが、数秒も経たないうちに、すぐに簡潔な文面の返事が返ってきた。
人を何人かよこして、案内する…という内容だ。
「来てくれるみたいだね?」
「傍にいられないから、香水を渡しておくよ」
「あぁ、大事に使わせてもらう」
クリスティーから手渡されたクローリスの香水を、コレットの分も手元に保管する。
「じゃあ、僕たちはもう行くね。頑張って」
片手をふりふりと振り、北都はクリスティーたちと川沿いを目指して駆けていった。
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